IMI−sp21

 「Visier」2004年1月号に、「IMI−sp21」という銃のレポートが掲載されていました。聞きなれない名ですが、明らかに「バラク」ピストルと同一の機種です。

http://www118.pair.com/froman/arc_index/main_host_2imi.html?submit2=Enter+here
これがIMI公式サイトで、「バラク」ピストルが紹介されています。ここで紹介されている銃には「BARAK」という大きな刻印があり、記号による型の表示はありません。
http://www.magnumresearch.com/SP21.asp
こちらはアメリカにIMI製品を輸入しているマグナムリサーチの公式サイトにおける紹介で、こちらには「sp−21」という刻印はありますが、「BARAK」という刻印もなければ文による説明もありません。「バラク」というのはヘブライ語だと思いますが、意味は不明です。たぶん多くのアメリカ人にとっても意味不明だと思われるので分かりやすい記号表記のみにしているんでしょうか。「デザートイーグル」のような英語のかっこよさげな名前をつけた方がアピール力が増すような気がするんですが。
まず「Visier」による説明をお読みください。


IMI-sp21
口径9mmルガー

 現在、ほとんどの銃器メーカーは流行のマテリアルであるポリマーを取り入れている。IMI(イスラエル・ミリタリー・インダストリーズLtd.)は、新しいピストルを作るにあたり、単に素材を近代的なものに換えるだけでなく、いくつか設計上の新アイデアを盛り込んだ。SWMチームはこの銃のテスト射撃を行った。

 この銃は、グリップフレーム全体がプラスチック製であるだけでなく、スライド後半もプラスチック製に見える。一見して、がっしりとしたデザインが目を引き、プラスチック製ではあっても軽くはない。人はこの銃を見て、できそこないのグリース注入器のようだと感じ、エレガントさに欠けることを不満に思うかもしれない。しかし、銃においては美しさより実効性が重要であるし、一般的傾向としても最近では銃の美しさは重視されなくなってきている。それより、この銃に盛り込まれたいくつかのアイデアに注目すべきである。
 この銃のスライドは、独立した前後2つのパーツで成り立っているように見える。前部は直径28mmの丸い金属パイプでできており、バレルが内蔵されている。そして後部はむしろ角張ったデザインのプラスチック製で、前部とは不調和に見える。この部分は英語のマニュアルには「コッキンググリップ」と書いてある。これはドイツ語では「スパングリフ」であるが、あまり適切な名称ではない気がする。両サイドにはスライドを引きやすいように、ほぼ全長にわたって滑り止めのミゾがある。この部分は中までプラスチック製なわけではなく、内部は前半と一体のスチールで削り出されており、単に外部が厚さ3mmのプラスチックの層で覆われているだけだ。設計者が何故こういう手法を取ったのか、本当のところは分からないが、推測はできる。これにより、スライド後部の幅が大きくなってスライドが引きやすくなり、また加工コストを削減することができる。スチールに多数の滑り止めのミゾを彫るより、プラスチックを型で成型する方が安いからである。

一体のリアサイト

 さらに、リアサイトもコスト削減の可能性を持っている。この銃のリアサイトは、プラスチックの一体成型になっており、調節はできない。リアサイト左右にはホワイトドットが入っており、もう一つはフロントサイト後面にある。フロントサイトは鋳造で、スライドのアリミゾにセットされている。ハンマーと真鍮棒で叩き、左右調節ができるとマニュアルには書かれている。もし高さの調節が必要な場合はフロントサイトの交換で対応する可能性が考えられるが、それは書かれていない。他の可能性として、スライド後部のプラスチック部分をそっくり交換することも考えられるし、ガンスミスの手でアジャスタブルサイトを取りつけることもありうる。より簡単な方法として、着弾が下過ぎる場合にヤスリでフロントサイトを削って低くし、ホワイトドットを入れ直すという方法が考えられる。しかし、我々の射撃テストの結果では、25mからの着弾の中心点は、平均して狙点から230mmも上になった。狙点に着弾するようにするには、フロントサイトを1.5mmも高くしなくてはならないことになる!

デコッキングボタン
 スライドにはまだ特徴的な部分がある。リアサイトの前方には窪みがあり、その右サイドには一種のプッシュボタンがある。このボタンの一部はサイトラインを遮らないように切り欠かれている。このボタンは金属製で、周囲のプラスチック部分より光沢があって質感の違いが目立つ。ハンマーコック状態の時、このボタンを押すと、ハンマーは安全に倒れる。この特殊なボタンによる操作はかなり力が必要で、特に女性の使用者はちょっと苦労するだろう。
 IMI-sp21には、もはや常識となったオートマチックファイアリングピンブロックが当然装備されている。これはトリガーを引ききったときだけファイアリングピンをフリーにするものである。銃を地面に落としたり、ハンマーを何かにぶつけたりしても、意図しない発射は起こらない。さらにこの銃には親指で操作するアンビのマニュアルセーフティも装備されている。これはシアをブロックして、トリガーシステムに直接作用するセーフティである。
 さらに、トリガーの前方にもうひとつのセーフティがある。これは一見すると、単なるネジの頭に見える。実際にはドライバーで回すことはできない。これを回すには特別製のキーが必要だ。このキーを頭に差し込んで少し押し、1/4回転すると、セーフティがかかり、銃のほとんど全ての機能がブロックされる。トリガー、ハンマーが動かなくなることはもちろん、スライドを引くこともできなくなる。この状態で可能なのはマガジン着脱くらいである。保管時にこのセーフティをかけておけば、子供のいたずらによる事故を完璧に防ぐことができるし、万一盗難にあっても銃の機能は封鎖されていることになる。現在では、他国がアメリカへピストルを輸入するには、ほとんどこのくらいの配慮をしないと障害を克服しがたいのである。
 これもアメリカ向けの制限として、本来16発入りのマガジンが9発しか入らないようにになっている。マガジンはダブルカアラムだし、長さも125mmあるが、プラスチック製のマガジンボトムが高さ約30mmもあり、その分スチールプレスのマガジン本体は短く、装弾数がそれに合わせて減っている。簡単な改造で多弾数に戻すことは不可能である。スイスで販売されるこの銃にアメリカ仕様のマガジンが付属していたのは驚きだった。おそらく、この銃はアメリカに輸出されたものが、さらにスイスに輸出し直されたものだろう。この推測の根拠はグリップフレームにモールドされた文字にある。後方には「メイド イン イスラエル」とあり、前方にはアメリカにおける販売会社であるマグナムリサーチ社の名がある。
 最後に残ったこの銃の顕著な特徴は、トリガー前方にあるミル-スタンダード 1913レールだ。ここにはレーザーサイト、小型フラッシュライトを装着することができる。

分解
 分解するには、弾を抜いた銃のスライドを数mm後方に引き、スライドストップを左方向に押し出す(少々力がいる)。スライドを前方に抜き取ると、それぞれガイドに保持された左右2本のリコイルスプリングが現れる。ロッキングはチャンバーがエジェクションポートにはまりこむというコンベンショナルな方法で行われる。バレルのティルトも一般的な方法である。バレルはハンマー製法で作られたポリゴンだ。マズル部はラッパ状に広げられており、スライドとのタイトなフィットを期待させる。フレームには前後左右にそれぞれ10mmの爪が取りつけられており、これがスライドのレールとかみ合って保持している。もちろんこの爪は金属製である。このフィールドストリップ状態では、マガジンキャッチを左右に差し替えることができる。これは左利き射手には理想的である。
 最後に実射テストの結果を示す。信頼性は高く、使用した全ての弾薬において1回も作動不良はなかった。命中精度が最もよかったのはMagtechsのホローポイント弾で、58mm(25mから5発)だった。Thunerの70mmがこれに続いた。他の弾薬では、80〜100mm程度になり、これはディフェンスガンとして許容し得る性能である。シングルアクションのトリガープルが2.1kgもあるのでターゲットシューティングにはまったくお勧めできない。ダブルアクションのトリガープルは5.1kgで、いくらかひっかかりを感じる。

要約:この銃は頑丈で信用できるディフェンスガンであり、アメリカの安全に関する要求も満足させうる。

テクニカルデータ
タイプ:SA/DAオートピストル ブローニング改良型閉鎖方式 グリップフレームは大部分プラスチック製
メーカー:イスラエル ミリタリー インダストリーズ Ltd.(IMI) 所在地はイスラエルのRamat Hasharon
輸入業者:Spowag Gmbh(チューリッヒ)
口径:9mmルガー
銃身長:102mm(ポリゴン)
サイト:3ドットサイト フロントサイトは左右調節可
マガジン装弾数:9発
セーフティ:オートマチックファイアリングピンブロック マニュアルセーフティ 
トリガープル:SA 2.1kg DA5.1kg
全長:190mm
全高:148mm
全幅:35mm
重量(未装填):870g
材質:スチールおよびプラスチック
価格:1125CHF
備考:キーによるトリガーシステムの封鎖が可能 スライド上部にデコッキングボタン装備


 冒頭に出てきている「SWMチーム」というのは「スイス銃器マガジンチーム」のことで、事情は分かりませんが、「Visier」の一角にこのチームの担当ページがあるんです。この記事はスイスに輸入されたこの銃をスイス人のチームがレポートした内容になっています。価格がCHF(スイスフラン)で表示されているのはこういう理由です。2004年1月12日のレートで換算したところ、921ドルとなりました。これは異常に高価なので疑問に思いIMIの公式サイトで調べると、9mm、.40S&W、.45ACPとも499ドルとなっていました。スイスはピストルにかかる税金が極端に重いのかもしれません。
 この銃はターンバレルロッキングであるとしている資料もありますが、フィールドストリップ状態の写真があり、明らかにティルトバレルと分かります。スライド前半がチューブ状の形状で、いかにもターンバレルっぽいのでつい勘違いしたんではないでしょうか。

フィールドストリップ

 こんな感じです。チャンバー前上部に妙な段差があるので、ガバメントのような独立したロッキング、リセスのように見えますが、実はSIG方式の、エジェクションポートにチャンバーがはまりこんでロックするタイプです。全体のデザインは大きく異なりますが、ハンマーとマガジンキャッチはジェリコに似ています。リコイルスプリングが左右に分かれているのでバレル軸線が低くでき、マズルジャンプが小さくなっているとしている資料もありますが、この記事ではそういう記述はないですし、私にはこの銃のバレル軸線が普通より低いようには見えません。というか、むしろ高いように見えるんですが、実際のところはどうなんでしょうか。ちなみにリコイルスプリングはSIGの一部機種のような、ワイヤーをよりあわせたものをコイルにしたスプリングです。作るつもりは全然ないのでどうでもいいことですが、この銃のフレームのモールドは、モデルアップすることを考えるとうなされそうな複雑さです。

 一見するとついに半分とは言えスライドまでプラスチックの大口径オートが登場したか、と思ってしまいそうですが、実は厚さ3mmのプラスチックのガワがかぶせてあるだけなわけです。そりゃ強力な軍用ピストル弾9mmパラベラムを発射する以上、芯までプラスチックというのは無理と思われます。外部がプラスチックになっている理由は、すべり止めのセレーションとリアサイトをプラスチックで一体成型することでコストダウンが可能だからだろうと想像されています。確かにサイトの上下調節が可能な実用オートは少ないですし、左右はフロントサイトで調節できるんだからこれで何の不都合があるのかと問われれば「ごもっともです」としか答えられません。このクラスで499ドルというのは確かに安い部類になるはずですし、サイト自体が合っていないというのはこの構造とは無関係です。しかし個人的にはあまり好感が持てない方法です。リコイルを受け止める役目をするスライドはある程度の重量があることが望ましく、一部とはいえプラスチック製にすれば重量不足になるおそれがあります。この銃のスライドまわりが妙にデブなのはこれと無関係ではないかもしれません。
 「バラク」でも「sp−21」でも検索の結果あまりいい情報にヒットしません。「タボール」の記事で「Visier」もこの銃はあまり売れていないようなことを書いていました。日本の専門誌もまだ詳しく取り上げていません。ここでレポートされている銃もいったんアメリカ向けに輸出されたものがイレギュラーな経路でスイスに再輸出されたものであるようです。これらのことから、アメリカではこの銃はあまり人気がないのだろうと想像されます。この銃は、アメリカで売れないと見切りをつけられた製品がスイスに流れたと見ていいんではないでしょうか。しかし、マガジン装弾数規制のないスイスで、ダブルカアラムの大型オートなのに9発+1発しか装填できない銃を売ろうとしても人気が出るはずはないと思います。
 
 スライド上のデコッキングボタンは、明らかにワルサーP99の影響を受けていると考えられ、ここでこの点に一切触れられていないのが不自然に感じられるほどです。ただ、P99のそれがスライド上の外側にあるのに対し、sp-21のそれは内側寄りにあり、しかも操作にかなりの力が必要とのことなので、外力によって意図しないデコックが起きる可能性はほとんどなさそうです。当然銃を握ったままの片手では操作不可能なので、親指が届く位置にある機種に比べ操作性は低いですが、緊急にデコックする必要というのはあまりないと考えられますし、抜く時ひっかかる可能性がある突起がないという長所の方が大きいかもしれません。
 銃の機能を封鎖するキーは鉄板を打ち抜いて曲げただけの簡単なものですが、確かに子供のいたずらは防げるでしょうし、ロックがネジの頭に似せてあるため、銃の知識はあるのにこの銃を知らないという犯人がこの銃を盗んだら首を傾げ、壊れていると判断するかも知れません。確かに安全は安全でしょうが、この状態で保管しておき、緊急事態が生じた場合、使用が間に合わないという可能性もあります。キーと一緒に保管しておいたら危険ですし、別々では使用に時間がかかり、難しいところです。しかしまあ邪魔にはならないはずですし、嫌なら使わなければいいだけなので欠点にはならないでしょう。正直なところ、このセーフティは実際に使うものというより、何かあったときメーカーが「ここまで安全に配慮してあったのに」というエクスキューズをするためという意味の方が大きいような気がします。上のイラストで、トリガーの付け根の前に小さな突起がありますが、これがロックです。

スライド上部

 青い部分がデコッキングボタンです。



 全体として、決して悪い銃ではないと思います。安くて、信頼性が高く、命中精度も高く、安全性への配慮も充分です。それなのに売れない理由はよく分かりません。トリガープルが重い、重量がプラスチック製にしては重い、全体に幅があって携帯しにくいといった理由も考えられますが、外観がカッコ悪いというのも原因のひとつかもしれません。




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