シュワルツローゼピストル その12



(頑住吉注:上がノーマルなM1909であり、下は次回登場するアメリカ輸出型です)

 今回シュワルツローゼは彼のパテントのあり得る購入者を待つのではなく、彼の会社「A.W.Schwarzlose GmbH,Berlin」(頑住吉注:「ベルリンA.W.シュワルツローゼ有限会社」)内で申請されたパテントを使用したピストルの製造を行った。

 彼の会社の広告部門は非常にアクティブだったように思われる。というのは、これまでの彼の発明についてほとんど読むことができない(マシンガンという例外はあるが)一方、この銃に関しては興味深い専門誌からの記事を次のように挙げることができるからである(頑住吉注:ちなみにピストル群よりもはるかに成功した彼のマシンガンは1905年に設計されています)。

 1909年度刊行分の「陸軍および戦争の本質に関するv. Lobels年報 」はそのレポートを次のような言葉で始めている。

精力的な銃器技術者シュワルツローゼは全ての国においてセルフローディングピストル システムシュワルツローゼ M/09のパテントを取得した。これはブローニングの模倣ではなく新しい視点から設計されたセルフローディングピストルである

 次には既知の他のピストル群に対するメリットが明示される。有名な雑誌「射撃と銃」は1909年12月1日におけるそのこの銃に関する長い記述(筆者は当時の「銃の大御所」Georg Bock)を次のような言葉で始めている。

これまでに取り扱い商に持ち込まれたスプリング閉鎖機構を持つポケットピストルは全て固定バレルと強いスプリングでバレルに押しつけられた可動の閉鎖機構部品を持っている。

 我々はA.W.シュワルツローゼによって設計されたポケットピストルに新しい原理を見出す。この銃が今マーケットにやってきた。


 「射撃および爆薬の全存在に関する雑誌」(他の場合そう頻繁にピストルは取り上げない)も、1909年12月1日にこのピストルをレポートし、そのメリット(ブローニングの模倣ではない点など)を取り上げないわけにはいかなかった。1909年12月15日の号でシュワルツローゼはこのレポートに対しこのピストルの1/4ページ広告をもって「感謝した」(頑住吉注:ヨイショ気味の記事を載せてくれた見返りに広告を載せ、雑誌の収入となる広告料金を支払ったということで、このあたりは現在の日本のトイガンメーカー、専門誌の関係と全く同じですね)。

 銃器取り扱い商はこのピストルをその品揃えに喜んで受け入れ、そして初登場以後の複数年にも通販会社のカタログの中にこのピストルを見つけることができる。例えば1911年のALFA社のカタログにである。かなりの数が生産されたに違いなく、1920年代まで全世界に輸出された。銃器ナンバー345、477、1518、5710が知られている。そしてこのためコレクションの中にはブルーイング、ニッケルメッキ、銀メッキされた銃すら見られ、それらにはハードラバー、木製、パール製のグリップが付属している。

シュワルツローゼ モデル1909
 モデル1907およびモデル1908という名称をしばしば(特にアメリカの)参考文献中に見ることができるが、これは明らかに間違いである。有限会社シュワルツローゼのオリジナルの取扱説明書の中でこの銃は明白に「セルフローディングピストル シュワルツローゼ1909」として紹介されている。

 そしてこの取り扱い説明書はドイツ語、英語、フランス語で作成され、次のような内容である。


全般
 このセルフローディングピストル「システム シュワルツローゼ M1909」は程度にかかわらず「ブローニング」の都合の良い模倣品ではなく、完全に新しい視点から設計された連発ピストルであり、その主要な特徴は次の通りである。

前方にスライドするバレル。そしてこれによるブローニングと同じ銃身長において短く、丸みを帯びた形状。そういうわけでより小さい重量。そしてポケットの中での快適な携帯。

可動の閉鎖機構部品がない。このことは銃の構造と取り扱いを非常に単純にし、そしてその上発射時に例えば後方に飛ぶ部品あるいは駆動ガスによる射手にとっての全ての危険を根底から取り除いた。

打撃スプリングの弛緩による自動的なグリップセーフティ。これによるマガジンが満たされ、そして1発の弾薬がバレル内にある状態でのポケットの中での完全に危険のないピストルの携帯。このため全部で8発が使用のために存在する。射撃姿勢に入る際のいかなる時間的損失もないセーフティ解除。

圧点を持つトリガーの使用、および標的射撃のためのオートマチックセーフティの固定機能。これにより非常に安定した照準が可能となる(
頑住吉注:「圧点」とはレットオフ前に一時トリガープルが重くなるポイントのことです)。

クリーニングのための工具なしでの2つの主要部品への銃の最も素早い
分解。銃の全ての部品はベストのスチール製であり、バレルはクルップのバレル素材用坩堝溶解鉄製で、ベストの精密マシーンで交換可能に製造されている。

このピストルの取り扱い

a)マガジンの充填

1.左手の親指でマガジンキャッチ13を後方に押し、その後人差し指でマガジン26を下方に引くことによって空のマガジンをピストルのグリップから取り出す。マガジンはピストルがセーフティ状態のとき、つまりセーフティ部品16がグリップから突き出しているときだけ交換できる。

2.最初の弾薬をフォーロワ27の上に置き、下に押し込み、そしてその後に後方に向けリップ29の下にスライドさせる。このように2から7発目まで続ける。

b)ピストルの装填
1.この充填されたマガジンを再びグリップ内に挿入する(マガジンキャッチ13が底部の下にパチンとかかるまで)。

2.滑り止めセレーションのある側面を使い、左手でバレルを力強く前方に引き、そしてその後突然に放す。グリップを包んでいる右手の人差し指はこの際トリガーガードの前に置かなくてはならない。装填時に無意識にトリガーを引いてしまうことによる早すぎる発射を防ぐためである。

 最も上のマガジン内弾薬はバレルを前に引いた際にバレルレール31の突起30によって連れて行かれ、マガジンリップ29から解放される。この結果マガジンスプリング28がマガジン内弾薬をいくらか持ち上げ、最も上の弾薬をチャンバー後方、別の言い方をすれば包底面32の前に急速に動かす。バレルを放した後スプリングボルト3のリング状隆起部33とグリップフレーム2のブリッジ34の間で圧縮されていた閉鎖スプリング4がバレルを再び急速に後退させる。その際最も上の弾薬はチャンバー内に乗り上げる。こうして銃は装填され、発射準備状態となる。

c)射撃
1.セーフティ解除。ピストルを右手で持ち、第3、4指でセーフティ部品16を完全にグリップ内に押し込む。これで銃はセーフティ解除され、打撃スプリングは完全な力までテンションを持つ。

 ピストルは射撃の際、目的にかなった形で図5から明らかな方法で保持する。こうすれば銃が最もよく手の中に位置し、そしてリコイルショックがもっとも小さく感じられるようになるからである。



図5 ピストルの正しい保持 
(頑住吉注:うーん、もうちょっとハイグリップした方が良かないですか)

 ハンマーのコッキング状態は、その後はハンマーがコックされていない際よりもセーフティ部品16の押し込みが重くなることによって感じられ、そしてハンマー軸11の光沢ある面が左のグリップパネル下に出てくることによって視認できる(
頑住吉注:後者は意味が不明ですが、あるいは最初のカラー写真のように左のハンマー軸はグリップによって半分隠れる形になっており、ハンマーダウン状態で露出する部分は黒染めされているが、コックすると回転して現れる部分はシルバーになっていた、ということかも知れません。ただそれだと軸がハンマーと一体になってフレーム内で回転する必要がありますが、空回りを止める仕組みは少なくとも写真からは確認できません。)。

2.発射。右手の人差し指でトリガーを引き、発射後再び放す。トリガーは後方に引く際まず上の、そして次に下のプッシュノーズを使ってトリガースパイク20をピン21をめぐってスイングさせる。その後スパイクのクサビ状突起36がトリガーバー5の前端を押すので、前部は内側に動く。したがってバレル内の垂直のピン6をめぐってスイングするバーの後ろのアームは外側へと動く。この方法でバーはハンマー10に干渉しなくなり、そしてハンマーは打撃スプリング12によって前方に急速に動かされ、弾薬に点火する。発射時バレルは自動的に前方へと急速に動き、空薬莢を投げ出す。引き続いてのバレル後退によって第2の弾薬がチャンバー内に入り、一方トリガーバー5はハンマー10を一緒に後退させ、コックする。そういうわけでこのピストルは各発射後自動的に再び装填され、発射準備状態となる。

 発射時にセーフティ部品の反対圧力からの右手の負担をなくすため(これは特に標的射撃の際に価値を持つ)、セーフティ部品を固定することができる。このためには右手の親指でセーフティ遮断機23のボタンを上にスライドさせ、一方左手でセーフティ部品をグリップ内に強く押し(図6)、そしてその後にボタンを放す。トリガースプリング22はその後セーフティ遮断機23をセーフティ部品16のレスト35の前にスライドさせる。この状態のピストルは常にセーフティ解除状態である。セーフティ状態にするにはセーフティ遮断機をいくらか上に押し動かす。するとセーフティ遮断機はレスト35と干渉しなくなる。打撃スプリングはその後リンク部品15(その後方は打撃スプリングに、前方はセーフティ部品16の下のレバーアームに触れている)を通じてセーフティ部品の上のアームをグリップから外へと動かす。その後ピストルは再び安全状態である。



図6 セーフティの機能停止

d)分解
 ピストルを左の手で持ち、右手でバレルを可能な限り前方に引き、圧力に逆らって左手の親指でバレル後端をこの位置に保持する。このときバレル下に見えるスプリングボルト3を、バレルをわずかに緩めた状態で垂直に上に押す(図7)。このボルトがバレル内の受け部37から解放され、クリック音と共にグリップフレームのレスト38内に入るまでである。バレルはその後グリップフレームから前方に引き抜ける。



図7 バレルの取り出し

 このピストルはクリーニングロッドの助けを借りても分解できる。このためにはバレルを約1/2cm前方に押し動かし、クリーニングロッドの先端をスプリングボルトの右側にある穴に差し込み、ボルトをクリーニングロッドを使って可能な限り前方に引き、そしてその後ボルトが前述のレスト38にパチンとかかるまで上に押す。

e)組み立て
 バレルの誘導レールをグリップフレームの適合する誘導ノッチ内に押し込む(スプリングボルトがバレル下に見えるまで)。

 スプリングボルトをグリップフレームのレスト38から解放し、そして再びバレルと連結させるためにスプリングボルトの前端を押し下げると、閉鎖スプリング4はボルトをバレルごと後方に急速に動かす。

f)アンロード
 マガジンを取り出し、さらにバレルを前方に引く。これによりバレル内にある弾薬は投げ出される。

g)クリーニング
 バレルは各射撃後内側も滑り面も乾拭きし、再び良好にオイル付けしなければならない。グリップフレームの滑り面と包底面も同様のやり方をする。



ピストルの部品(部品名称に関しては図8を見よ)




図8 モデル1909の断面図

1=バレル、2=グリップフレーム、3=スプリングボルト、4=閉鎖スプリング、5=トリガーバー、5a=前部トリガーバースプリング、6=保持プレート付きピン、7=後部トリガーバースプリング、8=エキストラクター、9=エキストラクタースプリング、10=ハンマー、11=ハンマー軸、12=打撃スプリング、13=マガジンキャッチ、14=マガジンキャッチ用ピン、15=リンク部品、16=セーフティ部品、17=セーフティ部品用ピン、18=トリガー、19=トリガーピン、20=トリガースパイク、21=トリガースパイク用ピン、22=トリガーおよび遮断機用スプリング、23=セーフティ遮断機、24=グリップパネル、25=グリップ固定ネジ、26=マガジン、27=フォーロワ、28=フォーロワスプリング、29=マガジンリップ、30=突起、31=バレルレール、32=包底面、33=スプリングボルトのリング状隆起部、34=グリップフレームのブリッジ、35=セーフティ部品のレスト、36=スパイクのクサビ状突起、37=受け部、38=グリップフレームのレスト。


テクニカルデータ


名称:シュワルツローゼ、モデル1909
設計者:A.W.シュワルツローゼ
パテント申請:1907年
メーカー:ベルリンA.W.シュワルツローゼ有限会社
口径:7.65mmブローニング
全長:140mm
銃身長:105mm
全高:110mm
全幅:24.5mm
重量:530g
ライフリングピッチ:200mmで一回転
ライフリング山部径:7.57mm
ライフリング谷部径:7.75mm
ライフリング山部幅:2.3mm
ライフリング角度:6.9度、右回り
システム:固定された閉鎖機構と前方にスライドするバレルを持つガス圧ローダー
セーフティ:グリップフレーム内前面
マガジン:7発用


 確かに銃器発達史の本流からは全く外れた、絶滅したシステムではあるんですが、見れば見るほど巧妙な設計で、よくこういうアイデアを思いついたなあと感心します。なお、「Faustfeuerwaffen」の著者は、「シュワルツローゼピストルの場合この強いリコイルショックが、マガジン上部に位置する弾薬が一部マガジンから出、その前にある空間内に滑り、弾丸がいくらか上に傾くという結果をもたらす。するとすぐ弾薬は前方に走るバレルによってフリーにされる。後退するバレルはその後でこの弾薬をチャンバー内に受け入れる。この再装填の経過は可動のスライドを持つセルフローディングピストルの場合よりはるかに直接的でなく、信頼性にも欠ける。さらに、ハンマーに特別なコック設備が必要になり、薬莢の投げ出しが次の弾薬によってなされねばならないことも考えるべきである。」と書いていますが、これは不正確な記述でしょう(ちなみに私はこの記述からこの銃がダブルアクションオンリーかスクイーズコッカーを毎回握らなければならない、また空薬莢が次弾の上昇によって押し出されるというようなシステムなのかと思いました)。この銃の場合通常のオートピストルにおいて「閉鎖機構がマガジン最上部の弾薬を前に押し抜く」のと同様に「バレルと連動する部品がバレルの前進時にマガジン最上部の弾薬を前に押し抜く」という単純なシステムですし、この部品はハンマーのコック位置への保持も排莢も同時に受け持ち、決して通常システムよりも複雑だったり迂遠だったりするわけではないと思われます。発射時にバレルも前方に向け「発射される」ためリコイルショックが大きくなるという問題点についてはここでは触れられておらず、事実感じられる程度だったのかについては分かりません。ただ、この銃の場合後退する閉鎖機構がないため通常の銃よりもハイグリップが可能で、マズルジャンプが小さくできるという傾向もあったかもしれないという気がします。

 「ブローニングと同じ銃身長において短く、丸みを帯びた形状。そういうわけでより小さい重量」という点について事実かどうかブローニングM1910と比べてみましょう。ちなみに1910年というのはベルギーにおけるパテント取得年で、マーケットに登場したのは1912年のことだったようです。

ブローニングM1910(7.65mmタイプ) シュワルツローゼM1909
全長 153mm 140mm
銃身長 88mm 105mm
重量 590g 530g
マガジン装弾数 7発 7発

 ちなみに私はこの銃の形状を見て口径6.35mmのベストポケットピストルかと誤解していましたが、それは確かにこのサイズの中型オートよりも「短く、丸みを帯びた形状」だからです。データを見てもM1910より全長、重量が小さいにもかかわらず銃身長が大きいのが分かります。マガジン装弾数は同じですが、ストライカーに発射に必要なテンションを持たせたままM1910を携帯するのはやや不安であるのに対し、シュワルツローゼならばハンマーはコックされていても発火に必要なテンションはなく、さらにトリガーも固定されているので安全に携帯でき、実質的に1発多いことになる、というメリットが主張されているわけです。ちなみにオートマチックファイアリングピンブロックは当然ありませんが、この銃の場合ファイアリングピンはハンマーに付属しているので銃口を下にして落としても慣性でファイアリングピンがプライマーを突いて発火するということはあり得ません。

 当時の銃としては非常に安全性が高く、ブローニング系より素早く分解でき、携帯性に優れているなど多くの長所を持ったこの銃ですが、あくまで「シュワルツローゼのピストルとしては多数が製造、販売された」という程度に留まったようです。実際検索してもこの銃に関する詳しい解説ページ、画像には行き当たりませんでした。しかしこの銃、売れないと分かっていてもモデルアップしてみたいです。












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