H&K P2000問題その2

 バーデン・ビュルテンベルグ州の新しい警察制式拳銃、P2000V5をめぐる騒ぎに関する「Visier」誌の報道はすでにお知らせしました。今回紹介するのは、「DWJ」2003年12月号の内容です。


H&K P2000V5は警察による全ての要求を満たしている。
虚報

 それはマスコミによるセンセーショナリズムの典型例だった。11月、「Bild-Zeitung」紙は、「大臣が19000挺もの役に立たない警察ピストルを注文した。」という内容の主張を掲載した。メーカーのH&Kと注文主の州内務省は、突然ありがたくないスポットライトを浴びる羽目に陥った。しかし、今やP2000V5の射撃性能、命中精度に何の問題もないことは明らかである。
 「あなたはこの写真を見てどう思うか」という内容の大きな活字が目立つ、10月4日の「Bild-Zeitung」紙によるこの報道を見て、人はどういう意見を形成しただろうか。きっとH&K P2000について、悪い印象を持ったに違いない。少なくとも、バーデン・ビュルテンベルグ州が警察ピストルとして注文したDAOトリガーのV5に関しては。「内務省は19000の壊れたピストルを注文した。」「これら全ての銃は役に立たない」という内容の記事は、俗受けするものだった。実はこの記事が掲載される直前、バーデン・ビュルテンベルグ州警察の射撃教官が、オーベンドルフのH&Kに乗り込んでいた。
 その原因は、ある1人の待機勤務の警察官が、支給されたP2000の着弾が、左下にそれることに気づいたことだった。驚くほど短い時間の後、前述の記事が「Bild-Zeitung」紙に掲載された。これがH&K、そして注文主の州内務省にパニックを引き起こした。しかしその報道を目にして、P2000が優秀なピストルであることを知っている専門家たちは不審に思っていた。

P2000はどのように誕生したか
 H&Kの技術者は、P2000を警察による要求に応じるよう特別に設計した。技術的にP2000は有名なUSPファミリーの子孫にあたり、直接的にはその中でもP10から生じたものである。P10は一般市販マーケットでもUSPコンパクトとして最高の評価を得ている。2000年には「ピストルに関する技術的指針」に基づく公の証明書も交付されている。ザールラント州およびチューリンゲン州はこの銃を制式採用している。P10は外装ハンマーとセパレートのデコッキングレバーを持つ、コンベンショナルなDA/SAピストルである。
 P2000は祖先であるUSPより外部の突起が少なく、丸みをおびているのでホルスターにも収めやすい。デコッキングレバーはスライド後部に移動している。スライドはフラットなデザインとは言えないが、USPコンパクトより上部が丸みをおびている。丸みをおびたスライドは、角ばったスライドより、何度もスライドを引く操作をする場合に長所となる。さらに、スライド先端左右は斜めにカットされており、警察官がホルスターに収めやすいようになっている。スライドは290gと非常に軽い。これは警察が使用する新しい変形弾薬に合わせる必要からである。
 P2000にはH&Kが自社で製造するポリゴンバレルが装備される。グリップフレームはグラスファイバーで強化された黒色のポリアミド製だ。
 ワルサーP99と同じように、P2000のグリップ後部は交換可能になっている。高さと厚さが異なる4つのグリップ後部が標準装備され、1挺の銃で異なる手の大きさに適合する。
 グリップの形状は、USPコンパクトよりいくぶん手が上に位置するようになっている。これによってUSPのデコック、セーフティメカニズムの流用は断念せざるを得なくなった。P2000は警察の要求に合わせ、マニュアルセーフティなしとなっている。
 バレル軸線と手の距離が近づいたことにより、マズルジャンプはUSPより小さくなっている。P2000のグリップ角度は17度で、ターゲットをポイントしやすくなっている。マガジンキャッチは市販品のUSPと同じもので、両側から操作できる。マガジン自体は金属製である。USPコンパクト同様、左右とも2列で、ほぼ上下いっぱいに残弾確認窓が開口している。これにより、砂などの異物が侵入して作動不良の原因となる心配がある。

P2000のバリエーション
 H&Kは、スタンダードなP2000だけでなく、各州の警察の個別の要求に対応するため、V1からV5までのバリエーションを供給している。V1、V2、そしてV4は「コンバット・ディフェンス・アクション」と名付けられたトリガーを装備している。これはハンマーが途中までコックされ、毎回同じトリガープルで射撃できるものだ。各バリエーションは顧客の希望に合わせ、異なるトリガープルに設定されている。
 バーデン・ビュルテンベルグ州は、トリガープルが3.5kgのダブルアクションオンリーであるV5を選択した。

バーデン・ビュルテンベルグ州警察のP2000
 全ヨーロッパ的な競争入札の結果、2002年10月17日、新しい警察ピストルがH&KのP2000V5に決定した。注文の規模は25000挺となった。
 選択の根拠は次のようなものだった。大規模なユーザーによる試験が行われた。ユーザー全体の縮図となるように選ばれた315人の男女警察官が6箇所において、広範囲のテストを行った。内務省の広報によれば、このテストでは15万発が発射され、そのうち18000発はP2000V5から発射された。このテストによる成績と価格をもとに、専門知識のある警察の委員会が検討を行った。この結果DAOトリガーを持つP2000V5が選ばれた。
 この決定は専門家たちを不思議がらせた。理由は明白である。警察官の大部分は、比較的少ない射撃訓練しか積んでいない。警察官の業務計画において、射撃訓練は下位にしか置かれていない。各バリエーションの中でもDAOは、射撃すること、そして特に正確に命中させることが最も困難な、そして訓練に最もコストがかかる機種である。DA/SAモデル、そして「コンバット・ディフェンス・アクション」の機種は、疑いなくより多くの射手に適している。しかし、決定を行った専門家集団は、射撃自体の実用性よりも、不慮の事故防止の方を重視したのだ。2003年10月28日にシュツットガルトで行われた、州内務省によるマスコミ向け発表によれば、DAOトリガーを採用したのは、意図しない発射が起こるリスクを最小にするためだという。DA/SAモデルや「コンバット・ディフェンス・アクション」の機種は、暴発の可能性がDAOより高いことは確かで、これが決定に大きな役割を果たしたと考えられる。
 H&Kは2月にはすでに銃の出荷を開始していた。しかし適合するホルスターが不足していたため、すぐに支給はされなかった。具体的にどこから支給が始まったのかは明らかでないが、訓練によって着弾が左下にそれることが確認された。州警察本部は、これによってそれ以上警察官たちにP2000を支給することをとりやめた。
 10月1日、H&Kは警察の教官の来訪を受けた。そして、10月4日には「すべての銃が役に立たない」という内容の刺激的な記事が「Bild-Zeitung」紙に掲載された。疑問は残る。何故新聞はこのことを知ったのだろうか、そして何故本人の主張のみで警察ピストルの着弾が左にそれるという記事を掲載してしまったのか。
 州内務省はフラウンフォーファー研究所に明確で客観的な鑑定を委託した。異なる納入時期の10挺が検査された。その結果は明白なものだった。新しい公用ピストルP2000V5は、技術上完璧に生産が行われており、すべての要求を満たすものだというのだ。鑑定によれば、すべての銃の着弾点は、大部分が非常に正確に、警察が基準としてあらかじめ定めた圏内に収まり、技術的観点からも文句のつけようがないものだった。しかし、鑑定はその一方において、警察官がこの銃の新しいトリガーシステムに慣れるには、集中的な訓練を必要とすることも同時に示していた。州警察トップのErwin Hetgerはこれを受け、新しい公用ピストルとしてP2000V5を選定した州警察の決定は正しかったと強調した。

DWJの結論
 バージョンV5のP2000は日刊紙上で大騒ぎされたが、実際には卓越した実力を持つ警察用ピストルである。確かに、何故シュツットガルトの内務省がよりにもよってDAOバリエーションを選んだのかという点に疑問はある。特に経験上頻繁に射撃訓練を行わない、通常の待機勤務の警察官にこれが適していたかは疑問である。射手がDAOピストル、特に速射で高い射撃成績をあげるには、多くのトレーニングを必要とするからだ。DAOピストルの発射には、長いトリガーストロークと、3.5kgのプルを毎回引かなくてはならず、着弾が少しずれる。右利きの射手が使用した場合、着弾がやや左下にずれるというのはノーマルな結果である。
 技術的見地からすれば、「新しい警察ピストルは役に立たない」というP2000V5に関する主張は支持できないし、フラウンホーファー研究所の最新の鑑定もこれを裏付けている。法律家は、この件を、「会社の信用を傷つける不法行為」にあたるか否かの境界領域と考えている。


 ドイツ語力不足のためしょっちゅう解釈を訂正していてごめんなさい。「Vsier」にも「DWJ」にも、P2000V5の着弾が「links tief」になるという表現が出てきます。リンクスは左、ティエフは英語のディープにあたる単語です。私はこれを「左に深く」着弾することだと解釈し、「ひどく左にずれる」と訳しましたが、これはどうも「左下にずれる」という意味だったようです。
 内容、論調としては「Visier」と大筋同じです。この件は大事な広告主のピンチなわけで、専門誌は擁護したい立場にあります。例えば日本のエアソフトガン大手メーカーがマスコミによって根拠のない攻撃を受けたら、専門誌が擁護するだろうと思われるのと同じことですね。「Visier」は「コップの中の嵐」、「DWJ」は「虚報」というのがメインタイトルで、はっきりと日刊紙の報道を批判しています。しかし、業界の危機だからと言って無理に擁護しているわけではなく、内容は全く妥当と思われます。
 この記事にはP2000について、ことにその発達の過程が「Visier」より詳しく述べられています。P2000にセーフティがないのは、マズルジャンプを抑えるためハイグリップ可能なデザインにしたので原型であるUSPのセーフティが流用できなくなったという理由と、ドイツ警察がマニュアルセーフティを求めていないという2つの理由によるということです。ドイツ警察が使用している銃には、確かにP220シリーズ、P7、P5などマニュアルセーフティのないオートが多いですね。使用弾薬に合わせてスライドを軽量化したというのは、従来の重いスライドは、従来使用していたフルメタルジャケット弾には適しているが、より軽量な新弾薬「アクション4」には少し重すぎるということでしょう。

デコッキングレバー

 青い部分がデコッキングレバーでスライド後面にあり、セレーションが切ってあります。このデザインにより、片手での操作はやりにくくなったと思われますが、抜く時よりひっかかりにくくなったはずです。ただ、個人的には理論上ありえないといっても、万一発射が起こったら指が吹っ飛んでしまいそうでちょっと怖いです。こんなこと思うのはデコックによって暴発することがよくあった昔のモデルガンの刷り込みのせいでしょうか。ちなみにこのハンマーはロストワックスなのか何なのか、とにかく型で作っています。中央にはっきりパーティングラインがあり、頭のセレーションはパーティングラインの左右でわずかに、しかし明確にずれてます。

スライドストップ

 P2000のスライドストップは非常に珍しいことにアンビになっています。パーツ構成はこんな感じで、右面のスライドストップは圧入されて保持されます。右面のスライドストップはホールドオープン時のみ抜け、閉鎖状態では突起がフレームとかみあって抜けないようです。とはいえあまりにフィットがゆるいと脱落のおそれがありますし、タイトだとフィールドストリップが難しくなるはずです。

 私はバーデン・ビュルテンベルグ州警察は、多くの一般警察官によるテストをせずに高度な専門家の意見と机上の理屈でDAOのV5を選んだと思って批判したわけですが、この記事を読むとそうではなかったようです。使用者全体の縮図となるよう選ばれた315人の男女警察官による実用テストが行われたなら、一体何故こんな騒ぎが(しかもおそらくは警察内部から)起きたのか訳が分かりません。おそらくはDAOでは命中精度が悪くなることは確認され、警察官たちからも使いにくいという意見が出たのに、暴発の可能性が少しでも低い方を選んでしまった、そして警察上層部が新しい銃の特性を一般警察官たちに充分説明することを怠ったまま訓練を開始してしまった、ということだと思います。
 
 ちなみにこの記事にはP2000各バリエーションと、比較すべき機種のトリガープルが掲載されていました。

H&K P10 SA2.0kg DA5.2kg
H&K P2000V1 コンバットディフェンスアクション2.0kg
H&K P2000V2 コンバットディフェンスアクション3.25kg
H&K P2000V3 SA2.0kg DA5.0kg
H&K P2000V4 コンバットディフェンスアクション2.75kg
H&K P2000V5 DA3.5kg
ザウエル&ゾーン P239 SA2.0kg DA4.5kg
ザウエル&ゾーン P2009 SA2.3kg DA4.5kg
ワルサーP99 SA2.0kg DA4.0kg
ワルサーP99 クイックアクション3.2kg
ワルサーP99DAO 3.2kg


 これを見るとP2000のDAOは、DA/SAのダブルアクションよりはかなり軽く設定してあることが分かります。P99のクイックアクションというのは、たぶんグロックのセーフアクションやP2000のコンバットディフェンスアクションに近いものだと思います。





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