シュワルツローゼピストル その9

 同じ日、つまり1907年3月24日、シュワルツローゼは「前方にスライドするバレルを持つ自動火器のための弾薬供給」のパテントを申請した(今回の住所はCharlottenburg)。これは1908年6月13日にナンバー199339の下に発行され、次のような文面があった。

提出された発明は前方にスライドするバレルを持つセルフローダー、とりわけこの方式のピストルに関係するものであり、そのような銃のための簡単で信頼性の高い弾薬供給を行うこと、およびコンシールドハンマーを持つリコイルローダーにおいて銃の後方への大きな張り出しを避けることを目的としている。

 これらは、既知の方法で下からグリップ部品または銃床体内に入れられたボックスマガジンの後部壁面を、ほぼマガジンリップの長さ分固定された包底面の前面より後ろに出すことによって達成される(
頑住吉注:分かりにくいのでここで補足します。マンリッヒャーおよび日野式では、マガジン後部壁面は固定された包底面とほぼ同じ前後位置にあります。一方シュワルツローゼはマガジン後部壁面を明確に包底面より後ろに位置させた、逆に言えば包底面を前進させたということです。そしてこの方がハンマーを前に位置させることができ、ハンマーが内蔵された部分の後方への張り出しが小さくなるというメリットを主張しているわけです。ただし包底面を前進させれば当然同じ銃身長においてマズルも前進するわけであって銃身を短くしない限り全長が短くなるわけではありません)。バレルの前進時、最も上のマガジン内弾薬がバレル後方の延長部によって大きく前方に連れて行かれるので、弾薬はマガジンリップから出て包底面の前に出て行くことができる。その後弾薬はバレルの後退時にチャンバー内に到着する。この構造方式においては最も上の弾薬を保持するための特別な部品(ことに下から挿入されるマガジンの場合)は不必要になる(頑住吉注:マンリッヒャーの銃では弾薬の上への飛び出しを防ぐ可動パーツがありましたが、この構造にすれば下から挿入されるマガジンには全て存在するリップで充分だということです)。これにより銃の確実な作動が大いに促進される。弾薬の供給がもはやバレルの前後動およびマガジンスプリングの規則正しい圧力のみに依存するからである。一方より古い銃の場合はこれに加えて複数の供給用部品の連動が必要とされる。さらにマガジンの後方への設置によってこのようなピストルの場合にも好ましいフォームが達成される。その場合(この銃のように発火設備がポケット銃器としての使用のために隠されて収納されている)後方に向けマガジンより後ろに突き出す銃の部分がより短くなるからである。

 図ではこのような種類の銃が表現されている。図1はこの新しい供給システムを装備したピストルを閉鎖状態、側面から、一部断面図で示し、図2は同じく側面から、バレルが最前部位置にある状態を示し、図3はバレルを下から見た外観を示し、図4は図1のa-b位置での横断面を示している。

 このピストルは本質的にはグリップ部品または銃床体kおよびバレルlからなっている。バレルはグリップ部品の適合するノッチ内で誘導され、その閉鎖スプリングfによって常に後方へ、グリップ部品の包底面sに向けて押されている。これら両部品の内外にはさらに弾薬供給設備および発火設備が取り付けられている。

 グリップ部品は弾薬マガジンmの受け入れのための開口を備えており、マガジンはスプリングレバーcによってグリップ部品内に保持される。この図で分かるようにマガジン後部壁面は従来普通だったように包底面sの前面によってさえぎられておらず、マガジンはマガジンリップpの全長にわたって包底面の後ろに引っ込んでいる。バレル自体にはチャンバーを越えて後方に突き出たレールl2があり、これは下方に向いた突起vを持っている。このレールは目的にかなった形でバレルと一体で作られ、銃床体の適合するフライス加工部内で自由に動く(図4)。バレルが手で、あるいは発射によって前方に動くと、突起vは最も上のマガジン内弾薬の底部に当り、これを大きく前方に押し動かすので、弾薬はリップpから自由になる。その後弾薬はマガジンスプリングによって上へと押され、包底面の前で停止する。手によるオープン(この場合バレルの後退までに一定の時間が常にかかる)の際に最も上の弾薬が高く上がりすぎ、装填障害のおそれが生じることのないように、レールの突起v前方には内側に突き出たリップiが備えられている。リップiは弾薬が短距離上方に押された後にこれを受け止める。弾薬はその後、弾丸先端をチャンバー後方に、そして底部を包底面の前面に向けて位置する(図2)。このときバレルはその閉鎖スプリングfの力で再び後退する。するとリップiは弾薬の上を滑って行き、最終的に弾薬を完全にフリーにする。この結果バレルは弾薬にすっぽりかぶさることができ、これでチャンバー内に弾薬が入ることになる。再度のオープンの際にはこの経過が繰り返される。というのは突起vがバレルの後退時に弾薬マガジンを越えてしまうやいなや第2のマガジン内弾薬がマガジンスプリングによって突起vの前に持ち上げられるからである(図1)。

パテント請求

1.前方にスライドする、固定された包底面にあてがわれたバレルを持つ自動火器のための弾薬供給であり、ボックス状の弾薬マガジンの後ろの壁が包底面の前面よりも後ろに位置していることによって特徴付けられる。これは銃の単純な構造方式を達成し、そしてコンシールドハンマーを持つリコイルローダーにおける銃の後方への大きな突き出しを防ぐためである。

2.請求1のような自動火器用の弾薬供給であり、最も上のマガジン内弾薬がバレルの前進のたびに包底面前面より下げられた距離分前方に連れて行かれ、マガジンから解放されることによって特徴付けられる。

3.請求1のような自動火器用の弾薬供給であり、バレルの前後動に参加するレール(l2)がバレルの前進の際に下向きに突き出た突起(v)を使って最も上のマガジン内弾薬の底部を押し、そしてこれを前方に引き動かすことによって特徴付けられる。

4.請求1のような自動火器用の弾薬供給であり、レール(l2)上に内側に向け突き出した、そして突起(v)の前に位置するリップ(i)が配置され、マガジンから上昇してきた弾薬を受け止め、レールがバレルと共に再び後方へと動くまで保持し、その際リップは後方に滑ることを妨げられた弾薬を外れ、弾薬をチャンバー内への導入のために解放することによって特徴付けられる。



 えらそうに解説してはおりますが、実は私はこの銃に関してブローフォワードであるということ以外ほとんど知らず、現時点においてもどうやって排莢を行うのか、どうやってハンマーのコッキングを行うのかよく分かっておりません。未知の銃のシステムがこうして少しずつ明らかになっていくというのはスリリングであり、知的な喜びでござんすな。

 さて今回はこの銃の弾薬供給システムが明らかにされました。このシステムはバレルと連動する、その後方に延長されたレール状の部品の一部がバレル前進時にマガジン内から一番上の弾薬を押し出して解放し、ここに後退してきたバレルがかぶさるという点は日野式によく似ていますが、全体的に見ればこの銃の設計が日野式よりずっと優れたものであることは間違いないでしょう。ちなみに日野式のパテントが日本で取得されたのは1904年(ちなみにイギリスで取得されたのが1907年、アメリカで取得されたのが1908年)であり、当時の状況からして商業的にまったく成功していなかった銃器後進国日本の銃の詳細な情報が数年以内にドイツで広く知られるようになっていた可能性は低く、シュワルツローゼは日野式のシステムを知らなかったのではないかと思われます。









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