ナチ・ドイツの対戦車手榴弾

 ドイツの銃器雑誌を本格的に読むようになるずっと以前から資料として使っていたものに、「Waffen Revue」があります。アームズの投稿者時代に製作したマキシムM1910水冷式重機関銃やPTRD-1941対戦車ライフル製作のときもこれを主な資料として使用しましたし、製品製作時にもモーゼルC78、イーサン・アレンのペッパーボックス、「ザ・プロテクター」パームピストル、キングコブラボックスピストルのとき大いに役立ちました。後で知ったんですが、これは「DWJ」と同じ出版社による別冊のようなものらしいです。内容は銃器だけではなく航空兵器や戦車、手榴弾、砲など多岐にわたり、ほとんど知られていないマイナーな銃や兵器に関する詳しいレポートもたくさんあります。今回はこの中から日本ではあまり知られていない兵器、「Panzerwurfmine」についての記事を紹介します。同名の雑誌もあるくらいですから軍事マニアなら「Panzer」が「戦車」、「装甲」を意味することはご存知でしょう。「Wurf」は投げることで、「Mine」は地雷や機雷を意味します。ドイツ語ではどういうわけか英語の「アンチ」、日本語の「対」にあたる語が入らず、例えば「Panzerbuchse」(「u」はウムラウト)は「戦車」+「銃」で「対戦車銃」を意味します。パンツァーファウスト等も同じですね。つまりこの兵器は「戦車」+「投擲」+「地雷」という名前で、「対戦車投擲雷」、すなわち「対戦車手榴弾」というような意味になります。


Panzerwurfmine 1 (L) kurz PWM1(L)kz (頑住吉注:前者は正式名称、後者は略称です)

A.序文
 成型炸薬弾(頑住吉注:「Hohlladungskorper」・後の「o」はウムラウト・直訳すれば「空洞装填体」、英語のホローチャージとほぼ同じですね)の発明によって、この新手法の発明を近接戦闘兵器にも使用するという可能性が文字通りしつこく浮上した。この「パンツァーファウスト」および「パンツァーシュレック」(頑住吉注:ドイツ版バズーカ)による試みの際に達成され得た抜群の成功は、技術者に成型炸薬弾を簡単に運搬できる投擲体として使用できるようにするという解決法を探らせる誘因となったのである。

 そこで手榴弾(頑住吉注:英語とほぼ同じ「Handgranate」)のように投げ、そして成型炸薬効果の利用によって装甲されたターゲットに対して使用できるパンツァーウルフミーネ1kg(L)が誕生した(頑住吉注: http://www.lonesentry.com/articles/panzerwurfmine/ )。飛行機や飛行体の場合に使われるような「リード平面」(頑住吉注:「Leitflachen」・「a」はウムラウト・要するに翼です)が投擲体に飛行安定性を与えるよう意図された。論理的でよいアイデアにもかかわらず、この小さな「投擲体」の場合真価を示さなかった。PWM1(L)は説明書と共に194個が1943年5月に部隊に導入されたが、非常に短時間でこれが特に操作において非実用的であり、「リード平面」が充分損傷に対して守られていないことが示された。

 しかしこのときドイツ空軍が地上戦闘部隊、そして特に「Luftlandeeinheiten」(落下傘猟兵 頑住吉注:前の単語は「空」+「地」+「部隊」の複数形といったところです)用に効果的で運搬しやすい兵器を近接戦闘における装甲されたターゲットとの戦いのために要求したため、PWM1(L)の改良が開始された。いろいろな試みの後、最終的にあるバージョンが製造され、1944年7月に

Panzerwurfmine 1 (L) kurz PWM1(1)kz
 
 の名の下に、特に「Luftlandeeinheiten」に導入された。

B.全般
 つまりPWM1(L)kzは、PWM1(L)の発展開発品である。違いは柄の方式にある。柄上の「安定バンド」を「リード平面」として使用することにより、短い、平滑な柄の使用が可能になった。これによりPWM1(L)kzはPWM1(L)より約15cm短くなり、そしてそのためより実用的で操作が簡単になった。

 PWM1(L)kzは成型炸薬効果を持つ飛行安定手榴弾である。これは歩兵用兵器および通常の爆発物では効果的に戦えない、装甲車両、銃眼、Kuppeln(頑住吉注:辞書には「ドーム」、「丸天井」等と出ていますが、文脈上ここでは要塞などにあるドーム型の回転砲塔のことではないかと思います)およびコンクリート製トーチカに対する戦闘に役立つ。これは「Hafthohlladung」に比べ、遮蔽物からの狙った投擲の場合、距離25mまでのターゲット物体に対して投げることが可能だという長所がある。投擲者はこの場合敵の射撃により少なくしかさらされない。(頑住吉注:「Hafthohlladung」というのは、 http://www.supervirtual.com.br/acervo/panzerfaust9.htm この一番下にあるもので、歩兵が磁石つきの成型炸薬弾を敵戦車に直接貼り付け、爆発させるものです。投げるタイプのパンツァーウルフミーネより確実性が高く、また大きく強力なものにもできましたが、当然攻撃にはより大きな危険が伴ったというわけです。 http://www.inert-ord.net/ger03a/gerat/ こちらの下にはより大きな画像や構造図もあり、「興味深いサイドノート」として日本の特攻兵器、いわゆる刺突爆雷についても触れられています)

C.説明
 スチール薄板から作られた水滴形本体には約500gのHl.爆薬が含まれており、これは「Fullpulver02」(頑住吉注:前の「u」はウムラウト。辞書に載っていませんが、「Full」は英語のフルに近く「充填」などの意味、「Pulver」は「粉」、「火薬」などの意味です。検索によると略称は「Fp02」で、TNTのことであるとしているサイトもあります)およびHexogenからなっている(「Hexogen」も辞書に載っていませんが、 http://www.cnet-ta.ne.jp/p/pddlib/japanese/he.htm ここによると高性能爆薬の一種でプラスチック爆弾の主成分でもあるそうです)。本体の頭部にはキャリングリングが取り付けられている。PWM1(L)kzは付属の「延長フック」によって革ベルト上で携帯できる。

 PWM1(L)kzの柄はスチール薄板から作られている。これには前端に着発信管「AZ.23A fur PWM」(頑住吉注:「fur」の「u」はウムラウトで英語の「for」とほぼ同じ。つまり「PWM用AZ.23A」)が内蔵されている。柄内には「安定バンド」があり、この端は着発信管の安全解除ピンに固定されている。「安定バンド」の別の端は柄の後端を閉じている閉鎖キャップに固定されている。閉鎖キャップは内側が金属部品からなり、ここに「安定バンド」が固定されている。そして外側はプラスチック製カバーである。この金属部品はプラスチック製カバーと1本のスプリングによって結合されており、この結果両者はお互いからわずかな距離隔てられている。閉鎖キャップは粘着テープつきの「阻むピン」によって柄に保持され、安全が確保されている。

 つまりPWM1(L)kzは、

1.キャリングリングの付属した細長い水滴型本体(最大径約110mm)

2.その中に充填されている爆薬、約500g(Fp02およびHexogen)

3.長さ約150mmの柄。その中には
a) 全方向性着発信管AZ.23A fur PWM
b) 小型点火薬34
c) 安全解除ピンが付属した「安定バンド」
d) スプリング結合がなされた閉鎖キャップ
e) 粘着テープが付属した「阻むピン」

からなっている。

D.テクニカルデータ
1.総重量約1kg
2.全長330mm
3.成型炸薬としての爆薬=500g(Fp02およびHexogen)
4.塗装はベージュグレー
5.PWM1(L)kz用ケース内に6発梱包
6.成績
PWM1(L)kzは成型炸薬効果によって衝突角度90度の場合150mmの装甲板を、60度でもなお約130mmの装甲板を貫通する。強力な爆風効果と結びつき、破片も貫通された装甲板の後方に壊滅的な効果を持つ。この効果は装甲板が補強金具あるいは貼り付けられた器具によって車内から強化されていた場合でもなお確実に示される。
7.破片効果は50〜75m

E.操作
 投擲の前に粘着テープをはがし、そしてこれにより閉鎖キャップの「阻むピン」を引き抜く。絶対に必要なのは、閉鎖キャップの縁が小指上に横たわるように投げる手で柄を包むことである。投擲は「Bogenwurf」(頑住吉注:球技や釣りのおもりを投げるときなどに使われる単語らしいんですがこの場合何を意図しているのか不明です)のように上投げで、「Schleuderwurf」(頑住吉注:これも同じです)のように下投げで行われる。(後者はよりよい命中可能性をもたらすが)遠距離の場合上投げで投擲する。投擲後はすぐに完全に身を遮蔽する。

 投擲の際、投げる手は投擲者の特別な助けなしに閉鎖キャップを柄から引き抜く。これにより「安定バンド」が引き出される。これは空気の流れによって伸長し、それにより安全解除ピンが点火装置から引き抜かれる。この後も「安定バンド」は爆雷を常に本体を先にして飛ぶようにする。

 投擲者は、「閉鎖キャップ」の金属部品がプラスチック製カバーから抜けるように、「閉鎖キャップ」を放さないようにするべきである。プラスチック製カバーはその後も投擲者の手の中に残る。これにより下手な投擲者が爆雷を「安定バンド」を持って引きとめてしまう可能性が妨げられる。

 点火装置の安全解除ピンが「安全バンド」によって引き抜かれるとすぐ、従来ファイアリングピンをロックしていた球が内側に落ち込む。ファイアリングピン(針部品)およびプライマーキャリアはこのとき弱い「隔てスプリング」によってなおお互いから隔てられているのみである。

 衝突、あるいは最小のショック様の動きに際し、ファイアリングピンの軸受けおよびファイアリングピンケースが円錐形であることによって、全ての命中形態において点火装置がプライマーの突き刺しによる効果を現す。kl. Zdladg. 34によって爆雷は爆発へと導かれる。効果は命中角度に依存する。

F.練習パンツァーウルフミーネ1(L)kz(Ub) (頑住吉注:最後の括弧内は「練習」すなわち「Ubung」の略で、「U」はウムラウトです)
 この練習パンツァーウルフミーネは操作や装甲車両に対する狙った投擲の訓練に役立つ。これは実物と同じ重量を持つ。この水滴型の爆雷本体は練習器具として赤色の塗装によって識別可能にしてあり、その上周囲に3つの互いに重なり合った穴の列がある。爆雷本体は空洞で肉の厚い鉄板で作られており、練習用炸薬は含まれていない。グリップは実物のそれと同じだが、点火装置はない。この練習爆雷は同様にPWM1(L)用運搬ケース1個に6発が梱包されている。この梱包容器には赤色の「PWM1(L)kz Ub」の表示が「aufschablonieren」されている(頑住吉注:辞書に載っていませんが、語の成り立ちからして型紙を当ててスプレーで文字をつけるやり方のことだと思われます。なお練習パンツァーウルフミーネの話はここで終わっています)。


 (頑住吉注:1文意味不明ですが点火装置がその性格上敏感だということを言っているようです)通常PWMは地面に衝突した場合でも効果を現わすが、地面が柔らかい場合、およびフラットな投擲(頑住吉注:意味不明です)の場合不発が生じることを計算に入れなければならない。

 不発弾は動きや衝撃に敏感である。PWM1(L)kzは、その閉鎖キャップを不注意によってあるいは不発弾の場合に一度引き抜いてしまうと、原則として発見場所で爆破によって処分される。閉鎖キャップや「安定バンド」を柄に再び挿し込むことは爆雷を爆発に導く可能性がある。


 かつてのバズーカやパンツァーファウスト、現在のRPGなどで知られる成型炸薬弾は、かつて戦車に対抗しがたかった歩兵に戦車を倒す大きなチャンスを与えました。ごく簡単に言えば爆発による高温、高圧のガスとそれによって生じた金属の噴流が前方に一点集中して装甲を破るものです。通常の徹甲弾の場合は命中時の速度が非常に重要ですが、成型炸薬弾の場合は速度と貫通力は関係ありません。そこで歩兵が簡単に持ち運べる低初速のロケット砲でも、簡易型無反動砲でも威力を発揮したわけですし、歩兵が敵戦車に肉薄して磁石で直接貼り付け、起爆させる兵器も登場したわけです。ちなみに後期のドイツ戦車に見られるいわゆるツインメリットコーティングは、敵にこのような磁石式爆雷を貼り付けられないためでした。パンツァーファウストやパンツァーシュレックは優秀な兵器で、それまでの対戦車火器とは比較にならないくらい携帯しやすかったわけですが、それでも空挺部隊等では携帯が困難な場合があったわけです。一方直接敵戦車に貼り付けるタイプはあまりにもリスクが大きすぎます。何とかならないか、ということで考えられたのがこのパンツァーウルフミーネというわけです。

 先に紹介したように、前身のPWM1(L)に関する資料はネット上にも結構あるんですが、今回のテーマである改良型のPWM1(L)kzに関する資料はあまり見つかりません。記事では生産数や実際の戦果に関して全く触れられていませんが、資料が少ないということは成功とは言えなかった前身よりさらにマイナーに終わったんではないでしょうか。

http://pacificcoast.net/~gmax/ordnance/Pwurf.htm

 ここには「安定バンド」が引き出された状態の画像があります。ただしこれはレプリカです。こんなマイナーなもののレプリカを作る変なメーカーもあるんですね(←お前が言うな)。

 イラストで説明しますと、



 こんな感じで、柄の後端に赤で示した閉鎖キャップがあり、後端は少々径が大きくなっています。閉鎖キャップは粘着テープと「阻むピン」、要するに安全ピンで柄に固定されています。テープをはがしてピンを抜くと閉鎖キャップは簡単に抜ける状態になり、投擲準備完了となります。少々径の大きくなった後端の少し前に小指をかけて投げると、本体は勢いよく目標に向かって飛びますが、閉鎖キャップは小指にひっかかって残るわけです。柄の中に折りたたんで収納されている長い「安定バンド」はするすると引き伸ばされていきます。伸びきると、「安定バンド」後端は閉鎖キャップに固定されているので、閉鎖キャップをぐいと引くことになります。当然前端も引かれることになり、このとき点火装置の完全装置が解除されます。



 下を先として表現しています。黄色で示したのが安全解除ピンで、「安定バンド」前端はこれに結合されています。この状態では茶色で示したファイアリングピンはスチールボールに阻まれて前進(図では下降)できません。しかし安全解除ピンが引き抜かれてしまうとスチールボールは内側に落ち込み、ファイアリングピンは前進可能になります。ただし、この状態でもファイアリングピンは青で示した弱い「隔てスプリング」によって後方に押されて前進は一応阻まれています。ターゲットに激突すると、慣性でファイアリングピンは前進し、起爆薬を突いて発火させるわけです。
 ただし「安定バンド」と結合された安全ピンは本体から完全に抜け落ちてしまうわけではありません。それでは空気抵抗によって先を先にして飛ばす尾翼のような機能が果せませんから。そこで「安定バンド」および安全ピンは安全解除に必要な距離後退した後に引き止められます。「安定バンド」の後端が「閉鎖キャップ」に完全に固定されていれば本体はそこで引きとめられて落ちてしまうわけですが、実は閉鎖キャップは二重構造になっていて、プラスチック製アウターだけが手に残り、「安定バンド」と結合された金属製のインナーは少々の抵抗で抜け、飛んで行くわけです。

 よく考えられたシステムだとは思うんですが、安全ピンが抜かれる抵抗と、「閉鎖キャップ」インナーがアウターから抜かれる抵抗の2つによって、本体の飛ぶ勢いが減殺されることになりますね。前者より後者の方が大きな抵抗でないと安全解除ピンが抜けないおそれがありますから、後者の抵抗はあまり小さくすることはできません。それでもなるべく小さくしようとすれば前者をできるかぎり小さくする必要があり、要するにごく簡単に安全解除ピンが抜けるように作るしかありません(書き方からして、あるいは極度に簡単に抜けるようになっていて、「安定バンド」が伸びきる前に空気抵抗ですでに抜けるようでもあります。またスチールボールを使用しているのもなるべく抵抗なく安全解除されるためでしょう)。また、人力で投げ、やっと届いても確実に起爆させるには発火装置をできる限り敏感にせざるを得ません。だから不注意で「閉鎖キャップ」を抜いてしまったりしたら、ひょっとするとごくわずかな抵抗で安全解除ピンも抜け、ごく簡単に爆発する状態になってしまっているかも知れず、その場で爆破処分するしかないというわけでしょう。また、この構造から、不発弾の場合「安定バンド」を柄の中に押し込んでも安全解除ピンが再び挿し込まれることはなく、この場合も爆破処分するしかないわけです。

 「投げる手は投擲者の特別な助けなしに閉鎖キャップを柄から引き抜く」という文はいまいち意味が不明確ですが、たぶん小指を閉鎖キャップに正しくかけて投げれば特に意識しなくても勝手に抜ける、というような意味でしょう。しかし、例えばH&K P7のスクイーズコッカーがターゲットを狙って正しくトリガーを引くことに対する集中力を分散させると言われるように、このシステムも重いグレネードを生命の危険にさらされた高度のストレスの中で目標に正しく投げつけることに対する集中力を分散させるものであるように思えます。

 装甲貫徹力は最大150mmということですから、条件さえ良ければT34はおろかスターリン2型重戦車の最厚部すら貫通可能だということになります。もちろん実戦に本格的に参戦した米英の戦車も全て破壊可能です。しかし実際問題としては近距離で例えば濃密な弾幕を張ることができるPPSh41のような火器を持った歩兵が多数随伴した戦車に、せいぜい25mしか投げられないパンツァーウルフミーネを命中させるのは至難の業であり、また仮に成功したとして無事に逃げ失せることはさらに困難だったでしょう。あまり有名でないことから見てもさほど大きな戦果はなかったでしょうし、現在この種の兵器は存在しないはずです。














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