シュワルツローゼピストル その7

 ボーチャードおよびルガーが後にピストーレ08となるピストルによってこの時点ですでに大きな成功を収めていたにもかかわらず、シュワルツローゼは1900年以後再び膝関節閉鎖機構に没頭した。あるいは彼は彼らを追い抜くことができると期待もしていたのかもしれない。そう、周知のように「ルガー」の決定的な成功は後になって初めて現実となったからである(頑住吉注:何だか前後で矛盾しているような印象も受けますが、ルガーは当時すでに大きな商業的成功を収めていたものの1908年におけるドイツ軍制式拳銃としての採用という決定的成功はまだで、この時点ではまだルガーを追い越すことが可能と考えられたのだろう、というような意味でしょう)。

 いずれにせよシュワルツローゼはイギリスにおいて「彼の膝関節閉鎖機構」をパテント申請した。これは1894年12月30日のパテント書類 ナンバー93213(頑住吉注:「その4」で紹介したもの)の場合のようにサイドにではなく、今や(ボーチャード・ルガーに似て)上へと折れ曲がった。

 このパテントは1900年3月31日にナンバー6056の下に彼に与えられ、抜粋すると次のような内容だった(頑住吉注:ちなみにこの時点ですでにルガーはスイス軍制式拳銃として採用されています)。

‥‥閉鎖機構システムすなわち後方に走る閉鎖機構ブロック、マガジン。閉鎖機構ブロックb1はレールm内に位置し、ピンbによって関節アームcと結合されている。関節cは他方ではポイントdにおいて両サイドの関節アームaと回転可能に結合され、またアームaはポイントnにおいてバレルと結合されている。閉鎖された閉鎖機構においては(図1に描かれているように)ピンdの軸線はピンbとnを結んだ線よりも上側に位置しており、この結果ピストルが発射された際にリコイルショックが閉鎖機構ブロックに作用し、閉鎖機構は図2に示されているように開く。トリガーバーは同時にエキストラクターとしても作られている。このピストルは開放運動の間にレバーs1によってコックされる。このレバーはピンv1によって立てられる。これは中間関節アームc上で起こる。閉鎖機構はスプリングoによって閉鎖される。弾薬はフレーム内のマガジンkに入っている。



(頑住吉注:この銃は膝関節閉鎖機構がサイドにではなく上に折れ曲がる点を除けば「その4」で紹介した銃と大筋似ています。関節アームが発射準備状態で一直線に伸びたルガーと違い折りたたまれたような形になっている点、シアがボルトに付属している点、これがエキストラクターを兼ねている点、したがって装填後発射を中止して閉鎖機構を開いても弾薬が排出されない点等も同じです。図で明瞭ではありませんがディスコネクトのシステムもほぼ同じで、トリガーがやや前後動するんでしょう。ただ、注目すべきなのは「その1」で紹介した超珍銃を除けば初めてストライカースプリングとリコイルスプリングが別個になっている点です。またコッキングのシステムもくの字のレバーが起き上がるアームによって図で時計方向に回転させられてファイアリングピンを押し下げるという従来と違ったものになっています)

 この閉鎖機構のドイツにおけるパテント申請は確認され得ていない。しかしこのことは申請がなされなかったことを意味しない。こうした書類は残念ながらもはや完全に揃った状態で存在していないからである。

  一方我々はシュワルツローゼによる「リコイルローダーのための膝関節閉鎖機構」に関するドイツにおけるパテント申請を以下のように引用することができる。これは彼が1901年5月22日に行い、この結果このパテントは1903年5月27日にナンバー140980の下に彼に与えられた。これは次のような文面だった。

提出された発明は閉鎖位置において重なり合って位置する関節アームを持つ膝関節閉鎖機構に関係している。より古い閉鎖機構はオープンのために2つの別々な、等しくない動きを要求した。つまり膝関節の外側へのスイングと、これに引き続いての閉鎖機構ブロックの後方への引きである(頑住吉注:これは「その4」で紹介した銃がワンタッチで閉鎖機構をオープンできなかった点を指しています)。これに応じてガス圧による閉鎖機構の自動的オープンに際しては、閉鎖機構ブロックは閉鎖機構関節内に蓄えられた運動仕事だけによって中間関節アームがブロックに対して直角に立つまでいっぱいに後方に動かされる。これはブロックが後退経過の半分まで進んだときにはすでに行われてしまっている。閉鎖機構ブロックのさらなる後退運動はその後、そうこうするうちに関節から閉鎖機構ブロックに伝達された運動仕事のみによってなされる。一方関節自体はこのときブロックにブレーキをかけるよう作用する。関節は最初の運動内からさらにスイングできず、反対にむしろブロックによって再び後方に引かれねばならないからである。これにより実にかなりのものである力の損失がもたらされる。

 提出された新しい閉鎖機構は今やこうした欠点を取り除き、その上、手で持って撃つ銃のためにより良く適した形状を持つ。図ではピストルにおけるこの閉鎖機構が図解されている。この図は次のことを示している。図1は閉鎖機構が閉鎖され、ファイアリングピンがコックされた銃の垂直縦断面。図2は閉鎖機構が完全にオープンされた状態の同じ断面図。図3は閉鎖機構が閉鎖された際の銃を上から見たところ。図4から6は複数の方向から見た個々のパーツ。

 グリップとしても形成された閉鎖機構ケースはバレルlとネジによって固定して結合されている。この閉鎖機構ケースは上部のバレル軸線の延長上に閉鎖機構ブロックbのための長方形の誘導路、および外側の関節アームcのためのブリッジgを持つ(図5)。

 バレルのための閉鎖機構は後述のように外側の関節アームcと結びついた内側の関節アームd(図6)によって形成されている。外側のアームcはボルトeによって閉鎖機構ケースkと結合され、一方内側の関節アームdは2本のピンiによって閉鎖機構ブロックの隆起部h内に取り付けられている。フリーな関節アーム端部の結合はボルトi1によってなされる(図1および2)。

 閉鎖された閉鎖機構(図1)からの発射の際、駆動ガスによって閉鎖機構ブロックにかかった圧は閉鎖機構ブロックから後部のピンiの仲介によって中央の関節アームdに、そしてここから前のピンi1によって外側のアームcに伝達される。外側のアームcは他方において閉鎖機構ケースのブリッジgと結合されている。このようなとき、提出された銃のケースでそうであるようにリコイルローダーのための閉鎖機構では固定された経過で使用されるべきである。このためこの配置は閉鎖機構の閉鎖時、ボルトe(cの回転ポイント)が、後部のピンiと関節の折り曲げポイントi1が位置するレベルよりも低く位置する配置になっている(
頑住吉注:この部分は「その4」の銃では折り曲げポイントを内側にしたり外側にしたりしてオートマチックとハンドリピーディングを切り替えられる構造になっていたが、これは望ましくないのでオートオンリーにした、ということのようです)。

 そうしてもやはり駆動ガスの圧力が閉鎖機構関節によって受け止められ、同時にこの圧力下で中央の関節アームの前端が上へとスイングし、閉鎖機構が自動的にオープンするのは明らかである。

 こうすれば前の、閉鎖機構のオープンをもたらす関節アーム端部は完全にオープンするまで絶え間なく上後方に動き、そして常に閉鎖機構ブロックに力を伝達する。このため関節に蓄えられた全ての運動仕事は閉鎖機構のオープンと、関係するスプリングの圧縮に使えるようになる。

 閉鎖機構のオープンの際、同時に関節アーム端部の持ち上がりによって、キックバネoが関節アームcに固定されたリンク部品pを用いて圧縮され、打撃スプリングfも圧縮される。両方のスプリングはリコイルショックが止んだ後、閉鎖機構をまず一緒に再び前方に動かす。これはファイアリングピンがここでは表現されていないコック設備によって捕らえられるまでのことであり、その後はスプリングoが閉鎖を単独で実行する。

パテント請求
 閉鎖機構の閉鎖時、重なり合って位置するアームを持ち、閉鎖機構の閉鎖時関節の折り曲げポイントが両結合ポイントよりも前に位置することによって特徴付けられる膝関節閉鎖機構




(頑住吉注:この銃の閉鎖機構は「その4」の銃やUSパテントの銃同様関節アームが折りたたまれたような状態から作動が始まりますが、それらの関節アームが後方に折りたたまれ、関節が後方にあったのに対し、この銃では前方に折りたたまれ、関節は前方にあります。またこの銃でもストライカースプリングとリコイルスプリングは別で、ユニークなことにリコイルスプリングにはキックバネが使われています。そして図で明記されていないもののこの銃ではシアはフレームに設置される通常の形になっているようで、当然エキストラクターは独立しているはずです)

 シュワルツローゼは彼の膝関節閉鎖機構に何がしかの期待を持っていたに違いない。さもなければ彼は同年、つまり1901年、この「セルフローディングピストル M1901」をオランダ軍に売り込んだりはしなかったはずである。

 これに関しては「Deutsche Waffen Journal」(頑住吉注:「DWJ」)1987年3月号がレポートしている。この記事にはいくつかの図と記述も引用されている。この記事ではシュワルツローゼが彼の膝関節閉鎖機構(ずっと以前の記述を見よ)のパテント93212(これはおそらく93213のことを言っているに違いない)と関係付けられており、しかしこの図はパテント140980との厄介な類似性を持っている。

 我々はここではシュワルツローゼの設計に関する図の補完のため2つの図をこのレポートから転載するだけとしたい。これに興味のある読者はDWJ1987年3月号、288〜290ページを参照せよ。シュワルツローゼが彼の提供品においてパテント書類ナンバー140980から文字通り多くのものを引き継いでおり、ただしその図はいくらか変更され、より詳しく説明されているということはここで確認しておくべきである。



(頑住吉注:どうもこの部分、意味が不明瞭ですが、たぶんDWJはシュワルツローゼがオランダ軍に売り込んだ際の図面としてこの図を掲載し、今回紹介されたナンバー140980パテントには触れずに「その4」の銃の発展型であると説明した、ということではないかと思います。この図ではシアがフレームに設置されているのがはっきり分かり、マガジンキャッチがコルトM1900のような逆方向に作動するコンチネンタルタイプであるのも確認できます)

 シュワルツローゼが彼の膝関節閉鎖機構によって幸運を手にしなかったことは本来指摘する必要のないことである(頑住吉注:もしオランダ軍制式拳銃になっていたならこんなマニアックな記事を読む読者が知らんはずはない、ということでしょう)。

 さらにアメリカの参考文献ではシュワルツローゼによる1903年のあるUSパテントに言及されており、これに関する1枚の図(説明文はなし)が掲載されている。しかしこれは全くシュワルツローゼらしくない。この銃は本来クレメントピストルにより似ている。ドイツのパテント文書ではこのような外観を持つシュワルツローゼピストルの存在が証明され得ていないが、この銃はここで文書化の目的で言及されるべきである(頑住吉注:クレメントピストルというのは Clement 1907 こんなのとか http://www.littlegun.be/calibre%206.35mm/a%20a%20images%20cal%20635%20fr.htm こんなのです。 アメリカの参考文献が間違っているんじゃないのか、という記述に読めますが、アメリカのパテント文書を調べれば本当にシュワルツローゼのものであるかどうかははっきりするはずです。)。


 「その4」で紹介された銃からオランダ軍に売り込まれたという銃までを順に見ていくと、徐々にデザインが洗練されているのが分かり、後者を見るとメジャーになっていてもおかしくなかったような印象を受けます。まあその分個性が薄れ、ルガーに似てきてしまっているとも言えるわけですが。余計なことですが後方にボルトが飛び出すトグルジョイントというところから私は大昔のマルゼン製ルガーを思い出しました。

 今回の記述には分からない点がいくつかあります。そもそも「その4」の銃はどうしてワンタッチでボルトを開くことができなかったんでしょうか。関節を力いっぱい外側にスイングさせれば連動してボルトもいっぱいに動くはずだと思うんですが。ひょっとすると単に銃の右側面にあって前方を支点に回転運動する部品を右利き射手が左手で動かすのがあまりにやりにくすぎるからでしょうか。その点USパテントの銃はよりやりやすく、最終デザインの銃はさらにやりやすく、ルガーと同等の感じです。
 次に、「その4」の銃に勝る作動効率上のメリットに関しては一体何を言っているのかチンプンカンプンです。これはたぶん訳の問題ではなく、本当に難解なことを言っているんだと思うんですが。どうもシュワルツローゼは関節アームがボルトを動かす局面があると言っているようですが、私にはどの銃でも全ストロークにおいて薬莢底部の後退圧力がボルトにかかり、それが関節アームを動かすとしか思えないです。
 そしてこの銃に明確なロック機構がないことは明らかですが、ストレートブローバックと見ていいんでしょうか。「その4」で紹介された銃は薬莢が短いリボルバー弾薬を使うように作図されていましたが、今回紹介された3タイプはいずれもボトルネックのオート用弾薬を使うように作図されており、直前に生産されたM1898と同じ.30モーゼルか、少なくとも.30ルガーを使うものと見られます。またそうでなくては当時において軍用拳銃としての競争力は持ち得なかったでしょう(9mmパラベラムはまだ登場していません)。この銃の閉鎖機構はどう見てもさほど重いとは思えず、こうした弾薬をストレートブローバックで使用するのは難しいと思われます。あるいはこの銃は「Faustfeuerwaffen」の著者流に言って、運動の初期において後退運動量の一部がまだ(充分)曲がっていない関節アームを通じてフレームに直接伝達されることによるディレードブローバックなんでしょうか。
 またこの銃は少数ではあっても生産されたんでしょうか。オランダ軍に売り込むに当って図面だけというのは考えにくく、少なくとも数挺の現物はあったと思うんですが、この点は明記されていません。

 さて、次回はついにシュワルツローゼのピストルとしては最も知られていると思われるブローフォワード式ポケットピストルの話に移ります。

















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