ワルサーP99のモデルチェンジ

 「DWJ」2004年9月号に、小改良を加えられたワルサーP99の最新モデル、およびコンパクトモデルのレポートが掲載されていました。


ワルサーP99のモデル改良と新しいコンパクトモデル

Runderneuert (頑住吉注:「runderneuern」とは「摩滅したタイヤの溝を新しくつけ直す」ことで、このタイトルはその作業をされた、という意味です。要するに発売から少し時間がたってくたびれてきたP99に少々の手直しを加えた、といったニュアンスのようです。)

公用ピストルに対する要求は変化した。ワルサーはP99ピストルシリーズのモデルバリエーションを拡充し、銃に綿密な改良を加えた。DWJは「古い」P99と比較しての変更点を描写し、そして新しいP99コンパクトを紹介する。

は他の器具より長い生産交代サイクルを持つ。例えば自動車の場合5〜7年で全てのモデルに真のモデルチェンジが順番を待っているのに対し、軍、警察用銃はしばしば何十年も現役にある。これに対応して、メーカーは完全新規の銃器モデルをまれにしか発売しない。しかしそれは停滞を意味しない。特に最初の5〜10生産年のうちに、ユーザーは実践の中から得た構造に対する多くの認識をメーカーに知らせる。これが徐々に現行の生産物を変化させていく。それは誤謬の修正としてであり、ディテールの最適化であり、あるいは純粋に外観面の改善である。ときとしてそれは程度の差はあれ大きな手直しを必要とする顧客の変化した要求によってなされることもある。多くの警察当局の最新流行の希望は、ピカティニーレールおよびDAOトリガーに対するものであり、これらは新しい外観的特徴を与える。
 カールワルサー社の場合、P99ピストルは公用マーケット向けの最新流行機種である。しかし人々はワルサーがすでに完全新規のピストルジェネレーションの研究を行っていると噂している。だがそれはまだ2、3年待つことができる。特にP99はそのコンセプトから、骨董品に属するには程遠いのである。そういうわけで我々はマーケット導入から約8年にして、このワルサー製公用ピストルにおける最初の大きな「Facelift」(頑住吉注:これは英語で、「顔のしわ伸ばしの美容整形」のことです。「Visier」のSIGザウエルGSRレポートでも同じ表現が使われていました)を見ることになった。同時にワルサーはさらに、新しいサブコンパクトバージョン「P99コンパクト」を登場させるため、この銃に大きなナイフをあてがい、バレルとグリップを切断した。

ベース
 P99ファミリーの銃は根本的にはセミオートマチックの、改良ブローニングシステムによるショートリコイル、ティルトバレルを持つフルロックのリコイルローダーである。発火機構はデコック機能が付属したハンマーレスのストライカー式である。プラスチックフレームはグラスファイバーによって強化されており、メタルインサートが使われている。このフレームはいろいろな手の大きさに適合するため、「交換背中」を受け入れる。本来のP99はSA/DA発火機構と4インチバレルを持っていた。このピストルは1996年の半ばにマーケットに登場し、DWJでは1997年8月号で詳細にレポートされている。
 今回登場した改良バリエーションを、ワルサーは簡素に「P99モデルシリーズ2004」と名付けている。新しいピストルを外的に観察しても、明らかな変更を予想させない。だが、いくつかは行われている。しかも変更は「フードの下」のみに発見されるわけではない。

ディテールの変更
 一見して目立つのはフレーム前部、バレル下のピカティニーレールである。ザウエルおよびステアーのように、ワルサーも独自のマウントシステムを離れ、今NATOミリタリースタンダードM1913「ピカティニー」に向かった。このピカティニーレールは、古くから知られたウェーバースタンダードの横幅と、「反動スパイク」を受け入れることができる追加の標準化された「横方向フライス加工」を持つ。多種多様なありものの、そしてそれゆえに安価なマウントシステム、例えばレーザーポインター、ホワイトライトランプ、またはレーザー・ライトコンビを取り付けることができる。
 さらなる際立った特徴は、スライドの形状である。前部領域内の斜面は、より深く切り込まれ、より下に大きく広がっている。「コックミゾ」はより広範囲にわたり、より幅広く実行されている(頑住吉注:上下にも前後にも広く、ということのようです)。これはおそらく主に視覚的に変化を持たせるためだが、スライド側面に沿って横方向の溝が入れられ、斜めの面と垂直な面を分けている。スライド重量とリコイルスプリングは、新しい軽量な警察弾薬でもより確実なファンクションを保証するために適合させられている(頑住吉注:要するにスライドは軽く、スプリングは弱くなっているんでしょう。この警察弾薬とはアクション4やQD-PEPU/sのことと考えられ、前者は6.1g、後者は5.9gと弾丸が通常より軽くなっています。ドイツ人は「効力とはエネルギー伝達のことである」と考えているので、軽量高速でも効力は充分であり、反動は小さくなるので都合がいいと思っているようです。エネルギーは同じでも軽量な弾丸は「運動量」が小さいため、反動が小さくなると同時にスライド重量やリコイルスプリングのテンションを小さくしないと確実に動かなくなるわけです。P2000でも警察弾薬に合わせるためスライドが軽量化されています)。従来レーザー彫刻されていたスライドのホワイトの文字は、現在ではより大きくなり、いくらか深く削られている。もはやホワイトは入れられていないが、それでも良好に判読できる。
 もう少しよく見ると細かいことに気づく。サイトは形状が新しくなっている。新しいサイトは以前のものに比べてエッジが丸められ、長方形の線がリアサイトをとりまいているもの(頑住吉注:要するによくある上が開放されたコの字型のホワイトマーキングです)にかわって3つの発光ドットを持っている。
 フレームに目をやると、モデファイされたトリガーガードが目を引く。新しいトリガーガードは前面が丸められ、ノーズが造形されていない(頑住吉注:トリガーガード前面がフック状の指かけになっていたのがラウンド型に変わったということです。といっても完全なラウンドよりは角張り、前面には滑り止めもあります)。内部にはトリガーを引く指のためにより大きな「自由空間」が許され、厚い手袋をしての操作が容易になっている(頑住吉注:新旧比較写真ではトリガーガード内スペースには差はないように見えます。ただ、旧モデルにあったトリガーガード下部から上向き、つまり内部に突出した部分がなくなっているのでこのことを言っているのかもしれません)。
 たいていのケースにおいてモデルシリーズ2004には、延長されたアンビのスライドストップが見られる。29mmの長い操作面には、それにに沿った扱いやすい滑り止めグルーブが設けられている。そのポジショニングにより、右利き、左利き射手とも同様に握り直しなしで操作できる。オリジナルバージョンで知られた、短い、左のみのスライドストップは希望により今後なお入手可能である。
 明確に延長され、トリガーガード内に入り込んだマガジンキャッチは、オプションのみであり、そして民間領域ではそもそも入手不可能である(頑住吉注:通常より前方に延長され、トリガーガード半ばあたりまで伸びているマガジンキャッチですが、別に危険性があるわけでもないこのタイプがなぜ公用オンリーなのかは不明です。)。このタイプはスタンダードバリエーション同様両側から操作可能である。これによって握り直しなしでのマガジン交換がいくらか簡単になるかもしれない。だが、このオプションは必要不可欠ではないように思われる。なぜならノーマルのマガジンキャッチですでに良好に操作できるからである。
 新設計されたマガジンは(頑住吉注:銃に挿入した状態では)外部からは全く見ることができない。新しいマガジンは従来の16発のかわりに15発のみの容量しか持たない。マガジンフォーロワが誘導されるマガジンリップは丸められている(頑住吉注:マガジンを真上から見た場合の前縁がより丸くなっていることを指しているようです)。「ロード状態窓」はマガジン後面に移されている。ワルサーは新しいマガジンはロードがより簡単であると主張している。これはDWJのテストで証明された。それだけではなく、新しい構造が生じた原因となった古いマガジンに実用上装填信頼性に関する問題が発生したかどうかは知られていない。テストでは古いマガジンも、新しいマガジンも障害を生じなかった。その上公用バージョンのマガジンには潤滑性の塗料が塗られており、サビ防止性が向上するはずである。DWJテストの中では新旧マガジンの相互使用は支障なく機能した。だが、ワルサーは新しい銃用には新しいマガジンの使用を勧めている。

トリガーバリエーション
 本来のP99はクラシックなDA/SAのトリガーバリエーションでのみ入手可能だったが、そうこうするうちに3つの異なるトリガーコンセプトがワルサーの提供品の中に存在している。当然今後ともDA/SA(DAのトリガープルは約4kg)の本来のトリガーは存在する。ワルサーはこのトリガーを「アンチストレス」トリガーと呼んでいる。トリガーが装填後、SAにもかかわらず前に留まるからである。これにより、使用者はDAの長いストローク(14mm)を、それにもかかわらずSA銃の軽いトリガープル(約2kg)で引くことになる。これは意図しない発射を妨げるはずである。発射後、トリガーは後ろのポジションに留まり(8mmのトリガーストローク)、このことは命中精度の高いフォロー射撃を簡単にするはずである。そうこうするうちにさらなるトリガーバリエーションが存在するようになったので、ワルサーは新しいP99のスライドには「アンチストレス」を意味する「AS」の文字を入れている。
 「QA」と呼ばれる次のトリガーバリエーションは、「クイックアクション」を意味している。「QA」の略号も識別用の目印として対応するスライドに見られる。「クイックアクションシステム」は比較的短いトリガーストローク(約8mm)と、約3.8kgのトリガープルを持つ、「一部事前コック」システムである。ワルサーが成功したオーストリア製グロックの「セーフアクション」をこれの手本にしたことは明らかである。ワルサーは特にアメリカマーケットにおいてオーストリア製品のシェアを奪い取ることを望んでいる。QAはスライド上面の小型化されたデコッキングボタンによってASと区別される。デコッキングボタンはQAの場合銃の分解のためにだけ必要であり、「ワルサー哲学」によれば工具で操作されるべきである。ただし、手でも行える(頑住吉注:この部分の意味はよく分かりません。たぶん「一部コック」されたままだとフィールドストリップできないので、そのためにだけ小型化されたデコッキングボタンがあるということだと思いますが、DA/SAの大きなデコッキングボタンは当然素手で操作することを前提にしており、またシリーズ全体として分解自体工具なしでできるよう配慮されているのに、なぜQAの分解時のデコック操作だけ「ワルサー哲学」によって工具によるべきだとされているのかは全く不明です)
 P99の3つめのトリガーバリエーションは、警察関係で常に好まれる純DAOである。P99DAOは3.8kgのトリガープルと14mmのトリガーストロークを持つ。デコッキングボタンはお分かりのように放棄されている。結局のところDAO銃は射撃途中でしかコックされないからである。グロックに対する類似性がここにも生じている。すなわち、グロックパテントの失効後、ワルサーはグロックに特徴的なトリガーセーフティを組み込むようになっている(ちなみにH&KもMP7A1に同じような措置を行っている 頑住吉注:理由は不明ですが、P99の場合グロックにいちばん近いQAやASにはなく、DAOにのみグロックを真似たトリガーセーフティが組み込まれています)。
 そうこうするうちに3つ中2つのトリガータイプはドイツ警察公用のため、「技術的指針」に基づいて公的証明書の発行を受けた。「古い」P99のASトリガーシステムは1999年にすでに公的証明書を得、P99DAOおよびそのコンパクトバリエーションP99cDAOは新しい技術的指針(2003年9月基準)に基づいて公的証明書の発行を受けた。つまり、これらのピストル調達への道にはもはや少なくとも証明書に関する不足はない。

P99コンパクト
 ミニチュア化のトレンドにより、ワルサーも最近になってP99のサブコンパクトバリエーションを提供している。この銃は「P99コンパクト」またはスライドの刻印にもあるように、簡単に「P99c」と呼ぶ。この銃はバレル/スライドとグリップフレームの寸法を除いて技術的にノーマルなP99と一致する。
 P99cもすでに述べた3つのトリガーバリエーションで入手可能である。特にコンシールドキャリーを考えた「c」の場合、バレルが89mmまで13mm短縮され、全長も同じ長さ短縮されて168mmになっている。
 グリップフレームは12mm短縮され、その結果全高は125mmになっている。これに対応してP99cのマガジンは10発の弾薬を保持する。非常にコンパクトな銃としては立派な値であり、アメリカで市民用に許されている最高の値である。このピストルの重量は縮小によって85g減って605gになっている。

DWJの結論
 「顔のしわ伸ばしの美容整形」と、控えめな技術的モデファイとともに、今やワルサーは3つの供給可能なトリガーバリエーション、およびサブコンパクトバリエーションでP99ピストルファミリーを供給している。原則的に時代の先端を行くこの銃は、改良によって多方面に対応し、視覚的に好感を与えるものになっている。
 P99とP99cは699ユーロである。アンビのスライドストップつきのものは754ユーロ、シルバースライドは758ユーロである。公的証明書発行は警察公用への道を可能にし、全般的クオリティはハンターおよびスポーツシューターの所有にも向いている。そしてこのピストルのバリエーションの多彩さはコレクター魂を燃えさせる。

P99AS P99DAO P99QA P99cAS P99cDAO P99cQA
全長(mm) 181 181 181 168 168 168
全幅(mm) 32 32 32 32 32 32
全高(mm) 137 137 137 125 125 125
銃身長(mm) 102 102 102 89 89 89
照準長(mm) 156 156 156 144 144 144
トリガーから「グリップ背中」までの距離(mm) 73 73 73 73 73 73
グリップ周囲(mm) 134 134 134 134 134 134
バレル軸線から射撃する手までの距離(mm) 25 25 25 25 25 25
空マガジンつき重量(g) 690 690 690 605 605 605
マガジンキャパシティ 15 15 15 10 10 10
トリガーシステム DA/SA DAO 事前一部コック DA/SA DAO 事前一部コック
安全機構の数 4自動 3自動 4自動 4自動 3自動 4自動
トリガープル SA(ニュートン) 20 - - 20 - -
トリガープル DA(ニュートン) 40 38 - 40 38 -
トリガープル QA(ニュートン) - - 38 - - 38
トリガーストローク SA(mm) 8 - - 8 - -
トリガーストローク DA(mm) 14 14 - 14 14 -
トリガーストローク QA(mm) - - 8 - - 8
アンビのスライドストップ オプション オプション オプション オプション オプション オプション
短いマガジンキャッチ スタンダード スタンダード スタンダード スタンダード スタンダード スタンダード
長いマガジンキャッチ 公用向け 公用向け 公用向け 公用向け 公用向け 公用向け



 ワルサー公式サイトには新型の画像がすでにあります。

http://www.carl-walther.de/englisch/defense/defense-36.html

 うーん、個人的には旧型の方がカッコよかったような気がするんですがいかがなもんでしょう。現行の製品は旧型ということになってしまったわけですが、マルゼンはこのニューモデルを再現するんでしょうか。

 SIGザウエルもP250DCcなど最新機種では独自規格でなくピカティニーレールを使っていますし、ステアーも新型のMA-1ではやはり独自規格を捨ててピカティニーレールに換えました。H&KもP2000やMP7A1などにピカティニーレールを使っています。ワルサーも新型のP99では独自規格でなくピカティニーレールにした、ということで、もはやピカティニーレールを公用ピストルの必需品とする流れは決定的のようです。また、ワルサーもH&K P2000に対抗してアンビのスライドストップを取り入れ、グロックに影響された「事前一部コック」システムやトリガーセーフティも一部の機種に導入しており、これは文中にもあるように警察一般の要求が変化した結果ではあるでしょうが、個人的には各社の個性が薄れつつあるようでちょっと寂しい気もします。ちなみにグロックのトリガーセーフティはアイバージョンソンオートマチックセーフティリボルバー(DAOモデル)のそれと基本的に同じ構造であり、新規性は疑わしい気もするんですが、パテントを取ってたんですね。最近失効したということは有効期限20年だったということでしょうか。

 ご存知のように、アメリカではS&Wがワルサーの協力の下P99と基本的に同じSW99を販売しています(というか大部分のパーツは実際にはワルサーが作っているそうですが)。ワルサーはもちろんアメリカでも販売を行っているわけで、同じマーケットで競合することになります。例えば日本のエアソフトガン界で某社Aが某社Bにブローバックシステムの使用を許す条件として機種の制限を行ったように、S&Wはアンチストレストリガーのみの販売に制限されているようです。

 ちなみにぽろっと触れられている、「ワルサーがすでに完全新規のピストルジェネレーションの研究を行っている」という噂は本当なんでしょうか。そして2、3年後にはそれが公になるんでしょうか。気になります。

 











戻るボタン