シュワルツローゼピストル その6

 シュワルツローゼが彼の不成功から何か意気消沈させられたと思うなら、それは間違いである。1897年5月14日、上に挙げたパテント書類が支給されるより前に早くも彼は自分の「スライド可能なバレルと閉鎖機構シリンダーを持つリコイルローダー」をパテント申請した。彼はこれによって軍における成功を期待した。パテント書類は1899年1月12日、ナンバー100960の下に支給され、次のような文面があった。

提出された発明の対象物は、その閉鎖機構システムが従来の全ての設備と異なり、バレルおよび閉鎖機構シリンダーのみからなるリコイルローダーである。この場合バレルおよび閉鎖機構シリンダーの受け入れや誘導のため、閉鎖機構ケースもバレルケースも存在しない。閉鎖機構シリンダーは直接、そして何らかの中間手段なしで銃床自体の上で誘導される。提出された閉鎖機構はドイツパテント書類ナンバー16563、22865、28453、78545で扱われた既存の閉鎖機構設備とも異なる。というのは、それらには閉鎖機構シリンダーもしくは閉鎖機構ヘッドを銃床上にある滑りレールと結合するため、特別なスライドがあるからである。これはある意味で可動式の閉鎖機構ケースである。こうしたスライドの廃止により、この銃はかなりの単純さを獲得しただけでなく、銃の重量を大きくすることなく閉鎖機構シリンダーの外径を著しく大きくすることが可能になった。後者の事情は提出された設備の場合全く特別な重要性を持つ。というのは、この場合閉鎖機構シリンダー内に収納されている打撃スプリング(同時にまた閉鎖機構シリンダー自身の急速な前進にも作用する)がワイドなシリンダー内ボーリングによって非常に短く抑えられ、またナチュラルハードなスチールワイヤーで作ることができるからである。つまりこの閉鎖機構は結果として比較的短くなり、一方打撃・閉鎖スプリングは耐久性が高い。その上残りのボルト部品も従来よりずっと強くできる。

 さらに外的な汚れが、知られている設備の場合よりもこの銃の実用性により少なくしか影響しないことも強調される。この場合フリーに位置するボルト部品(閉鎖機構のオープン時他の部品内に押し込まれ、汚れが間に挟まることによって装填障害を引き起こす)が存在しないからである。閉鎖機構シリンダーがそのバレルに対して比較的大きい重量のためにリコイルショックによってより大きい仕事能力を得、それゆえ閉鎖スプリングが特別な閉鎖機構ケースを持つ銃の場合よりも大きな力によって克服され得ることも自ずと生じる。さらに銃の単純な構造方式およびオープンに位置するメカニズムによって、万一の装填障害の原因が容易に発見され、取り除けることも強調される。このためにはこの銃が素早く、そして何らかの工具の助けなしに分解できるという事情が実に決定的に寄与する。より重要性は低いものの射手の安全のために意味あることは、バレルもファイアリングピンを伴う閉鎖機構シリンダーも銃に前方から入れられ、そしてそれぞれの部品が分離不能に銃床と結合されたダブルのストッパーを持つ配置である。

 最後にこの新しい閉鎖機構システムが難なく自動式の手で持って撃つ銃、そして小口径砲の全ての種類に使用できるものであることにも言及する。

 図ではこの発明が例としてピストルに使われた状態で図解され、次のようなことを示している。

図1は閉鎖され、コックされ、セーフティのかけられたこの銃の縦断面。

図2は閉鎖機構がオープンされた状態の同じ断面。

図3は銃床を上から見たところ。

図4は閉鎖した状態の銃を前から見たところ。

図5は同じく後ろから見たところ。

図6はオープンされた閉鎖機構をサイドから見たところ。

図7はバレルを後ろから見たところ。

図8はトリガーバーのファイアリングピンとの結合状態。

図9〜12は個々の部品。

 この銃は本質的にはバレルl、閉鎖機構シリンダーc、銃床k1からなっている。銃床はその空洞にされたグリップ内に弾薬マガジンmを受け入れ、そしてトリガーを持っている。

 バレルlは2つのリップr(図7)によって銃床の適合する縦方向のノッチ内で誘導され(図4および7)、そしてトリガースプリングf1によって常に前方に駆動されている。トリガースプリングは前がバレルの突起部h1にあてがわれ、一方後端はトリガーaにセットされた誘導バーa2で支えられている。バレル後端にはリング状のノッチwが切られ(図2)、その後面は発射時シリンダーcの4つの閉鎖用突起a1のための受け部として役立つ。

 閉鎖機構シリンダーはバレル後端の直径を持ち、その前部のより細く回転加工された、そして4つの突起a1を備えたヘッドによってバレル開口部をグリップしている。バレル開口部はこの目的で適合する縦方向のノッチw1を持ち、一方閉鎖機構シリンダー後部は銃床に固定されたリングm1によって誘導される(図1、2、5)。このリングの口金m2は閉鎖機構シリンダーのノッチn内を滑る。このノッチは後端が、シリンダーの後退運動時にシリンダーが同時に左回転するように形作られている。この回転は(バレルは直線的に後退するため)、4つの閉鎖用突起a1によってバレルと結合されているシリンダーのロック解除を引き起こす。

 シリンダー内に収納されたファイアリングピンsのリング状隆起部は前部に2つの「ネジ面」を備え、これは閉鎖機構シリンダー内の「支持面」と同調している。ファイアリングピンはその内部に備えられたノッチo(この中でリング部品m1のピンが滑る)によって回転が阻まれており(
頑住吉注:図5)、このため閉鎖機構のオープン時にシリンダーの左回転によってファイアリングピンはネジによりいくらか後方に後退させられる。この結果ファイアリングピンの先端はシリンダー前面から後方に引っ込み、銃は閉鎖が再び完全に行われるまでは発射し得ない。コイルスプリングfは、ファイアリングピンが前進しようとするようにこれに影響している。

 トリガーバーuはファイアリングピンsのスリットu1内に緩く押し込まれ、そのフック部vによってその中に保持されている(
頑住吉注:図8)。この収納スペースは、このバーがV1をめぐってファイアリングピン内でわずかに、自由にスイングでき、そして上部v(これに打撃スプリングがあてがわれている。図1および2)は常に前方へ、したがって前部は下へスプリングのテンションがかかるようになっている。閉鎖機構シリンダーがバレルから分離する直前、このときバーの前端はスプリングfの力に逆らって銃床sの突起部b1によって少し持ち上げられ、そしてこれによりバレル内の薬莢のエキストラクター用ノッチ内にあるバーuのエキストラクター爪が上昇する。この結果薬莢はシリンダーのさらなる後方への急速な動きに際してバレル外に引き抜かれる。投げ出しはバーのヒール部tがマガジン保持部品の軸に当たり、この結果エキストラクター爪が短距離上に動かされたときに行われる(頑住吉注:図2)。

 セーフティdは軸d1を使って水平に銃床内に収納され、そのミゾd2内をグリップする銃床のバンドによって銃床内に保持される(図3および12)。上部に傾斜をつけたこの軸はノーマル位置(図6)においてはバレルのルート内に突き出し、バレルの動きを制限する。閉鎖機構が閉鎖されている際にセーフティレバーが最も上のレスト部(図6)に回されると、軸上部の削られていないフルの部分がバレルのくぼみ内に当たり、そして同時に下部hがトリガー上に位置する(図1)。こうされた後はトリガーは上に、バレルは後方に動けず、そういうわけで銃は発射されることも、閉鎖機構をオープンされることもできない。その上ファイアリングピンがそれにもかかわらず何らかの原因で急速に前進したとき、トリガーバーが軸のフルな部分にひっかかって止まり、したがってファイアリングピンはプライマーに達することができない。弾薬マガジンmは金属薄板製ケースからなり、10発の弾薬と、この下に図では表現されていないフォーロワ、およびコイル状のせり上げスプリングを受け入れている。このマガジンは下から空洞のピストル銃床内に入れられ、マガジン保持部品eの歯によってそこに保持される。

 マガジン保持部品eはセーフティと似た方法で配置され、同様にバヨネット結合方式で、ただし銃床の左サイドに固定されている(
頑住吉注:このパテント図面ではセーフティは右、マガジンキャッチは左に操作レバーが配置されていますが、量産型では両方左になっています)。マガジンを入れるにはまず閉鎖機構シリンダーをその右サイドに取り付けられているグリップ(図4、5、11)を用いて引き、レバーのウイングe1を右手の親指でレスト1へと押し下げる必要がある(図1)。これにより軸eの突起qが後退させられ、そして同時に軸の上部がトリガーバーuに抗するので、閉鎖機構シリンダーはオープンされた位置(図2)に留まる。この状態で射手は満たされた弾薬マガジンを入れ、ウイングe1を再び上のレストに回す。これにより突起qはマガジンの切り取り部内にパチンとはまり、これを固定する(図2)。一方閉鎖機構はフリーとされ、自動的に前方に急速に進む。最上部の弾薬はバレル内に押し込まれ、バレルは閉鎖される。すなわち銃は発射準備状態である。

 軸eの平らにされた上部は閉鎖機構シリンダーにあてがわれ(図1)、このためマガジン保持部品は閉鎖機構が完全にオープンされたときのみ動くことができる。そういうわけでこれは、マガジンは閉鎖機構が閉じられた際には決して入れることも取り出すこともできないということである。これにより、次のことが最も単純な方法で妨げられる。すなわち、「1.閉鎖機構をオープンすることによって同時にバレル内に弾薬を導くことなく満たされたマガジンを銃に入れること。」あるいは「2.同時にバレル内にある弾薬を除去することなく装填された銃からマガジンを取り出すこと。」(
頑住吉注:たぶん初心者がマガジンを入れたがチャンバーに装填するのを忘れ、緊急時に撃てずあわてること、そしてチャンバーに弾薬がある危険な状態でマガジン交換作業をすることが防がれる、という意味でしょう。ただ後述のように後者には疑問があります

 バレル左サイドには、適合するフライス加工部内に余裕レバーn1(図9)がスイング可能に収納されている。そのバレルを越えて突き出た下端は銃床内の縦方向のノッチ内で誘導され、バレル後退時にノッチの終わりの面にぶつかる。これにより回転の中でレバー上端はバレルとの結合を解除された閉鎖機構シリンダーを増加されたスピードをもって後方に投げ、そしてこのため薬莢を緩めて抜きやすくなる(図2)。

 この場合ここで挙げた部品は発射時には次のような方法で共同作業する。すなわち、バレルはこれとロックされた閉鎖機構シリンダーとともにリコイルショックによって銃床上を短距離一緒に後方に急速に動かされる。その際バレルは直線的に動き、一方シリンダーは同時に左に回転し、そしてこれによりそのバレルとのロックは解ける。その後退によってトリガースプリングf1を圧縮したバレルはその後突起部h1を使って銃床のショルダーk2に突き当たる(図3)。そしてこれにより瞬間的に停止する。

 一方閉鎖機構シリンダーは今や直線的なルートを単独で続行する。閉鎖・打撃スプリングは圧縮され、同時に薬莢はトリガーバーuによって投げ出される。

 後方に急速に動く閉鎖機構シリンダーの力が使い果たされると、打撃スプリングfの対抗圧力は閉鎖機構シリンダーを再び前方に駆動する。同様にバレルはスプリングf1によってすでに前方に押し動かされているが、短いストロークの後にレバーkのフックiによって固定される(
頑住吉注:図6)。

 このレバーkは銃床の適合する切り取り部内に収納され、マガジン保持部品eのピンbによって銃床の右のサイド壁に固定されている(図2、3、6)。閉鎖機構シリンダーのバレルからの分離の直前、このレバーの後端は突起g上にある斜面(ここにシリンダーの切り取り部c1の前面が作用する。図11)によって沈下させられ、これによりフックiはバレルのルート内に持ち上がる。バレルの再びの急速な前進に際し、今度はバレルのノッチl1がフックiに当り、この結果バレルはシリンダーが完全にバレルに向け前進し終わり、レバーの突起gが再びシリンダーの切り取り部c1内に入ることができるまで中間位置(図2)に固定される。

 その後レバーkのフックiはバレルを解放し、するとバレルと閉鎖機構シリンダーはスプリングf1の圧力下で一緒にその前進運動を終え、発射位置に達する。一方ノッチnによって引き起こされた閉鎖機構シリンダーの右回転は、閉鎖機構シリンダーのバレルとのロックを再び完成させる。

 バレルがフックiから解放され、閉鎖機構シリンダーと一緒に前方に滑った直後、トリガーバーuはトリガーブレードaの後面に引っかかったままになっている。銃の前述の作動経過が行われるよりも速くは射手がトリガーを放せないからである。そういうわけでトリガーバーと結合されたファイアリングピンは閉鎖機構シリンダーの再度の急速な前進に際して停止して留まり、そしてこれにより発射に必要なテンションを得る。その後射手がトリガーを放すと、スプリングf1はpをめぐって回転可能なトリガーを前方にスイングさせる。トリガーバーはこのとき打撃スプリングの圧力に負けてトリガーブレードを越え、いくらか前進し、そして最終的に銃床のレストr1にひっかかって留まる(図1、3)。

 このときトリガーが引かれると、トリガーブレードはトリガーバーをレストr1を越えて持ち上げ、ファイアリングピンは打撃スプリングの圧力下で急速に前進し、弾薬の装薬に点火する。この結果前述の銃の作動経過が繰り返される。

 銃の分解の際、射手はセーフティレバーdを図6に描かれている位置を越えて下に回す。その後バレルを閉鎖機構シリンダーごと銃床k1の誘導部から前方に引き抜く。そして左回転と後方への引きによって閉鎖機構シリンダーをバレルから分離する。次に打撃スプリングfを閉鎖機構シリンダーから取り除いた後で、トリガーバーuを閉鎖機構シリンダー内の切り取り部を通ってファイアリングピン内から外し、その後ファイアリングピンを閉鎖機構シリンダーの縦穴から取り出す。

 組み立ては逆の順序で行われる。

パテント請求

1.スライド可能なバレルと閉鎖機構シリンダーを持つリコイルローダーであり、この場合バレルケースおよび閉鎖機構ケースがない状態で、バレルと閉鎖機構が銃床上に配置されたレール上で誘導される。

2.請求1のようなリコイルローダーの型であり、この場合閉鎖機構シリンダーのカーブしたノッチ(n)が銃床の突起(m1)上を滑り、この結果閉鎖機構シリンダーは前後動の際にその縦軸をめぐって回転させられる。一方バレルは回転なしに前後動する。これによりバレルと閉鎖機構シリンダーの間のロック、アンロックが行われる。

3.請求1のようなリコイルローダーの型であり、この場合ファイアリングピン(s)のスリット(u1)内にルーズに収納された、そして打撃スプリング(f)の圧力下にある角張ったトリガーバー(u)がシリンダーの急速な前進時に銃床のレスト(r1)にひっかかって留まり、ファイアリングピンを引き止める。一方前端に配置されたツメは閉鎖機構のオープン時に銃床の張り出し(b1)によって薬莢のエキストラクターノッチ内で上昇し、薬莢をバレル外に取り除く。

4.請求1のようなリコイルローダーの型であり、この場合バレルがロック解除後、後退する閉鎖機構シリンダーによって持ち上げられる銃床内に収納されたレバー(k)のノーズ(i)によってつかまえられ、このためレバー(k)の後端(g)が閉鎖機構シリンダーの再びの前進時に閉鎖機構シリンダーのレスト(c1)内に入るまで前進を妨げられる。

5.請求1のようなリコイルローダーの型であり、この場合打撃スプリング(f)が片方の端はファイアリングピン(s)のリング状隆起部に、他の端は銃床の突起部(m1)にあてがわれ、そしてリコイルショック終了後まず閉鎖機構シリンダー(c)を閉鎖位置に駆動し、その後トリガーバー(u)によってつかまえられているファイアリングピンをトリガーを引いた後に急速に前進させる。


 このパテント申請によってシュワルツローゼは本来この構造に関する権利を確保することのみを望んだ。だがこれが完熟したので、彼はすぐに生産に移行した。そしてこれは「シュワルツローゼ モデル1898」として知られてもいる。

 この銃がどのくらいの数作られたかは知られていない。しかし多数だったことは間違いない。というのは、ここで写真を掲載した銃はナンバー93を持っているが、一方我々の他の銃はナンバー134を持ち、アメリカでは421が知られているからである。

 この銃は外観もよく、良好に機能した。ただこの銃には多すぎる個別部品からなるという欠点のみがあり、このことは軍当局にこの銃の採用を思いとどまらせた。その上シュワルツローゼは直前にモーゼルが彼の「C96」でマーケットに登場するという不運に見舞われた。この銃(頑住吉注:C96)は大きな人気を得、いろいろな国においてミリタリーピストルとして採用された。ドイツ国内でも採用されたようにである。シュワルツローゼピストルが同様に7.63mmモーゼル弾薬用に作られていたという事実もこれを覆さなかった。

 シュワルツローゼはこのピストル多数をロシアに輸出すること、そして当時有名なアメリカの銃器輸入業者だったBannermanによるアメリカ国内販売にも成功した。しかしこれにより彼は期待したビッグマネーを得ることはできなかった。

テクニカルデータ
モデル名称:シュワルツローゼ モデル1898
設計者:A.W.シュワルツローゼ
メーカー:ベルリンのシュワルツローゼGmbH(頑住吉注:有限会社ですが、ドイツの場合有限会社=小規模ということではありません)
口径:7.63mmモーゼル
全長:272mm
銃身長:163mm
全高:136mm
全幅:35.5mm
ライフリングの数:4
ライフリング谷部径:7.90mm
ライフリング山部径:7.62mm
ライフリング山部幅:2.16mm
ライフリング方向:右回り
閉鎖機構:ロックされた回転閉鎖機構
セーフティ:左にレバーセーフティ
マガジン保持部品:左にレバー
サイト:フランとサイトは固定。U字型リアサイトは500mまで調節可能。



 前回までに紹介してきた機種群はせいぜい少数の試作品が作られただけであり、これが量産された初のシュワルツローゼピストルということになります。「その1」で紹介した初のパテント申請時、シュワルツローゼは25歳頃であり、この銃が量産された頃は31歳頃です。この間どうやって生活していたのかは説明がなく不明ですが、この銃も大成功とは言えない結果しかもたらさなかったようです。

 「Faustfeuerwaffen」の著者はこの銃を「よりコンパクトな構造方式の初期セルフローディングピストル」の項目の中で「その構造がモダンであるおそらく最初のセルフローディングピストル」と評価しています。これはモーゼルのようにマガジンをグリップと別に前に置いたり、ボーチャードのようにグリップ後方に大きくメカニズムが突き出している構造とは異なり、全体レイアウトが現在のものとほぼ同じであるという意味であるようです。ただしご覧のように細部は現在の銃と大きく異なっています。

 この銃はこれまでの銃とは異なっていわゆるバレルエクステンションがなく、Cz75のような形のかみ合わせのスライド型オートピストルに近いものになっています。このため単純化し、バレルエクステンションを伴うボルト型よりスライド重量が大きくでき、内部スペースが大きいため余裕のあるスプリングの配置が行え、ボルトとバレルエクステンションの間に異物がはさまることによる作動不良がない、などの長所があると主張されています。バレルやボルトが前方から入れられ、後方へのストッパーはダブルで完全固定だから射手が安全だというのは、発射時に急速に動くパーツが破損などにより簡単に後方に飛ぶことがない、という意味でしょう。

 ショートリコイル、回転閉鎖ボルトである点は「その2」および3、5で紹介した銃と同じですが、この銃の場合回転するボルト自体にハンドルが付属しているのでハンドルを引きながらひねらなくてはならず、ちょっと違和感がありそうです。ちなみにパテント図面ではボルトアクションライフルのようなハンドルになっていますが、量産型ではM16のような左右に突起のあるタイプになっています。

 ストレートに前後動するファイアリングピンの前面と、回転を伴って前後動するボルト内面の穴のファイアリングピンと接する面がカム状の接触になっており、ボルトが回転を終えるまでファイアリングピンが包底面から突き出ることができないようになっていること、セーフティがトリガーをロックするだけでなくファイアリングピンの前進もブロックするようになっていることなど、安全性に力を入れていることは分かりますが、マガジンを入れ、チャンバーを空にして携帯できないことはかえって危険とも考えられます。

 「その1」で紹介したものを除き、これまでの機種はボルトにシアが付属していましたが、この銃ではファイアリングピンにシア(と言っていいのか迷いますが)が付属しています。これがエキストラクター、エジェクターを兼ねている点、ディスコネクトのシステムなどは以前のものと似ています。これまでの機種はトリガーを引くことによってエキストラクター爪が上昇してリムをかむ構造だったためチャンバーに装填した後射撃を中止してボルトを引いても弾薬が排出されないという欠点がありました。この銃はトリガーの引きでなくフレームの突起に当ってエキストラクター爪が上昇する点が異なりますが、ファイアリングピンが前進しない限りエキストラクター爪はリムをかめないのでボルトを引いても弾薬が排出されない欠点は同じです。

 このためこの銃は弾丸を撃ちつくす前にマガジン交換することが非常に困難になります。もしやるとしたら、ボルトをいっぱいに後方に引きながらマガジンキャッチレバーを回してホールドオープンさせ、銃口を上に向けてトントン叩くことになるでしょう。これで弾薬がチャンバーから落ちてくればいいですが、もし落ちてこなかったら図2を見ても指の爪で引き出せるとは思えず、銃口から棒でも突っ込んで押し出すしかなさそうです。あるいは弾薬をチャンバーに残したままマガジン最上部の弾薬を必死で指先で押し下げながらマガジンキャッチを解除し、ボルトを前進させるかでしょうが、いずれにしても戦闘中にできる作業ではないと思われます。また、パテント文面はマガジンキャッチの性質上「バレル内にある弾薬を除去することなく装填された銃からマガジンを取り出すこと」が防がれるとしていますが、ボルトを引いてもチャンバーの弾薬が排出されないこの銃の場合それはメリットになりえないと思います。

 「余裕レバー」という変な名称のパーツは要するにアクセルレーターなどと呼ばれる、ショートリコイルの力を利用してボルトを強く蹴って加速するものです。ラチ、オートマグなどごく少数の銃が採用しています。

 この銃もバレルのリターンスプリングを持ち、ボルトより先にバレルが勝手に復帰してしまうと閉鎖できなくなってしまうため、kのバレル一時ロックレバーを備えています。このパーツはシンプルなデザインで、今後製品に応用できるかもしれないと思いました。

 セーフティを解除位置よりさらに下に回すことによりワンタッチで分解できるのは便利ですが、緊急時にセーフティ解除した際勢いあまって回しすぎ、バレルやボルトがスプリングのテンションで前方に飛び出してしまうようなことがないのかちょっと心配です。

 以前も紹介しましたが、この銃に関してはこのページが詳しいです。

http://guns.connect.fi/gow/QA17.html

 このパーツ展開図を見るとパテント図面とはかなり異なっているようで、例えばアクセルレーターは省略され、マガジンキャッチは独立しているようです。本文中では「この銃には多すぎる個別部品からなるという欠点のみがあり」とありますが、この展開図ではたった20点で、まあこれにはマガジンキャッチのスプリング、ピンなどが数えられておらず、かなり複雑そうなアジャスタブルサイトも含まれていませんが、それでも少ない部類に入るはずです。特にスプリングがマガジンスプリングまで含めても4点のみというのは異例だと思われます。ただしパーツ点数が少ないからコストが安いとは限らず、比較的生産に手間のかかる銃ではあったでしょう。

 全体レイアウトは確かに進んでいたかも知れませんが、細部にはいろいろ問題が多く、実用品としてどちらか選べと言われたら私はこの銃よりモーゼルミリタリーを選ぶと思います。ましてほぼ同時期に登場しているルガーとでは勝負にならないでしょう。大きな成功が得られなかったのも無理のない話です。ただ売れないと分かっていてもこの銃、作ってみたいです。









戻るボタン