FX訓練用弾薬

 「Visier」2004年7月号に、カナダのSimunitionという会社が販売している非常に興味深い訓練用弾薬、FXに関する記事が掲載されていました。


Farben-Lehre (頑住吉注:これも「Visier」によくある凝ったタイトルのようです。この単語の本来の意味は「色彩論」ですが、前後に分解すると「色」+「訓練」となり、両者の意味をかけているのだと思います)

警察官たち、そして兵士たちが色つきのしぶきで自分たちを汚している…彼らの公用ピストルを使って。命中弾を受けた人はいくぶんばつの悪い思いをし、服を洗濯しなくてはならない。それ以上のことはない…。

Training for the real world」というのが、「FX-システム」によって現実に近い実戦トレーニングを約束しているSimunition社のスローガンである。このシステムの核心は染料で満たされたFX弾薬である。これにより、人に向けて撃つことを可能にしている。マーキング弾薬は近距離においてオートピストル、リボルバー、連発ショットガン、サブマシンガンの練習に役立てることができる。プラスチック製の弾丸のジャケットはターゲットにぶつかることによって破裂し、星形の染みを残す。さまざまな色の、洗い落とせる染料がシミュレーション銃撃戦の後で、誰が誰に命中弾を受けたのかを示す。誰がトレーニング内でミスを犯したのかに関する長いディスカッションが行われるが、だからといってそれ以上のことはない。

公用ペイントボール?
  私人はSimunition社の顧客サークルには属さない。その理由はもちろん染料の汚れのせいではない。汚れるということなら全てのペイントボール銃でもそれは起こり得る。ペイントボールの場合と違い、FX弾はコンバージョンキットで装備変換された本物の銃とともに使用される。このため警察官や兵士は彼ら自身の公用ピストルを使い、最も多様なシナリオに備えることができる。当然FX銃はパーフェクトな人質解放の訓練だけでなく、人質をとる側の効果的な訓練にも使える。だからこのカナダの会社(頑住吉注:Simunition社)は、その製品が公用にのみ流れるように厳格な注意を払っているのである。

 ペイントボールスポーツ由来の発射器具はそのような目的には適していない。それは大きく、扱いにくく、反動フリーである(頑住吉注:撃ったことないですけど理屈からして反動が全くないということはないはずです)。二酸化炭素または圧縮空気でマーカーを推進する構造は、それをリアルなトレーニングには全くふさわしくないものにしている。ペイントボール銃で銃撃戦の訓練をした人は、緊急時において、リロードに際してだけでなくしくじりを犯す。銃を使って行動パターンの練習をし、その際操作エレメントを困難な状況下でのそれと同じにしておくことが、必要な実戦との近さを最もよく保証するのである。

未来の切り札
 銃および弾薬の名称、「FX」は映画分野に由来する。そこでは「Special Effects」を表す略語として「FSX」とともに「FX」が使われている(頑住吉注:最近「FX」の方はあまり聞かない気がしますが、昔映画の特殊効果担当者がその技術を使って敵と戦う「FX」なんていう映画を見たおぼろな記憶があります)。拝借したこの略語を除けばSimunition社のトレーニングシステムが持つハリウッドの夢の世界との共通点は1つだけである。すなわち撮影用の血糊を染料に換えたということだ。これは人々が至る所で20年の歴史を持つシステムの優位を認識するまで続いていたものである(頑住吉注:よくわからん記述ですが、たぶん「血糊を仕込んだ弾丸というトリックは、ここ20年の新しい技術−CG?−が普及するまで広く使われ続けていたものである」ということだと思います)。

 実弾を使ったトレーニングには欠点がある。紙製のマンターゲットを激しく動かしても、撃たれた時行動も反応もしない。映画が内部に投影されるタイプの射撃訓練施設でも、シナリオや特殊効果は制限されている。FXシステムの場合そこが違うと思われる。すなわち、害のない弾丸が、よりリアルな状況内での360度トレーニングを可能にする。それは壁に囲われた内部のみに限られず、建物全体内で行えるのである(頑住吉注:もちろん屋外でもできます)。

 このシステムは1990年代初め以来、特にアメリカ、カナダ、ヨーロッパ採用されているが、他の場所ではほとんど買い手は見られない。その原因はおそらく価格である。すなわち1発で約50セントのコストがかかる。当然価格は購入量によって変わる。ドイツではこの新弾薬は、それまで自作のワックス、フェルト製弾丸で間に合わせていた警察のみに利用されている状況に近い。アメリカでは海兵隊も警察同様にこの染料弾で訓練を行っている。室内戦、塹壕内での陣地戦だけでなく、むしろこれよりも非常に多種多様なシチュエーションでの治安維持領域の訓練に使われている。このため個人警護者も顧客に属している(頑住吉注:公用オンリーですから民間のボディーガードではなく日本で言えばSPのような人を指していると思われます)。1995年以来ドイツの会社Nico Pyrotechnikがドイツ、オーストリア、ルクセンブルグへの独占輸入元となっている。

最も安全な道を選んだ
 FXシステムを使う銃は、構造に応じていろいろな変換キットを必要とする。しかし全てのキットに共通している点がある。それは実弾の装填に対する安全対策だ。この理由で、リボルバーの全てのチャンバーにはインサートが入っている。この安全リングのため、実弾は完全にはチャンバー内に入らない。連発ショットガンではコーン状ブロック材がトレーニングを行う人の生命を守るためにチャンバーに挿入されている(頑住吉注:これもこのブロック材によって実弾は完全にはチャンバー内に入らないということです)。一方メーカーはオートピストルでは真鍮色のバレルとカラフルなスライドを使用して(頑住吉注:リボルバーやショットガンのように物理的にではなく色による警告によって実弾を誤って装填する事故が発生しないよう対応)している。個々のメーカー、例えばグロック、ワルサー、H&Kは自メーカー製品のコンプリートFX型さえ提供しており、この場合フレーム全体がカラフルになっている。変換キットにはMP5用もある。

シミュレーション
 いろいろな変換システムの形状は、必要とされる弾薬の性質によって決まったものである。その弾丸は破裂するのに充分なエネルギーを必要とするが、傷害を引き起こしてはならない。軽い弾丸を110〜150m/sまで加速するためには、実弾に必要な推進エネルギーの一部しか必要としない。これより高い初速は青アザ、または重大な傷を引き起こす。110〜150m/sという低い初速でもなお弾丸は100mの距離まで飛ぶのである。
 このため.38FXリボルバー弾薬では弾丸推進のため小さなピストル用プライマーのみ使用している。この弾薬は.38スペシャル、.357マグナムのいずれの弾薬仕様のリボルバーにも使えるが、ショットガンでも発射できる。この小さな弾薬を12番ショットガン弾薬に適合させるためには、単純なアダプター弾薬が使用される。このアダプターはワルサー社が提供しているLL「狩におけるとどめの1発」用アダプターに似ている(頑住吉注:ここをずっと読んでいる方なら、ドイツでは狩の際ピストルが「とどめの1発」に使われることが多いことをご存じのはずです。この理由のひとつはとどめにライフルやショットガンを使うと獲物の肉や毛皮の損傷が大きくなるからであるようです。しかしそのためにピストルをわざわざ持ち歩くのは嫌だというハンターもいて、そういう人のために12番ショットガン弾薬の形をしたアダプターにピストル弾薬を入れてショットガンでピストル弾が発射できるというものをワルサーが提供しているらしいです。そしてショットガン用FX弾薬はこれに似た形式なわけです)。
 オートピストル用、サブマシンガン用9mmFX弾薬はきわめて綿密に考え抜かれて設計されている。3〜5ジュールという小さなマズルエネルギーにもかかわらず、自動装填で実弾用銃器に似た連発、リコイルのシミュレーションができる。設計者はこれを実現するために弾薬の内部構造を変更した。発射薬の推進エネルギーの一部は、銃の作動とリコイルのシミュレーションに必要なエネルギーを供給する。9mmFX弾薬の薬莢部には、発射薬の前に移動可能なピストンがある。弾丸の径は7.82mmである。発射時、発射ガスはプラスチック製カップであるこのピストンを薬莢から前に、薬莢のクリンプがそれを止めるまで押す。チャンバー内部で支えられている薬莢のテレスコピック運動がスライドを後方へ加速させる。同時に発射ガスはピストンの小さな開口部から流れ、弾丸をバレルを通って前方に走らせることができる。発射ガスはピストンの小さな開口部を通ることで圧力が低下し、冷却され、これによりプラスチック製弾丸の熱い発射ガスによる損傷が防がれる。

 弾丸の径が小さいことにより、9mmパラベラム用のバレルで9mmFXを発射することはほとんど意味がない。弾丸はバレル内で誘導を経験しない(頑住吉注:日本語としてはちょっと変ですが意味は分かりますよね。要するにガバガバだということです)。5mを越えると「納屋の戸」(頑住吉注:これについては最後に触れますが、ここでは「非常に悪い命中精度」と思ってください)の命中にしかならない可能性がある。その上薬莢はノーマルなチャンバーにクサビ状に食い込んで固定されてしまう。また通常のリコイルスプリングとロックシステムでは銃は閉じたままになる。テレスコピック運動をする薬莢もチャンバー内できつくて動かなくなる(頑住吉注:延々書いてますが、要するに9mmパラベラム用のFX弾薬を実弾用バレルで発射することは一応可能だが、まったく適さない、ということです)。

非常口
 9mmFX弾薬の径が小さい弾丸のため、バレルも内径が7.82mmしかないものが用意されている。だから訓練用のカラーピストルは実弾用の公用拳銃に組み替えられてしまうことを防ぐだけでなく、9mmパラベラムの実弾を装填されてしまうこともないよう警告されねばならない。通常弾薬は(頑住吉注:当然9mmの弾丸は内径7.82mmのバレルを通れないのでガスの逃げ場がなくなり)不可避的に訓練用の銃を粉砕してしまう。万一の場合の傷害を抑制するため、全てのFX変換バレルには大きな負担軽減穴がある。FX薬莢は圧力が低いため、この穴の部分においてチャンバーの壁に支えられていなくても耐える。実弾の高圧下では薬莢は破裂してガス圧は横方向に逃げることができる(頑住吉注:少なくともUSPとグロックではこの穴はエジェクションポート内に露出しており、ガスはスライドに妨げられる事なくストレートに横に逃げられるようになっています。しかし「傷害を抑制」と言っていますからこれでもある程度の怪我を負う可能性が高いようです)。

少しの痛みはなければならない
 FX弾が体に命中した場合、そのエネルギーは小さいとはいえそれでもデリケートな体の部位を傷つけるのになお充分である。だから防護ヘルメット、首の防護用カラーは必須である。だが、防護ベスト、ズボンは使用しないことが好まれる、と事情通はレポートしている。それでも体に血腫はできない。ただし命中弾を受けるたびに痛い思いをする。そしてこれが特定のミスを繰り返さないための助けになる。痛みを伴わずに得ることの多いトレーニングというものはない、これは真理である。

 この他によりハードなCQT弾薬もある。FXバリエーションと違ってこちらは中身の詰まったプラスチック製弾丸を使用するが、FX同様ピストンを装備している。CQT弾薬はシューティングレンジ以外でのトレーニングに役立つが、人間を撃つのに使用してはならない。この弾薬の長所は、1cm厚の繊維組織またはベニア板でブレットトラップとして充分な点である(頑住吉注:これはもちろんFX弾薬と比べての長所ではなく実弾と比べての長所ですね)。
 Visierはブルーの(頑住吉注:FX、CQT弾薬専用タイプの訓練用)グロック17T(「T」は「トレーニング」の意)、グロック17用変換システム、12番ショットガン、リボルバー用システムをそれぞれテストした。

能テストではFX弾薬にもCQT弾薬にも驚かされた。ひっくるめて200発発射したが、たった1回の障害しか起こらなかった。このケースは柔らかい弾丸がフィーディングランプでひっかかり、押し潰されてしまったものだ。だが、弾丸はバレル内で非常に早くそのプラスチックによってライフリングの山と谷をパテ埋めのように塗りこめてしまう。このためメーカーは少なくとも50発の射撃後には合間のクリーニングを行うことを勧めている。連発ショットガンも、素早い操作を行った場合でも障害なしだった。9mmFX弾薬は両ピストルにおいてリアルな反動、マズルジャンプを引き起こした。

中精度テストでは、予想通りFX弾薬は実弾のグルーピングのレベルには達しなかった。これは弾丸の低い横断面負荷のためだけでなく、不都合な重心位置、低速も原因である。液体を満たしていることも、弾丸を望む弾道から逸脱させる。Simunition社は7.5mからの最大の散布範囲15cmを保証している。銃撃戦において距離が15mを超えることはまれであるので、これはまったく充分な命中精度である。全てのFX弾薬はこのノルマを達成した。20mでのベストのグルーピングは実に10cm以下にすらなった。しかしグロック17TはFX弾薬でのみ良好なグルーピングが得られた。CQT弾は時々ターゲットの上を通り過ぎることすらあった。Nico Pyrotechnik(頑住吉注:前出のドイツへの輸入業者)の情報によれば、グロック17TはFX弾薬用にのみ最適化されているという。しかしグロック17用の変換システムは両方の弾薬種類で命中精度を発揮した。こちらではCQT弾のベストのグルーピングも20mから10cmとなった。

 モスバーグ590A1は(頑住吉注:ショットガン用サイトとしては命中させやすい)ゴーストリングサイトを使っても、10mからのグルーピングが「DIN-A5表面」に集めることができただけだった(頑住吉注:たぶん「DINターゲットのA5得点ゾーン」というような意味だと思いますが、どのくらいの広さなのかは分かりません)。この理由は、アダプター弾薬内のごく短いバレルである。タウルス製2インチバレルのスナッビーは切り札的な銃であるにもかかわらず、10mでもなお正確な命中が得られた。しかしこの弾丸はリボルバーの場合も性能的な限度がある。6インチバレルのS&W M686でも決定的によい結果にはならなかったからだ。

発射音
 もちろんFXおよびCQT弾薬の弱い発射薬ではリアルな発射音にはならない。Simunition社は60cmの距離で101dB(A)としている。テストではピストルもリボルバーも似たような音の大きさになった。だが、バレルが長いと発射音は奪われる。ショットガンではバレルがサイレンサーの役割を果たすような印象を受けた。結果的に残ったのは高い「ポン」という音だけである。つまりFX系の場合イヤープロテクターは使わなくて済むし、市街地でも日常的に練習できる。


 「Simunition」という社名は「シミュレーション」と「アムニッション」を合わせた造語だろうと思います。公式サイトにおける紹介ページのうち、ここには9mmオート用弾薬の断面図があって非常に分かりやすいです。

http://www.simunition.com/index.php?section_id=51&lang=en&flech_id=2

 公式ではサボと呼ばれているピストンは弾丸を押し出すためのものではありません。ピストンの前面はチャンバーの段差によって抑えられ、前進はできないからです。ピストンが前進できないため、逆に薬莢側が後退し、スライドをブローバックさせるわけです。なんだかモデルガンのブローバックに似ていますし、現用のものより優れているとは思えませんが実際これに近いテレスコピック運動をするモデルガン用ブローバックカートも可能だと思います。「リアルな反動、マズルジャンプを引き起こした」とされていますが、これは弾丸発射の反作用としての真の反動ではなく、スライドが後退して後方にぶつかるショックによるもので、モデルガンと同じです。ピストンの中央には小さな穴があってガスはここから抜け、弾丸はこの圧力で発射されます。実際にはそれよりいいようですが、メーカーの保証する7.5mで15cmのグルーピングというのはたいていのエアソフトガンでも余裕で保証できる数値ですね。しかしこれでも実際にはごく近距離で起こることが多いハンドガンによる実戦のシミュレーションには充分だということです。公式には.223ライフル弾薬もありますが、「Visier」がこれを取り上げていないのはこのシステムではライフル弾の有効なシミュレーションにはならないと考えたためかも知れません。
 この弾薬は弾丸の径が小さくて薬莢部との段差が大きく、これによって有効にピストン前面がチャンバー内で保持されます。実弾用バレルを使うと段差がごく小さいため、プラスチック製のピストンがバレル内にくさびのように食い込んでしまうので適さない、ということのようです。またロックシステムがあると動かない、というのは日本のモデルガンマニアには当然に理解できるところです。
 
 1発50円以上というのはかなり高価ですが、非常に有効な訓練ができるメリットが確実にあるわけで、日本警察も導入を検討してみてはいかがかと思います。


 さて、本筋と全然関係ない話ですが、途中で「納屋の戸」(Scheunentore)という言葉が出てきました。これを読んで「あ、あれだ」と思い出したことがあります。サンケイ新聞出版局「第二次世界大戦ブックス」12巻「メッサーシュミット」から引用します。


 ドイツ空軍当局は、Me109Gがエンジン出力の点で増強されたものの、戦闘機としてはまだ不満足であるとかんがえていたので、ウィリー・メッサーシュミット博士との間に激論がたたかわされた。
 ドイツ空軍の技術局長は、メッサーシュミットと会見し、Me109の速度は完全に要求をみたしているが、ドイツ空軍は、この速度に、さらに大きい航続力と、つよい上昇力をプラスした戦闘機を必要としていると指摘した。
 メッサーシュミット博士は腹をたてて「あなたの望むものは、はやい戦闘機なのか、それとも“
納屋の戸”なのか」とどなったといわれる。
 つまり、速くてすばしこい攻撃タイプの戦闘機をつくれというのか、それとも、ぶかっこうな航続距離の長い戦闘機をつくれというのか、どっちなのだ。両方まぜあわせてつくれといわれても、そんな戦闘機はつくれないというのである。メッサーシュミットは、この点を強調したので、ドイツ空軍の技術局長はメッサーシュミットの理屈にまけてしまった。
 だが、戦闘機の速度と航続距離というこの問題は、二年後に解答がだされた。
 たまたま、このドイツ空軍技術局長とメッサーシュミット博士の二人は、米軍「サンダーボルト」戦闘機群の攻撃をうけて、アウグスブルグの防空壕にかけこまなければならなかった。
 米軍の強力な戦闘機が、長躯、敵地ふかく侵入して銃撃するのをみて、技術局長はメッサーシュミットに「ほら、そこに、きみのいった“
納屋の戸”が飛んでいるぞ」と、しっぺがえしの答えをしたからである。これに対し、メッサーシュミット博士が、どうやりかえしたは、あきらかでない。


 このエピソードは二次戦航空マニアには非常に有名ですが、何故「納屋の戸」なのかはこれでもあまりよく分からないですよね。手持ちの辞書にもストレートな意味以外書いてありません。今回検索してこういうページを見つけました。

http://www.saturn.dti.ne.jp/~ohori/deutschSo.htm

 これによれば「納屋の戸」とは、「大きすぎて打ち損じない的の様」という意味だということです。今回の記事にあてはめれば、「径が7.82mmしかないFX弾を内径9mmのバレルで発射すると、納屋の戸のような大きすぎて外しようがない的にしか命中しないほど悪い命中精度になってしまう可能性がある」ということでぴったりきます。
 こう考えると原文が悪いのか訳が悪いのか分かりませんが、「メッサーシュミット」の説明はちょっと分かりにくい気がします。メッサーシュミット博士が言いたかったのは、「Me109はコンパクトで高速で被弾率が低い自分の理想とする戦闘機であるが、それに長大な航続距離と上昇力を加えるには機体を大型化して翼を広げなくてはならず、速度は低下するし被弾率も上がる。それでは敵にとって外しようがないほどの格好の標的になってしまう。私はそんな戦闘機を作るつもりはない。」ということだったのではないでしょうか。さらに言えば、メッサーシュミット博士がそこまで感情的になった理由の一つは、「お前たちがこういうものを作れというから航続距離が長く、速度もそれなりに速い大型戦闘機であるBf110を作ったのに使ってみたら敵戦闘機とは戦えず、これではまるで納屋の戸だと文句を言っただろう。Me109をそれに近づけたいのか」ということだったかも知れません。
 P47サンダーボルトはきわめて大型で、強力な防弾装備を持ち、航続距離が長く、しかも高速な戦闘機ですが、これはドイツにはなかったような強大なエンジンで機体を強引に引っぱることで実現したことですし、戦闘爆撃機としては最高の活躍をしましたが、制空戦闘機としては必ずしも理想的なものではなかったようです。戦闘機の速度と航続距離という問題に真の解答を出したのは「第二次大戦最高の戦闘機」P51ムスタングでしょう。P51はコンパクトで、高速で、航続距離が長く、制空戦闘機としても最高という存在でした。しかしこれはさまざまな先進的技術を盛り込んで初めて実現したものですから、メッサーシュミット博士のその時点における「納屋の戸」発言が必ずしも間違いだったとは言い切れないような気もします。
 ちなみにドイツ空軍の技術局長が「日本は航続距離が長くて空戦にも強い戦闘機を使っているぞ」と言わなかったことはドイツの当時の日本の航空技術に対する評価を表わしていると言えそうです。










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