苦痛のない死

 以前特殊な4連発ピストルである「ベア」を紹介しましたが、「DWJ」2003年9月号にこの銃のさらに珍しい変種に関する記事が掲載されていました。


動物愛護的に正しい屠畜のためのシステムベア意識喪失ピストル

苦痛のない死

 屠畜する家畜の意識を喪失させることに関しては、すでに100年以上前から考えられてきた。動物愛護的見地からだけではなく、労働技術的な考えからも家畜の意識喪失は危険のない労働を可能にする。

 以下の記述は、(1900年以前から1920年頃までの期間における機械的意識喪失器具の開発に関する短くまとめた概観に始まり)ピストルに似た構造、「ベアの電撃意識喪失器具」を扱ったものである。同じ設計者はこの意識喪失器具と大部分構造が等しいシグナルピストル、およびある種の類似性を示す「バー ピストル」も作った。

機械的意識喪失システム

 屠畜する家畜の意識を喪失させるための数多くの方法の中で、ショックによる、そして額への打撃による(程度の差はあるが)はっきりした脳の損傷(頭蓋骨の損傷を伴う場合も伴わない場合もある)によるものは牛の場合、そして(少なくとも小規模な商売上の屠畜の場合)豚の場合にも最も大きな重要性を持つ。このためこの用途には古くから棍棒、ツルハシなどが使われた。これらの欠点はその使用に力を要し、疲れ、そして使用者がそれに応じた命中確実性を示さねばならないことにあった。屠畜される家畜の額の中にハンマーの打撃によって駆動されるタガネの使用は1つの改良だった。固定されたもの(Kleinschmidt式打撃ボルトハンマー)も、可動式でスプリングのテンションがかけられていないもの(Sorge式意識喪失器具、Bruneau式マスク屠畜具)も、復帰スプリングを持つタガネ状のもの(Kleinschmidt式スプリングボルト器具)も使用されていた。

 しかしこれらとならんですでに1900年より前、火器用火薬で駆動される意識喪失器具が設計されていた。ドイツ動物愛護協会、より正確にはフロイライン(頑住吉注:英語のミス)Bolza(頑住吉注:説明がありませんが会長かそれに準ずる幹部でしょう)によって1901年に公募された、動物愛護的に正しい屠畜用家畜の殺し方につけられた12,000マルクというプライスは、そのような器具の発達加速に決定的に貢献した。

 こうした器具は基本的に2つのグループに区別される。すなわち実際に弾丸を家畜の頭部に撃ち込む意識喪失器具(弾丸射撃装置)、そして火薬がボルトを決められたストロークだけ器具外に駆動するものである。後者の場合の器具のうちいくつかのものは火薬ガスの一部がボルトの後退に使われ、あるいは復帰スプリングを装備していた。前者のタイプの器具(Siegmund式器具、「スウェーデンモデル」、Stoff式器具)は、事故の危険、そして弾丸を家畜の体から除去しなければならない必要性ゆえに真価を示してきていない。時々は弾丸が首や胸まで侵入した。Schrader、Hermsdorf、Flessa、Altmann、Bayersdorfer-Schermer式器具は後者のタイプで、つまりボルト射出器具だった。それらは今日まだ普通に使われている円筒形の形状と共通だった。



(頑住吉注:単なる棍棒などに始まり、さまざまな器具のイラストが掲載されていますが本筋とあまり関係ないのでSchrader式器具「Mors」のみお見せします。詳しい説明はないんですが、たぶん上のパイプ状の部分を握って家畜の頭に押し当て、ハンマーなどで右端を打撃すると空砲が発火し、左端からボルトが急速に突き出す、というものだと思います。上のパイプ状部分にはガスが通るようになっていて、気圧の変化によりその後ボルトが自動的に引っ込むようになっているのではないかと思うんですが、よく分かりません。要するに空砲でボルトを一定のストロークで突き出させる屠畜器具はいろいろあったものの、銃とはかけはなれた外観を持っていたわけです)

 全般的に発射音の充分な緩和、ボルトの構造、取り扱いの安全性が当初から大きな問題と判明した。

 そうしたボルト射出器具の中で「ベアの電撃意識喪失器具」のようなピストル形状のものは特別な存在だった。

意識喪失ピストル システムベア

 「ベアの電撃意識喪失器具」は「ベアのインダストリーゲゼルシャフト有限会社ハンブルグ」によっていろいろな国でパテント取得された。例えばオーストリアではナンバー14688(家畜を殺すためのボルト射出装置)だった。「中空のボルトを使って家畜を殺すためのボルト射出装置であり、次の性質によって特徴付けられる。すなわちバレルが中間壁によって2つのチャンバーに分けられており、このうち後方のチャンバーは閉鎖されている。そしてボルトは2つのヘッドを持っている。この2つのヘッドはそれぞれ1つのチャンバー内を動き、バレル内で密に誘導される配置となっている。この結果前のボルトヘッドの先端は、後ろのチャンバー内に作用する空気の圧縮によって発射直後脳内から引き抜かれる。」というそのパテントに記述されたコンセプトは「撃ち損じ」やボルトの損傷を防ぐ助けとなり、信頼性の高いボルトの引っ込みを保証することを意図していた。しかし当時の専門参考文献に掲載されている、あるいは手元にある「電撃意識喪失器具」の実物は、まさにこのボルト構造がパテント書類と明らかに異なっている。



(頑住吉注:図等がないのでいまいち不明確ですが、原理的にはおおよそこういうことではないかと思います。黄色い部分に発射ガスを導入すると赤いボルトは一定距離左に動きます。この際気密された空色の空間内の空気が圧縮され、発射ガスの力が弱まるとボルトを右に復帰させます)

 閉鎖の原理は例えばオーストリアではナンバー19195で、また1つのバリエーションでナンバー29380でもパテント取得された。これは次のような内容だった。「シールドピンによって形成されたバレルの回転軸を持つ火器のバレルロック機構であり、次の配置によって特徴付けられる。すなわち、バレル側面のノーズであり、これが回転軸と同心にunterschnittenされ、対応するフレームのノーズによって射撃位置に保持される。これによりガス圧に対する抵抗力が強化され、がたつきやサイドへのずれが防がれる。(パテント書類19195)」(頑住吉注:これに関しては全然意味不明です)パテント書類の図解のために加えられた5つの図は、明らかに「バー ピストル」を示している。パテント書類の中ではこの改良された銃はリボルバーと呼ばれており、バレルペアは上述の方法でフレームにセットされている。つまり量産された銃には見られない構造方式である。さらに、「電撃意識喪失器具」あるいはベアシグナルピストルと一致するピストル、3種類の簡略化された中折れライフル閉鎖機構の図がある。

 バーの電撃意識喪失器具は少なくとも2つの異なるサイズと口径で製造された(1910年、Ostertagによる記述)。事実DWM(頑住吉注:「ドイツ銃器および弾薬工場」)は口径6.5mmから15mmまでの、そして異なる薬莢長の「家畜意識喪失器具 システムベア、ハンブルグ」(ボルト発射器具および意識喪失ピストル)用のさまざまな弾薬種類をその製造プログラム内に持っていた。

当時の専門参考文献における反響

 こうした意識喪失ピストルは1910年にOstertagによる肉類研究ハンドブックの中で記述された。また1911年にはPostolkaおよびMessnerによっても記述された。筆者が知っている最も早い専門参考文献内の記述は、1909年の獣医分野のための王立技術団の鑑定書である。この中ではこの器具を使って39の屠畜場で積まれた複数年にわたる経験が掲載されている。この委員会はこの器具が大型の家畜の意識を喪失させるためには弱すぎ、ボルトの後退が必ずしも機能せず、頭蓋骨内に侵入した火薬ガスがこの価値を低下させるとして不十分な点を批判している(頑住吉注:ヨーロッパには家畜の脳の料理も普通にあるようです)。しかしより信頼性の高い弾丸射撃器具(特にStoff式器具)には決定的に高い事故の危険が欠点として付随していた。これに対し小型の家畜の意識喪失のためにはこの意識喪失ピストルは安全で信頼性の高いものと判定された。



(頑住吉注:これがこの器具の外観です。バーピストルに非常によく似ているのが分かります)

構造グループ

 ベアの電撃意識喪失器具は次の構造グループから構成されていた。

(1)前方が2又になったフレーム。この中にはロックレバーや折りたたみトリガーを伴うダブルアクションオンリー発火機構が収納されていた。発火機構部品は左側に取り付けられたサイドプレートの除去後にアクセス可能だった。
(2)フレーム2又部にある垂直の軸をめぐってスイング可能なボルト収納部(「バレル」)
(3)(2)と可動式に結合されているチャンバーブロック(スプリングのテンションがかけられたエキストラクター付き)
(4)(2)内に収納されたボルト

ボルト

 ボルトは円筒形のスチール製本体からなり、先端に向かい円錐形の先端に移行している。後端は円筒形に太くなっている。ボルトはその収納部内で、一方ではこの太くなった部分によって、そして他方ではその長い円筒形部分によってマズル側からボルト収納部にねじ込まれたパイプによって誘導される。これらはボルトの出るストロークを制限もする。後部の太くなった部分のパイプへの衝突を和らげ、そしてこれによりボルトの破断を妨げるため、銅製の「押しつぶしリング」を通すこともできた。他のメーカーはゴムリングも使った。これは衝撃の緩和とならんで気密にも役立てる意図だった。

 ボルトは中心に後端から先端ギリギリ手前まで走る穴ぐりを持ち、そこから多数の側面につながる開口が分岐していた。これによりガス漏出の可能性が与えられ、これがボルトの後退に役立った。

 実際の使用では厚すぎる家畜の頭蓋骨によって引き起こされるボルトの曲がりも、ボルトの破断も起こった。後者は強すぎる発射薬、衝撃緩和措置の欠如、そして「空」発射によるものだった(頑住吉注:頭蓋骨による抵抗なく前進した場合、ボルト前進が異常な高速となり、前方に激突した場合のダメージが大きくなって破断するということでしょう)。

作動方式

 トリガーの操作によって弾薬に点火され、ボルトはその前部のストッパー位置まで駆動される。ボルトに設けられた穴ぐりが本当にガスに駆動された後退を確実にもたらし得るのかどうかは、少なくとも多くの型においては疑問である。「バレル」、チャンバーグループはロックレバーを下に押した後サイドに(右にでも左にでも)スイングされ、この際薬莢が引き抜かれる。チャンバーはボルト収納部(バレル)から引っ張り、いっぱいに傾斜させることで分離できる。このためクリーニングまたはボルトの交換が可能である。「バレル」、チャンバーグループのフレーム内でのロックは一方ではフレームにあるロックレバー(チャンバーとボルト収納部の上にあるノッチ内をグリップする)によって、他方では「バレル」のフレーム2又部の切り欠き内でのアリミゾ状かみ合いによって行われる。このため回転軸を形成する2本のネジへの負担は小さくなる。



(頑住吉注:これが断面図です)

実物

 手元にあるサンプルは1922年にPostolkaによって、あるいはボルト形状を除き1911年にPostolkaおよびMessnerによって写真掲載されているものと大幅に一致する。Ostertag(1910年)によってはいくらか異なる型が描写されている。これはボルトとボルト収納部にガス流出穴の複雑なシステムを示している。

 この意識喪失ピストルは木箱入りで供給された。この中にはボルト、ドライバー、薬莢突き出し具、クリーニングブラシ、「押しつぶしリング」、弾薬が収納されている。この器具はポリッシュされたスムーズなウォールナット材製グリップパネルを除き、全てスチールから加工されている。発火機構部品は黄色く焼き戻され、他全ての金属部品はブルーイングされている。見える表面には加工跡は確認できない。付属のボルト2本は長さ122mmで、それぞれ後端から中心を通って先端の10mm手前まで走る内径3mmの穴ぐりを持ち、そこから、後端から36mm離れた位置に直径1mmの穴各1つ、そして先端から10mm離れた位置のサイドに直径2mmの穴が各2つが分岐している。高さ4.5mmの未使用の銅製「押しつぶしリング」(一部銃本体と同じナンバーが刻印されている)、そして高さ2.5から3mmの使用済みリングが入っている。

 ボルトの状態は、当時の参考文献全般が多くのボルト射出装置に関して充分でないと批判した欠点を裏付けている。すなわち、ボルトの1本は曲がり、2本目は前部が太くなった後部から破断した後の修理痕を示している(ハードはんだ付け)。銃自体も明らかに使用痕を示している。

 これに属する弾薬はブリキ箱に50発梱包された、前部が半球状に曲げて閉じられた、パラフィンコートされたセンターファイアー薬莢である。これはDWMによってナンバー250の下に導入されたものである。


 こうした家畜を苦しませずに殺す器具の発達が、動物愛護協会の女性幹部がかけた懸賞金によって大いに加速されたというのは面白い背景だと思いました。

 細部に不明な点がありますが、要するに空砲でボルトを一定距離突き出させるだけの簡単な器具で、トリガーメカ、またバレルグループのロックシステムはベアピストルとほとんど同じのようです。ベアピストルではチャンバーブロックはバレルと平行の軸をめぐって回転しましたが、この器具ではバレルグループが垂直の軸をめぐって回転し、後部が右または左に振り出されます。ボルト内の穴はやはり気圧変化によってボルトを復帰させようとするもののようですが、その理屈は理解できません。

 ちなみに現在でも家畜の頭にボルトを打ち込んで殺す器具は広く使用されていますが、火薬ではなく圧縮空気が使われるのが普通のようです。長期的にはその方がコストが安くなるでしょうし、クリーニングの必要性もより少ないと考えられます。








戻るボタン