ロシア製対戦車ライフルPTRD1941

 「Waffen Revue」60号から、ロシア製対戦車ライフルであるPTRD1941に関する記事を紹介します。ちなみにこれは昔この銃をモデルアップしたときに資料として使ったものですが、当時はまだ内容が充分理解できませんでした。なお、記事中では「PTRD M41」とされていますが、検索しても「PTRD1941」の方が一般的のようです。


ロシア製対戦車ライフル

14.5mm PTRD M41

 1941年6月22日のドイツ部隊のロシア進攻、そしてそれに続く戦闘において、それまでの口径12.7mmロシア製対戦車ライフルM39が不満足なものであることが示された。そこで両有名銃器設計者シモノフおよびデクチャレフに、単純で素早く大量に生産できる口径14.5mmの対戦車ライフル開発の発注がなされた。

 シモノフが彼のPTRS M41のために5連マガジンつきの銃という解答を見出した一方で(これに関して我々はさらに後の号でレポートする)、デクチャレフは単発型を作った。両方の型は簡単に製造できたので、両方ともすぐに生産に移行した。

 デクチャレフによって作られた型は

PTRD M41

 の名を得た。これに関し、「D」の文字は設計者を示している。41という数は設計年度に関係しているが、一方部隊への言うに値する数での供給は、1942年半ばになって初めて行われ得た。この時点でこの弾薬の成績は戦車に対してすでに不充分だった。良い成功は軽装甲がなされたターゲット、自動車、そして低空を飛ぶ航空機に対してすら達成され得た。

説明
 この銃はシリンダー回転(頑住吉注:ボルトアクション)閉鎖機構を持つ最高にシンプルな構造方式のシングルローダーであり、ボルトの開放および薬莢の引き抜きは、射撃の際リコイルによって引き起こされた。溶接された「誘導パイプ」、グリップホルダー、ショルダーストック(これにはボルトハンドルのための「乗り上げカーブ」が溶接されている)つきのトリガーケースは応急に作られたもので、型が統一されていなかった。同様にこれらのパーツの固定法も応急だった。同じくマズルブレーキの製造と取り付けにも差が生じた。(一部は取るに足りないものに過ぎないいろいろなバリエーションについてはここで詳細に取り上げるべきではない)

 この対戦車ライフルの射手の完全な安全性および不発弾の妨げは、ボルトハンドルを完全に右に位置させ、レシーバーの傾斜の上に乗せたときだけ保証される。

 トリガーレストはファイアリングピン上にある(頑住吉注:シアとかむ段差部が直接ファイアリングピンに設けられているということだと思います)。ボルトがまだ完全に閉鎖されていなくてもトリガーは同様に引くことが可能である。だが、ボルトの構造方式から、ファイアリングピン先端部はボルトの閉鎖が確実に行われたときのみ弾薬を発火させるはずである。しかし、慎重さの足りない作りの対戦車ライフルは、長時間の使用後、ボルトハンドルをレシーバーの傾斜上に乗せなくても、つまりボルトの確実な閉鎖がまだ行われていなくても同様に弾薬を点火させる可能性があると思われる。

 バレル、ボルト、グリップの付属したトリガー設備、誘導パイプ、バイポッドは射撃の際リコイルによって約65mm急速に後退する。トリガーケース上の誘導パイプはその際ショルダーストックのパイプ内を滑り、後退運動を制限する。ショルダーストックおよび誘導パイプ内に位置して圧縮されているリコイルスプリングはその際さらに圧縮される(頑住吉注:パイプ状ストックは二重構造になっていて、外観上のパイプの中にもう1本「誘導パイプ」というパーツが入っており、さらにその中にリコイルスプリングが入っています。誘導パイプはスムーズにバレルまわりの後退が行われるようガイドの役割を果すとともに、約65mm後退したら後ろに当たってそれ以上後退しないよう制限する役割も持っているわけです)。

 この後退運動の際、ボルトハンドルはショルダーストックの「乗り上げカーブ」上を走る。これによりボルトはロック解除され、バレル内の有り余るガス圧によって突き戻され、薬莢は抜かれて下に投げ出される。

 ボルトは薬莢にオイルを塗ったきれいな薬莢を使った場合のみ、射撃後自動的にオープンする。

 圧縮されたリコイルスプリングの圧力で、後退した部分は再び前方に戻される。

主要部分
1.レシーバーつきバレル(ねじ込み)。バレル上には左ネジでねじ込まれ、1本のピンでゆるみ止めされたマズルブレーキがある。
2.ボルト
3.照準設備
4.グリップおよび「誘導パイプ」の付属したトリガー設備
5.リコイルスプリング
6.「乗り上げカーブ」の付属したショルダーストック。リコイルスプリング用パイプ。調節可能なチークピースおよび木製継ぎ足し部分。
7.フック状保持部品
8.バイポッド

サイト
 高さ調節可能なリアサイトとフロントサイトは左にオフセットされて取り付けられている。

 ターゲットの距離が400mまでの場合はリアサイトのブレード部をベースに押し込み、400m以上の場合はピンにぶつかるまで上に押し出す。

 フロントサイトは横方向の命中位置修正のためベース上でずらすことができる。

操作
 この対戦車ライフルの操作のためには通常2人必要とされた。射手が発射後にターゲットをさらに目で捉え続けられ、またボルトは自動的にオープンする一方、第二の兵は新しい弾薬を銃に装填することができた。我々はこのシチュエーションを写真1で特に明瞭に見る。(頑住吉注:1人の兵がプローンで射撃姿勢を取る一方、もう1人は同様にプローンで右手にドラムマガジンつきのPPSh41を持ち、敵の様子を伺っています。印象としてはこちらの方が階級が上で指揮する立場のように見えますが明確ではありません。第2の兵がモシン・ナガンライフルを持っている写真もあります。全ての写真でそうなので、第2の兵は射手の右に位置することになっていたようです)

バイポッドの取り付け
 バイポッドはキャリングハンドルの前のバレルに設置したベース部に取りつけてある。(頑住吉注:固定用の)ちょうネジは右サイドに来る。

 ちょうネジを固く締めた状態でバイポッドはベース上で軽く回転できなければならない。進軍時は両脚を前方にたたみ、板バネで固定する。

装填
1.最初のロードのためにはボルトハンドルを上に回し、ボルトを後退させる。
2.弾薬をレシーバー上部にある装填開口を通してチャンバーに入れる。
3.ボルトを力を込めて前方に押し動かし、ボルトハンドルを右にいっぱいに倒す。ボルトハンドルが最も深い位置に置かれるまでである。これでこの対戦車ライフルは発射準備状態にある。

セーフティ
 ファイアリングピンをフック部を持って後方に引き、止まるまで右に回す。そして再び前進させる。

セーフティ解除
 ファイアリングピンを後方に引き、止まるまで左に回し、そして前進させる。

トリガーの引き
 対戦車ライフルを固く肩に引きつけ(バイポッドは垂直に立てなければならない)、右手はグリップを、左手はショルダーストックのパイプ部の下にある木製パーツを包む。トリガーは「Druckpunkt」を持たない(頑住吉注:時々出てきますがいまだに意味が分かりません。直訳すれば「圧点」です。たぶんトリガーを引いていって、落ちる前にいったん重くなるポイントのことだと思います)。

不発
 正しくボルトハンドルを下げていて不発が生じた場合は、フック部を持ってファイアリングピンを改めて後方に引いてコックし、そしてトリガーを引く。それでも不発だった場合は(頑住吉注:遅発が起きないか確認するための)約1分の待ち時間の後、ボルトを引いて弾薬を取り除き、新しい弾薬を入れる。

アンロード
 ボルトをオープンし、(頑住吉注:レシーバー下部の)エジェクションポートで弾薬を受け止める。

ボルトの取り出し
 ボルトキャッチ(レシーバー左後方)を押し込み、ボルトを引き抜く。

ボルトの分解
1.ボルトを左手で握り、右手でフック部を持ってファイアリングピンを引けるところまで引き、打撃設備が飛び出してくるまで右にいっぱいに回す。
2.打撃設備(フック部を下にして)垂直に立てる。ファイアリングピンとファイアリングピン先端部をファイアリングピンスプリングの圧力下で結合しているスリーブを下に引く。ファイアリングピン先端を横に取り去る(この際ファイアリングピンスプリングは緊張が解ける)。
3.スリーブ、ファイアリングピンスプリング、「制限耳」、ファイアリングピンカップリングを取り去る。

ボルトの組み立て
1.ファイアリングピンカップリング、「制限耳」、ファイアリングピンスプリングをファイアリングピンにかぶせる。
2.ファイアリングピンに巻かれているファイアリングピンを圧縮し、スリーブをかぶせる(ファイアリングピン先端部の収容部としての大きな開口を上にする)。ファイアリングピン先端部を横からファイアリングピンの太くなっている部分に押し込む。ファイアリングピンスプリングを放す
3.ボルトを垂直に立てる(ボルト底部にある切抜きを体に向け、ボルトハンドルを右にする)。組み立てた打撃設備をボルトの穴内に入れ、ファイアリングピンのレスト部をボルト底部上にセットする。このときファイアリングピンカップリング上にあるバヨネット継ぎ手の右サイドがボルトの切り欠きの右サイド上に来るようにする。
4.ファイアリングピンカップリングを両手の親指で力強く下に圧し、バヨネット継ぎ手を右、ボルトのノッチ内に、ファイアリングピンのレスト部がボルトの切り欠き内にはまるまでいっぱいに回す。
5.ファイアリングピンをフック部を持って右、セーフティレスト内に回す。
6.ボルトを組み込む。

ショルダーストックの取り去り
1.ボルトを取り去る。
2.ショルダーストックをトリガーケースの右サイドにあるフック状の保持部品に固定しているネジを抜く。その際ショルダーストックを力強く前方に圧し、ネジを抜いた後、リコイルスプリングの緊張を解くためゆっくりと緩める。ショルダーストックとリコイルスプリングを取り去る。
3.フック状の保持部品を前方に引き抜く。

(レシーバーからの、スプリングパイプとグリップの付属した)トリガー設備の取り出し
1.トリガーケース下部にある保持ネジを抜く、もしくは保持ピンを叩き抜く(多くの対戦車ライフルの場合トリガーケースは1本のネジの代わりに1本のピンでレシーバーに固定されていた)。
2.スプリングパイプとグリップの付属したトリガー設備を、レシーバーから後方に外す。

マズルブレーキの取り去り

1.ゆるみ止めピンを叩き抜く。
2.マズルブレーキを回して抜く(左ネジ)。

テクニカルデータ
名称:ロシア製対戦車ライフルPTRD M41
刻印:レシーバー頭部にロシア文字と銃器ナンバー
構造方式:ボルト閉鎖機構を持つ単発銃
口径:14.5mm
重量:15.75kg
全長:2020mm
銃身長:1350mm(マズルブレーキ含まず)
ライフリング:8条右回り
サイト:フロント、リアサイトともオフセットされている。400mまではリアサイトを下に、400m以上は上に押す。
弾薬供給:シングル
弾薬:14.5mmロシア製弾薬
射撃架台:バイポッド
発射方式:単発射撃
発射速度:1分間に約8〜10発

貫通成績
 傾斜角度60度、剛性120kg/mu装甲板の場合
距離100mで30mm
距離300mで27.5mm
距離500mで25mm
を貫通する。


 この銃に関してはこんなサイトがあります。

まず、これは全体像と簡単な説明です。

http://www.rt66.com/~korteng/SmallArms/antitank.htm

これはこの銃に20mmバルカン砲用バレルを組み込んだもののレポートで、ボルトやバレルの分解状態の画像もあります。

http://members.aol.com/fiftyguy/ptrd20mm.htm

ここには当時の写真や、鮮明なマズルブレーキ、機関部の画像があります。斜め前から見た画像ではバイポッドをたたんだときに保持する板バネも分かりやすいです。

http://www.antitank.co.uk/russian1.htm

これは「スモールアームズレビュー」誌の記事で、珍しい左側面の写真の他、この銃の弾薬を.50BMG、ロシア版12.7mm弾、イギリスのボーイズ対戦車ライフル用.55弾薬、.600ニトロエキスプレス弾薬と比較した写真が貴重です。

http://www.smallarmsreview.com/pdf/antitank.pdf


 本格登場時、すでに戦車に対しては威力不足だったとありますが、100mの距離、60度の角度で30mmもの装甲を貫徹できるなら弱点を狙えばドイツの強力な重、中戦車にも被害を与えられる見込みは充分あったはずです。実際、後期のドイツ軍中戦車等にはシェルツィンと呼ばれる補助装甲版が取りつけられていることが多く、これは後にバズーカ対策がメインの目的になりましたが、当初はロシア製対戦車ライフル対策から出発したものだそうです。つまりロシア製対戦車ライフルはドイツ軍の中戦車クラスにとっても特別な対策が必要とされる厄介な存在だったことになります。もちろん旧日本軍の主力である九七式中戦車相手なら100m以上離れて最厚部を簡単に貫通できたはずです。ちなみにこの銃の装甲貫徹力は九七式中戦車の57mm砲より強力です。

 私はモデルアップ当時、「発射によってバレル、ボルトがフルストローク後退する→後退の途上でボルトのロックが解除される→ボルトが最後部で何らかの方法によってロックされ、一方バレルは前進し、このとき排莢される」というロングリコイルから装弾過程を省いたものと理解していましたが、それは誤りでした。お読みのように、「バレル、ボルトだけでなくグリップやトリガーまで後退するが、そのストロークは弾薬の全長よりずっと短い約65mmに過ぎない→後退の途上でボルトのロックが解除される→バレル等の後退が終わった後、ロックを解かれたボルトのみ後退し、排莢する」というもので、ストロークは通常よりはるかに長いながら定義上はショートリコイルに近く、そこから装弾過程を省いたものと見られます。なお、ボルトの後退は余剰のガス圧によるとされていますが、これは主に慣性によるのではないでしょうか。いずれにせよあまり確実なものではなく、薬莢が汚れていたり、油を塗っていないとチャンバーに張り付いたままボルトごと後退しなかったようです。



 黄色で表現したのが「乗り上げカーブ」です。非常に厚い鉄板を切り抜いて曲げたもので、さして変わらんような気もしますがたぶん中央の穴は重量軽減用でしょう。ボルト自体は通常のボルトアクションに近く、青で表現したボルトハンドルが、バレルまわりの後退時に「乗り上げカーブ」に当たってそのカーブに沿って上に持ち上げられるわけです。ボルトハンドル自体でロック解除を行うというのはきわめて大胆な方法ですが、まあ考えようによってはルガーとやや似ていると言えなくもないでしょう。赤で表現したのはファイアリングピンの後端です。このようにフック状になっていて、不発時に直接後方に引っぱってコックすることもできるし、引っぱってひねればセーフティにもなるわけです。発射時には緑、青、赤の部分が後退し、黄色、グレーの部分はその場に留まります。これはもちろん排莢を自動で行うことだけでなく、リコイルショックを軽減するためでもあります。バットプレートも鉄板を切り抜いて曲げたものですが、後部には厚いクッションが取り付けられています。バットプレート下部の前方には木製の「継ぎ足し部分」が取り付けられ、左手でここを抱え込むようにして撃つわけです。
 
 完全閉鎖していないと発火しないシステムは信頼性が低いのではないかという指摘がなされていますが、もしロックされていない状態で発火したら射手の命が危ないでしょう。以前記録フィルム(確か「秘録 第二次世界大戦」というイギリスのテレビ会社が製作したドキュメンタリーの中だったと記憶しています)でこの銃の発射シーンを見たことがあるんですが、バイポッドを立て、プローンで撃っているにもかかわらず射手が砂塵を巻き上げ、スピンしながら1mくらい後退している感じの、それはすさまじいものでした。

 文にもある通り2人1組で運用するのが基本で、行進時は1人が先に立ってグリップを右手でつかんで機関部を右肩に背負い、もう1人は後ろで銃身の先端近くを背負っています。ただし突撃時に1人で持って走っている写真も複数あり、これは15.75kgという重量からしてかなりきついものの不可能ではないでしょう。もちろん20mmクラスの対戦車ライフルならこうはいきません。全体にパイプと鉄板を貼りあわせたようなきわめて生産性の高い構造になっており、これほどシンプルで低コストな20mmクラスはなかったはずです。それでいて貫通力は下手な20mmクラス以上でした。また単発ではありますが、慣れれば数秒に1発程度の連射もできたとされています。個人的にはこの銃は総合的に見て対戦車ライフルの最高傑作ではないかと思っています。

 「良い成功は〜低空を飛ぶ航空機に対してすら達成され得た」という記述には首を傾げたくなりますが、使用状態の写真18枚のうち対地射撃が9枚に対し対空射撃が4枚もある(他は移動時の写真など)ので、かなりポピュラーな使用法だったようです。ただし、この写真でも特別な対空サイトのようなものは全く見られません。普通に考えてまずあたりそうにない気がしますが、あるいは低空から一直線にこちらへ急降下してくるシュツーカのような目標にはある程度の確率で命中弾を与えることができたのかも知れません。






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