シュワルツローゼピストル その4

 しかし1894年5月19日および1895年10月1日におけるこれら両出願(頑住吉注:前回、前々回のパテント)の間に、さらなる1つのシュワルツローゼによるパテント出願がなされていた。つまり1894年12月30日における「固定バレルを持つ自動火器のための膝関節閉鎖機構」であり、これは1897年8月5日にナンバー93213の下に彼に与えられもした。

 シュワルツローゼがこの銃に使用した膝関節方式に関し、彼は基本的な考え方をヒューゴ ボーチャードからインスパイヤされたと思われる(ボーチャードの膝関節ピストルは1893年9月9日にパテント出願されており、また1894年6月25日にパテントナンバー75837として与えられた)。シュワルツローゼはボーチャードのピストルにおける、発射後上下に急速に動く閉鎖機構の膝関節が射手をいらつかせざるを得ないと思っていたようだ。だから彼は自分のピストルではこの関節をフロントサイトを隠さない側面に移した。

 そのような膝関節はボーチャードによる完全に新規の発明ではなかったという事実もある。というのは、すでに1883年および1884年にハイラム マキシムが彼のマシンガンをパテント出願していた。これは同様に膝関節を示していた。その運動が下向きであったにしてもである。

 時代の下った今日では、誰が誰から「カンニング」していたのか、それともほとんど同時に複数の発明家が等しい、あるいは似たアイデアを抱いたのではないか、ということの評価を下すのはどっちみちほとんど不可能である。判定はすぐ出る。‥‥しかしこれが正しいかどうかまでは?

 ナンバー93213を持つパテント書類のテキストは次のような文面を持つ。

提出された発明は、全ての種類の火器に使用可能なシリンダー閉鎖機構を対象としている。この銃は意図する効果次第で自動的速射銃としても、従来型の後装銃(頑住吉注:手動連発銃)としても使用できる。この固定バレル付き銃器は、閉鎖機構が発射時に閉鎖機構シリンダー(頑住吉注:ボルト)の包底面にかかる駆動ガス圧によって自動的にオープンされ、そしてこれにより圧縮された打撃スプリングによって再び閉鎖される銃である。しかし閉鎖機構が発射時の自動的オープンを起こさず、従来普通であったように手で操作しなければならないように設定することもできる。

 添付された図では複数装填ピストルにおける新しい閉鎖機構が分かりやすく説明されている。

図1 ピストルの外観

図2 ピストルの後方から見た外観。いずれも閉鎖機構が閉鎖された状態。

図3 銃の垂直縦断面。閉鎖機構は閉鎖され、ファイアリングピンはコックされている。

図4 オープンされた際のシステムの水平縦断面。

図5 閉鎖機構が閉鎖された状態のそのような図。

図6 閉鎖された閉鎖機構を上から見た外観。

図7〜14 閉鎖機構および発火機構部品の個々の外観。

 閉鎖機構はバレルLに固定された閉鎖機構ケース(
頑住吉注:バレルエクステンション)Hと閉鎖機構シリンダーCからなる。これらはバレルのロックを成立させる膝関節アームa、bによって互いに結合されている。

 閉鎖機構ケースH内部において回転なしに誘導される閉鎖機構シリンダーC(図13)の突起c上には、ボルトdを用いてアームa(図11)が関節様に固定されている。同じ方法で2つの等しいアームb(図10)がボルトeを用いて閉鎖機構ケースの突起h上に取り付けられている。一方アームaおよびbの後端は関節ボルトgによって互いに連結されている。この場合閉鎖機構シリンダーから膝関節アームabを通じて閉鎖機構ケースに伝達されるリコイルショックの受け止めのため、アームbの両端には円筒形の突起部が備えられ、これはアームaおよび突起hの適合する切り欠きをグリップしている。

 打撃スプリングはファイアリングピンs(図14)のシャフトにかぶせられ、その先端はファイアリングピンのリング状隆起部tにあてがわれている。一方後端はファイアリングピン上にかぶせられたコック筒i(図12)にあてがわれている。ファイアリングピン、打撃スプリング、コック筒は閉鎖機構シリンダーの縦穴内で自由に動く。関節アームaの切り取り部内にピンnで固定されているリンクk(図7)はフックを使ってコック筒後部をグリップし、そしてコック筒と共に打撃スプリングに後ろの受けを提供している。

 閉鎖機構シリンダーの切り取り部内の2つの回転ピンuをめぐってスイングするコッキングレバーr(図8)は、その後ろのアームがファイアリングピン後退時のスプリングvのテンション下でファイアリングピンのリング状隆起部tの前に当ることによってファイアリングピンをコック位置に保持する(図3)。このレバーの前のアームはツメa1を持ち、これはトリガーが引かれた際発射済み薬莢のリムの前に位置し、これを閉鎖機構のオープン時にバレルから取り除く。

 閉鎖機構ケースHと一体をなす銃床Kは同時にまた弾薬マガジンMの受け入れに役立つ。マガジン内にはバーSによって誘導される弾薬供給スプリングFが収納され、このスプリングは同様にバーS上を滑るフォーロワZを常に上昇させるよう作用している。弾薬は閉鎖機構のオープン時マガジン内部に上から持ち込まれ、知られた方法でその内部に抑止される。

 この銃の作動経過は次のようである。閉鎖機構のオープンのためにはまず膝関節の後端を、上向きに延長されているつまみgの助けを借りて外へとスイングさせ、そしてその後にシリンダーをそのグリップg1を使って後退させる。突起cがケースのヒール部h1(図1、4)に当るまでである。この際同時にアームaのヒール部a2(閉鎖機構シリンダーの切り取り部を通ってファイアリングピンのリング状隆起部の前に位置している)がリング状隆起部を押し下げ、打撃スプリングfは圧縮されている。その後コッキングレバーrはファイアリングピンを保持する。さらにオープン時、ボルトdをめぐって前方にスイングさせられたアームaはリンクkを一緒に前方に引き、これがコック筒iを用いて打撃スプリングfをファイアリングピン上で後ろから前に圧縮する(図4)。こういうことなので、シリンダーを放した後打撃スプリングは前後反対方向に作用し、閉鎖機構を膝関節上で再び前方の閉鎖位置へと引く。この際同時に弾薬がこの間に満たされたマガジンからバレル内に、前方に向け押し込まれる。

 射手がこのときトリガーl(図9)を引くと、そのブレードがコッキングレバーrの前のアームを持ち上げ、一方後ろのアームは沈下する。これによりフリーとなったファイアリングピンがこの時そのスプリングによって前方へと急速に動かされ、発射を引き起こす。

 発射時の閉鎖機構の自動的なオープンはこの時次のような方法で行われる。

 膝関節の両前部ボルトdおよびeは、銃の縦軸と平行のレベルxy(図4、5、6)に配置されている。この時折り曲げポイントにある関節ボルトgは閉鎖時に完全にxy方向まで動かされず(図5に描かれているように)、このため発射時閉鎖機構シリンダーにかかるガス圧の大部分は膝関節によって受け止められるが、同時にまた膝関節両アームの後端はこの圧によって外側へとスイングもさせられる。つまりバレルのロックは解かれる。その後閉鎖機構シリンダーはバレル内にまだ存在するガス圧によって完全にオープンした位置へと急速に後方に動かされる。この際打撃スプリングはファイアリングピンとコック筒によって上で詳述したように両側から圧縮される。また発射済み薬莢はコッキングレバーのツメa1によって引き抜かれる(図4)。

 その後打撃スプリングは閉鎖機構シリンダーを再び前へと急速に動かし、閉鎖機構シリンダーはマガジン最上部の弾薬をつかみ、バレル内に押し込む。描写されたこの自動的装填運動は急速に行われるので、閉鎖機構がその最前部位置に再び達したとき射手はまだトリガーを引いている。

 そういうわけでコッキングレバーrは前進運動の最後にトリガーブレードの後面に当り、ピンm上で移動可能に収納されているトリガーをスプリングoを圧縮しながらいくらか前方に押し動かす。トリガーを放した後、スプリングoはトリガーブレードを再びレバーrの下に位置させ、そういうわけで新たなトリガーの引きは次の発射を起こし、記述された銃の運動経過を繰り返す。

 使用者がこの銃を普通の後装銃として使いたければ、閉鎖機構の閉鎖時に膝関節をいっぱいに内側へとスイングさせる。すると関節ボルトgはレベルxyを越えてしまう(図6)。こうすれば膝関節は発射ガスの圧力下でさらに内側へとスイングしようとする。だが内側へのスイングは関節がこれにあてがわれている閉鎖機構シリンダーによって阻まれている。そういうわけでこのケースでは発射時に閉鎖機構は閉鎖されて留まり、手でオープンしなければならない。

 銃床上には調節可能なストッパーsが取り付けられ、これが下に位置していると(図1、2)膝関節の完全な閉鎖を許し(図6)、この結果閉鎖機構は発射時閉じて留まる。一方これが上に押し動かされていると、関節は図5に描かれている位置で受け止められ、この結果閉鎖機構は発射時自動的に開かれる。

 ここでまだ特別に指摘することがある。この発明の本質を変えることなく、関節アームaおよびbを折り曲げポイントgの対置するサイドに取り付けることも可能である。すでに1854年に知られるようになったアメリカ製リピーターピストルがこうであるようにである。この閉鎖機構は最近多くの自動速射砲や手で持って撃つ銃に使用されている。しかしここで記述された閉鎖方法は、閉鎖機構がかなり短くなるから、閉鎖機構ケースが駆動ガスの圧力からの負担を軽減されるから、そして特に重要なこととして、ガス圧による閉鎖機構の自動的オープンの際、閉鎖機構シリンダーの動き始めにおいてアームを対置する方向に置いた場合(この場合等しい比率)よりもたった1/4の小さな速度で後退させることができるからこの方法を取っている。

パテント請求

1.固定バレルを持つ自動火器のための膝関節閉鎖機構であり、膝関節の折りまげを「死点位置」上にも他のサイドにも調整できることによって特徴付けられる。これは閉鎖機構を後退しやすく、別の言い方をすれば銃を自動にし、あるいは閉鎖機構を強固にし、別の言い方をすれば自動でなくするためである。

2.項目1で特徴を示された閉鎖機構の型であり、この場合コイルスプリングとして形成された打撃スプリングが同時にオープンされた閉鎖機構の前方への急速な動きをもたらす。


 シュワルツローゼが改良された閉鎖機構を持つ彼のピストルによる大きな成功を期待していたに違いないにしても、彼は苦い落胆をせざるを得なかった。ボーチャードが彼のピストルで、そしてルガーが発展開発されたピストル(最終的に伝説的な「ピストーレ08」となる)で大成功を収めることができた一方、シュワルツローゼは成功の外に留まった。そもそもこのピストルの1挺のプロトタイプが作られたかどうかも疑わしい。少なくともプロトタイプに関しては知られていない。しかしここで、ボーチャードがアメリカに良い関係を持っており(周知のように彼はそこに長年住んでいた)、そしてボーチャードもルガーも極度に商売の才能があったこと、そして同様に最終的にそこで「ピストーレ08」が作られたDWMが巨大コンツェルンであったことも見逃されるべきではない。

 シュワルツローゼが上で説明したパテントの申請に際し、今や住所を「チューリンゲン州内Suhl」と申し立てていたことにも言及すべきだろう。






 非常に興味深い銃です。比較的シンプルな構造であり、図がかなり乱雑な割に理解しやすいと思います。

 この銃はロック機構を持たない「膝関節閉鎖機構」方式(「トグルジョイント」と呼んでいいのかちょっと迷うところですが)のピストルで、トリガー、ディスコネクト、マガジン等のシステムは前に紹介したものとほぼ同じのようです。前回迷いましたが、今回の説明ではトリガーを引くことによってシア兼エキストラクターの前部が上昇し、これによって初めてツメがリムをかむのだということがはっきり分かります。ただ、前回の銃ではシア兼エキストラクターがエジェクターも兼ねていましたが、今回はその点について説明がありません。図3にはそれらしい構造が見えませんが前回の銃と同じなのか、あるいは独立したエジェクターがあってそれにリムが当るのかもしれません。なお、前回書いたようにこのシステムではいったん装填した後に発射を中止し、ボルトを後退させても弾薬が排出されないことになります。

 さて、今回最も注目すべきなのは非常にユニークな「膝関節閉鎖機構」です。パテント書類の終わりの方で触れられている「関節アームaおよびbを折り曲げポイントgの対置するサイドに取り付け」たような構造を持つ「すでに1854年に知られるようになったアメリカ製リピーターピストル」というのはこの年にパテントが取得されたいわゆるボルカニックピストルのことです。要するに普通のトグルジョイントのことで、シュワルツローゼがボーチャードの銃を本当に知らなかったのか、それとも知っていて「ボーチャードだって以前の発明の影響下にあり、別に自分だけが真似っ子ではないのだ」と暗に言いたかったのかは分かりません。ちなみに「あなたの作品はAの真似ですね?」と訊かれた時に「いや、AよりBの影響の方が強いよ」とか言い訳するクリエーターって多いですよね。

 まあそれはともかく、通常のトグルジョイントは(ほぼ)一直線上に伸びた状態から「くの字」に折れ曲がるわけですが、今回のシュワルツローゼの「膝関節閉鎖機構」は折りたたみナイフのように折りたたまれた状態から90度以下の角度に開くというものです。この理由の1つとして閉鎖機構が短くできるというポイントが挙げられ、これは上の図でも非常によく納得できます。次に挙げられている「閉鎖機構ケースが駆動ガスの圧力からの負担を軽減されるから」という理由はよく分かりませんが、3番目の理由とリンクしているのかも知れません。で、3番目の「閉鎖機構の動き始めが遅くできる」という理由は、うーん、分かるような分かんないような感じです。確かにこの形態だと通常のように一気に折れ曲がる形より始めにもたつきそうな気もするんですが、1/4の速度という根拠も含め充分理解できません。本当に動き始めに他の条件が同じである通常型トグルジョイントの1/4という極端な低速になるのなら、これはパーツの形状のみによる極めて特殊なディレードブローバックということになるんでしょうか。

 さらにこの銃できわめてユニークな点は、ワンタッチで手動連発銃にもできるということです。これは理屈上ルガーにも応用できるはずで、ショートリコイルを殺して撃てば手動連発になり、トグルが完全に下降する少し手前で停止させた状態で撃てばMGCモデルガンのようにストレートブローバックになるはずです。もちろん9mmパラベラムを閉鎖機構重量の小さいルガーのストレートブローバックで撃つのは無理で、もっと低威力の弾薬しか使えないことになるでしょうが、あるいはサイレンサーを多用する特殊銃器に応用できるアイデアかもしれません。

 ボーチャードはもちろんルガーの構造より全長が短くでき、射撃時にトグルが視界をさえぎらず、ワンタッチで手動連発にも転換できるといった長所は認められますが、それらと同等の強装弾が使用できたのかどうかは不明であり、後の2つも決定的なアドバンテージにはなり得なかったと思われます。また、装填時に「膝関節を外側に開く」→「ボルトを後退させる」という2動作が必要になる点、前述のように弾薬の排出が面倒である点など問題もありました。ただ、エキストラクターを通常の形式に変え、マガジンを着脱とすれば、ルガーよりコストが安くできそうな点も勘案して、当時としては合格点を出せる内容になり得たのではないかとも思え、量産化されなかったのが残念な気もします。




戻るボタン