パンツァーシュレック

 「Waffen Revue」4号に、ドイツ版バズーカであるパンツァーシュレックに関する記事が掲載されていました。写真や図は当時の資料から取ったものらしいのでそのままスキャンしてお見せします。


パンツァーシュレック(頑住吉注:「Der Panzerschreck」。「Schreck」は「恐怖」、「驚き」等を意味します)

8.8cmロケット対戦車銃54(R.Pz.B54) (頑住吉注:日本語にすると違和感がありますが、この兵器はドイツでは「Raketen−Panzerbuchse」・「u」はウムラウト・すなわちロケット対戦車銃と呼ばれています)

A.序文
 「Waffen Revue」3号におけるパンツァーファウストに関する記事で予告したように、我々は今、「8.8cmロケット対戦車銃54」の記述をお届けしたい。

 OKH(頑住吉注:陸軍総司令部)指令による制式採用は1944年8月20日であるが、我々はこれに関し、この兵器がこの時点において少なくとも1年間実戦使用下にあったことをごまかしてはならない。最初のテストがいつ行われたのかは今日もはや確実に言うことができない。これに対し、説明書77/2「8.8cmR PzB54(Ofenrohr)、訓練および使用の方針」がすでに1943年12月7日に現われていたことは確実である(頑住吉注:「Ofenrohr」はストーブの煙突、転じていわゆるバズーカ等のことを指します)。このときこの「Ofenrohr」(当時そう呼ばれていた)はすでにテストの中にあった。

 1944年1月6日、使用マニュアルD 1864/2が、そして1944年2月24日には防護シールド、防護金具(頑住吉注:Schutzbugel・2つめの「u」はウムラウト。砲身先端よりやや後方の下に突き出た金具で、たぶん遮蔽物の上から撃つ際に肉厚の薄い砲身を直接当てて変形させてしまう事を防ぐためではないかと思いますが説明がないので確かではありません)、カバー薄板つきアジャスタブルフロントサイトのための指示がナンバーD 1864/5の下に現われた。1944年6月7日になって初めて、指示D 1864/1、「パンツァーシュレック- 8.8cm R PzB 54および付属の8.8cm R PzB Gr 4322-使用マニュアル」が最新の版で登場した。この新しい指示の到着後、D 1864/2およびD 1864/5は破棄されるべきものとされた。

B.説明 
 パンツァーシュレックはしばしば変更、改良された。最初の型はまだ防御シールドを持っておらず、事実ストーブの煙突に似ていた。しかし、このシールドは絶対に必要であることが判明しており、部隊は事後に供給された防御シールドを古い器具に取り付けるよう指示された。シールドの到着までは暫定的なものを部隊で作るか、少なくともフィルターなしのガスマスクと手袋をを装着するべきものとされた。

 パンツァーシュレックは全ての戦車(重戦車も)と150mまでの距離で戦うための反動フリーのHandwaffe(頑住吉注:日本語には適訳が見当たりませんが、要するに手で持って撃つ兵器のことで、いわゆる小火器でもトライポッドにすえて撃つ重機関銃等は含まないようです)である。その貫通力は成型炸薬効果のみに起因する。これは特殊な爆薬の造形によって爆発放射を1方向に導き、非常な高速をもって命中させ、この結果装甲板を粉のような状態で横方向に押しのけ、あるいは液状の粒子で戦車の戦闘室内部に投射するものである。

データ:
兵器の長さ:164cm
兵器の重量:10.7kg

兵器の部分

(頑住吉注:上から時計回りに、「Visiereinrichtung」は「照準設備」つまりフロントおよびリアサイト。「Sperre」は「遮断器」。これに関しては後に説明があります。「Schutzkranz」は「防護リング」。引き出し線がちょっと分かりにくいですが、後端の太いワイヤー製と思われるリングを指しています。何のためのパーツかは説明がないのですが、たぶんこれもぶつけて砲身後端を変形させる事故を防止するためではないか思います。「Elektrische Abfeuereinrichtung」は「電気的発射設備」。これはケーブルでつながった一連の装置を指しています。「Auflage」は適訳が思いつかないんですが、要するに担いだ砲身を上腕に乗せるときにここを乗せるクッション様の部品らしいです。「Stutze」・「u」はウムラウト・は「支え」とでも言いますか、要するにショルダーストックのバットプレートの役目をする部分です。「Handhabe」は要するにフォアグリップにあたるパーツです。「Schutzschild」は防護シールドです。「Schtzbugel」・「u」はウムラウト・はさっき出てきた部品です)

(頑住吉注:操作部分のアップです。「Handhabe」は上でも出てきました。「Sicherung」はセーフティ、「Spanngriff」は「コッキンググリップ」、「Abzug」はトリガー、「Feder」はスプリング、「Stossstange」は「突き棒」です)

(頑住吉注:上で「電気的発射設備」とされていたもののアップです。「Stossgenerator」は「打撃発電機」で、たぶんガス台とか電子ライターに使われるものに近いものだろうと思います。「Kabel」はケーブル、「Stecherbuchse」はプラグのジャックです)

 防御シールドは射手(頑住吉注:「Richtschutzen」・「u」はウムラウト・辞書には照準手と載っているんですが、この場合は明らかに射手なのでこう訳します)を射撃後のロケットから後方に飛ぶ火薬の一部から守る。防御シールド前面のリング金具はカモフラージュ用のものの固定に役立つ。

(頑住吉注:これ確かシカゴレジメンタルズさんがイベントに持ってきてたんで実物を見た人も多いと思います。実銃の空気銃でも貫通しそうなペラペラの薄板製ですから防弾機能はほとんどなく、あくまでもロケットの噴流を避けるためのものです。左が後面、右が前面です。「Fenster」は「窓」、「Verschluss」は砲身に固定するロック金具、「Tarnosen」・「o」はウムラウト・は擬装用のものを取り付けるリング金具、「Behalter fur Ersatzsceiben」・最初の「a」と「u」はウムラウト・は「交換Scheiben用コンテナ」ですが、「円盤」、「板」などの意味がある「Scheiben」がこの場合何を意味するのか説明もなく分かりません。たぶん異なる弾薬用のサイトのブレードではないかと思うんですが)

 照準設備はフロントおよびリアサイトからなる。

(頑住吉注:フロント、リアサイトです。下に突き出ているのは「Schtzbugel」で、パイプを簡単に曲げて作ってあるようです)

(頑住吉注:リアサイトのアップですが、移動する戦車の偏差に合わせるための補助ブレードが取り付けられています)

(頑住吉注:前方から見たフロントサイトのアップです。左のパーツ名称は「Abdeckblech」=「カバー薄板」。右は上から「Kornhalter」=「フロントサイトホルダー」で、土台のパーツ全部を指しています。「Korneinsatz」は「フロントサイトインサート」で、土台にインサートされたフロントサイト自体を含む板状のパーツを指しています。「Klemmstuck」・「u」はウムラウト・はその固定パーツです)

(頑住吉注:同じ部分を後方から見たところです。板状のフロントサイトインサートは上下に調節して固定でき、土台のパーツにはプラス20度用、マイナス25度用の目盛りが設けてあります)

C.弾薬
 このロケット対戦車銃グレネード(R PzB Gr)は着発信管を持つ飛行安定性を与えられたロケットである。このロケットは戦車のみに用いることが許され、爆発榴弾として使ってはならない。破片効果がわずかのみだからである。

(頑住吉注:「Kopf」は「頭」すなわち成型炸薬の内蔵された弾頭、「Brennkammer」は「燃焼チャンバー」、「Leitwerk」は「尾翼」です。)

 第二次大戦終了までに次のグレネードが存在した。

1.R PzB Gr 4322(夏期弾薬)
 目印:弾薬ケースのフタ上にある黒いバツ印。外気温マイナス5度からプラス50度までの際に使用。射程約100mまで。重量3300g。

2.R PzB Gr 4322(冬期弾薬)
 目印:燃焼チャンバー上にある「arkt」の印刷。弾薬ケースには黒のリングで目印がつけられている。外気温マイナス40度からプラス15度までの際に使用。射程約180mまで(弾薬が使用前に室温で保管されていた場合)。重量3300g。

3.R PzB Gr 4322(冬期弾薬 43/44)
 目印:燃焼チャンバー上にある「arkt」の印刷。弾薬ケースには白のリングで目印がつけられている。外気温マイナス25度からプラス25度までの際に使用。重量3300g。

4.R PzB Gr 4992(夏期弾薬 1944) 
 目印:燃焼チャンバー上の「4992」の印刷、および容器のフタ上にある白のバツ印。平均的外気温の際に使用。

5.R PzB Gr 4992(冬期弾薬 44/45)
 目印:燃焼チャンバー上および容器上の「arkt 44/45」の印刷。ベストの命中正確性はプラス25度の際200mまで。0度の際150mまで。マイナス25度の際100mまで。コメント:この4322より大きな射程を持つグレネードは1944年12月20日の陸軍総司令部指令によって採用され、135cmに短縮したバージョンであるR PzB 54/1用に指定された。

6.R PzB Gr 4320 Bl.
 これは実物の発射薬と空砲の弾頭を持つ練習グレネードである。空砲の弾頭を除いて構造上Gr 4322と同じであり、ブレットトラップのある遮断された土地のみにおいて発射が許される。重量3300g。

7.PzB Gr 4329 Ex
 この完全な非実弾の演習グレネードはロードおよびアンロード経過の練習のために役立つ。弾頭は赤く塗装され、「4329」の文字が黒の不透明絵の具で、「Ex」が白の不透明絵の具で記されている。燃焼チャンバーは丸太で埋めてある。コンセントつきプラグと安全ピンは演習のために取り付けられねばならない。

 1944年12月19日の陸軍総司令部指令によってこの演習弾薬はTopchin((頑住吉注:「o」はウムラウト。地名らしいです)陸軍資材局(頑住吉注:「Heeresmaterialamt」)。において注文できるようになった。

コメント:実弾のグレネード(1〜5)は灰緑色の弾頭、燐酸塩処理された燃焼チャンバー、黒色の尾翼を持つ。梱包箱(空の状態で約4.4kg。フルに入れた状態で約11kg)内に2発のグレネードが収納される。

D.弾薬の取り扱い
 グレネードは乾燥した状態で貯蔵し、直射日光にさらしてはならない。発射時に推進薬が許されている温度を越えると、燃焼チャンバーが破裂する可能性がある。

 許された温度より温まったグレネードは冷却後に元通り発射してもよい。

 寒冷時は命中可能性が低下する(戦闘距離が減少)。ただし貫通力は損なわれない。ベストの命中可能性は、冬季弾薬の場合気温が表記された上限より約10度低いときになる。発射可能なのはプラス30度までであり、すなわちプラス20度がベストということになる。そういうわけで、冬においては弾薬をできるだけ使用前に兵舎またはトーチカに置く。その場合180mの距離にある相手に対する射撃も見込みがある。

 少しへこんだ、ただしまだロードできる弾薬は練習射撃にのみ使用する。へこんだ尾翼では命中しない。大きくへこんだ弾薬は処分する。

 信管は安全ピンによって輸送および落下時の安全がはかられる。安全ピンはロード直前になって初めて引き抜いてよい。グレネードはその後もはや落とせない。さもないと発射時または再度の落下時に爆発する危険がある。信管は発射から約3m後に「maskensicher」である(頑住吉注:この語は辞書に載っていませんが、「Mask」は英語のマスクとほぼ同じ意味、「sicher」は安全、確実などの意味です。文脈上あまり近距離で命中、爆発すると射手が危険なので3m以内では信管が働かないようになっているという意味ではあるまいかと思います)。

 安全ピンなしで納入されたグレネード、そして安全ピンを抜いた後に負担(落下または打撃)にさらされたグレネードは運搬や発射をしてはならない。爆発の危険がある! これらは処分すべきである!

E.取り扱い

 パンツァーシュレックは2人で操作される。射手は兵器を担ぎ、狙い、発射する。装填手は弾薬を持ち、弾薬の準備を行い、兵器にロードする。

射撃のための準備
 防御シールドをつけて、あるいは防御シールドがない場合フィルターなしのガスマスクを装着(射手)した場合のみ発射してよい。耳は綿、頭部フード、テント用布地、あるいはそのようなものによって保護するべきである。射手は温度および弾薬の種類に応じてフロントサイトを調節する。

射撃姿勢
 兵器の「Auflage」を上腕の上に軽く乗せ、できるだけ兵器をいっぱいに前進させる。目とリアサイトに大きな距離があるときによりよいエイミングが可能だからである(頑住吉注:できるだけフロント、リアサイトともに目のピントが合うようにしろということでしょう)。兵器を引きつけてはならない。左手でフォアグリップをしっかり握り、しかも砲身下部に接近させる。なぜならさもないと火炎放射によって燃える危険があるからである(頑住吉注:たぶんひじを横に張ってシールドからはみださせるなという意味だと思います)。プローンの射撃姿勢では脚を砲身と別の方向に向けるべきである(頑住吉注:

説明としてこんな写真があり、要するに脚を砲身後部からのロケット噴射にさらすなということです)。

 装填手は(射手同様)砲身の左、照準手の後方に位置する。

弾薬の準備
 弾薬ケースまたは背嚢からグレネードを取り出し、きれいであるかどうか、あるかもしれない損傷をチェックする。必要な場合は雪または氷を尾翼から取り除く。グレネード前、後端の粘着テープをはがす。

装填
 射手はコッキンググリップをセーフティがロックされるまで後方に引くことによって兵器をコックし、セーフティをかける。次に完了の報告をする。
 
(頑住吉注:パーツ名称説明の写真と見比べてください。コッキンググリップは上部に回転軸があり、これよりさらに上の部分が「突き棒」とコンタクトしている結果、コッキンググリップを後方に引くと「突き棒」が前進してコックされ、セーフティは自動的にかかるということのようです)

装填手は安全ピンを引き抜き、それを保管する(頑住吉注:「え? 捨てないの?」と疑問に思ったんですが、理由は後で分かります)。そしてグレネードの重心部をつかみ、「遮断器」を押し下げ、(「遮断機」を押し下げた状態で)砲身内に保護リングに突き当たるまで押し込む。
  
(頑住吉注:左は砲身後端部のアップです。「Sperre」=「遮断器」と「Schutzkranz」=「保護リング」が分かります。右のように「遮断器」を押し下げながらグレネードを砲弾に挿入するわけです。「保護リングに突き当たるまで」の意味はよく分かりません。グレネードは砲身内を通って発射されるわけですし、その後さらに押し込むという操作がある以上砲身内に入っていかなくてはならないはずなんですが。グレネードに少し角度をつけた結果尾翼が当たるという意味か、あるいはつかんだ手が当たるまでという意味かと思います)

 次にグレネードを放し、内部のノズルをつかむ。そしてグレネードを砲身内のストッパーボルトまで軽い力で押し動かす。「遮断器」を放し、グレネードを「遮断器」のストッパーまで引き戻す(頑住吉注:このあたりは詳細な写真や図がなく、よく分かりません。この説明だとグレネードが固定されず、多少前後に遊ぶような気がしますが)。プラグをプラグのジャックに入れ(この際手は砲身後部から放しておく)、そして完了の報告をする。
 
(頑住吉注:左はグレネード後端部です。表題は「ノズルと尾翼」です。頭の「L」が切れちゃってますが「Leitwerkring」は「尾翼リング」、「6Flugelbleche」・「u」はウムラウト・は「6つの翼薄板」、要するに放射状の尾翼本体です。「Klebestreifen」は粘着テープ、「Holzgriff」は「木製グリップ」ですがこの場合「取っ手」、「つまみ」に近い意味でしょう。「Duse」・「u」はウムラウト・はノズル、つまり噴射口、「Stecher」はプラグです。右がロードした状態です。プラグを差し込むときに手を砲身後部から放せというのは、万一プラグを差し込んだ瞬間に暴発した場合に備えて、ということでしょうか)

 兵器はこれで発射準備状態であり、最大限の注意を持って扱われねばならない。この際砲身後端は常にフリーのままとし、開口の後ろに誰もいないことに注意する。

エイミング
 フロントサイトを対応する(頑住吉注:気温の)マーキングに合わせた後、照準点を決める。

(頑住吉注:フロント、リアサイトを合わせるとこんな風に見えます)

(頑住吉注:表題は「グレネードの弾道」です。目盛りが読みにくいですが、弓なりの弾道はこのように120mで照準線と一致するようになっています。)

(頑住吉注:表題は「照準点」です。目標がT34/76の場合、距離約120mの場合はずばり狙い、約150mの場合は砲塔の頂点を狙い、約75mの場合はこの程度下を狙わなくてはいけないわけです。ただパンツァーシュレックは無誘導のロケットなので命中精度が低い代わりに貫通力は非常に強いので、対戦車ライフルのように弱点をピンポイントで狙う必要はありません)

(頑住吉注:表題は「前方偏差幅」です。要するにいわゆる狙い越しですね。これは敵戦車が時速15kmで走行している場合で、砲塔直下の丸印が着弾点です。ここに命中させるための照準点が右上から順に150m、120m、75mです。うーん、仮に敵戦車がぴったり時速15kmで直進してくれて、その瞬間の距離が正確に把握できたとしても、命中させるにはかなりの熟練が要求されそうですね)

戦闘距離75m以下の際はさらに下を狙う。上方または下方への射撃の際はより下を狙わなくてはならない。例えば30度の土地で距離120mの場合、(頑住吉注:普通ならずばり狙えばいいところ)戦車より下を狙うことになる。戦車がフロントサイト内に写真27のように見えるときは、約150m離れている(頑住吉注:写真27というのはこの節の一番上の写真です。私にはどうしてもこう読めるんですが、150mも離れているようにはとても見えません)。

射撃
 コッキンググリップ内のセーフティを押し下げることによって兵器をセーフティ解除する。コッキンググリップはその後レスト位置に戻る。

(頑住吉注:コッキングのために後退したコッキンググリップ内のセーフティをこのように押し下げるとセーフティ解除され、コッキンググリップはコック前の位置、すなわち前方に戻ります)

 兵器はロードされ、コックされ、セーフティ解除されている。つまり発射準備状態である。発射のためにはトリガーをゆっくり引く。その際できるだけシールド内に隠れる部分が多くなるようにし、発射が行われるまで顔を砲身からそむける。


 砲身後部からは強い火炎放射が出る。点火装置は30mまで飛び戻る。火炎放射の効果領域内には特に人、可燃物、弾薬が存在してはならない。

(頑住吉注:右の矢印が「射撃方向」、左の矢印が「火炎放射」を示しています)

F.射撃の経過

 トリガーを引き、そしてそれによって起こった「突き棒」の打撃によって打撃発電機内で電流が発生し、推進薬に点火される。電気回路:打撃発電機−兵器上のケーブル−プラグのジャック−プラグおよび導線−点火設備(赤熱ワイヤーを持つブリッジ点火器)−ケース上にハンダ付けされたワイヤー−グレネードの鉄部品(絶縁塗装はコンタクトボルトによって掻き落とされる)−コンタクトボルト−兵器の鉄部品−打撃発電機。

G.不発の際
 まずできるだけ2分遅発を待つ(頑住吉注:これはまあ実戦では無理でしょう)。そしてコンタクトが完璧であるかどうかを見て確かめる。塗装はコンタクトボルトによって尾翼から掻き落とされているか? チェック後もう一度トリガーを引く。それでも不発だったらグレネードを取り出し、処分する。

 こうしたケースでは次のようにする。プラグを抜き、「遮断器」を押し下げる。グレネードを砲身から引き出し、安全ピンを再び信管に挿し込み、グレネードが転がり落ちた場合に備える

(頑住吉注:これは抜くときの写真ですが、こんな感じです。不発時に必要になるから安全ピンは捨ててはいけないわけですね)。

不発弾は訓練された専門家のみによって爆破されることが許される。

H.運搬器具
 パンツァーシュレックのグレネードはそれぞれ2発が対応するマーキング(頑住吉注:黒や白の丸やバツ印のことです)のついたパックケース内に収納される。

 歩兵キャリア上では6つのパンツァーシュレックと約20発のグレネードが前方に輸送される

(頑住吉注:こんな状態です。「前方へ」=「nach vorn」というのは「前線へ」というような意味か、「引っぱられるのではなく手押し車として前向きに」という意味なのかよく分かりません)。

 独立戦車破壊大隊および連隊、そして戦車ハンター歩兵中隊中の戦車破壊小隊は、8.8cmロケット弾薬用フレームつき背嚢42型を装備した。

(頑住吉注:こんなのです。グレネードが5発入りますが、グレネードの重さだけで16kg以上になりますからかなりの負担です)

J.8.8cm ロケット対戦車銃54/1
 時間の経過の中で数多くの変更がなされた後(特に防御シールドとハンドガードに関する件が優先された)、1944年12月20日の陸軍総司令部指令によって8.8cm R PzB 54/1の名の下に短縮されたバージョンが採用された。この器具は長さ今や1350mm(従来1640mm)、重量9500g(従来10700g)となった。

 実戦使用の中で、従来のプラグコンタクトはロード経過を困難にすることが明らかになっていた。この型で採用されたリングコンタクトによってロードは決定的に簡単になった。

 同時に新しいグレネードも項目Cにおけるナンバー4および5にある名の下に採用された。グレネード4992はグレネード4322より大きな射程を持った。このグレネードはプラグコンタクトによって古い兵器からも、リングコンタクトによって新しい兵器からも発射できたが、古い兵器の照準設備は変更しなければならなかった。

 1945年1月以後に型式となった「8.8cm R PzB Gr 4992冬季弾薬 44/45(Arkt 44/45)」用には、新しい「前方偏差幅リアサイト」と「冬季弾薬44/45」フロントサイトインサートを取り付けなければならなかった。こうすれば距離次第で100、150、200m用フロントサイトによる狙いが可能だった。部品の取り付けと新しいマーキングは兵器専門家によって行われた(頑住吉注:いまいち説明が明確でないんですが、「前方偏差幅リアサイト」というのは上で出てきたリアサイトの補助ブレードのことではないかと思います)。

 古い器具は新しい器具が使えるようになったらすぐに引き渡し所に返却すべきものとされた。しかし1945年にはもはや補給が正しく行われなかったため、大量の古い器具が戦争終結まで実戦使用下に留まった。

 部隊では新しい器具と、特に新しい弾薬が強く歓迎された。そのより大きな射程は射手に、敵の戦車とより大きな距離ですでに戦い、そしてそれにより発射数を高める可能性を与えた。敵方ではパンツァーシュレックは非常に恐れられた。1つにはそのグレネードは実際上手持ちの全ての装甲を貫通できたからであり、2つめにはパンツァーシュレック射手の場合厳選された、そして非常によく訓練された兵士だったからである(頑住吉注:「の場合」=「bei」という表現には、あるいは「戦争末期には全般的に兵の錬度が下がっていたが、パンツァーシュレック射手の場合には」というニュアンスが含まれているのかも知れません)。

 この兵器は非常によく真価を示したので、1944年12月21日の陸軍総司令部指令により、走行兵員輸送車すらもパンツァーシュレックで武装された。装甲兵員輸送車(Sd.Kfz 251)へのパンツァーシュレック用支持具の取り付けに関する正確な指導書は1945年1月15日における「陸軍技術指令書」の中で公表された(頑住吉注: http://users.swing.be/chars.chars/complet/788.html こんなのです。こうした装甲兵員輸送車の装甲は通常のライフル弾程度を防ぐのがやっとですし、たいてい機関銃程度しか積んでいませんから敵戦車に遭遇したら手も足も出ません。そこで支持具を取りつけてパンツァーシュレックを常備するようにしたというわけです)。


 非常に長いレポートで読むのが大変でしたが、興味深い内容でした。写真はこれでも全体の半分ちょっとです。ただ、ドイツ語の読解力不足に加えて私は特に電気関係に弱いんで、はっきり意味がつかめない部分があったのが残念です。特にコンタクトボルトが絶縁塗料を掻き落とすとか、リングコンタクトとかに関しては説明がほとんどなく、さっぱり分かりません。

 いかにもドイツ人らしいと言いますか、このパンツァーシュレックはアメリカ製バズーカのコンセプトをいただいたものとされているのに、その点には全く触れられていません。それどころかこの兵器の開発時期が不明であることを強調してオリジナルである可能性を匂わせているようでもあります。ただ初期のアメリカ製バズーカが口径60mmだったのに対し、パンツァーシュレックは口径が88mmと大きく、威力もかなり上だったようです。作りとしてもアメリカ製より緻密で凝っているという印象です。

 ただ、凝った、グレードの高いものを作るくせに妙なところが抜けていたりするのがドイツ人で、パンツァーシュレックに関しても、防御シールドが「絶対に必要である」ことが一体何故試作段階で分からなかったのか理解に苦しみます。もうひとつよく分からないのは、パンツァーシュレックには絶対に必要なのに、何故アメリカ製バズーカは防御シールドなしで大丈夫なのかという点です。大口径のため噴流が強いためかとも思いましたが、アメリカ製は口径89mmのいわゆるスーパーバズーカになっても防御シールドはありません。防御シールド前面の写真を見ると、なにやら細かい異物が多数ぶつかったような跡が見られ、「射手を射撃後のロケットから後方に飛ぶ火薬の一部から守る」という記述があることから、あるいはドイツ製のロケット弾は何らかの理由によってガスの噴流だけでなく比較的大きな火薬の粒が燃えながら後方に飛ぶ性質があり、これはアメリカ製にはなかったものなのではないかとも推測できますがはっきりしません。

 もうひとつ、推進薬の圧力が気温が高いときほど上がるのでなるべく発射前のグレネードを室温に置いた方が射程が延び、命中しやすくもなるが、過度に熱すると破裂するおそれがある、というのは分かるんですが、旧弾薬において何故夏弾薬の射程が冬弾薬より短いのか分かりません。あるいは夏弾薬の射程100mというのが誤植ではという気もしますがどうなんでしょうか。

 このレポートが掲載された4号は1972年発行ですが、長い年月が経過した99号(1995年発行)にはこのレポートの「Teil2」(第2部)が掲載されています。今回紹介したレポートの倍以上のページ数を費やした(ただし資料が多いので文章量はそれほどではないですが)長いレポートです。しんどいですがこれを読めば今回不明だった点も分かるかもしれないのでそのうち読んでみようと思います。

2005年10月2日追加
 ここを見ている方からご指摘をいただきました。アメリカ製バズーカは先端がラッパ状に広がっていますが、ここにガスを受け止める(後方に流れないようそらす)機能があり、そのためシールドが必要なかったのではないかということです。うかつにも気付きませんでしたが、言われてみれば煙突というニックネームがついたようにパンツァーシュレックのマズル部は単にパイプを断ち切ったような形状で、一方バズーカはトロンボーンに似ていることから来たネーミングであるように先端が大きく広がっています。これだけが理由かどうかは分かりませんが、少なくとも大きな理由のひとつであるのは確かでしょう。
 ただ、もしドイツがアメリカ製バズーカを詳細に研究した結果パンツァーシュレックを作ったのなら、何故ここから学ばなかったのかという疑問も生じます。















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