ザウエル&ゾーンP250DCc

「DWJ」2004年6月号に、ザウエル&ゾーンの新製品、P250DCcの速報記事が掲載されていました。


伝統の会社ザウエル&ゾーンは公用拳銃P250DCcによって新しい道に向け
一歩踏み出した

モジュラーコンセプト入り。P250DCcの紹介により、ザウエルは何十年もの間おしすすめてきた原理を離れ、デコッキングレバーがなく純ダブルアクションであり、そしてモジュラー方式を含んだ銃へと方向転換する。

 れはほとんど考えられないことだろう。「デコッキングレバーのないザウエル」など! 全てのザウエル製品同様、当時「SIG-Sauer」の名で知られたピストル(この中には非常に有名な例えばP225/P6のような機種、そしてP2009のようにきわめてモダンな機種も含まれる)はセーフティを持たず、しかしそのかわり左面にデコッキングレバーが装備されていた。今これが変わった。「警察ピストルのための技術的指針」により、今後純ダブルアクション(DAO、ダブルアクションオンリー)の公用ピストルにも公的証明書が発行できることになった。その上このトリガーシステムを指向する警察署は増えている。ザウエルもすでに今日のこのシグナルを理解しており、これに対応した設計のピストルをニュールンベルグで行われた今年の専門展示会IWAで紹介した。
 ザウエルはこの製品によってすでにマーケットに存在するライバルたちの後を単純に追随したわけではなく、さらなる若干のアイデアを盛り込み、DAOトリガーにしたこととならんでなおいくつかのイノベーションを注入した。

ディフェンス用に調整されたピストル
 基本的に、少なくとも警察用の銃においては、フレームのバレル前下部に作りつけのピカティニーシステムのマウントレールを装備することがメーカー間に普及している。ザウエルはフランス警察の希望に応じ、SP2009に手を加えてこのレールを装備したP2022を開発したし、IWAで紹介された1911系クローン「GSR」にすらそれが装備されている。こうしたことからディフェンスガンおよび公用ピストルとして構想されたP250DCcにも同様なレーザーポインター、ランプ用のマウントがあるのはまったく当然のことである。
 どんどんコンパクトな公用ピストルを作るというトレンドに反して、P250は102mm(4インチ)の長いバレルを持ち、全長180mm、全高135mmという明らかな「フルサイズ」銃である(頑住吉注:括弧つきなのは、本来ならこれでも本来のフルサイズよりややコンパクトだが、コンパクト化の傾向の中では今やいわばこのサイズが実質的なフルサイズなのだ、といったニュアンスでしょう)。このクラスで、ザウエル&ゾーンはフランスから20万丁という大規模注文を手にする良い経験をした(頑住吉注:要するにSIGプロとP250DCcはサイズ上同クラスだということです)。その上この大きさのピストルは15発というたっぷりしたマガジンキャパシティといくらかより快適な操作性を備えることになる。単にコンシールドキャリーだけを考えると非常に良好とは言えないが、コンシールドキャリーは大部分のレギュラーな警察任務では想定されていない。
 その目的と今日の警察フィロソフィーに従い、DAOトリガーはプルがまるまる3.5kg、そしてストレス下でも安全なように14mmというストロークになっている。空虚重量640gは軽いと言っていいし、長時間の業務における携帯でも不快にならないはずである。

新しい要素を盛り込んだ既知の技術
 ザウエルがこの銃に与えたシステムはコンベンショナルなものである。短距離後座するバレルを持つロック機構つきの反動利用銃であり、ロックはフィーディングランプ下に固定されたカーブにあやつられてバレルが傾斜し、スライドとのロックが解除されるまで行われる。全てプルーフされた、信頼できるものだが、命中精度は固定バレルまたはストレートに後退するバレルを持つピストルに及ばない。だが、この小さな欠点はザウエルが現在のほとんど全ての警察ピストルと共有するものである。
 依然として外装ハンマーがあるが、このハンマーにはスパーはない。DAOハンマーにはコッキングのためのノッチがなく、したがってコックすることもできず、またその必要もないからだ。内蔵された自動的なファイアリングピンセーフティは今日基本装備である。
 クレバーなのはモジュラープリンシプルである。1つの機能グループとしてのスライドおよびバレル(リコイルスプリングを含む)とならんで、機能グループとしてさらにスライド誘導レールによって銃に結合されたトリガー/ハンマーグループだけが存在する。このグループはプラスチック製のフレームにセットされ、このフレームはそれ以上の機能部品を含まず、したがってそれ以上の銃の本質的部品を含まない単独の存在でもある。
 この設計の主要な長所は、射手の手の大きさに適合するため、グリップパネルまたはグリップ後部だけでなく、フレーム全体が交換できることである。これにより、例えば手が大きい場合グリップを長くするだけでなくふくらんだ形にできる。その上フレームとマガジンを交換するだけで、すぐにコンパクトバージョンが作れる。この際トリガーや撃発機構は流用できる。

最小限的プリンシプル
 製造でも保守整備でも、現代の銃は経済的であることが望ましい。ザウエルには、P250DCc設計にあたってできるだけ少ないパーツ数にするという思惑があった。この銃は全部でたった約40のパーツからできている。
 この銃は操作もまた最小限的である。どうしても必要不可欠な操作要素だけが存在する。すなわちトリガー、マガジンキャッチ、ディスアッセンブリーレバー、そして(この必要性に関しては議論がありうるが)スライドストップである(頑住吉注:スライドストップがなくても確かに銃としては成り立ちますが、それを言うならマガジンキャッチがない銃もありますし、ディスアッセンブリーレバーはなおさら必須からは遠い気がしますが)。スライドストップはノーマル状態でアンビであり、マガジンキャッチは左右の差し替えができる。このためP250は左利き射手が使用してもハンデはない。

DWJの結論
 グロックはビッグな先駆者であり、それゆえ、そしてそれ以後、ほとんど全てのメーカーが程度の差はあれ似たコンセプトのモデルで後追いをすることになった。こうしたモデルは全て今日の流行と研究成果の影響の下に形作られたものである。P250DCcにより、今ザウエルもまた何十年もの間大切に育ててきたデコッキングレバーを持つ銃の道を去り、現在のトレンドを追うことになった。非常にシンプルであることとモジュラー方式であることにより、製造技術面でも新しい道に踏み出したことになる。この銃はまず実際の使用の中でプルーフされなければならない。だが、プルーフの基本的な前提は良好である。射撃成績を含む詳しいテストレポートは次号に掲載される。ここで新しいザウエルの銃が、同社のコンベンショナルな従来品の域に達しているかどうかが示されるだろう。

キャプション
ピカティニーレール、コンパクトなサイズ、そして特徴的なデコッキングレバーの放棄。むしろ保守的な会社であるザウエルにとってこれはほとんど革命的なことである。警察用としての公的証明書発行の手続きは進行中である。

この銃は簡単にスライドグループとフレームグループに二分割できる。

新しいスタンダード、ピカティニーレール

スライドからは典型的な改良型ブローニングシステムであると分かる。

ハンマー、トリガー、スライド誘導レールはグリップフレームから取り出せる。

スライドストップは両面から操作できる。


 この記事は一貫してスイスのSIGとは無関係になったザウエル&ゾーンの製品として紹介を行っていますが、やはり刻印は「SIG SAUER」になっていますし、アメリカでは当然ザウエル&ゾーンの子会社でありながら「SIGArms」という名前であるあの会社によって販売されるはずです。ザウエル&ゾーン公式サイトによる紹介ページはここです。

http://www.sauer-waffen.de/index.php?id=319&lang=en

 「P2000SKとSW99サブコンパクト」の項目ではこの銃も最近流行のサブコンパクトであるように書かれていましたが、実際はそれより少し大きくSIGプロと同クラスだということです。
 この銃で最も注目すべきなのはやはり「モジュラーシステム」でしょう。スライド誘導レールと一体になったトリガー、ハンマーメカを簡単に、まるごと他のプラスチックフレームに移し替えられるということです。私はP2000やP99のグリップ後部のみ交換するシステムを見て、そんなに大きい適応能力はないのではないかという疑問を感じていましたが、P250の方法なら文句なしです。ここでは大きな手に対応して大きなフレームにすることとコンパクトモデルを作ることしか書かれていませんが、他にもトリガーガードをラウンドにしたり、違う滑り止めパターンにしたり、違う規格のマウントレールにしたりあるいは少しでもコンパクトでホルスターに収まりやすいようにレールなしにしたり、そして逆にトリガー、ハンマーメカだけを交換してDA/SAや「一部コック」のようなトリガーシステムにすることも容易なはずです。これは本当にクレバーなアイデア…って、ちょっと待ってくださいよ、「スライド誘導レールと一体の金属シャーシにトリガー、ハンマーメカを組み込み、これを流用しながら違うデザインやサイズのフレームに換えてバリエーション展開する」、これは日本のトイガンがとっくに実践している方法と同じじゃないですか。「日本人の方がクレバーだ」と威張りたいところですね。

 ドイツ人には単純に行くべきところでも妙な凝り方をして複雑にしてしまう傾向がありますが、この銃はドイツ人が作ったものにしては非常にシンプルになっています。ここには書かれていませんが、シンプルであり、プラスチックやプレス(誘導レールやスライドストップなど)を多用している以上価格も安いはずです。これに加え、発火が確実になりやすいハンマー式、(明記されていませんが多分)不発時の再撃発が可能、分解が非常に簡単、(見た感じ多分)グリップが握りやすい、左利き射手への配慮がよりゆきとどいている、などのメリットもあり、価格次第ではグロックの強力なライバルになりうるかもしれません。

 側面写真だけでは分からないディテールについても少し触れておきます。
 ディスアッセンブリーレバーは真下よりさらに、たぶん全体で110度くらい回す必要があるようです。
 リコイルスプリングは1本だけで、SIGプロ同様断面が長方形のワイヤーをコイルにしたものが使われています。
 リアサイトはノバックサイトに似た形で、見たところ左右調節はできなさそうです。
 スライド上面はのっぺりした曲面で、真上が平面になっていたり反射よけがあったりはしません。
 ちょっと気になったのはスライド内の、後退時にハンマーと接する(ファイアリングピンが内蔵された)部分です。私の知っている限り全ての銃はここが水平ですが、この銃では前に行くにつれて下降する斜面になっています。これはたぶんハンマーとのフリクションを軽減するためではないでしょうか。
 
 さて、この銃がSIGプロと同サイズだということをもう一度思い出してください。P250は(フランス警察に採用されたとは言え)全体としてふるわなかったSIGプロの反省の下に作られたものではないでしょうか。「フランス警察がSIGプロ採用」の項目で指摘されたSIGプロの問題点を振り返ってみましょう。

●プラスチック製なのに軽くない。
●プラスチック製なのに安くない。
●左利き射手への配慮が足りない。
●使いやすかったディスアッセンブリーレバーがコストダウンのために廃止されてしまった。
●マウントレールが独自規格で既存の広範なアクセサリーが使えない(これはP2022でも改良されたわけですが)。
●プラスチックフレームのグリップ部のみを交換する手法には無理があるのではないか(これは私が書いただけですが)
●エキストラクターが内蔵なので装填されているか否かが外から分からない(その結果P2022には無理やりとってつけたっぽいローディングインジケーターが追加されました)。

 こうした点はP250ではすべて改良されています。本当にDA/SAのトリガーシステムが開発されたら(まあ普通に考えて開発されないということはないはずです)、プラスチックフレームにしては高価で重いという中途半端な存在であるSIGプロは存在意義をほとんど失ってしまうような気もします。

 次号に詳細なレポートを掲載する、と書いてあるんですが、現在公式サイトで発表されている目次には見当たりません。もし掲載されていたらなるべく早くお伝えしようと思います。 












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