シュワルツローゼピストル その11

 そしてさらに(頑住吉注:この年における4件のパテント申請の)最後のものとして1907年6月23日に「自動火器のための発火設備」に関するシュワルツローゼの申請(今回は住所が再びCharlottenburgと申し立てられている)が続き、これに対しては1909年4月1日にパテントナンバー209540が与えられた。これには次のような文面があった。

この発明は自動火器において意図しない発射に対する完全な安全性を確保することを目的としている。これは打撃スプリングが銃のロード運動によっては全く圧縮されないか、一部しか圧縮されず、より正確に言えば単に後方に動かされるだけなので、意図しないハンマーあるいはファイアリングピンの急速な前進の際も発射する可能性がなく、一方完全な圧縮は射手によるグリップの握りの際に初めてなされる、というように発火機構が作られていることによって達成される。この場合この設備は、ハンマーまたはファイアリングピンがロード運動の際に確かに完全にその後部位置に引き戻されるが、打撃スプリングは完全に圧縮されない、何故なら打撃スプリングが可動のリンク部品にあてがわれているからであり、このリンク部品はグリップフレームあるいは銃床上に突き出た圧部品(頑住吉注:グリップ前面のグリップセーフティ、スクイーズコッカー様の部品)にひっかけられているので手に握られた銃が発射準備状態にある際のみスプリングの完全な圧縮を許し、あるいは結果としてもたらす、というものに該当する。つまりグリップを固く握っている際、圧部品がグリップ内に後方に向けて押し込まれ、そしてこれにより一部圧縮された打撃スプリングが完全に圧縮される。射手が銃のグリップを再び放すとスプリングが圧部品を再び外側へと押し、これにより再び弛緩する。つまりこの銃は射手が射撃姿勢に保持している限りにおいてのみ真に射撃準備状態なのである。

 この新しい発火機構の配置は全ての種類の自動火器に使用できる。図ではまずその使用が前方にスライドするバレルを持つセルフローディングピストルで図解されている。図1はこのピストルを全ての部品は描かれていない縦断面で示しており、ハンマーはコックされているが打撃スプリングは完全に圧縮されておらず、バレルが閉鎖状態にある。図2ではバレルがオープン位置にあり、ハンマーは倒れ、圧部品はグリップ内に押し込まれている。図3は銃を前から見た図である。図4はトリガーバーの付属したバレルを下から見た図である。そして図5〜7は発火機構部品の外観である。

 このピストルは本質的にはバレルlの付属したグリップフレームまたは銃床体kからなっている。バレルはグリップフレームの対応するノッチ内で誘導され、そしてその閉鎖スプリングfによって常に後方、グリップフレームの包底面sに向けて押されている。

 ハンマーh(図6)はグリップフレームの対応するフライス加工部内においてピンg上でスイングする。ハンマーはそのファイアリングピンiを使って包底面sの点火穴を通って出ており、そして下部に打撃スプリングf1が接する突起部を持っている。このスプリングの下端はリンク部品n(図7)内にかかっている。このリンク部品の前部は圧部品pの2本のピンoをめぐってスイングする(図1〜3)。この圧部品はダブルのアームを持つレバーとして作られ、グリップフレーム内の軸eをめぐって回転する(
頑住吉注:「ダブルのアームを持つレバー」というのは軸の両側に機能のあるアームを持つ、要するにシーソー運動するレバー状部品のことです)。レスト(頑住吉注:握りこまれていない通常の)位置においてグリップフレーム上に突き出ている圧部品の上のアームが後方に向け回転させられると、下のアームがリンク体nを前方に引き、その際打撃スプリングの下端が連れて行かれる。打撃スプリングは途中でマガジンキャッチmにあてがわれているからであり、圧縮もされる。グリップフレーム内のピンtをめぐってスイングするトリガーu(図1)はその後下部のノーズを使って圧部品pの上面にあてがわれており、圧部品が銃のグリップ内に押し込まれているときのみ引くことができ、つまりその後でのみハンマーは解放される。

 ハンマーhのコックと発射のための解放はコック・トリガーバーa(図5)によってなされる。この部品はダブルのアームを持つレバーとして作られ、バレルlの適合するフライス加工内でピンdをめぐってスイングする(図2および4)。スプリングf2(図4)はこのバーの後端を常に内側へと押すよう努めている。バレルが弾薬の導入のために前方へと引かれると、このバーはハンマーの左側に突き出ているコッキング突起h1の前に飛び出し、(
頑住吉注:バレルの後退時に)これを図1の位置まで連れて行く。前のアームはトリガーバーとして役立つ。この目的で前のアームはくさび型の突起a1を持つ。ハンマーがコックされている時にトリガーuがそのスプリングf3の力に逆らって後方に引かれると、スパイクvが上端を使ってくさび突起a1を押し(図1)、そしてこれによりコック・トリガーバーaの前のアームを内側に動かす。それ故後部は外側に動き、これによりハンマーから滑ってそれ、ハンマーを発射のために解放する。

 自動的な射撃の際はバレルがロード運動実施の後に再び後ろの位置に達したとき、まだトリガーは引かれている。トリガーのスパイクvがトリガーを放した後再び突起a1の前に位置し、次の射撃を可能にすることができるように、トリガーバーは前部が垂直方向に弾性を持つよう作られている。そういうわけでトリガーは突起a1の前進の際にいくらかこれを持ち上げることができ、突起a1の下を越えて滑る。両部品が互いに滑ってそれ、突起a1が再び下に弾性で戻るまでである。

 このコッキングバーは後端に内側に突き出た突起a2を備えている。この突起はバレルのオープンの際発射済み薬莢の底部に当たる。薬莢は右サイドがここでは描かれていないエキストラクターに保持されている。そういうわけで薬莢は既知の方法で前端が右に動かされ、銃から投げ出される。

 圧部品pはこの発明の本質を変えることなくここで表現された方法とは別の方法で打撃スプリングに作用させることができる。例えばリンク部品nは軸eの上で圧部品pにあてがわれるように作ることもできる。圧部品pをグリップkの後ろ側に移すことも可能である。そうすれば直接打撃スプリングに作用させることができる。

 この発明を発射時に後方に動く閉鎖機構部品を持つ銃に使用する際は、ハンマーまたはファイアリングピンが既知の方法で閉鎖機構によってコック位置に引き動かされる。その際はコッキングバーaはなくなり、その上でハンマーまたはファイアリングピンの保持および発射は普通の方法で行われる。

パテント請求
1.ファイアリングピンまたはハンマーが銃のロード運動によってそのコック位置に後退させられる自動火器のための発火設備であり、この場合打撃スプリングが全く圧縮されないか、あるいは一部のみ圧縮され、一方打撃スプリングはグリップから突き出している圧部品(p)と結合されているのでこの圧部品によってグリップを握った際発射のために要求される張力を与えられることによって特徴付けられる。

2.請求1のような発火設備であり、ハンマー(h)に作用する打撃スプリング(f1)がリンク部品(n)によって圧部品(p)と結びついていることによって特徴付けられる。

3.請求1および2のような発火設備であり、打撃スプリング(f1)が上端はハンマーの突起に、下部は圧部品(p)のリンク部品(n)に、そして両者の間はマガジンキャッチにあてがわれているので、打撃スプリングが同時にマガジンキャッチスプリングおよびセーフティスプリングとして作用することによって特徴付けられる。

4.請求1のような発火設備であり、圧部品(p)がレスト状態の際にそのフリーな端部を使ってトリガー(u)の下部を押し、トリガーが発射のために引かれることを妨げ、この目的でトリガーがその下端をめぐってスイングし、上部を使ってトリガーバーを作動させることによって特徴付けられる。

5.請求4のような発火設備であり、コッキング・トリガーバーの前のアームがくさび型の突起(a1)を持ち、トリガーを引いた際トリガーが突起の斜面に作用し、そしてこれによりトリガーバーをハンマーと干渉外に置き、その上コッキング・トリガーバーは垂直方向に弾性を持って作られ、この結果トリガーバーがバレル後退時に後方も傾斜した突起(a1)を使って後方に引かれたトリガー上を滑り、トリガーを放した後に再び下へと急速に動き、トリガーの後方に位置することができることによって特徴付けられる。

6.請求4および5のような発火設備であり、バレルのピン(d)をめぐってスイングするコッキング・トリガーバー(a)が、バレルの前進時にその後ろのアームのコッキング突起(a2)を使ってハンマー(またはファイアリングピン)のレスト(h1)に当たり、そしてこれをバレルの後退時に一緒に後退させ、コッキングし、その際このコッキング突起(a2)は前に向かってシャープに削られており、このためバレルの前進時に発射済み薬莢の底部に当たり、そしてこれを投げ出すことによって特徴付けられる。



 これは本質的にはブローフォワードとは関係ない、通常より高い安全性を狙った特殊な発火機構に関する発明です。シアをロックするなどの方法でコックされたハンマーやストライカーが前進できないようにする通常のセーフティは、万一例えば強烈な打撃などによってセーフティやセーフティにロックされる部品の一部が欠けたりすれば理論上発射してしまう可能性があります。しかしこの構造ではハンマーやストライカーがコック位置にあっても射手が銃を握っていない限りメインスプリングは弛緩していて発射可能性はないわけです。方法は違いますが、この性質はH&K P7のスクイーズコッキングにやや似ています。「圧部品」を握っていない図1の状態では板バネのメインスプリングは一直線に伸びていて、この状態で銃を落として万一ハンマーがレットオフしても発射可能性がないのが分かります。「リンク部品」はコの字型をしていて、メインスプリングは図7の左の内側にあてがわれています。軸eをめぐって回転する「圧部品」上部を握りこむことによって後退させると、軸の下は前進して軸oによって結合された「リンク部品」を前に引き、内側にあてがわれたメインスプリング下端も前進して結果としてハンマーに必要なテンションが生じるわけです。軸eはかなり下に位置しているので梃子の原理によって軽い力でメインスプリングを曲げることができ、またメインスプリング1本で「圧部品」のリターンスプリングとマガジンキャッチスプリングをも兼ねているのはうまいデザインと言えるでしょう。外観上グリップセーフティのように見える「圧部品」は本当にグリップセーフティとしても機能しています。このシステムは通常のオートピストルにもほとんどそのまま応用可能であり、事実1920年代に小ヒットした中型オートのオルトギースはこれに似たシステムを持っていました。この銃はおおざっぱな外観はブローニングM1910に似ていて同様にストライカー式でしたが、メインスプリングの後端がグリップセーフティの上部で支えられており、グリップセーフティを握り込んでメインスプリング後端を前に押さないと発火に必要なテンションが得られないというものでした。この銃のパテントは1918年に取得されており、どういう理由かは分かりませんが今回紹介されたシュワルツローゼのパテントには触れなかったようです。パテント請求の項目1にもろに触れそうに思うんですが。

 この安全システムと不可分に結びついたものではありませんが、今回のパテントにはこの銃のコッキングおよびディスコネクトのシステムについての内容も含まれています。普通に考えるとバレルが前進、後退する銃で後方にあるハンマーをコックすることはできないように思われ、事実マンリッヒャーはダブルアクションオンリー、日野式は「オープンバレルファイア」といった別の方法を取っていました。しかしシュワルツローゼは実に巧みな方法でブローフォワードなのにハンマーが自動的にコックされるシステムを実現しました。要するにバレル側面でシーソー運動するバーがバレルの前進時にはハンマーを素通りし、後退時にはハンマーの突起をひっかけて後方に押し戻し、さらに発射まで保持するわけです。トリガーを引くとシーソー運動によってハンマーが解放されますが、このバーの働きとトリガーとの関係は九四式にやや似ています。発射前、メインスプリングはハンマー、トリガーバーを介してバレルを前進させる、つまり閉鎖を解除しようとしていることになりますが、メインスプリングのテンションはリコイルスプリングに比べれば弱いので問題ないようです。

 ディスコネクトのシステムはちょっと分かりにくいです。普通に考えるとトリガーを引いてトリガーバーを内側に動かした時と同じ状態で引かれ続けているトリガー上端の位置にトリガーバーが戻ってきたら、トリガーバーは弾性で上に曲がるよりも再び内側に動かされてハンマーが解放され、フルオートになってしまうように思えます。



 上は側面から見た図、下は下から見た図です。黄緑のトリガーバー前部に付属している突起は前と後ろで面取りされている方向が違います。トリガーを引いて青のトリガー上端が後退すると突起は矢印のように斜面に沿って内側に動かされます。そしてバレル後退時には確かに再びトリガー上端に当たりますが、今度は当るのが上の図の左部分のような斜面なので内側には動かされず、トリガーバーが弾性で上に曲がりながらトリガー上端の上に乗り上げ、通過するとパチンと下に戻るわけです。個人的にはあまり気持ちのいいシステムではありませんがうまく考えたものだとは思います。

 今回まででこの銃に関するパテントの内容に関する話は終わり、次回からはこの銃の量産バージョンがどのように売り込まれたのか、どのようなディテールになっていたのか、どんなバリエーションがあったのか、そしてどのように世間に受け入れられたのか、といった話に移っていきます。










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