いわゆる「スリーブガン」

 「Waffen Revue」30号に、袖の中に隠して携帯する特殊な単発サイレンサーピストル、いわゆる「スリーブガン」に関する記事が掲載されていました。


サイレンサー-袖ピストル (Sleeve Pistol)

 我々はここである興味深い銃を扱う。それは第二次大戦中に「Westalliierten」(頑住吉注:直訳すれば「西連合軍」。ソ連等は含まない、米英を中心とした軍のことでしょう)のコマンド部隊によって使用されたもので、かなりの程度知られないままである。管轄する機関は今日に至るまで堅く口を閉ざしているが、これはイギリスの開発品であると制限された公算の確かさを持って推測されるに違いない(頑住吉注:直訳しようと努力したら何だかわけ分からん表現になってしまいましたが、まあ「大筋間違いなかろう」程度のニュアンスではあるまいかと思います)。

 この銃は、ジャケットの袖の中で(つまり隠して)携帯されるという事実から、「袖-ピストル」(頑住吉注:「Armel-Pistole」。「A」はウムラウト。)という名称を得た。後端の閉鎖キャップにはランヤードリングも見られ、これにバンドを通すことができた。その後この銃は袖内でこのバンド(ゴム製バンドもあった)に、たいてい前腕の高さでぶらさがった。当然この銃はズボンのベルトに取り付けることもでき、この場合銃はズボンの脚部分にぶらさがった。つまりこれは不可視状態で銃を携帯するという特別な目的のため、最高度によく工夫を凝らした携帯方法だった。

説明
 この単発ピストルは2つの主要部分からなっている。つまり、閉鎖部ケースである。後者の内部にはバレルとサイレンサーが収納されている。バレルもサイレンサーも、「ウェルロッド」ピストルに非常に似ている。断面図では部品の配置がよく分かる。

 ケースは1本のパイプからなり、その後部内にはバレル保持部品がリベット止めされている。このバレル保持部品は後部にネジを持っており、その中に閉鎖部がねじ込まれる。このネジの前にはさらなるネジがあり、その中にはバレルがねじ込まれ、バレルには20個のガス漏出開口が備えられている。バレルは前部ではそのマズル部を受け部で支えられている。この受け部は弾丸通過の際にはガスパッキングの1枚として機能する。バレルのマズルには「ウェルロッド」の場合のように金属およびゴムの円盤が連なっている。ピストルの先端にはねじ込みキャップがある。これはサイレンサー円盤の取り出しとクリーニングのためにねじって外せる。

 ケースにそったレールと、先端近くの突起部は照準設備のようだがそうではなく、トリガー設備の一部、つまりトリガーレールとトリガーである。

 閉鎖部もまた同様に2つの主要パーツからなっている。すなわち、ファイアリングピン収納スペースとファイアリングピントラップシャフトが付属した閉鎖ケース、および可動の、ローレットが切られた閉鎖キャップである。後者にはスプリングの付属したファイアリングピンが装備されている。

機能
 まず閉鎖部をねじって外し、弾薬閉鎖ケースの前のネジのくぼみ内に保持されるまで差し込む。次に閉鎖部を、閉鎖ケースの前端がケースの後端に当たって止まるまでねじ込む。その際、ファイアリングピントラップシャフトの上にある、スプリングのテンションがかかったトリガーレールの後端は押される。ファイアリングピントラップシャフトファイアリングピンの段差部の前に位置し、その結果ファイアリングピンが前に滑ることが妨げられる。

 次に閉鎖キャップをいっぱいに前にねじ込む。キャップの前のエッジが閉鎖ケース後部のエッジと接するまでである。この前へのねじ込みの際、ファイアリングピンスプリングは圧縮される。ファイアリングピンスプリングは一方ではファイアリングピンにテンションをかけ、他方ではファイアリングピントラップシャフトを押す。

 トリガーを操作した際、トリガーレールは前に押し動かされ、ファイアリングピントラップシャフトは上に滑り、ファイアリングピンを解放する。するとファイアリングピンプライマーまで前方に急速に進み、弾薬に点火される。

終わりの考察
 この銃には刻印が全くなく、メーカーのマークも銃器ナンバーもない。この銃は非常にきれいな、そしてコストのかかった加工がなされ、最適な消音を提供している。閉鎖機構が固定されてロックされているからである。装弾数が1発のみであることは不利な影響を与えたと思われる。さらなる弾薬の容器はなく、再装填はかなり時間をとる。これにより使用目的は非常に制限された。

テクニカルデータ
口径:7.65mmブローニング
全長:219mm
銃身長:92mm
施条部分の長さ:82.5mm
サイレンサーの長さ:62mm
直径:31.8mm
マガジン:なし
閉鎖:固定


 この銃は床井雅美氏の「アンダーグラウンドウェポン」P23にも掲載されているのでそちらも参考にして下さい。



 ごく簡単にはこんな外観をしており、ウェルロッドの場合、「グリップを抜くと銃に見えない」銃だったわけですが、このスリーブガンは使用状態ですら銃に見えないわけです。濃いグレーで表現しているのは滑り止めローレットが切られた部分です。

 さて、構造はごく簡単なんですが、私のドイツ語力が低いだけでなくどうも説明も悪いようで、非常に分かりにくかったです。明らかに誤っていると思われる部分もあり、混乱するのでそこは省略してあります。



 まあ絵が下手なのはしょうがないとして、図のパーツの色と文中のパーツ名を同じにしてなるべく分かりやすいように努力してみました。

 まず、「閉鎖部」と「ケース」の分割は、



 こんなラインから行われます。弾薬は除き、このひとまとまりが閉鎖部、それ以外がケースと呼ばれています。閉鎖ケース先端のくぼみに弾薬を挿入するとこのように保持されます。図を見る限りエキストラクターのようなものはないようで、文中でも言及されていませんから、たぶんくぼみの直径が正確に加工してあってはめ込んだだけで保持されるんでしょう。とすれば発射後の薬莢はリバレーターのように銃口側から棒で突いて出すしかないと思われます。この図では閉鎖キャップがすでにねじ込まれ、ファイアリングピンが後退してファイアリングピントラップシャフトに保持され、ファイアリングピンスプリングは圧縮されていますが、実際はこうはなりません。上の大きな図を見てください。ファイアリングピントラップシャフトの先端は丸くなっていて、ファイアリングピンに押されると勝手に上に滑ってレットオフしてしまう形状になっています。それを止めているのがその上のトリガーレールです。トリガーレールがある限りファイアリングピントラップシャフトは上昇できず、ファイアリングピンはコック位置に保持されますが、全体図では右上の突起部になる、滑り止めセレーションを彫ったトリガーを反時計方向に回転させるとトリガーレールが前進し、ファイアリングピントラップシャフトが上昇できるスペースが生まれ、レットオフするわけです。この、「シアにハンマーまたはストライカーを保持する機能があり、トリガーを引くことでシアを動かしてレットオフする」のではなく、「シアは常にハンマーまたはストライカーをレットオフしようとしているが、それをいわば『つっかえ棒』で止めておき、トリガーを引くことで『つっかえ棒』が外れてレットオフする」システムは、先日書籍「Faustfeuerwaffen」におけるホイールロックの説明で出てきたばかりの方法です。通常これは競技銃などでトリガーを軽くするために使われる方法ですが、この銃の場合はデザイン上この方が簡単に、省スペースで設計できただけのことでしょう。
 ファイアリングピントラップシャフトトリガーレールに抑えられていない限りファイアリングピンを保持する能力がないので、ねじ込みによる閉鎖部ケースの結合が終わった後でないとファイアリングピンにテンションはかけられません。そこで閉鎖キャップをゆるめた状態で閉鎖部のねじ込みを行い、その後閉鎖キャップをねじ込むとファイアリングピンが圧縮されます。ちょっと面倒ですね。

 ちなみに、

1.トリガーとトリガーレールがどういうかみ合い方をしている結果トリガーを反時計方向に回転させるとトリガーレールが前進するのか。
2.閉鎖部を外している際ファイアリングピントラップシャフトの脱落防止はどのように行われるのか。

 に関しては説明がなく、図を見ても分かりません。グレーで表現しているパーツは「Verriegelung」(「かんぬき」)という名称のみ示され、何の説明もありませんが、図から中央のスプリングで両側のロックパーツが外側に押され、閉鎖部および閉鎖キャップねじ込み時のロックとして機能すると見て間違いなさそうです。なお、閉鎖キャップにはねじ込み時の滑り止めとしてローレットが切ってあるのに閉鎖ケースに特別な滑り止めがないのは、この「Verriegelung」の突起が滑り止めになるからでしょう。
 
 正確に狙いもつけられず、対人用として元々低威力の.32ACPを使用し、しかもチャンバーを出てすぐの部分にもうガス抜き穴があって威力はさらに低下し、単発でしかも戦闘中に再装填はとうてい不可能というこの銃に大きな役割が果せたとは思いにくいですが、ミステリアスでなかなか興味深い銃ですね。












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