シュワルツローゼピストル その3


 シュワルツローゼは自分の発明がどのように受け入れられるかを知る前、そしてこのパテント(頑住吉注:前回紹介したもの。いろいろな言い回しがされていて分かりにくいので以下黄文字で表記します)が1895年11月18日に与えられる直前に早くも、1895年10月1日に彼の新しい発明、「後退時に自転する閉鎖機構ケースと直線的に誘導される閉鎖機構シリンダーを持つ自動火器」(これも同じコンセプト下のもの)をパテント申請した。これは1896年12月10日にナンバー88,542の下に彼に与えられもした。これは1894年5月19日におけるパテントナンバー83,892の追加でもあった。

 今回彼は住所をもはやポツダムではなくベルリンと申し立てている。彼が閉鎖機構に変更を加えたこのピストルでは、口径7.63mmモーゼル弾薬用(リムレスという点も)に設計され、そしてトリガーがリング状の形になっていたことも目を引く。

 このナンバー88,542を持つパテント書類は次のような文面を持っていた。

パテント書類ナンバー83,892では、発射のリコイルショックがバレルとそれに固定された閉鎖機構ケース(頑住吉注:バレルエクステンション)および閉鎖機構シリンダー(頑住吉注:ボルト)を銃床(頑住吉注:フレーム)上で短距離高速で後退させるという火器が記述されている。この場合閉鎖機構ケースの角のあるノッチが銃床上の固定した突起上を滑り、これによりケースとバレルが右に回転させられ、バレルと閉鎖機構シリンダー(これはこの回転を一緒に行わない)の間のロックが解除される。その後、シリンダーがその慣性によってさらに後方へといっぱいに滑る一方、バレルとケースは停止して留まる。この結果発射済み薬莢は投げ出され、新しい弾薬がバレルと閉鎖機構シリンダーの間にマガジンから上昇してくることができる。記述されたシリンダーのこの運動によって、同時にファイアリングピンがコックされ、そしてさらにレバーを使って打撃スプリングが圧縮される結果、打撃スプリングは弾薬を前方に押し動かしながらまずシリンダーをバレルに向けて前進させ、そしてその後シリンダーとバレル双方をまとめて再び発射位置へと前進させ、バレルの閉鎖が完成される。つまりこの銃は各発射の後、再び発射のための準備ができる。

 特徴を述べられた運動経過は今や手元にある発明によってこのように変わった。すなわち、バレルとケースがシリンダーの再度の前方への急速な動きの際にまず短距離一緒に前方に滑る。マガジン一番上の弾薬が解放されるまでである。その後まずバレルとケースは、さらに急速に進んだ閉鎖機構シリンダーがバレルに当たるまで停止して留まり、すると両者は一緒に発射位置へと前方に滑る。

 バレルの前方への急速な動きは、手元にあるモデルの場合特別のスプリング(同時にトリガーも動かす)によってなされる。一方エキストラクター、エジェクター、トリガースパイクスプリング
(頑住吉注:前回のパテントにおける、ボルトに付属したバネ性を持ったシア)はたった一つの部品、トリガーバーによって代替されている。1本の角のあるノッチの代わりに今や閉鎖機構ケース上には2つのそのようなものがあり、これは互いに反対側に位置している。

 添付された図の中では次のことが示されている。

図1ピストルの外観

図2 銃の縦断面。閉鎖機構は閉じられ、ファイアリングピンは前進している。

図3 同じ断面図。閉鎖機構は完全にオープンしている。

図4 同じ断面図。閉鎖機構は前進の途中である。バレルはその中間位置にある。

図5〜13 個々の部品の外観を複数方向から示している。

図14 銃床の図1におけるx-y線での水平断面図を分かりやすく示している。

図15 システムの後方からの外観を示している。

 この銃は基本的には閉鎖機構ケースの付属したバレル、ボルト(
頑住吉注:他では「閉鎖機構シリンダー」、または略して「シリンダー」と呼ばれていますが、何故かところどころ別の名称で呼ばれています)、弾薬マガジンの付属した銃床からなっている。このピストルは簡単に、そして工具の助けなしにこの3つの主要部分に分解できる。ボルトも何秒もかからずに分解できる。

 バレルは円筒形の閉鎖機構ケース(図12)にねじ込まれ、共に銃床の2つのリングrr内で前後に押し動かせるように収納されている。後ろのリングにはリベット止めされた2つの突起kk(図1および15)があり、閉鎖機構ケースの2つの角のあるノッチhh(図12)がこの上を滑り、前後運動の際同時にケースおよびバレルに共通の縦軸をめぐる回転を強いる。

 閉鎖機構ケースはその縦穴内に閉鎖機構シリンダーを受け入れ、前部の上下に弾薬もしくは薬莢が通るための切り取り部を持つ。一方後下部にはコッキングレバーのための縦の切り取り部がある。前内部には4つの閉鎖用突起wがある(図3、4、12)。

 全長にわたって丸く削り加工された閉鎖機構シリンダーC(図6)は回転なしにケース内で誘導される。シリンダーは前部に全シリンダージャケット周りに回転によって削り込まれた横方向のノッチnを持つ。そこから4つの縦方向のノッチn1がシリンダー前面へと伸びている。これらはシリンダーの前進時にケースの4つの閉鎖用突起w上を滑る。この結果閉鎖用突起は前述のケースの回転の際に横方向のノッチn内にねじ込まれ、そしてこれにより発射ガスの後方への押しを受け止めるバレルの閉鎖機構シリンダーとのロックを結果として引き起こす。シリンダーはその縦穴内にファイアリングピン(図7)を受け入れ、このファイアリングピンにはそのリング状隆起部tの切り取り部t1を通り抜けて打撃スプリングfがねじってかぶせられている。

 2つの回転軸oをめぐって閉鎖機構シリンダーの切り取り部c1内で振れるトリガーバーv(図5)はファイアリングピンをコッキング位置に保持する。その後ろのアームがファイアリングピンの後退時にそのリング状隆起部tの前に当たることによってである。このバーの前のアームはツメを持ち、これはボルトの閉鎖時には薬莢のエキストラクター用ノッチ内に位置し(図2)、閉鎖機構のオープン時にはバレルからこれを取り除く。

 シリンダーの
(頑住吉注:上下)両側にあるスリットc内には、回転軸d(図10)上で回転可能なコッキングレバー(図9)がひっかけられている。コッキングレバーの下端は銃床の「回し金」kに軽くあてがわれ、一方上部はコッキングスライダーi(図8)と共にファイアリングピンのスリットu内を動く。コッキングスライダーは打撃スプリングfに後方の受け部を提供する。コッキングレバーは閉鎖機構シリンダーのいかなる回転も阻む。コッキングレバーは閉鎖機構シリンダーが後方に滑る際に下部が銃床の「回し金」kによって保持し続けられ、その回転軸dをめぐって前方に回転する(閉鎖機構シリンダーを基準に)ことを強いられる。この際打撃スプリングは前方に駆動されるコッキングスライダーによって後方から前方へと圧縮され、緊張させられる(図3)。したがって打撃スプリングは閉鎖機構シリンダーをコッキングレバーを使って常に前方に駆動しようと努める。閉鎖機構シリンダーの後退の際、回転軸dにexcentrischに形成された面eはスリットuの後面において(図7)コッキングレバーを圧する(頑住吉注:「excentrisch」は辞書に載っていませんが、英語のエキセントリックと同じ語源を持つ単語でしょう。文脈上軸に対して同心円状でなくずれた曲面、要するにカムの役割を果たす面のことらしいです)。同時にファイアリングピンが後退し、ファイアリングピンはこの後トリガーバーvによってコッキング状態で保持される(図4)。

 トリガーa(スリットa1によって銃床のネジa2に掛けられている)のブレードa3はトリガーを引いた際にトリガーバーvの前のアームを持ち上げ、この結果後ろのアームが沈下し、ファイアリングピンが発射のために解放される(図2)。スプリングf1はトリガーのブレードa3を常に上へと圧し、一方その前のアームはバレルの隆起部lにあてがわれ、それを常に前へと駆動するという目的を持っている(図2、3、4)。

 銃床のケース状部分は2つのリングrrを使ってバレルと閉鎖機構ケースを誘導するのに役立ち、下は両方の銃床レールに変わり、この銃床レールはそのエンドポイントで銃床底部に結び付けられ、グリップパネルで覆われた取っ手部を形成し、そして内部に弾薬マガジンを受け入れる。弾薬マガジンは金属薄板から打ち抜かれ、内部にはバーによって誘導される弾薬供給スプリングを持つ。これは常に、同様にに誘導されるフォーロワを上昇させるよう作用している。ダブルレバー(図13)は銃床右側面でネジs1によってヒンジ状にセーフティS1に連結されている(図14)。このレバーの後ろのアームから突き出た突起mは銃床の切り取り部を通ってマガジンスペース内に突き出、閉鎖機構がオープンした際の弾薬の流出を妨げる。一方突起pは閉鎖機構ケースのルート内をグリップしている。これは後述のように閉鎖機構ケースを中間位置につかまえておくためである。
前のアームに作用するスプリングeは両突起を常に内側へと圧している。

 この銃の作動経過は次のようである。

 閉鎖機構はファイアリングピンにあるダブルグリップの後方への引きによってオープンされる。コッキングレバーの小さな角度の右回転によって、その下端が銃床のレストk2(図3、4、15)内で止められる。これにより閉鎖機構はオープンされた位置に固定される。その後マガジンが弾薬で満たされ、コッキングレバーは再びレストk2から解き放たれる。続いて打撃スプリングは閉鎖機構シリンダーを前方へと急速に動かし、その際同時に弾薬をマガジンからバレルに押し込み、直後にバレルの閉鎖が完成される。トリガーへの圧力によりそのブレードa3がファイアリングピンの下にあるトリガーバーvを持ち上げる。ファイアリングピンは前方に急速に進み、弾薬に点火する。リコイルショックはこのとき閉鎖機構ケースの付属したバレルと閉鎖機構シリンダーを打撃スプリングとトリガースプリングを同時に圧縮しながら銃床のリングrr内で後方に駆動する。この際閉鎖機構ケースのノッチhの切り立った部分が突起k1上を滑り、バレルの付属した閉鎖機構ケースを右に回転させる。この結果閉鎖機構ケースの閉鎖用突起wは直線的に誘導される閉鎖機構シリンダーの横方向のノッチnから動いて出る。そしてこれによりバレルのロックは解除される。その後閉鎖機構ケースにあるコッキングレバーのための切り取り部の前面q(図3、4、12)がレバーを押し、その後さらに短距離共に直線的に後方に滑ったケースがこれによりコッキングレバーの上端に閉鎖機構ケースと比較して高められた速度を与える。面qは支点kと回転軸dの間に接しているからである。この際軸dは閉鎖機構シリンダーを一緒に後退させる。そういうわけで閉鎖機構シリンダーはバレルから分離し、バレルの隆起部lがケースとバレルの後退を制限するので、閉鎖機構シリンダーはその慣性のため単独でさらに急速に進む。オープンされた位置(図3)に達するまでである。この際トリガーバーはツメsを使って発射済み薬莢をまずバレルから引き抜き、そしてその前のアームが閉鎖機構ケースの切り立った面h2(図3)によって上へと急速に動かされることによって投げ出す。閉鎖機構シリンダーの後退運動はトリガーバーの後ろのアームがケースの隆起部h3に当たることによって制限される。

 リコイルショックの力が絶えるとすぐ、コッキングレバーは打撃スプリングfの効力下で閉鎖機構シリンダーを、トリガースプリングfがケースの付属したバレルを、それぞれ直線的に前方に駆動する。この際マガジン最上部の弾薬がいっぱいに前に押し動かされ、これをホールドしていた突起mの下から出て行き、スプリングによって上へと急速に動かされることができる。その後閉鎖機構ケースのノッチh1の後面(図12)が突起pの後面を突き、バレルとケースを固定する。一方シリンダーは妨げなくさらに急速に進み、弾薬をバレルに押し込む。シリンダーがバレルの近くに来ると、突起pはコッキングレバー(突起pの斜面に作用する。図14)によってケースとの干渉を解かれ、そして今や閉鎖機構シリンダー、バレルおよび閉鎖機構ケースは再び一緒に前方へと動く、この時ノッチhはその切り立った部分を使って突起K1上を滑り、そしてこれにより閉鎖機構ケースを左に回転させる。この結果、システムがその出発位置に再び達した時には、閉鎖用突起wはシリンダーの横方向のノッチn内でロックされている。トリガーバーvにはスプリングのテンションはかかっておらず、圧縮された打撃スプリングによって動かされる。このためその後ろのアームは閉鎖機構シリンダーの前方への急速な動きの際、そして閉鎖機構ケースが中間位置にある時、ケースの背面h1(図4)によって持ち上げられ、ファイアリングピンがそれにあてがわれるまで固定されている。閉鎖機構のオープンの際このレバーはファイアリングピンに接触することなく自由に背面の上を滑ることができる。ケースが最後部位置にあり(図3)、トリガーバーがそれを必要とするようにコッキングレバーがファイアリングピンをいくらかより大きく後方に引いているからである。

 記述された自動的な装填運動は、閉鎖機構がその最前部位置に再び達した時、射手がまだトリガーを引いているほどに急速に行われる。そういうわけでトリガーバーは前進運動の最後にトリガーブレードa3の後面を押し、トリガーをその回転軸a2上でいくらか前方に押し動かす。したがってこのときトリガーバーの前面とトリガーの後面は前後に重なり合って位置する。この結果銃は発射できない。トリガーを放した後もこれらの部品は前述の位置に留まる。スプリングf1がトリガーを上に押そうとしているからである。次の発射を行いたい時、射手はトリガーの前部に圧力を加える。これは簡単に、そして素早く、指を伸ばすことによって行える。これによりトリガーブレードを下へと振らせる。その後スプリングf1がトリガーを再びトリガーバーの下へと入れる。この時射手がトリガーを後方に引くと、バーはファイアリングピンへの干渉外に置かれ、銃は発射される。これにより解説された装填運動が繰り返される。この配置は簡単に、トリガーが各発射後に自動的にトリガーバーの下へと入るようにすることもできる。スプリングf1が現在のように軸a2の下ではなく上に触れた時はこうなる。しかしこの場合銃が各発射後に同時にセーフティ状態とされることを優先している。ことにこの場合のセーフティ解除はいかなる時間の損失をも起こさずにできるのである。

 その上特別なセーフティレバーS1がある。これはその回転軸によって銃床に水平に取り付けられ、ネジs1(これは同時にマガジンレバーも保持している 
頑住吉注:前の部分では「ダブルレバー」とされています)によって脱落が防がれている(図1および14)。この軸は切り取り部を持ち、これはセーフティレバーが上にある時はトリガーバーと閉鎖機構ケースに自由な動きを許す。だがこのレバーが下に回ると、軸の切り取られていない部分がトリガーバーの下に、そして同時に閉鎖機構ケースの切り取り部h5内に当たる(図12)。こうすると前者は下へ動けなくなり、後者は後ろへ引けなくなる。そういうわけで銃は発射されることも閉鎖機構をオープンされることもできない。

パテント請求

1.
パテントナンバー83892にならった自動火器の形式であり、この場合トリガースプリングが同時にバレルの急速な前進を引き起こす。一方閉鎖機構シリンダーの急速な前進は主要パテント同様打撃スプリングによってなされる。

2.
パテントナンバー83892にならった自動火器の形式であり、この場合閉鎖機構シリンダー内の回転軸(o)をめぐって振れるトリガーバー(v)がその後ろのアームでコックされたファイアリングピンを固定する。一方前のアームに配置されたツメ()はファイアリングピンの作動の際薬莢のエキストラクターノッチの中に位置し、これを閉鎖機構のオープンの際バレルから外に引き抜く。

 パウル モーゼルでなくシュワルツローゼが軍とより良い結びつきを持ち、彼がパウル モーゼルの「C96」によって先を越されていなかったら、シュワルツローゼはこの発明によって成功を得ていたと思われる。しかし彼はまたしても幸運に見放され、彼の発明は再び世間から姿を消した。このピストルも決して製造されなかったと思われる。少なくとも現物は知られていない。




 お読みの通り前回のパテントの追加というか改良型の説明となっています。

 この銃は前回のもの同様グリップ内に固定マガジンを備え、ボルトではなくバレルエクステンションが回転してボルトとのロック、アンロックを行い、ファイアリングピンスプリングがリコイルスプリングを兼ねているというユニークなショートリコイル作動方式のオートピストルです。今回はコック時につかむコッキングノブがファイアリングピンに付属しており、これをつかんでファイアリングピンごとボルトを後方に引きます。このときバレルとバレルエクステンションが短距離後退すると同時に回転してボルトとのロックが解除されます。ボルトの後退時、通常の意味とは全く異なるコッキングレバーが回転し、その下端がフレームの何らかの形状にひっかかってボルトをホールドオープン状態で止めるんですが、この仕組み、そしてグリップ内部の固定マガジンへの装填後にどういう操作によってボルトが再び前進するのかは前回同様不明です。シア(エキストラクター、エジェクターを兼務していますがここではこう呼びます)はシーソーのような形でボルト前下部に内蔵されています。図3を見てください。ボルト後退時、ファイアリングピン後部のスリットに入ったコッキングレバー上部のカム状部分がファイアリングピンをボルトよりさらに少々大きく後退させています。ここから少しボルトが前進するとバレルエクステンション内部の隆起にシーソー状シアの下部が当たることによってシアは時計方向にやや回転、つまり後部が上昇し、ここに前進してきたファイアリングピンがひっかかるわけです。弾薬をチャンバーに押し込みながらボルトが前進しますが、図4ではシア先端のエキストラクター部分は弾薬のリムの後ろにあってこのままでは完全閉鎖できません。図がおかしくてパチンとはまれるくらいの段差なんでしょうか。だとしてもこの図ではシア後端がファイアリングピンの根元に当たっていて上には動けないように作図されています。これも図の間違いだとして、シアには独立したスプリングは付属しておらず、ファイアリングピンスプリングのテンションがかかっているだけであり、図4ではどう見てもシア後端と回転軸はほぼ水平に位置し、いったん時計方向に回転させたシアを復帰させることはできないと思われます。また、閉鎖状態でトリガーを引くとシアの前下部をトリガーが押し上げ、シーソー運動で後部が下降、ファイアリングピンがレットオフするというんですが、図2のようにエキストラクター部が弾薬のリムにかんでいる状態ではシアの前部がそれ以上上昇できるはずがありません。私の必死の想像では、シアは図4の状態よりもかなり時計方向に回転した状態にあるのが正しく、エキストラクターのツメはリムより下にあり、この状態で完全閉鎖した後、トリガーを引くことによって前部が押し上げられ、初めてリムをかむのではないかと思われます。ただそれでは図があまりにもひどく間違っていますし、「このバーの前のアームはツメを持ち、これはボルトの閉鎖時には薬莢のエキストラクター用ノッチ内に位置し」という説明も間違いということになります。さらにこれだと装填後、発射をやめてボルトを後退させてもチャンバー内の弾薬は排出されないことになります。まあこのあたりはいくら考えても分からないので飛ばしましょう。

 発射のリコイルショックによってバレルエクステンションとボルトがロックされたまま短距離後退し、バレルエクステンションの回転によってロックが解除されてボルトがさらに後退というあたりはボルトでなくバレルエクステンションが回転するという以外通常のショートリコイルと同じなので問題ないでしょう。ボルト後退の途中、シアの前部がバレルエクステンション内部の隆起に当たって上に跳ね上げられ、空薬莢を排出します。このシステムは「WaffenHQ.de」の1項目で取り上げられたSIG510のシステムとほぼ同じです。この銃の非常にユニークな特徴の1つは、図13のレバーによってボルト前進の途中、一時期バレルエクステンションが固定されることです。しかしどういうメリットを狙ってこんなシステムを新設したのかについては一切説明がありません。あるいはバレルを強制的に前進させるスプリングが新設され、これによってバレルが強く前進しようとすると頑住吉の十四年式のように閉鎖に抵抗が生じてしまうから一時ロックするということなのかとも思いますが、前回のようにバレルを強制的に前進させるスプリングも一時ロックメカもない形では何故いけないのか分かりません。ひょっとすると強力な.30モーゼルのリコイルがファイアリングピンスプリングを兼ねたリコイルスプリングでは受けきれず、これ以上強めると雷管突破を起こすおそれがあるのでやむを得ず補助リコイルスプリングとして強力なバレルリターンスプリングを追加したら抵抗が生じてうまく作動しなかったので一時ロックメカを追加したということでしょうか。そうだとしたら余りにも行き当たりばったり過ぎる気がします。

 閉鎖後、シア先端はトリガーを前方に押しのけます。通常のメカならばトリガーには戻す方向にテンションがかかっており、トリガーを放すとブレードa3と呼ばれている部分がシア前部の下にもぐりこむわけですが、この銃ではきわめてユニークなことにトリガーに逆のテンションがかかっていて、そのままでは次の発射ができません。次の発射のためには射手が意図的にトリガーを前方に押してやる必要があり、だからトリガーがリング状をしているわけです。シュワルツローゼはこの方が安全であり、時間的損失もないと言っていますが、そうでしょうか。どう考えても連射スピードは遅くなり(下手をすればダブルアクションリボルバーに負けるかも知れません)、命中精度にも悪影響が出そうです。また、いったんトリガーを前方に押したらシアをレットオフさせる方向にテンションがかかってしまうわけで、暴発することはないかも知れませんが非常に気持ち悪いシステムという気がします。まあセーフティをかけてシアをロックすれば一応安全なはずですが。

 というわけで、大筋のところは分かるんですが、細部には依然不明な点が残ったままです。

 この記事の筆者は軍にコネがあり、モーゼルに先を越されなければ成功していただろうとしていますが、私にはそうは思えません。確かにこの銃はモーゼルミリタリーよりコンパクトで現在のピストルの全体レイアウトに近いかもしれませんが、装弾数はわずかに5発で(+1はできないはずです)、再装填にはかなりの時間がかかります。緊急時に急いでつかんで撃ったらコッキングレバーで人差し指と親指の間を怪我してしまいそうですし、正しく握って撃ったら非常に高いバレル位置と強力な.30モーゼル弾薬のためマズルジャンプが大きくなり、変則的なトリガーも加わって連射スピードは遅くなるはずです。コストもリボルバーよりかなり高くなると思われますし、信頼性もリボルバーと同等にはできなかったでしょう。たとえモーゼルミリタリーというライバルが存在しなくても、総合的に見て「Faustfeuerwaffen」内の「初期段階におけるセルフローディングピストルの発達」の項目で紹介されたマンリッヒャーM1894ブローフォワードピストル同様、リボルバーに取って代わるほどのメリットはない銃と評価されたのではないでしょうか。









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