ワルサーP99にも問題発生か?

 「Visier」2004年10月号に、ワルサーの新しいサブコンパクトピストル、P99cに関する記事が掲載されていました。


新しいメイクアップとともに
カールワルサー社はP99cによって同社初のサブコンパクトモデルを発表した。そして同時に改良を行い、これをノーマルのP99にも導入した。

ルサーがプラスチックピストルP99を作ってから今やほぼ10年が経過した。伝統のブランドを持つワルサーはサブコンパクトバリエーションを作るだけでなく、スタンダードモデルのP99も再びテスト台に乗せ、ディテールのリフレッシュを迫られた。当然むしろまず表面的なモデルチェンジが目に入る。ワルサーはスライドの滑り止め溝のデザインを変更した。これは今やエジェクションポート後方のスライド側面のほとんど全体に広がっている。プラスチックフレームはニューモデルの場合、手の甲の領域ですぐ終わっている。古いバリエーションではここが軽く下に曲げられていた(頑住吉注:この点は「DWJ」のレポートでは触れられておらず、比較写真でも気付きませんでした。
P99のフレーム後部
要するにフレーム最後部、人差し指と親指の間に当たる部分のラインが少し違い、旧型では赤い部分があり、新型はないということです)

 ワルサーバナーおよびモデル名称は現在スライド左側面に削られている(頑住吉注:刻印ではなくフライス加工されている、という表現です)。しかしシリアルナンバーとバレルのレッテルは今後もなおレーザーによって彫刻される。かつて角張っていたトリガーガードは、指のフックを犠牲にしなくてはならなかった。そのかわり今やトリガーガードは下にアーチ状に曲げられ、これによって新しい形状のグリップフレームはグローブをしての射撃時に人差し指にいくらか大きなフリー空間を提供している(頑住吉注:「DWJ」レポートのとき「そうは見えない」と書きましたが、これは新旧フルサイズの比較写真を見たからで、サブコンパクトモデルはトリガーガード中央が下に湾曲した形になっています。何故フルサイズの新型がこうなっていないのかは不明です)。非人間工学的なトリガーガード内の上への隆起部は省略された。トリガーガード前方のマウントレールのデザインに関しては、ワルサーは本来のP99レールから国際的にポピュラーなミルスタンダード1913、別名ピカティニーレールに方向転換した。これとともに、S&Wのこれに対応する製品であるSW99コンパクト(大部分は同様にワルサーが製造している)、および小型のワルサーP99cにも同じレールが装備されている。

公用は公用
 まず最初に官吏のみがいくつかのさらなるP99モデルチェンジの枠組みにおける変更を享受する。ワルサーは民間マーケット用を予定している製品においては、若干のディテールを来月になって初めて徐々に変更していく。これは例えば延長されたマガジンキャッチレバーである。両側から操作可能なように考えられたP99のレバーは、トリガーガード側面の切り欠きに位置している。このレバーはマガジンを解放するために、一般的に普通の方法のように左右方向に作動するのではなく、下向きに圧迫される。このレバーは銃を握った手の人差し指で機能させるのが最善である。親指は握り直しなしではたいていレバーに届かないままである。
 ワルサーはモデルチェンジの枠組みの中でマガジンキャッチを、約17mmから実に堂々とした32mmに延長した。実際、新しいマガジンキャッチを装備したノーマルサイズのP99では素早く、問題なく、そして大きく無理な動きをする事なく解除できる。ただしP99cの場合は残念ながら操作性があまり良くない。大きく短縮されたグリップフレームのせいで、マガジン交換の際、掌底部か「余った」指がマガジン下に場所を見いだし、マガジンの落下をストップしてしまうのである。もっとも、フルに集中していれば小型のP99は左右に作動するマガジンキャッチを持つサブコンパクトピストル(グロック、Kahr、タウルス)と全く同様に素早くマガジン交換ができる。だが、その場合P99cのグリップフレームを保持する手は、中指と親指のみで保持を行うことになる。これは繊細な身体運動機能が典型的に低下しているリアルな正当防衛シチュエーションに全く向いていない。公用モデルでは現在すでにスタンダードである延長されたマガジンキャッチは、2005年初頭に初めて民間流通に到達が予想される(頑住吉注:「DWJ」ではロングのマガジンキャッチは公用オンリーとなっていて不思議に思いましたが、これは現在はまだ公用銃にしか装備されていないというだけのようです)。
 これに対し、新しいアンビのスライドストップはいかなる問題ももたらさない。このスライドストップは短い親指でも握り直しなしで操作できるし、左右方向から完璧に機能する。スライドストップは停止されたスライドを解放するために無理な動きをする事なく下方向に圧することができるのみでなく、意図してスライドを後方で停止するために上に押し動かすためにも完璧な形状である。クラシックな、短い、片側のみのスライドストップは将来恐らくオプションとして客の希望によって提供されるだけになる。公用モデルでは自動的にアンビになる。
 
 マガジンは相変わらずイタリアのメーカーMec-Gar製である。新しく設計され、よりよく供給を行うフォーロワを装備した新しいマガジンは、古いバージョンより簡単に給弾できる。そのかわり、キャパシティは9mmパラベラムの場合かつての16発から1発減っている。マットブラックのラッカー層が追加の腐食防止として加わっているが、これは「公用マガジン」のみである。将来P99は公用モデル同様レギュラーに新しいマガジンつきで引き渡されるが、特別塗装はなしでである。サビ防止のためには現状どおりブルーイングが行われる。
 
 ワルサーはサイトでも公用の顧客とプライベートの銃器商とを区別している。通常P99は今後も左右調節可能なプラスチックリアサイトおよび4種類の異なる高さのフロントサイトつきで供給される。これに対し、要求項目リストに適合する公用銃は1種類の(単にドリフト可能 頑住吉注:ノバックサイトのようにアリミゾの中で全体を左右にずらせる)スチールサイトを装備する。しかしアクセサリーとしては自己発光トリチウムインサート入り同様に追加注文できる。

いろいろなバリエーション
 ワルサーはP99でもそのサブコンパクトバリエーションでも3つの異なるトリガーシステムで提供している。すなわちアンチストレス(AS)、DAO、クイックアクション(QA)である。ASトリガーの背後には、デコッキングボタンと比較的長いシングルアクショントリガーストロークという一種の「精神的安全余地」が付属したDA/SAトリガーが隠されている(頑住吉注:ストレートに訳すとちょっと変ですが、要するにASトリガーはコックされてもトリガーが後退しないというアレンジが加えられているものの基本的にはDA/SAであるということです)。QAトリガーはグロックの「セーフアクションシステム」と同系のプリンシプルを持つ「一部コック」で作動する。QAのP99には、スライドに小さなデコッキングボタンが設けられている。これはQAモデルは分解のためにまずトリガーによってでなくデコックしなければならないからである。DAOにはデコッキング機能は全くない。そのかわりこの場合各射撃時に4kgの等しいトリガー抵抗がかかる。

小さな妹
 シューティングレンジにおいてはP99改良モデルのスタンダードバージョンの代わりにアンチストレスバリエーションの小さなP99cを代理とせざるを得なかった。この際、この銃はいくつかのホローポイント弾薬も問題なく消化した。グリップを片手のみで、そのとき意識的に力を入れずに握った場合でもである。しかし手持ちの銃を使った命中精度テストは興ざめする結果になった。短くなったタバコの吸いさしのような小さなグリップには多くの支持がなく、また短いサイトラインが25mでの命中を必ずしも簡単でないものにするということもある。このためどれが最も命中精度の高い弾薬になるかは簡単に言って運の問題となる。今回の結果ではUMC製のお買い得なホローポイント弾薬が、5発のグルーピング直径68mmという成績でトップとなった。

 5mの距離から5発のラピッドファイアトレーニングでは、この条件でも全てが1.4秒でBDS25mターゲットの20cmの黒部分に確実に着弾した。そのうちたいていは2または3発の命中弾がターゲットのホワイトのセンター部分(直径100mm)にまとまった。短いグリップが手にもっと支えを与えたならば、射撃時間がなおいくらか短縮したか、同じ時間内にホワイトのインナーリング内にもっと命中弾が得られただろう。
 
 と言うのは、手に対してバレルが低く位置する、そして幅広いビーバーテイル部を持つ、9mmパラベラムのマズルジャンプを問題なくコントロールさせるワルサーデザインにもかかわらず、P99cの場合はこの銃が絶対的に必要な際、射撃時にいくらか多くだだをこねる。だが、総合的に見て、プラスチックフレームピストルの中でさえ比較的平滑なグリップフレームと、そして特にグリップ後部のほとんど感じられない「イボイボ」は、リコイルおよびマズルジャンプ時、例えばグリップ前後がより強くザラザラにされたG26の場合よりも、わずかしかより手を滑らせない。
 
 (頑住吉注:わずかな差にしろグリップが滑りやすいという問題の)救済策は適当に切った自転車のチューブ、ホーグ製のグリップカバー、スケートボードの皮膜(頑住吉注:スケートボードのことは全く知らないので何のことかさっぱり分かりません)、あるいはデカールテープの貼りつけで達成可能である。しかしメーカーサイドからすでに対策がなされている。それはSW99コンパクトの「グロックのような」滑り止めつき交換グリップ後部を備えたP99cである。そう、S&Wコンパクトモデルの場合もプラスチックパーツはワルサー製なのである。
 
 ワルサー製サブコンパクトは、シューティングレンジにおいてきちんとした印象を残した。この銃は射撃が快適な精密射撃銃としてではなく、コンシールドキャリー用のハンディなディフェンスガンとして開発されたのである。ワルサーは自己ブランドで適合するレザーホルスターを提供している。そしてワルサーはすでにP99の見本品をホルスターメーカーのサファリランドおよびアンクルマイクスに送っている。


NRWピストル:もうまた夏枯れ期のテーマ?(頑住吉注:囲み記事)
 あなたはまだ覚えているか?昨年秋H&K製のシュヴァーベン警察用ピストルに関し何が起こったかを。ドイツの殺人事件専門紙BILDは、「この銃はあたらない、なぜなら左回りライフリングを持っているからだ」と報道した。そしてこの誤報はその後ドイツの多くの新聞に広まった。この刺激は大きく、結局この問題は約17,000挺の新しいP2000V5に及んだ。バーデン・ビュルテンベルグ州内務省はすぐ専門家グループを招集し、フラウンホーファー研究所は鑑定書の作成を迫られた。結局10月末に無罪判決が出た。購入決定は正しく、新しい銃による劣った命中成績はDAOへの慣れの問題に帰せられた。

 1年後。2004年夏、連邦構成州ノルドライン・ヴェストファーレン(頑住吉注:以下「NRW」と略されています)が充分なテスト過程の後にDAOバリエーションのワルサーP99の利益になるような決定を下す見通しが強まった。そして突然警察界に全連邦的な噂が広まった。ストライカー式発火機構を持つ銃は「完全に安全ではない」、そう、まさにものすごく危険だ、というのである。つまりこうした銃は分解状態においてひとりでに暴発するという。かつて警察においてその理由で悪名高かったピストーレ08のようにである。ある警察射撃教官はこの問題を筆者に以下のように説明した。「つまり使用者が分解時、1発の弾薬をバレル内に置き忘れたとする。次にこのスライドまわりを手に持つ。ここで指先でファイアリングピンセーフティを押し、そして他の手でファイアリングピンをスプリングに逆らって後方に引き、そして放す。そう、こうしてズドンといく可能性がある。ストライカーシステムはまさにひどく危険だ。これはハンマー式ならありえないことだ。」

 そのような種類の噂は結局、警察の組合にもデュッセルドルフのIMに質問を向けるという計画を呼んだ。これは特に、NRW内の調達を司る官庁が、そうでなくとも間違った調達、汚職、スキャンダルの確実な伝統を記録されているからでもあった。目下NRWによる購入のせいで、警察に不評のセカンドチャンス社製ザイロン防護ベスト「Ultima」による余波が生じている。FDP(頑住吉注:自由民主党)の州議会議員Horst Engelの質問に対する内務大臣Behrens博士の側からの回答は、少なくとも8月末いまだなされていない。BILD紙あるいは「ケルン リボルバー小新聞」紙が再び「スキャンダル」の語句をタイトルページに載せるのは時間の問題に過ぎないと思われる。それともひょっとすると彼らも学習しただろうか? というのは、誤解に基いた安全リスクはP2000の左回りライフリングと同じくらい大きな問題なのにまだ報道されていないからである。ストライカー発火システムに弾薬を発火させる能力を与えないわけにはいかないのである。そのためにはかなりの力の消費と「Fingerhakelei」(頑住吉注:「Finger」は英語と同じく「指」、「Hackelei」は辞書に載っていません)を必要とする。そして3本目の手があればベストである(頑住吉注:要するにそんな事態は簡単には起こらないということです)。ありうるというのなら全てそうだし、ひょっとすると警察官の候補者が全力をつくしてそのような操作をすることがあるかもしれないが、発射が起きたときは自己責任(頑住吉注:「selbst schuld」、そのまんまです)である。そして警察官がそんな能無しだったら制服を着ていないはずである。

キャプション
圧する位置:ワルサーはニューモデルではトリガーガードにあるアンビのマガジンキャッチレバーを延長した。公用のP99の場合これは現在すでに基本装備に含まれている。民間モデルは来年になって初めてこれを得る。

ワルサーはシルバー色のチタンコーティング製品を、まず始めにクイックアクショントリガーモデル用のオプションとしてのみ提供している。ワルサーは「Titanium Coated」の文字のある写真の銃をまだ古い、短いスライドストップ(右利き射手用のみ)つきで供給している。下のP99はすでに延長されたアンビのスライドストップを持っているのが分かる。

ワルサーは「公用」P99(右)にスチール製サイトと大きな「薄暗がりマーク」(頑住吉注:ホワイトドットのことです)を装備している。左は民間用P99の左右調節可能なプラスチックリアサイト。

第2のリコイルスプリングがサブコンパクトP99cのスライドサイクルにブレーキをかける。2つのグリップ後部が供給範囲に含まれる。テスト銃にはイボイボつきの「ワルサー」グリップ後部と、よりスリムなSW99スタイルのミゾつきグリップ後部が同封されていた(頑住吉注:この銃のリコイルスプリングはダブルですが、1本のガイドに巻き方向と外径の異なる2本のスプリングを巻いたよくある形式ではなく、ガイドに細いスプリングを巻き、その外にパイプ状のガイドをかぶせてさらに太いスプリングを巻いた、2本のスプリングが干渉し合わない形式です。「キンバー製品スイスに初登場 その2」の項目でイラスト化したものによく似ていますが、太い方のスプリングも必要以上に伸びないユニット化されたものである点が違います。いかにもドイツ人らしいきっちりした設計です。ちなみに「ワルサー」が括弧つきなのは「SW99の場合だってやはりワルサー製なのだが」というニュアンスです)。


モデル:ワルサーP99cAS
価格:699ユーロ
口径:9mmパラベラム
装弾数:10+1発
寸法:全長168mmx全幅32mmx全高113mm
銃身長:144mm
重量:610g(未装填、マガジン含む)
型:プラスチックフレーム、「アンチストレス」トリガー(モデファイされたDA/SAシステム)、交換可能なグリップ後部、「Tenifer」フィニッシュ、予備マガジン、プラスチック製リアサイト(「シビル」P99)またはスチール製リアサイト(「公用」P99)。

ワルサーP99cAS 9mmパラベラム

弾薬 グルーピング(mm) 初速(m/s) 初活力(ジュール)
Magtech 115grs JHP 80 351 459
IMI 115grs VM Ultra 125 355 469
Speer 115grs FMJ Lawman 150 355 469
UMC 115grs JHP 68 356 472
Magtech 124grs JHP Guardian Gold 135 335 451
Geco 124grs VM 145 341 467
PS Grand 124grs VM 175 310 386

注釈:「FMJ」はフルメタルジャケット=「VM」(頑住吉注:ドイツ語のVollmantel、直訳すればフルマント)。「JHP」はジャケッテドホローポイント。「UMC」は「Union Metallic Cartridge」すなわちレミントンの自社ブランド。距離25m、5発、砂袋の上に依託しての結果。最も離れた弾痕の中心から中心で計測。


 ワルサーP99cに関する内容は当然ながら「DWJ」の内容と多くが重複していますが、新たに分かった点もいくつかありました。
 現在公用オンリーで来年民間用にも装備されるというロングのマガジンキャッチですが、これをロングにしたところで親指が届きやすくなるということはなく、これはどうも人差し指で操作するためのようです。ただ、サブコンパクトの場合は操作性にやや問題ありだと指摘されています。また、テコの原理により、レバーを延長すれば、先端部ではより小さい力で動かせるわけで、操作しやすい反面マガジン脱落の危険が増すはずです。操作部分が長くなればそれも意図しない外力が加わる可能性を増しますし、先端部で操作することを前提にスプリングを強めたら、根元近くを操作することになる親指の場合の操作が難しくなってしまうでしょう。
 グリップの滑りやすさの問題は、せっかく大規模なリニューアルをしたのにユーザーに自転車のチューブを巻くといった付け焼刃の対策をさせることになったり、たぶん全体デザイン上違和感のあるSW99用を付属することになったり、ややお粗末な感じを受けます。
 命中精度が悪いようなことが書かれていますが、25mから100mm以下に集まっている弾薬が2つあり、サブコンパクトとしては立派なものでしょう。

 さて、この記事で最も興味深かったのは本題ではなく囲み記事の方でした。「Linksdrall」という単語の意味を最初「左回りライフリング」と解釈し、後に「左寄りに着弾する傾向」と訂正しましたが、今回の記述を読む限り最初の解釈が正しかったようだという問題はまあともかく(笑 ちなみに本当に両方の意味があるんですよ)、ここを読んでいる皆さんなら約1年前のP2000DAOモデルをめぐる1件はご存知のはずです。あのケースは単にDAOトリガーに不慣れなために着弾がわずかに(実用上全く問題ない程度)それたことを無知な一般マスコミが大騒ぎした、日本式に言えば「大山鳴動して鼠一匹」という話でした。今回再びそれに近い騒ぎが起こるかもしれない、というお話です。囲み記事のタイトル「もうまた夏枯れ期のテーマ?」というのはそれだけ読むと何だか分かりませんが、要するに「たった1年前ニュース日照りだからといってくだらんことで大騒ぎしたマスコミがもうまた愚行を繰り返すのか?」といったニュアンスで、ある意味牽制ですね。
 今回の問題がどういうものかは訳文を読んでお分かりでしょう。チャンバーに1発の弾薬を入れ忘れたまま分解し、オートマチックファイアリングピンブロックを片方の手の指先で押しながらもう片方の手の指先でストライカーをひっかけて後方に強く引き、放せばそりゃ暴発する可能性が高いでしょう。しかしこれを安全上の重大な欠点とするのは無茶です。なるほどくだらん話だなあと流してしまいそうになりますが、この記事をよく読むと別の見方ができるような気がします。

 先に紹介した「公用ピストル、SMG、PDWのトレンド」の記事にこういう記述がありました。ちなみにこれは11月号の内容ですから今回より新しい記事です。


NRW(頑住吉注:ノルドライン・ヴェストファーレン州)では2003年10月、大規模な「官吏テスト」が行われた。ワルサーは発注を得たと言われるが、現在納入はライバルのH&Kおよびザウエルの抗議によって延期されている。つまりこの結果は2005年の早くない時期にまで遅れる可能性がある。それにより約40,000丁のピストルが動くNRWの決定は、税関にも影響を及ぼす。


 ドイツのある州の警察がどの社のピストルを公用として採用するかは、それがきわめて大きな利益を生む大規模注文であるというだけでなく、「長く厳しい比較テストに勝ち残って公用に採用されたのだからいい銃に違いない」といった印象を多くの人、そして他の公的機関にも与えるという波及効果も含めて、メーカーにとってきわめて大きな問題です。今回の記事では公用への採用に当たって汚職、贈収賄といったスキャンダルが生じることさえあると書かれています。P2000問題のときは問題が警察内部で起きてから新聞が騒ぎ出すまであまりにも時間が短く、警察内部関係者がリークしたとしか考えられないというニュアンスの記述がありました。
 あるいはP99の採用にH&K、ザウエルが正面切って抗議するといった表の動きだけでなく、P2000のケースではH&K製品が採用されたことが我慢ならない他メーカーが関係の近い警察内部関係者に問題を一般マスコミにリークさせたのではないか、またP99のケースではP99が採用される見通しが強まった段階で、「突然」「ストライカー式は危険」という噂が警察内部に流れており、ハンマー式の製品で参加している他メーカーが関係の近い警察関係者にその噂を流させたのではないか、とも思えてくるわけです。


2005年1月1日追加
 その後「Visier」公式サイトの速報にこんな内容が出ました。コラムでお伝えしましたし、重複部分もありますが、ここに転載しておきます。


2004年12月13日付
連邦税関本部とNRW(頑住吉注:ノルドライン・ヴェストファーレン州)警察、ワルサーP99を選択
 公用ピストルのカールワルサー社製P99DAOは、連邦税関本部およびNRW警察の公募手続き内で明らかにお気に入りだった。注文規模千五百万ユーロになる約5万挺が2005年4月以後公用に供される予定である。ライバルであるH&Kの異議が受け入れられなかった場合は…。

 提出されたピストル群の詳細な実用および技術的テストの後、どれを選ぶか質問された警察官たちの大部分の意見は一致した。すなわち、約80%がワルサーP99DAOに賛成投票したのである。メーカーによれば、信頼性とならんで操作が快適で簡単であったことが選択にとって、特に安全上の観点から決定的であったという。この銃が警察および税関に提出される前においてすでに、ウルム射撃試験局が射手の、そして操作上の安全性を最大限に確認していた。P99DAOはいろいろな警察部隊出身の専門家との緊密な共同作業の中で開発されたものであり、彼らは警察訓練の高度な基準に関する情報を持っている。この銃においては4つの自動安全装置が恒久的にアクティブである。これらは意図しない発射を妨げること、そしてその際ストレスシチュエーションにおける操作ミスからの防御装置を提供することを意図している。

「これによりP99DAOは公用拳銃の安全領域に方向性を規定した」 カールワルサー社の販売リーダーであるKarl−Heinz Lutherは語った。「したがってドイツの税関とNRW警察は将来ある公用ピストルを使うことになる。それは警察ピストルのための最新のスペックに適合した、そしてモダンな実戦投入における全ての安全に関する要求を満たす銃である(頑住吉注:要するにP99に絶対の自信を持ち、連邦税関とNRW警察に使われるのは間違いない、と言っているわけです)。」

 決定に双方(頑住吉注:連邦税関とNRW警察)が明らかに満足しているにもかかわらず、公募手続きは現在までいまだに宙ぶらりんの状態にある。この理由はライバルであるオベルンドルフのH&K社が自社の提供品が公募に敗れた後で開始した委任再試験手続きである。依託機関によって両方(頑住吉注:これも連邦税関とNRW警察)再試験申請が却下されたとき、H&Kは上訴を申し立てた。両方の公募手続きは、また公式に結論が出せないというのである。

 その際追加で出された鑑定は驚きを引き起こした。結果的にP99DAOには、ライバルであるH&Kのモデルとは異なり、いわゆる技術的欠陥が指摘されたというのである。それによればすでに分解されている銃のクリーニング時に1発の意図しない発射がありうるという。専門鑑定人Rolf Gminder教授による相応の銃器技術上の調査がこのことを明らかにした。だが、これには疑義がある。Gminderは以前H&Kで取締役だった。そして彼の鑑定結果は、銃器技術者やNRW警察が判断するための率直な反論にさらされた。ウルム射撃試験局は質問に関し、選択のために存在する両メーカーのピストルが「ピストルの技術的指針」の要求を完全に、留保なく満たしていることを認めた。 「規定どおりの使用や操作に反して、故意に引き起こされた干渉または操作のみが質問された銃に安全上の欠陥を導きうる」と、ウルム射撃試験局の局長Rudolf Friesは語った。

「実際のところ、H&Kが提供した銃においても、故意に引き起こされた操作下では分解した銃から1発の発射が起こることは同様にあり得る。これは委託機関の前での意見聴取の間に実演された。」Karl−Heinz Lutherはそう語った。「我々はこうした方法で委任再試験手続きにおける審判にこの意見が不合理であることを表現する。」

「我々は不要な不安を導いたこうしたライバル会社のふるまいを残念に思う。その上我々はこうしたふるまいが我が業界内にふさわしくないと思う。何故なら諸治安維持機関にも影を投げかける可能性があるからである。新しい公用ピストルは現在初めていくつかの得意先に採用されることが出来ている。そうこうするうちに中立的立場のいろいろな専門家による多くの鑑定が出ている。そうした鑑定はH&K行った発表が現実離れした操作に基いていることを裏付けている。」Karl−Heinz Lutherはそう語った。

「こうした鑑定は、P99取り扱い時の誤りのある操作は、故意に全ての規則を軽視したとき、そして故意に安全機構を操作したときだけ考え得ると一致している。」 NRW内務大臣Frittz Behrensも彼の役所(頑住吉注:州警察)の決定を支持している。すなわち、「詳述された異議は純粋に理論的な性格のものである(頑住吉注:ストレートに訳すとこうなると思うんですが、ニュアンス的には「机上の空論」、「屁理屈」に近いのかもしれません)。警察の使用者に対するリスクは見られない。」と語っている。

「依託手続きに対するH&K社の最初の両方の異議がすでに最初の訴訟手続きの中で非常に明瞭な判決理由を持って却下された以上、第二の訴訟手続きでもその結果が出されると期待する」Karl−Heinz Lutherはそう語った。現在のところ、決定は2005年2月半ばと予想されている。


 「ワルサーP99にも問題発生か」の項目では、この問題発生がライバルメーカーの工作ではないかという疑問を示しましたが、これを読むとやはりH&Kが火元だったようですね。

 この記事ではP99に指摘された危険がどういうものか明記されていませんが、「ワルサーP99にも問題発生か」の項目を読んだ方はご存知のはずです。チャンバーに1発の弾薬を残したまま分解し、分解されたスライドを手に取り、(例えば)左手の親指でオートマチックファイアリングピングロックを押しながら右手の親指でファイアリングピンのノッチを後方に強く引き、離すと暴発する可能性がある、というわけです。分解前の残弾チェックは基本中の基本ですが、人間は時としてミスをするものですからここまではありうることとして想定しておいた方がいいでしょう。しかし後の操作は確かにあまりにも現実離れしていて、意図的でない限りまずありえないと思われます。
 ただ、「H&Kが提供した銃においても、故意に引き起こされた操作下では分解した銃から1発の発射が起こることは同様にあり得る。」というのはどうでしょうか。事実上問題ないレベルとはいえ、理屈上分解した銃から弾丸を発射することが比較的容易に可能であるというのは一応事実です。ハンマー式のP2000の場合は例えば分解したスライドをマズルを下にしてを机の上に立て、左手の親指でオートマチックファイアリングピンブロックを押しながらファイアリングピン後端にポンチか何かを当て、そのポンチをハンマーを使って右手で叩くといった操作が必要になり、P99よりはるかに困難(そもそも素手では不可能)であるのは確かでしょう。
 「ワルサーP99にも問題発生か」の項目で「Visier」は「ストライカー発火システムに弾薬を発火させる能力を与えないわけにはいかないのである。」としてストライカー式ならこの「問題」は必然であるように書き、私もそのときは納得しましたが、よく考えればこれもちょっと違いますよね。二式拳銃の「実銃について」で書きましたが、ストライカー式にはファイアリングピンスプリングをスライド内で保持するタイプと、フレームで保持するタイプがあります。この「問題」は現在主流のスライド内で保持するタイプでのみ起こりうるのであって、例えばブローニングM1910などフレームで保持するタイプならば分解すると必然的にファイアリングピンスプリングのテンションはなくなるのでありえないわけです。正しくは「スライド内で保持するタイプなら必然」なわけで、当然VP70、P7でも同様に起こりうるはずです。過去の製品であるVP70はともかく、こういうクレームをつけるなら現在でも販売されているP7M8が危険であることを認めて自己批判し、回収でもしなければ筋が通らないはずです。また、警察官ほどの訓練を受けていない人が多く、数も多いアメリカの一般ユーザーの間でこうした暴発事故が現実に起きているのかどうかは調べればすぐ分かるはずです。
 
 それにしても戦後のワルサー製公用ピストルは、品質はトップクラスだが価格が高いのでいまいち普及しない、というものが多かったわけですが、現在のP99は熟成され、比較テストを行った警察官の8割に支持されるという優れたものになってきているようです。ただし、このテストでは両手で同じように操作できることといったドイツの「技術的指針」に合致しない銃は事前に排除されており、またアメリカなど外国で公用に多用されている弾薬のそれより軽量な弾頭でも問題なく作動することが求められるなど、ドイツ製品有利な中での比較であることも確かですが。


2005年3月1日追加
 2005年2月21日付で「Visier」、「DWJ」がそれぞれの公式サイトでこの問題に関する速報を出しました。すでにコラムでお伝えしましたが再録しておきます。まず「Visier」による速報です。


2005年2月21日付
判定:ワルサーはピストルをNRW州警察に供給してもよい
デュッセルドルフ高等裁判所は今日、下級審におけるライバルH&Kの抗告を却下した。

 いろいろな通信社や放送局が報道したように、特にH&Kが称するところのワルサーによる組み込みのデータチップにおけるパテント侵害は否定された。「より古いパテントのこの改良開発には発明的な新規性はなく、このため保護される価値はない」 裁判官Heinz-Peter Dicksはこう説明付けた。その上この裁判所における部は、ワルサーP99は安全上の欠陥を持ち、意図せず発射を起こすというライバルの主張を却下した。NRW州のテストは、これはかなりの巧みな扱いをもって初めて起こるということを明らかにした。Dicksは、警官の場合にはこれはおそらくありえないと強調した。これによりワルサーは注文価格約12,000,000ユーロを持つP99DAOピストル4,000挺を供給することが許される。これに対し、すでに2月16日、同じ高等裁判所はワルサーがまず最初に勝ち取った連邦税関管理向け10,000挺以上のピストルの入札を再び破棄した。入札はより透明でなければならず、再試験が行われなければならない。ここではH&Kの意義は目的を達した。


 次に「DWJ」による速報です。


2005年2月21日付
カールワルサー社、NRW州警察注文で勝利
 
デュッセルドルフ高等裁判所の判決により、今NRW州警察の警察官のワルサーP99DAOタイプによる武装への道がフリーになった。

 NRW州警察向けの新しい公用ピストル、P99DAOタイプ4,000挺の計画された購入をめぐる争いは、この水曜日にデュッセルドルフ高等裁判所によって決着し、ワルサーに有利な判決が下った。オベルンドルフのH&K社は、ライバルであるウルムのワルサー社への発注に対し抗議を行い、安全上の懸念があり、パテント権侵害にあたると主張していた。

 税関の武装もすでに裁判で審理されていた。デュッセルドルフ高等裁判所はすでに決定されたワルサー社への10,000挺のピストルの発注を先週水曜日に破棄した(2005年2月16日)。だがその安全上の懸念は無根拠とした。ただし税関による発注は不透明であり、一部再試験を行わなくてはならないとした。全ての参加メーカーは今新たな入札に参加できる。

 NRW州警察への4,000挺の新たな公用ピストルに関する決定ははこの月曜(2005年2月21日)に下された。このケースでもH&Kが訴えていた。H&Kが称するところの安全上の欠陥に関しても、パテント侵害の可能性に関してもH&Kの異議は却下された。これによりNRW州の入札およびワルサーへの発注は確実に法律上の効力があることになった。この高等裁判所は前審と同じである。注文は全体量で15,000,000ユーロにのぼると見られる。




 











戻るボタン