武直ー10のエンジンをめぐる経緯

 これまでいろいろな記事で断片的に出てきていましたが、「カナダのエンジンが使用できなくなる」「国産エンジンを使用するが出力が足りないので軽量化する」「フランスと共同開発したエンジンの使用へ」という一連の流れを説明した記事です。

http://military.china.com/history4/62/20140430/18475812.html


武直ー10、国産エンジンへの換装の顛末:エンジンを提供した企業、厳罰に処せられる

(頑住吉注:原ページのここにある画像のキャプションです。「武直ー10の原型機」)

ある西側メディアは、アメリカの国防請負商であるユナイテッドテクノロジーズ社傘下のプラット&ホイットニーカナダ社は、中国に対して輸出した10台の民間用ヘリのエンジンが中国によって直ー10武装ヘリの研究開発に転用されたことが原因で、7,500万アメリカドルにも達する罰金に直面することになる、とする。中国国防部スポークスマンは7月26日これに対し、いわゆる中国が武装ヘリの研究開発過程でアメリカの技術を盗み取ったとの説は、事実と重大に食い違っている、と語った。このニュースの背後には一体どのような事情があるのか、本文は皆のために武直ー10ヘリがエンジンを換装した経緯を詳述する(頑住吉注:2012年に書かれたもののようです)。

中国の古いパートナー:プラット&ホイットニー社

プラット&ホイットニー社は世界の民間用航空エンジンの半分の市場を占める

プラット&ホイットニー(Pratt & Whitney)社はアメリカのユナイテッドテクノロジーズ社の分社で、世界の著名な航空エンジン生産企業であり、現在世界民間用航空エンジンの半分近い市場シェアを占め、主な経営項目は軍、民間用航空タービンエンジンおよび航空宇宙・地上ガスタービンなどで、顧客は150カ国余りにあまねく及ぶ。皆が耳慣れて詳しく語ることができるSR-71、F-14、F-15、F-16、F-22、F-35、ボーイング777などは、いずれもプラット&ホイットニー社のエンジンを採用している。

中・小型輸送機や汎用飛行機においては、プラット&ホイットニー社のPT6Aエンジンが航空動力の典型的代表で、40年来この出力範囲が350〜1,100kwのエンジン系列はすでに30余りの改良型を発展させており、144カ国の100種近い飛行機に用いられ、全部で40,000台近くが生産されている。

現在中国の多種の飛行機がプラット&ホイットニー社製のエンジンを配備している

プラット&ホイットニー社は中国において非常に長い歴史があり、1920年代にはその「ワスプ」エンジンが、中国最初の航空郵政飛行機への奉仕を始めた。第二次大戦の期間、アメリカの著名な「フライングタイガース」が中国にやって来て中国の抗日戦争を支援したが、用いられる飛行機は主にプラット&ホイットニーのエンジンを使用した(頑住吉注:「フライングタイガース」の主力はP-40で、エンジンはアリソン製のはずですが)。中国の運ー8-F600はプラット&ホイットニーが生産したPW150Bエンジンを採用しており、運ー12系列機は2台のPT6A-27エンジンおよびこれとセットになる金属製プロペラと航空電子設備などを装備している。

今年の初めにメディアが大々的に報道した中国の新型AC-313大型民間用ヘリは同様にカナダのPT6B-67Bエンジンを使用しており、このためプラット&ホイットニー社は中国航空工業の重要な協力パートナーと言える。

(頑住吉注:これより2ページ目。画像のキャプションは「カナダの『漢和安全保障業務評論』は率先して武直ー10の原型機がカナダのエンジンを採用していることを明らかにした」です。)

プラット&ホイットニー社、中国に対しエンジンを販売し、7,500万アメリカドルの罰金を課せられる

外国メディア、長期にわたり武直ー10が配備するエンジンの機種を推測

中国が自らの専用武装ヘリを開発するとの情報が出現するのと共に、航空動力方面でずっと「心臓病」が存在している中国に関して言えば、武直ー10がどんな種類のエンジンを採用するのかはずっと各種メディアと軍事マニアが興味深げに語る話題であり、世間には一度、中国の武直ー10はイタリアのアグスタ社が研究開発したA-129「マングスタ」武装ヘリと「血縁」関係があるとの噂が流れ、このため武直ー10はA-129と同じ動力システムを採用するかもしれないと推測された(頑住吉注:ちなみにこのヘリのエンジンはロールスロイス製)。その後、武直ー10の原型機のクリアな画像がインターネット上に出現し、人々は武直ー10原型機のエンジンコンパートメント外カバーと空気取り入れ口の設計が決してタイガー式やA-129など典型的な攻撃ヘリのようでなく、逆にPT6Cエンジンを採用したAB-139に似ていることに気付いた。

2006年、漢和が武直ー10の用いるエンジンはプラット&ホイットニー製だと明らかに

2006年、カナダで出版された月刊「漢和安全保障業務評論」は試験飛行中の最新型中国陸軍航空隊Z-10武装ヘリが、カナダのエンジンを使用していることを正式に明らかにし、かつ中国は近い時期、新たに一定数の同型エンジンを獲得するだろうと言明した。ここで言うカナダのエンジンとはプラット&ホイットニーカナダ社の製品で、プラット&ホイットニーカナダ社は技術上本部の指導に頼り、経済上は独立した実体で、主に航空ターボプロップ、ターボシャフト、ターボファンエンジンおよび補助動力装置の研究開発と生産に従事し、アメリカのユナイテッドテクノロジーズ社の分社でもある。プラット&ホイットニーカナダ社はアジア太平洋地域地域に900余りの顧客と約5,600台の稼働状態のエンジンを持つ。

続く時間内に、ロイター、ニューヨークタイムズなど多くの国外メディアがこの件に関し報道を行い、「カナダのエンジンが中国の武装ヘリに使われる」および「商用エンジンが軍事用途に用いられる」を極力誇大宣伝し、かつこうした行為はアメリカの武器輸出に関する法律に違反していると言明した。理屈から言えば、プラット&ホイットニーはカナダの会社であってアメリカの輸出管制は受けない。だが問題はエンジンがコントロールソフト(エンジンの電子コントロールシステム)なしでは動かず、しかもソフトウェアはアメリカのハミルトン社(もう1つのユナイテッドテクノロジーズ社の子会社)が開発したもので、アメリカの輸出管制を受けることにあった。もしエンジンがアメリカの技術を含み、あるいはアメリカの部品から組成されていれば、プラット&ホイットニーはアメリカの輸出条例に違反したことが原因で巨額の罰金に直面するだろう。

(頑住吉注:これより3ページ目。画像のキャプションは「武直ー10原型機が採用したPT6C-67Cエンジン」です。)

アメリカ、プラット&ホイットニー社が武器貿易条例に違反したと言明

2007年10月、アメリカ国務省スポークスマンKarl E. Duckworthは、アメリカ政府はアメリカのエンジンメーカーであるプラット&ホイットニー社のカナダにおける子会社が生産した商用エンジンが中国によって軍用ヘリに用いられている件を調査中であり、この事件はアメリカ政府の関心をも引き起こしており、何故ならプラット&ホイットニー社がアメリカ輸出管制法令「国際武器貿易条例」に違反している可能性があるからだ、とした。「国際武器貿易条例」(International Traffic in Arms Regulations、略称ITAR)はアメリカが軍事と関係ある貨物とサービスの輸出入を統制するために制定したワンセットの法規体系である。アメリカ国務省国防武器貿易局によって責任を持ってこの条例が執行される。その主要な目的は軍事と関係ある技術と製品の輸出入を厳格に規制し、アメリカの国家の安全保障の利益を維持保護し、またアメリカの外交を推進することである。国外向けに販売されるいかなる軍事用途がある可能性のある物品の情報もアメリカ製府の批准を受ける必要があり、この物品が民間用にもなり得たとしてもである。

プラット&ホイットニー社、輸出したのは民間用エンジンだと弁解するもやはり罰金を課せられる

カナダのプラット&ホイットニー社スポークスマンJean-Daniel Hamelinは発表した声明の中で、同社は2000年にある中国の飛行機メーカーによって民間用ヘリのエンジン供給商に選定されたが、この中国のメーカーは同時に軍事用途のヘリも開発している、とした。プラット&ホイットニー社は、当時中国向けに10台のエンジンを供給する輸出申請はカナダ政府の許可を獲得しており、エンジンの引き渡し時期は2001年から2002年の間で、この販売は2002年に終わり、プラット&ホイットニー社はある公告の中で、自分たちは中国が武装ヘリのエンジンを自ら研究開発するだろうと信じている、と語った。

「国際武器貿易条例」の制限の下では、いかなる軍民両用の性質を持つエンジンの輸出も、アメリカとカナダでは政府の批准を獲得することが必須であるが、当時の中国の説明は6トン級民間ヘリの開発に用いるというものだったため、カナダの輸出禁令には決して違反していない。2012年6月、アメリカ司法省が発表したある声明は、アメリカのユナイテッドテクノロジーズ社のカナダ分社であるプラット&ホイットニーカナダ社およびそのアメリカ分社ハミルトン社は、中国向けにエンジンを輸出した件につき7,500万アメリカドルを超える罰金を支払うことに同意し、政府と和解した、とした。7,500万アメリカドルの罰金の中で、2,070万アメリカドルは司法省に支払われることになり、一方残る5,500万アメリカドルは国務省に支払われる。この部分の罰金の中には、同社の「中国との交易の中で獲得した利潤」が含まれる。罰金を納める以外に、アメリカのユナイテッドテクノロジーズ社はさらに独立した監察メカニズムを保持し、今後2年の輸出法遵守を確保することが必須である。

(頑住吉注:これより4ページ目。画像のキャプションは「アメリカは中国に対する軍事技術封鎖およびその具体化されたものである武器禁輸を停止したことは全くない」です。)

中国の武直ー10、国産エンジンに換装することが迫られる

中国、ヘリの性能の立ち後れが原因で1990年代に武直ー10プロジェクトを始動

中国陸軍航空隊には一定の発展があったが、その他の先進国と比較すれば依然比較的立ち後れていることを我々は皆知っている。大きな力を注いで多数の専用武装ヘリを装備し、陸軍航空隊の戦闘力の飛躍的向上を実現する必要がある。解放軍の現役の各タイプの武装ヘリには火力が弱い、防護が限られている、全天候作戦能力を持っていないという不足が存在している。

このため、我が国の陸軍航空隊の攻撃能力はまだ非常に限られており、我が軍の新たな戦略の需要とはまだ一定の隔たりある。汎用武装型から専用武装型への飛躍を実現するため、中国は1990年代に「武直ー10」の研究開発プロジェクトを始動させた。しかし、強力なターボシャフトエンジンがなく、中、大型武装ヘリの装備は現実味のない願望でしかなかった。何故なら戦場環境の変化と共に、武装ヘリはできるだけより多くの弾薬を搭載できる必要があり、同時に探知計測、火力コントロール、制御誘導、妨害など航空電子システムもどんどん複雑化し、体積と重量がさらに一歩増加し、これら全てが武装ヘリに強力な「心臓」を持つことを必須としているからである。

現代の武装ヘリには動力が大きく耐用性の高いエンジンが必要

中国の国家軍用標準によれば通常、小型、軽型、中型、大型、重型の5種の類型に分かれる。小型ヘリは最大離陸重量2トン以下、軽型ヘリは最大離陸重量2〜4トン、中型ヘリは最大離陸重量4〜10トン程度、大型ヘリの最大離陸重量は10〜20トン程度である。エンジンの性能はヘリの最大離陸重量、搭載荷、飛行速度、ボバリング能力などの指標を決定し、例えばアメリカのAH-64D「アパッチ」武装ヘリの最大離陸重量は10トンに達し、GE社のT-700-GE-701Cを装備し、最大持続出力は1,662キロワットに増加し、1,800キロワットの出力を30分持続できる。ロシアのミルー28N武装ヘリの最大離陸重量は11トンを超え、2台のTB3-117BMターボシャフトエンジンを採用し、1台あたりの定額出力は1,864キロワットである。

ヨーロッパの「タイガー」式武装ヘリの最大離陸重量は6トンで、この機が採用するMTR390-Eエンジンは1台あたりの出力が1,094キロワットである。強大なエンジン出力に頼り、AH-64などの武装ヘリは比較的強い武器搭載能力を持つ。PT6C-67CはPT-6C系列のより新しいタイプで、完全デジタル電子エンジンコントロール装置(FADEC)を採用し、1台あたりの最大出力は1,250キロワットに達し、武直ー10のような6トン級ヘリの使用に適し、平均大修理間隔は3,500時間という「耐用時間数」にも達し、信頼性が極めて高い。

(頑住吉注:これより5ページ目。画像のキャプションは「中国の新型AC-313大型民間用ヘリはカナダのPT6B-67Bエンジンを使用する」です。)

プラット&ホイットニーのエンジン供給取り消しが武直ー10装備延期をもたらす

しかしアメリカの介入が原因で、武直ー10は研究開発過程の中、中途でエンジンの変更が迫られ、武直ー10プロジェクトの進展に深刻に影響し、甚だしきに至っては一度武直ー10は動力問題が解決できないために中止されるとの噂が伝わった。この種の噂は一昨年になってやっと「決着」し、最も新しく出現した武直ー10の画像は、その動力システムにすでに以前との顕著な変化があることをはっきり示しており、画像からはこれらのヘリのエンジン排気口はいずれも機体両側に位置し、初期タイプのように機体上部に位置してはいないことがはっきり分かる。ここに至り、「カナダがアメリカの圧力の下に商品供給計画を取り消したことが、中国の武直ー10装備の時期を延期せざるを得なくさせた」との噂は検証を得たのである(頑住吉注:「中止との噂は検証を得た」でしょう。遅延はしてるんですから)。

武直ー10に配備された国産エンジンの動力不足、性能低下をもたらす

2009年から、「我が国初の完全自主研究開発、完全自主知的財産権を持つ重点機種ターボシャフトエンジン」に関する情報が徐々に当局メディア上に出現し、業界内の人物はこのエンジンは最新の「渦軸-9」型エンジンであり、「流産」したPT6C-67Cエンジンに取って代わるのに用いられる、と分析した。しかしPT6C-67Cエンジンに比べ、現在武直ー10に用いられているエンジンである渦軸-9の出力はたった1,000キロワット前後でしかなく(甚だしきに至っては1,000キロワットに満たない)、PT6C-67Cエンジンに比べ30%低く、武直ー10のようなトン数(最大離陸重量7トン前後)のヘリにとっては、かろうじて使用に充分と言えるだけである。まさにエンジン出力不足の制限を受けているのである。

機体自身の重量を軽減するため、武直ー10のエンジン排気口には前述の赤外線抑制装置が配備されておらず、電子戦システムも赤外線妨害装置を配備しておらず、増してやAH-64D「ロングボウアパッチ」のような頂部のミリ波レーダーは配備していない。出力不足は深刻に武直ー10の弾薬搭載量を深刻に制限している。最大弾薬搭載量は「コブラ」、「スーパーコブラ」、「タイガー」、A-129、ミルー24と同等で、アメリカ、ロシアで現役の「アパッチ」、ミルー28、Ka-50/52よりはるかに低く、作戦性能の深刻な減少をもたらす。しかし必要と可能性の面前では、実務的でより客観的と思われる選択として渦軸-9を選択使用するのは止むを得ざることでしかなく、この状況下では最も良い選択なのである。

(頑住吉注:これより6ページ目。画像のキャプションは「中国・フランスが合同研究開発する渦軸-16エンジン」です。)

中国、フランスと協力して中、小型ヘリのエンジンを生産へ

2011年第1回中国天津国際ヘリ展示会で、中航工業とフランスのターボメカ社が合同で研究開発した渦軸-16エンジンが控えめにデビューした。ターボメカ社が研究開発したエンジンは中、小型ヘリに広範に用いられ、ユーザーは100カ国余りに達する。1980年代、ターボメカ社は中国航空工業企業との協力の展開を開始し、かつ比較的良好な協力関係を保持している。

中国・フランス合同生産の渦軸-16エンジン、あるいは武直ー10に装備されるか

渦軸-16エンジンはAC-352/Z-15という7トン級ヘリに配備される計画である。資料は、このエンジンの出力が1,200〜1,500キロワットに達することをはっきり示している。しかも協議によれば、中国・フランス双方はそれぞれ50%投資し、知的財産権を共有し、それぞれ生産ラインを建設することになっており、これはカナダのプラット&ホイットニー社のPT6C-67Bのように人に制限を受けることが避けられるということである。業界内の人物は、渦軸-16は中国の未来の中型ヘリの主力エンジンとなり、武直ー10に装備される可能性も非常に高いと予測する。

結びの言葉

現代の局地戦争の軍用ヘリに対する需要が不断に増加するにつれ、軍用ターボシャフトエンジン市場は依然上昇の趨勢を呈している。同時に中国の非常に広い地理的環境は、我々が高原など劣悪な地帯で使用するヘリを持つことが必須であると要求し、関連の技術問題が解決された後、我々は必ずや自らの性能がより良く、信頼性がより高く、寿命がより長く、使用と維持保護のコストがより低い新型軍用ターボシャフトエンジンを持つことになる。最近、かつて航空展に出現した中国の10トン級汎用ヘリが試験飛行したとの情報がすでに伝わっており、この機は解放軍の航空能力方面になお存在する顕著な空白を埋めることになる。

前文の資料から我々は、最近の国外メディアのいわゆる「中国の武装ヘリはアメリカの技術を盗み取ったもの」は完全に理由のない非難であることを見て取ることができる。中国国防部は最近行った定例記者会見でこの種の疑問に対し有力な回答を行った。中国の武装ヘリおよびその配備するエンジンはいずれも自ら研究開発、生産を行ったものであり、完全な自主知的財産権を持つ、と。


 現在では武直ー10の性能は限られていますが、フランスの技術で生産された強力なエンジンを装備して近い将来大幅に戦力アップして日本やアメリカに脅威を与えることになり、それだけでなくこのエンジンは「中華ブラックホーク」直ー20にも使用される可能性が高いとされています。
















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