マカロフ用.22コンバージョンキット

 「Visier」2004年5月号に、本来9mmx18仕様であるマカロフPMを.22LR仕様に変更する変換システムの記事が掲載されていました。


相互作用

これもニュース用に公開された品だ。マカロフピストルがブルガリア製のフレッシュな.22口径変換システムを手に入れた。この「ダイエット」に興味を持つべきなのはコレクターだけではない。

然としてマカロフが東側ブロック特有の魅力をふりまいている。美しくはない、しかし使える。新しくはない、しかしプルーフされている。しかしドイツのシューティングレンジでそれが射撃されることはまれなことに過ぎない。むしろコレクターの手にあるのをしばしば見かける。またドイツではあるジャンルの一部のハンターに「とどめの1発」用の銃として選ばれている。だが、我が国ではこの公用ピストルはスポーツ射撃用としては全く受け入れられていない。これは、その使用弾薬である9mmx18マカロフからしてすでに、9mmx19パラベラムのライバルになりうる水準に達していないためである。普及しない理由は9mmパラベラム神話のためだけではなく、価格のせいでもある。S&Bはマカロフ弾薬の1000発パックを174ユーロで供給している。同じメーカーの9mmパラベラムの1000発パックは136,80ユーロからすでに手に入る。

ルガリアの会社NITIは、このようなかつての「階級的敵」ドイツによるマカロフの「継子扱い」を喜ばなかった。ブルガリアでは現在でもなお依然として同国で製造されたマカロフピストルが公用として多数供給されている。ブルガリアはマカロフの「替え馬」を持たないからである(頑住吉注:どうでもいいですけどドイツ語では妙に「馬」を使った言い回しが多いです)。引退が望まれ、将来それが有り得るこの老いた軍馬だが、新しいサドルがあてがわれた。NITIはいまだかつて1度もマカロフを製造したことがないのにもかかわらず、1999年にこの社の設計者チームは「差し込みバレル」を持つ小口径変換システムを開発した。そして2000年にそれは生産に移行した。そして今ではトランスアームズがこのシステムをドイツに輸入している。トランスアームズはこれを第一にはコレクション内容が完備していることを愛するコレクター向けと考えている。興味深いのは、この変換システムはそれだけではなく「罠猟」用の倹約なピストルをもう一丁購入したいと思っている猟師用でもありうることだ(頑住吉注:これはドイツの猟事情に詳しくないと分かりませんが、たぶん罠で小動物を捕った場合、それにとどめをさすのに小口径ピストルが使われるということではないかと思います)。考慮すべき問題はまだある。この変換システムがマカロフによるコストの安いトレーニングを可能にするか否かだ。というのは、バレルの短いピストルで命中させることは簡単なことではない。特にドライファイアでの練習では上達は難しい。そして実弾射撃なしのターゲット練習を熱中して行う現代人はほとんどいない。それなら規定量の.22LRによる練習を行い、そしてその後に9mmx18に移行すればいいではないか? つまるところこのシステムの存在は倹約の希望のおかげである。ブルガリア陸軍および警察は、マカロフを使い、かつ日常的に訓練するリーズナブルなバリエーションを要求していたのである。

のアイデアは新しいものではない。すでに東ドイツでは多数の武装機関員にマカロフの小口径変換システム(モデル4.011-900)が支給されていた。だが、東ドイツの変換システムは小口径弾薬用のマガジンを備えてはいなかった。そのかわりにこのシステムではそれぞれの弾薬を、小口径薬莢と共に排出されるアダプター弾薬にロードしなければならなかった。NITIのキットはこうした欠点を持ち合わせていない。新しい変換システムでは専用のマガジンが新造されている。元々この新しいマガジンのキャパシティは一部の国で指示された装弾数制限のため7発になっている(頑住吉注:この制限はアメリカのそれとは違い、マカロフピストルの訓練用としてオリジナルと操作、使用感を似せるための制限だと思います)。だが、ドイツ向けに供給されているマガジンには制限のために組み込まれる仕切りがないため、9発装填できる。このようにマガジンでは東ドイツ製とNITIの新製品には大きな差異があるが、マカロフの固定バレルは別の点で両者に類似性を強制している。東ドイツ製もブルガリア製も、(頑固住吉注:チャンバー側から入れ)マズル部に雌ネジつきのカバーを締め込んで固定する「差し込みバレル」を備えている。ただし東ドイツ製と違ってブルガリア製は、「差し込みバレル」に装備された「反対側プレート」をオリジナルバレルの後端で雌ネジつきのカバーが引っ張る。これに対し東ドイツシステムはオリジナルチャンバー内部で「差し込みバレル」が引っ張られる。ブルガリア製は「差し込みバレル」のピンと張ったセッティングのためにもユーザーフレンドリーな配慮をしている。標準装備されたスパナを使って簡単にバレルをセットできるのだ。雌ネジつきのカバーのネジ内部に組み込まれたゴム製のパーツが射撃時の緩みを防止している。またこれによりブルガリアの設計者は追加のバネ性のあるリングをなしで済ませることができた。小口径の「差し込みバレル」は、繊細な指先感覚を要求する。そこにわずかな遊びが必要であるからだ。たとえ「差し込みバレル」のネジがオリジナルバレル内部を押したとしても、ひっかき傷はつかない。

換システムを組み込んでもマカロフは見慣れた構成上の外観を保つ。同時にピストルをデコックするセーフティレバーはオリジナルのように機能する。だが構成に制約されたスライドストップは機能しない。この銃の場合、シューティングレンジを俯瞰から見てもあまり嬉しくない。その原因は製造コスト削減である(頑住吉注:たぶんこのシステムのスライドがコストダウンのためフレームと色調の違う安っぽいマットフィニッシュになっているということが言いたいんだと思います)。また、同じ理由からNITIは肉の薄いスライドをアルミニウム合金で作っている。東ドイツ製とのこの差は少なくともコレクターにとってブルガリア製の軽量品を興味あるものにさせる。またシューティングレンジでは赤の信号旗がスライドストップがないことの埋め合わせになる(頑住吉注:これはドイツのシューティングレンジの規則を知らないとどういうことか分かりません)。コレクター、歴史的銃器にロマンチックな魅力を感じる人たちは、茶色の紙箱、油紙、ブルガリア語の操作マニュアルに大きな喜びを感じるだろう。マニュアルがブルガリア語でも不安はない。このシステムはマニュアルがなくても簡単に銃に組み込めるからだ。

シューティングレンジにて:トランスアームズのReinhard StarckはVisierに、この変換システムは全ての従来型マカロフピストルに適合すると保証している。少なくともブルガリア製のテスト銃はこの新しい装備を受け入れた。

機能テストで興味があったのは、特にNITIシステムがいろいろな種類の弾薬を受け入れるかどうかだった。予想通り、サブソニック弾薬各種ではピストルは単発銃に成り下がった。ダイナマイト ノーベルの.22サブソニックの薬莢はエジェクションポートに吊り下げられて留まった(頑住吉注:いわゆるストーブパイプジャムのことでしょう)。PMCの「Moderator」ではスライドは往復運動をしたが、薬莢は例外なくチャンバーに留まった。リコイルスプリングとスライド重量はメーカーによって普通の小口径弾薬用に調整されているらしい。サブソニック弾薬を除けば、このピストルはほとんど全ての弾薬を送弾、排莢不良なしで消化した。レミントン ターゲットでは弾薬一箱中1つの薬莢のみエジェクションポートからかろうじて排出されなかった。そしてSwartklipブランドの弾薬では1/10が発火しなかった。だが、これら以外のサブソニックでない8種類は充分にその役割を果たした。ブルガリア語の知識はたまに役立つ。というのは、操作マニュアルにおいてメーカーは初速が290〜340m/sの弾薬のみを推奨している。実際射撃においてこのシステムで機能障害が起こるのは高初速の種類に特有ではなかった。

ブルガリアシステムを組み込んだ銃は25m、依託射撃での命中精度テストに耐える。複数のブランドで直径約7cmのグルーピングが次々得られた。弾薬によってはここまで良好な結果が得られるのだから、射手は弾薬を慎重に選ぶべきである。最も大きなグルーピングになったのは、Swartklipのホローポイント弾(168mm)およびフェデラルターゲット(165mm)だった。これに対し、ケーニッヒ社のSoftブランドは98mmと嬉しい結果になった。LapuaのSpeed Ace、CCIのスタンダードベロシティ、FiocciのV320は期待に応え、それぞれ113、115、117mmのグルーピングになった。ウィンチェスターのスーパーXとPMCのスコアマスターは約140mmで、ISSFターゲットの8点圏内には何とか収まった。正しい弾薬選択をすれば、全弾が少なくとも9点圏内に入る。だが、大量購入の前には慎重な弾薬テストを勧める。がっかりさせるグルーピングになったのは、高初速表示のある弾薬だけではなかった。フェデラルターゲットは165mmのグルーピングになったし、一部のスタンダードベロシティ表示の弾薬にも適さないものがあった。

論:公用ピストルは、小口径スポーツピストルと同等のグルーピングを作らない。「差し込みバレル」による小口径変換システムも小口径スポーツピストルに負ける。マカロフはそもそも.22LR用として開発されたものですらない。スライドとリコイルスプリングはまず第一に障害フリーの送弾と連射を確保しなくてはならない。少なくともNITIのマカロフ用変換システムはトレーニングに役立つ命中精度をもたらす。より近い距離での射撃なら命中精度は充分である。東ドイツ製変換システムとの構造上の差により、新たに加わったNITI製品はコレクター用にも非常に適している。そんなわけでブルガリアのシステムはコレクターにとって値段に見合う価値は絶対にある。マカロフピストルはまったくその終わりには程遠い。

モデル:マカロフピストル用変換システム
価格:249ユーロ
口径:.22LR
装弾数:7(9)+1
銃身長:107mm
サイト:固定。25mに調整。
メーカー:NITI(ブルガリア Kazanlak)
装備:スライド、リコイルスプリング、雌ネジ付きカバーの付属した「差し込みバレル」、スパナ、シングルローマガジン。

キャプション
差:NITIの変換システム(それぞれ上)と東ドイツモデルのスライドとリコイルスプリング。ブルガリア製スライドは140gで、東ドイツ製より134g軽い。NITI製リコイルスプリングは25mm長い。
NITI社はオリジナル操作マニュアルとならんでブラシとパッチの装着できる先端部の付属したクリーニングロッドを供給している。右は小口径バレルの雌ネジ付きカバー用の使いやすいスパナ。
前任者:東ドイツで「小口径差し込みバレル モデル4.011-900」と呼ばれた変換システム。オリジナルマガジンとアダプター弾薬で作動する。射撃の後は体操が命じられる。アダプターを再び地面から拾い集めなければならないからだ。NITIの新しい変換システムと違って、この旧モデルはスライドストップが機能する。


 またかよと言われそうですが、まず本題と直接関係ない話です。「Visier」の記事は、タイトルに「しゃれた言い回し」が使われることが多いです。しかし、ドイツ語力の低い私には前後の文脈がないタイトルのみの解釈は難しく、それに「しゃれた言い回し」が加わると意味不明になってしまうことが少なくありません。タイトルのない記事というのは基本的にありませんから、例えば前回のP2000SKとSW99コンパクトの比較記事なども含め、タイトルが示されていない記事は意味が分からなかったということです。今回のタイトルは「Wechselspiel」です。この単語は辞書には「相互作用」と出ています。ただ、この単語は「Wechsel」という単語と「spiel」という単語が複合したものであり、これはそれぞれ「交換」、「遊び」という意味です。このタイトルは「すでに旧式化したマカロフが.22コンバージョンを得、それとの相互作用で新たな可能性が生まれた」、という意味と、「部品を交換して遊ぶ」という意味をかけているのでは、と推測しているんですが全然自信はありません。「Visier」内の「スイス銃器マガジン」ページ、「DWJ」はストレートなタイトルがついていることが多く、これは「Visier」独自のスタイルなんでしょう。

 記事には輸入元であるトランスアームズの公式サイトが紹介されていますが、ハンドガンのページは準備中で画像は見られませんでした。ただ、GUN誌2004年7月号に写真1枚のみ掲載されている製品と今回紹介されている製品は基本的に同じもののようです。ただ、「雌ネジつきのカバー」は旧東ドイツのそれに似たものが付属しています。

 大口径ピストルを、反動が弱くて撃ちやすく、製造が簡単な上広く普及しているために非常に安価な.22LR仕様にするコンバージョンキットというのは昔からあるものです。例えば先日2回に分けてキンバー製品についてお伝えしましたが、キンバーにも.22コンバージョンキットがあります。.45ACPと.22LRの間の差と9mmx18と.22LRの間の差を比べれば、後者の方が寸法の上でもエネルギーの上でもずっと差が小さいので、難易度は低くなります。作動方式でもショートリコイルをストレートブローバックに変更しなくてはならないガバメントより、ストレートブローバックのままでいいマカロフの方が簡単です。ただ、マカロフには1点だけ大きな問題があります。それはバレルが固定されていて簡単には取り外せないという点です。そこで旧東ドイツ製、新しいブルガリア製とも、マカロフの.22コンバージョンキットは「差し込みバレル」を採用しています。

       

これが9mmx18が装填されたノーマルのバレルと思ってください。形はごく単純化し、バレルは短くし、また分かりやすいように弾丸と薬莢の段差を誇張して表現してあります。



これが旧東ドイツのシステムです。グレーで表現したバレルは上と同じものです。チャンバー後方から黄緑色で表現している「差し込みバレル」を挿入し、前方に突き出た部分に切ってあるネジ(赤で表現)に青い「雌ネジつきのカバー」をねじ込んで固定します。ここに空色で表現した「アダプター弾薬」に入れた.22LRを装填するわけです。マガジンが流用できる、スライドストップが機能するという長所はありますが、.22LRをいちいち「アダプター弾薬」に入れなくてはならず、射撃後はまた拾い集めなくてはなりません。キャップ火薬でブローバックするモデルガンに近い面倒さです。ちなみに「アダプター弾薬」は写真で見る限りスチール削りだしっぽいです。



こちらがブルガリア製の新製品です。後方から「差し込みバレル」を入れ、前方に「雌ネジつきのカバー」をねじ込んで固定するのは同じです。ただ、「アダプター弾薬」は使わず、後部まで一体になっています。使用が簡単な反面マガジンの新造が必要になり、またオリジナルよりずっと細い弾薬(というか直接的にはフォーロワ)を使用するのでスライドストップは機能しません。文中「反対側プレート」と表現されているのは矢印部分です。チャンバーの外部に力をかけて締め付けるのでバレルに負担がかかりにくいという長所があるようですが、「たとえ『差し込みバレル』のネジがオリジナルバレル内部を押したとしても、ひっかき傷はつかない。」というのが何故なのかは不明です。バレルというものの性質から限度はあるでしょうが、オリジナルのバレルより少し柔らかい材質で作っているのかも知れません。東ドイツ製は「雌ネジつきのカバー」の外部に滑り止めのローレットを彫って指で回してねじ込みますが、ブルガリア製は外部が6角形になっていて付属のスパナで締められるようになっています。

 東ドイツ製はフルートを彫って軽量化はしているもののスチール製で、キャプションによれば東ドイツ製とブルガリア製のスライドの重量差はほぼ倍です。その分ブルガリア製はリコイルスプリングを強めて対処しているわけです。ブルガリア製は弾薬が適していれば意外なほど命中精度は高いようですし、作動も確実なようです。指摘されているようにスライドはマットのアルミ合金製で安っぽいですが、これは元々安価に射撃訓練をするためのものですから観賞用として劣っていてもしかたないことでしょう。ここには書かれていませんが、「雌ネジつきのカバー」のかわりにサイレンサーをねじ込めば9mmx18のサイレンサーモデルより高い消音効果が望めるでしょう。ここではサブソニック弾では連射できないと書かれていますが、これはリコイルスプリングを弱めればいいだけのはずです。訓練用、輸出用だけでなくいろいろな使い道がありそうです。ただ、価格はコンバージョンキットのみでありながらチェコ製Cz75の半分程度であり、ちょっと高すぎなのではという気もします。また、マカロフ自体がいくらなんでももう第一線の軍用拳銃として力不足なのは明らかで、ブルガリアとしても早急に後継機を開発した方がいいというのも確かでしょう。