ドイツ警察の新制式拳銃 H&K P2000V5に問題発生か?

 「Visier」2003年12月号に興味深い記事が掲載されていました。タイトルは「Ein Sturm im Wasserglas」となっています。このくらいなら辞書を引かなくても分かるようになりました。「アイン」は英語の「a」にあたる前置詞、「シュトルム」は嵐(世界史で「シュトルム ウント ドランク」なんて言葉が出てきたのを覚えている方も多いでしょう)、「im」は英語の「イン ザ」、そして「ワッサーグラス」は「ウオーターグラス」です。つまり「コップの中の嵐」という意味です。ちなみに検索した結果によれば、アメリカ英語では「a tempest in a teapot」、イギリス英語では「 a storm in a teacup 」と言うそうです。勉強になりますな。この記事には「H&K」、「ポリザイピストーレ」(警察拳銃)、「ディエンストバッフェ」(公用拳銃)といった単語が頻出し、H&Kの警察用拳銃をめぐって何かトラブルがあったらしい、しかも「コップの中の嵐」というからには「Visier」としては「つまらんことで騒ぐな」といった意見である、ということがわかり、何だろうと思って読んでみました。記事はわずか1ページですが、下1/3くらいに新聞記事が転載されています。まず本文、そして新聞記事の要約をお読みください。なお、後に示す新聞記事の方が古い情報であることに注意してくださいね。


H&Kの警察拳銃に「無罪判決」

「コップの中の嵐」

 新しい警察ピストルに何が起きたのか?この10月、シュツットガルトの新聞紙上で、小さな「コップの中の嵐」が起きた。「新ピストルはあたらない。」というのだ。

 何が起きたか?H&Kの新しい公用ピストル、P2000V5の最初の17000挺が警察官に支給された。完熟訓練が行われたとき、射撃監督官があることに気付いた。多くの警察官の着弾が狙点より2、3cm左下にずれているのだ。「こりゃどうしたことだ! 銃のせいとしか考えられん!」当惑した警官たちと警察上層部は短絡的反応を起こした。全くもって奇妙なことに、そうした着弾点のズレは大規模な採用テストでも、ウルム射撃試験局でも気付かれなかった。大至急内務省によって高度な専門家グループが召集され、H&Kの代表者もやってきた。この協議で明確な結論は出なかった。内務省はPfinztalのフラウンホーファー研究所に専門家による鑑定を委託した。このテストは異なる供給時期の10挺をレストに固定して行われた。その結果はあら不思議、全てのピストルは非常に高い命中精度を示した。これらの銃は技術的には完璧だったのだ。この「無罪判決」により、警察トップのErwin Hetgerは2003年10月28日、マスコミの前に出てこう述べた。「警察は、公用ピストルに選ばれたH&K P2000V5の命中精度には明白に何の問題もないことを確認した。」
 長い時間と高いコストをかけて新公用ピストル配備のための準備をしてきたのは何のためだったのか。内務大臣や警察指導部に誤りはなかったのか?
 ひょっとするとこういうことではないのか。警察官全てが銃器のエキスパートではない。使い慣れたDA−SAトリガー(例えばバーデン・ビュルテンベルグ州の旧公用ピストルであるワルサーP5のような)からダブルアクションオンリーに乗りかえるとき、多くのユーザーは長いトリガーストロークに対応できない慣れの問題を起こす。そして最初の射撃訓練では命中精度は低くなる。つまり、全ては新しいピストルを古いピストルと同じつもりで使用したことによる人的要因だったのだ。
 あるいはP2000のうちダブルアクションオンリーのバージョンを選択したことはアメリカの流行に追随したあまりよくない選択だったのかもしれない。このためにアドバイスできる人はたくさんいたが、実際にはなされなかった。それで警察長Hetgerは思い知らされた。「再テストは警察官が新しいトリガー方式に慣れるため、厳しい射撃訓練を必要とすることを示した。」 この結論を得るために、高いコストをかけてフラウンホーファー研究所にテストを委託する必要が果たしてあっただろうか。


新公用ピストル失中の謎

 弾は「左下に」着弾した。警察はメーカーに、メーカーは警察に疑いを持った。

シュツットガルト発:バーデン・ビュルテンベルグ州の警察に新公用ピストルP2000V5は配備されなかった。この銃はターゲットにあたらない、と彼らは嘆いた。オーベンドルフのメーカーH&Kは射手に問題があるのではないかと推測した。
 オーベンドルフのH&Kは警察からの指摘に初めて答えた。この新公用ピストルは命中不正確であると指摘されたためだ。着弾点が「左下に」ずれるというのだ。
 しかしメーカーの見解は全く違っていた。この銃は何といっても大規模なテストに耐えたものである。州がこの銃を購入する前に、315人の警察官がすでにこの銃を日々の業務に使用しており、クレームはない。その信頼性は証明されているのだ。のちに国の機関であるウルム射撃試験局が各銃につき25000発の射撃テストを行い、グルーピングを文書化して残している。このときも明らかに欠陥はなかった。
 異なる所属のより多くの警官がシューティングレンジでこの銃を撃った時点になって初めて異常な着弾が確認されたのだ。シュツットガルト警察も「我々の射撃教官も同じ現象に気付いた」とスポークスマンを通じて発表した。
 内務省は先の火曜日、オーベンドルフにおいて、専門家を参加させた新たなテストを行うことを発表したが、「このテストの結果、明らかな結論は出なかった」と内務省スポークスマンは述べた。そして昨日、外部の専門家の鑑定を行うよう指示が出た。
 H&Kは今なお技術的欠陥はないと考えている。火曜日に行われたプレスリリースで、「個々の特殊な場合、射手に合わせて銃を調整する必要があるかもしれない。これに必要なのはサイトの調節であり、最低限の費用で可能である。」と表明した。原因は射手の側にあるというのだ。
 メーカーは今でも新ピストルの配備を進めることを望んでいるが、それは現状では困難である。17000挺がすでに納入されている全バーデン・ビュルテンベルグ州では、メーカーのオリジナル梱包のままとどめられている。これは内務省による適したホルスターの注文が遅れたためである。12月中旬より全てのホルスターが納品される予定だ。だが今使用開始の期日が再び延期される可能性が出てきた。失中の原因がクリアされないかぎりP2000は現場に投入されない、と内務省スポークスマンは言っている。ただし内務省は続く2週間以内に結論は出ると期待している。「早くするべきだし、また早くすむだろう。」とスポークスマンは言う。
 P2000の射撃経験がある銃器雑誌「Visier」の編集長David Schillerは、「明確にすべき技術的問題などは初めから存在しない」と主張する。むしろ問題点はP2000のトリガーと、それを使用する警官の側にある、と言う。これまで使用してきたP5と違い、P2000V5は長いトリガーストロークを毎回引かなくてはならない。その際約3kgという重いトリガープルに打ち勝たなくてはならないが、トリガーはこれに合わせてワイドになっていない。DA・SAからDAオンリーへの変更は重大であり、トレーニングなしにはターゲットを外すことは不可避である。
 しかし、約20mの距離で弾が狙点から2、3cmそれることは、警察官の日常業務において何ら意味を持たない、と銃器専門家は考える。実例は公用ピストルが効果をあげるのは、危険が「3〜5mに近づいたとき」であることを示している。その際は大量のアドレナリンの分泌によってレンジでのターゲットシューティングのような慎重な狙い方はどのみちできないのである。Schillerの見解では、多くの警察官に強く教え込まれなければならないのは、「むやみに撃たないこと」であり、「正しい威嚇射撃のやり方」なのだ。
 内務省は2、3cmのずれを大きすぎると考えている。25000挺のピストルがさらなる再テストに回され、試射されざるを得なくなることもありえないことではない。こうしたリコールによって生じる莫大なコストは一体誰が負担するのか。


 「アクション4」の項目でも書きましたが、ドイツ人は考えること、やることが非常に緻密で、新ピストル、新弾薬を採用するとなったら高度な専門家を結集させ、多くの費用をかけ、時間をかけて多角的に、徹底的に検討を行います。これはドイツ人の長所であり、見習わなくてはならない部分です。しかし、見ているとドイツ人には明らかに欠点もありますね。新警察ピストル採用にあたり、銃器のエキスパートばかりを集めて高度なテストを徹底的にやったのはいいんですが、ごく普通の警官にとってDAオンリーの銃が使いやすいかどうかということはまったく念頭になかったようです。「9mmパラベラム VS .40S&W VS .357SIG」の項目では、「幸いにしてドイツでは合法的銃器所持、携帯者にとってぺーパーターゲット以上に危険な敵はわずかしかいない。しかし毎年多くの警察官がピストルの威嚇使用を迫られている。」といった内容がありました。また「アクション4」の項目では、20年以上警察ピストル弾薬に9mmパラベラムのフルメタルジャケットを使用し続け、最近になって犯人の体を貫通した弾が無関係の人間を殺してしまったことが大問題になって弾薬変更が行われた、という内容がありました。ドイツでは比較的簡単に銃が所持できるので、銃器犯罪や警察官のピストル使用の状況はアメリカに近いと思いきや、実際は日本に近く、警察官が犯人に発砲することはまれのようです。こんな中で警察官の大部分は高度な銃器知識を持たず、射撃にもさほど熟練していないと考えられます。大多数を占める彼らのうち何人かを呼んでテスト中の新ピストル候補を試射させて意見を聞いていればこんな問題ははるか以前に把握できたはずです。また、一般警察官たちに認識が足りなかっただけならまだしも、射撃訓練の監督官たちまで命中精度が悪い原因は銃の欠陥だと騒ぎ出すというのはちょっとお粗末ですし、指摘を受けてまた高度な専門家を集め、銃をレストにがっちり固定して命中精度をテストし、「問題ないぞ」という対応もなんだかなあという感じです。
 そして「Visier」編集長も指摘しているように、一般の警察官がピストルを使用するのはほとんど数m以内であり、20mでの2、3cmのずれは数mmにしか相当しません。また極度の緊張状態で一刻一秒を争う緊急事態でのことですから、平時における20mでの標的射撃とは状況が全く違っていて比較にならないわけです。そもそもこれで大騒ぎする方がおかしいわけで、緻密というよりは神経質すぎというべきでしょう。だから「Visier」はばかげた空騒ぎすなわち「コップの中の嵐」と評しているんです。
 ここでは「トレーニングが必要」とされていますが、いくらトレーニングしたってDAオンリーのオートがDA・SAのオートなみに最大の連射スピードが速くなることも命中精度が高くなることもありえないわけです。こうした銃を新たに支給するにあたっては、今度の銃は従来の銃とここが違う。安全性が高くなる反面こういうデメリットもあるからトレーニングしてできる範囲でカバーせよ、実際上なんら問題はないのだ、ということを一般警察官たちにしっかりアナウンスすべきだったでしょう。ハードの部分にはこだわりぬくのに、人間に対する配慮は足りず、人間は黙っていても機械に合わせて正確に動くのが当然と思っているドイツ人の欠点が現れたものだと言ったらいいすぎでしょうか。「Visier」編集長らは官僚機構の問題だと考えているようですが、今回は無理解な官僚に冤罪をかけられた被害者といった立場のH&Kがかつて公用ピストルとしてプッシュしていたP7、HK4に一種似た問題があるように思えることは以前HK4の「実銃について」の項目で触れました。
 そもそもDAオンリーというのは、SAの短いトリガープルにより正確で速い連射ができるというオートピストルの長所をわざわざ放棄するものです。ダブルアクションで連射するリボルバーに慣れたアメリカの警察官にDA・SAのオートをいきなり使わせると暴発事故が多くなるのでリボルバーと似た使用感のDAオンリーを与える、というのはまだ分かります。しかしドイツの警察官はワルサーP5などDA・SAのオートに元々慣れているわけで、これをDAオンリーに換えるのは賢明な選択だったんでしょうか。安全性が高いといっても、携帯時の安全性には差はありません。銃撃戦が長引いたとき、極度の緊張状態で思わず力が入って暴発させてしまう可能性が小さくなる、というだけのことです。日本に近いドイツの現状で、これは他の大きなメリットを放棄するほどのメリットでしょうか。危険が切迫したとき、至近距離で一気に数発発砲して勝負が決する、というときにはDA・SAの方が明らかに有利で、連射スピードが低下するデメリットの方が大きいような気がします。「アメリカに追随して」と言ってますが、「9mmパラベラム VS .40S&W VS .357SIG」の項目にあったように、必ずしもアメリカの警察用としてDAオンリーが主流ということはありません。
 
 ドイツ流の緻密な手法にも落とし穴があり、必ずしも最高の結論が出るとは限らない、という興味深い教訓話でした。



2003年12月20日追加

 「Visier」2002年12月号(つまりちょうど1年前の号)に、先に紹介した内容より古い、バーデン・ビュルテンベルグ州が新たにP2000V5を採用したという内容の記事が掲載されていましたので、それを紹介します。


バーデン・ビュルテンベルグ:新警察公用ピストル

サイは投げられた!

 1016日、バーデン・ビュルテンベルグ州(頑住吉注:バーデン・ビュルテンベルグ州はドイツ南西部の州。州都シュツットガルト)警察の新しい9mmパラベラム公用ピストルが最終的に決定し、発表された。この銃はH&KのP2000のうち、V5というバリエーションで、DAOトリガーを備えたものだ。要するにリボルバーのダブルアクショントリガーに似たものである。このようなシステムのため、この銃にはデコッキングレバーもセーフティもなく、SAでハンマーをコックすることもできない。オーベンドルフのメーカーによる新しい銃は70年代以来公用として使われてきたH&K P7、およびワルサーP5と交換される。1017日、内務省は見積もられる注文の規模について、次のように発表した。

「内務省の委託を受けた委員会は、オーベンドルフの銃器メーカーに対し、州警察が使用する25000のピストルと、特殊部隊(モビレ アインザッツ コマンドス、スペズィアル アインザッツ コマンドス 頑住吉注:それぞれ機動投入部隊、特別投入部隊といった意味か)が使用する400のピストルの発注を決めた。注文の規模は約800万ユーロであり、これは3億4千8百万ユーロをかけて行われるバーデン・ビュルテンベルグ州警察行政の包括的な将来技術近代化計画の一部である。新しい銃の納入は今年中に始まり、2003年の末までには男女全ての警察官に装備される。」

 特殊部隊に装備される400梃のピストルはP2000V5ではなくV1である。この銃は実際に使用する特殊部隊員および警察用兵器技術者の全てが、ベストの満足を与えるものとして要求したものである。

 全ての警察領域を単一の銃で統一することは警察内部で全く賛成が得られない。官庁が公的に承認したピストル(例えばSIGプロ2009、ワルサーP99など)の中から使用者に自由に選ばせるという方法もありうる。しかしこれは現在のドイツ警察の手法には合わず、残年ながらトップが承認しない。ちなみにバーデン・ビュルテンベルグ州内務省によれば管轄権のある委託委員会の外、特に警察の監査機関の長、委員会の中心人物、労働安全と技術の専門家が反対したという。

 バーデン・ビュルテンベルグ州に対し、ニーダーザクセン州(頑住吉注:ニーダーザクセン州はドイツ北部の州。州都ハノーバー。)はさらに進んだ方法をとった。つまり、調達は机上の論理のみによって行われるのではなく、州が購入に先立ち、予算をかけて州のあらゆる地域から集められた男女400人によるテストを行って合格したものが装備されるという方法である。情報によれば、ニーダーザクセン州は目下約15000梃のH&K P2000V2を5カ年計画で導入している。すでに最初の3000梃が使用可能な状態にある。同時に5000梃の小型化したサブコンパクトタイプのP2000V2がニーダーザクセン州の定めた予定納期目指して作られている。こちらはコンシールドキャリー用である。ただし、刑事警察専用ではない。ニーダーザクセン州はP2000V2導入の根拠として、警察官の武装と携帯方法が柔軟となることを挙げている。つまり、今後警察官は大小2タイプのP2000V2から好きな方を選べるのだ。制服警官も例えばショルダーホルスターにするか、好まれる革ブルゾンの下のヒップホルスターにするか選ぶことができる。今年はスタンダードなホルスターのみだが、現在ニーダーザクセン州はいろいろなホルスターをテスト中で、合格したものは来年導入される予定である。

 H&Kは、P2000を、DA-SAトリガーでデコッキングレバーを備えたスタンダードなモデルとならんで、「V」タイプより短い5つのタイプも供給している。その他、警察の要望に応じた追加のバージョンや、染料によるマーキング弾を使用するSX-Tトレーニングモデルもある。P2000の全ての型には外装セーフティがない。グリップの背部は交換可能なインサートになっていて、サイズは全部で4つ、小さい順にS、M、L、XLとなっている。それに加え、V1、V2、V4は特殊なセミダブルアクションであり、ハンマースパーあり、なしの2タイプから選べる。このアクションをH&Kは「CDA(コンバット・ディフェンス・アクション)」と呼んでいる。3タイプの違いはトリガープルだ。V1は20ニュートン、V4は27.5ニュートン、、V2は32.5ニュートンとなっている。V3はいくらかコンベンショナルなモデルだ。DA・SAのトリガー(プルはそれぞれ20、50ニュートン)であり、ハンマーにはスパーがあり、でコッキングレバーがついている。そしてV5はハンマースパーなしのクラシカルなダブルアクションオンリーモデルだ。これはバーデン・ビュルテンベルグ州向けに作った最も新しいモデルである。


 前の記事でよく分からなかった点がいくつか明らかになりました。まず、このニュースはあくまでドイツの1州であるバーデン・ビュルテンベルグ内の話であるということです。バーデン・ビュルテンベルグ州はP2000V5を採用し、全体で25000挺の購入を決めました。2002年12月号の記事では今年中に納入が開始されると書いてありますが、2003年12月号の記事の内容からしてその納入予定は遅れ、2003年秋に最初の17000挺が納入された直後に「あたらない」というクレームが出されたということでしょう。私は「内務省」というのは当然ドイツ連邦政府の内務省であると解釈していましたが、2002年12月号の記事にははっきりと「バーデン・ビュルテンベルグ州の内務省」という記述がありました。ドイツの州は独立性が高く、州政府があってそれぞれに「内務省」がある、ということらしいです。
 私はドイツ人の問題としてこの問題を論じ、テストのやり方ではフランスの方が行き届いていると考えましたが、ドイツの他の州であるニーダーザクセンでは州の各部から多数の警察官(現場の、下級の、とは書いてありませんが)を集めてテストした、ということなので、やや早計な判断だったかも知れません。「Visier」の論調としても、ニーダーザクセン州のやり方の方がいい、ということで遠まわしにバーデン・ビュルテンベルグ州のやり方を1年前から批判していた感じです。全体的な国民性の傾向に関しては全く的外れだとは思いませんが。
 P2000にはいろいろなバリエーションがありますが、基本はハンマー式でありながらグロックに影響を受けたセミダブルアクションになっています。ただし、グロックと違って不発時にはもう一度トリガーを引いて再撃発を試みることが可能だということです。トリガープルの違いでバージョンを分けるというのはちょっと珍しいですね。トリガープルの単位に「ニュートン」を使うというのもドイツ人らしいと言いますか。その方が学問的に厳密かも知れませんけど分かりにくいっての! ちなみに他のたいていの記事ではグラムによる表記になっています。2003年12月号の記事ではP2000V5のトリガープルは約3kgと書かれています。DA・SAモデルであるV3のDAのプルは50ニュートンとされていますから、たぶん3kgと50ニュートンが同程度のプルなんではないでしょうか。V3のSAのプルが約1.2kg、セミダブルアクションは軽い順にV1が1.2kg、V4が1.65kg、V2が1.95kg程度だと思います。DA・SAは使いこなせば最高ですが、1発目と2発め以降でトリガーのストロークやプルが極端に変わるので戸惑ったり着弾がばらつく場合もあります。V1のトリガーはSAなみに軽く(ストロークは長いはずですが)、一定のプルであるという理想に近いものなんでしょう。ただ、当然暴発の危険が大きくなると考えられるので、バーデン・ビュルテンベルグ州では特殊部隊のみに使用させる、ということです。特殊部隊がDA・SAよりこちらを選んだということは、このトリガーシステムはかなり有効なんだろうなあと想像します。ニーダーザクセン州はセミダブルアクションのうち最もプルが重く、安全性が高い(ただしダブルアクションよりはかなり軽い)V2を一般警察官に装備したわけですが、バーデン・ビュルテンベルグ州はこれでも嫌だということで、わざわざダブルアクションオンリーのものを新たに作らせて装備した、ということのようです。わざわざ希望してトリガープルが重く、ストロークが長いものを作らせて購入しておいて、「あたらない」と世間に悪評を振りまかれたH&Kも災難です。

 


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