6.8mmx43SPC

 「Visier」2004年4月号に、アメリカ軍の新弾薬、6.8mmx43に関する記事がありました。


今、歴史が語れることになった
6.8mmx43スペシャルパーパスカートリッジ(SPC)開発の道程は非常に特殊なものだった。

 軍産複合体は、双方の利益のための将官たちと軍需産業の間の関係及び依存のネットワークであり、軍事の分野の開発活動は、その中心課題である。これは政治学を学ぶ学生なら全員が基礎課程ですでに学ぶ事だ。開発は金のために行われ、そして軍の兵器調達計画には莫大な税金が投入される。内部関係者なら当然に知っていることだが、軍需産業にとって本当に多くの金がかかるのは生産時ではなく、それよりずっと以前の研究開発時である。もはや今日いかなる企業も国の前払い金および研究費なしに1つの兵器システムを作り上げることはできないのだ。企業は単独ではなく供給調達をつかさどる官庁の指示の元に他の企業とパートナーシップを組み、きちんと予定された道を進む。例えばドイツではコーブレンツのBWB、アメリカではニュージャージー州のピカティニーアーセナルにあるARDECのようにである。ある開発プロジェクトでは、要求のリストが作られ、発注が行われ、そして開発費が分配される(本誌2004年2月号のXM8開発ストーリーを見よ)。この際、部隊のエンドユーザーはしばしば非常に早い時期からこの開発に関与する。企業がエンドユーザーの関与から解放されるのは、幸運に恵まれ、開発がとっくに終わった後のことである。
 
 少なくとも外観上はそうである。現在実際に最前線に投入されている米軍部隊は、とっくの昔から5.56mmx45NATOスタンダード弾薬の威力(終局弾道性能)に強い不満を持っている。ソマリアでも、そして全く同様にアフガニスタンでも、銃撃戦において.223弾薬のマンストッピング効果の不足が示されている。この2つの紛争地域では、敵は数え切れない戦闘およびそれ以下の小規模な小競り合いにおいてプルーフされてきたコンビネーションを装備していた。すなわち、カラシニコフアサルトライフルと、広く普及した短小弾薬(頑住吉注:ドイツ語では「mittellangen Patrone」=中間の長さの弾薬。フルサイズライフル弾とピストル弾の中間という意味でしょう)1943年型7.62mmx39である。この弾薬は当時ドイツが採用していた7.92mmx33「クルツパトローネ」をベースにしている。(頑住吉注:これは「短い弾薬」の意。こちらはフルサイズライフル弾と比較して短いという意味ですね。原文でこれだけ括弧つきなのは現在の呼称と違うからでしょう。それにしてもドイツ人は「これの元祖はドイツ」を明記するのが好きですね。)
 アメリカではこの種の短小弾薬は作られなかった。1950年代の遅い時期になって初めてアーマライト社のRobert FremontとL.James Sullivanが.223レミントン(5.56mmx45)を作った。この弾薬は一方でソ連が1970年代にAK-74アサルトライフル世代用の5.45mmx39でこれを模倣するきっかけにもなった。過去65年間にひっくるめてほぼ100ものさまざまな短小弾薬が作られた。この中には新しい中国製アサルトライフル弾薬5.8mmx42も含まれる。口径.23インチ周辺のこの種の弾薬の長所は今なお明確ではない。しかしどれをとっても、(頑住吉注:現実にその威力に大きな不満が出ている).5.56mmx45と比較してずっと優れたものであるとは考えにくい。射程やターゲット内でのエネルギー発散能力が優れた弾薬はありうるが、そのサイズは大きくなる。米軍が使用している5.56mm弾仕様のM16用マガジンに適合するだろうか?

オサマ・ビン・ラディンと特殊部隊
 テロリズムとの戦いは、戦争像というものを完全に変えてしまった。現在作戦および現実の戦争の中心に存在するのは戦車師団ではなく小規模な特殊部隊である。このことが弾薬の威力問題を再び前面に押し出した。 
 2002年以来、米軍の新弾薬投入に関する噂が流布している。(頑住吉注:本原稿を「Visier」編集長と共同執筆している)Gary P.Johnstonはほとんど始めから特別の許しを得てこの新弾薬の開発に密着してきたが、今までレポートの公表を差し止められてきた(頑住吉注:これがメインタイトルの意味ですね)。
 2001年9月11日に発生した同時多発テロの結果アメリカの特殊部隊がアフガニスタン地域に投入された直後、5.56mm M885弾薬のストップ効果不足が示され、早急な改善が望まれた。スペシャルオペレーションフォース(「SpecFor」)の「グリーンベレー」は銃器メーカーそのものではないにしても、自身と敵の装備について深く理解している。
 彼らはベトナム戦争以来、自身で使用した経験からそうした場所ではAK47と7.62mmx39弾薬という死のコンビネーションがベストであると知っている。アフガニスタンにおける5.56mm弾薬が性能不足だとする意見を踏まえ、似たような効果的な弾薬が欲しいという願いが高まった。John Mulholland大佐指揮下の第5スペシャルフォースグループ内アルファチームで構成された「Task Force Dagger」がカブールおよびカンダハルへの進撃の先導役となった時のことである。
 あまり例のないことだが、第5スペシャルフォースグループ(エアボーン)とアメリカ陸軍マークスマンシップユニット(USAMU)の階級の高い軍人の何人かが.223/5.56mm問題を検討するためのグループを作り、活動を始めた。これが新プロジェクトチーム「スペシャルパーパスカートリッジ」(「SPC」)の始まりにもなった。だが、(頑住吉注:このときいきなりこの新カートリッジの開発が始まったわけではなく)まず第一に暫定的解決が求められた。何故なら、アフガニスタンにおける作戦は現に進行中であり、未来の夢物語が実現するのを待ってはいられなかったからである。ある実戦および銃器使用に関する専門家グループは軍司令部のUSAOCとSOCOMから、新「スペシャルパーパスライフル」(「SPR」)タイプSOCOM Mk-12およびMk-262 5.56mmx45 77グレイン弾薬を共同で開発するよう命じられた。前線からも報告されたように、「Enduring Freedom」作戦期間中、このライフルと弾薬のコンビによって成功率は上昇した。だがMk-262弾薬による威力向上はM885 63グレイン弾薬に比べて全く微々たるものに過ぎず、ラジカルな改良とは言えなかった。戦闘での使用状況の分析と比較テストにより、プロジェクトチームは根本的に異なる解決が必要であるという考えに至った。総司令部の認可を受け、軍人、技術者らが過去40年間使用されてきたミリタリー・ポリス領域の弾薬の方向性を変え得る新弾薬の開発を計画した。これは草の根的開発であり、政治家や議員団の口出しで妨げられることがない、軍官僚が意志を貫徹できる性格のものだった。

秘密、また秘密
 開発計画は始めから非常に困難であることが示された。知る限りのあらゆる術策をもってしても、ハードな要求に応じ得る答えは見つからなかった。さまざまな可能性が探られた。研究グループは、広く流通している弾薬の薬莢を分析することから作業を始めた。これを元にして、M4およびM16のマガジンに適合する、原型となる最初の薬莢を作るためである。多くの議論と調査の後、USAMU仕様のM16ライフル製造の達人Cris Murrayはチームリーダーである特殊部隊曹長(ここではただHという符号で呼んでおく)に.30レミントンの薬莢を推薦した。これはいくぶん性能を向上させた.30-30のリムレスバージョンだ。
 Murrayは「Auto-CAD-14-コンピュータプログラム」を使用して.30レミントンの薬莢の断面図を書き換えた。続いて彼はあるスポーツ用品店で比較的多数の古い.30レミントンの薬莢を発見し、自費で購入した(頑住吉注:.30レミントンは「カートリッジス オブ ザ ワールド」でも時代遅れを意味する「obsolete」の部類に入り、「最近まで国内のいくつかのメーカーが作っていた」というような現在比較的入手しにくいもののようです)。彼はこれをもとに、ハンマーと金ノコを使って(頑住吉注:これはたぶんまったく文字通りの意味ではなく、比較的初歩的な工具を使い、手作業に多くを頼って、というような意味かと思います)望まれる新薬莢はどういうものかを探り出す作業を始めた。1906年に開発された、薬莢の長さ52mmのこの弾薬は、当然のことながらアサルトライフル用短小弾薬には含まれない。このときまで彼は弾薬の全長がM16用マガジンに適合するという理由で.25レミントンを原型とすることも考えていたが、これは放棄した。彼は.30レミントンを原型とするプランを手にチーフを訪れ、このアイデアで研究を進める許可を得た。この最初のプロトタイプが.257SPCであり、42〜43ページにかけてその一部の写真を掲載した多数の試作弾薬の始まりである。この路線で開発を進めることへの上層部の正式な、最終的な許可も下りた。

一歩一歩
 オリジナル薬莢の.30レミントンは長すぎたが、その底部の直径は7.62mmx39の.445に比べ.422しかなかった。この点では.30レミントンは5.56mmx45の寸法(.368)にはるかに近いことになる。このことはM16のマガジンに収めるのに都合がよく、またM16システムのボルトヘッドおよびエキストラクターに根本的な変更を加える必要がないことを意味していた。薬莢の長さは43mmに短縮されることになった。そして弾道学的な効果を実践的にテストするための一定数のテスト弾薬の製造が始まった。
 一歩一歩手探りしながら口径が結論に近づいていった。意外なことに、最初には5.56mmすら案の中に存在した。ついで6mm、.25口径が続いた。そして6.5mm、7mm、.30口径と進み、またボトルネック部を前にしたり、後ろにしたり、そしていろいろなタイプの弾丸が検討された。6.5mm弾にベストの結果が期待され、また実際にそうなった。
 6.5mmの弾道の精度が非常に良いことは注目されたが、ターゲット内部でのストップ効果は望まれる水準に達しなかった。だが、この6.5mm弾薬は、例えば6.5mmx38.6グレンデルのような特殊弾薬に比べて使用上有利だった。グレンデルは薬莢の容積が足りないし、M16用マガジンの形状上受け入れ不可能である。
 すでにラスベガスで行われたSHOT SHOW 2002において、新弾薬開発プロジェクトに関し、レミントン社の現弾薬部門副社長であるSean DwyerとUSAMUの技術者Troy LawtonおよびチームリーダーのH曹長との非公式の出会いがあった。
 愛国心から、またまだ9月11日ショックが続いていたことから、Dwyerはさまざまな薬莢の弾薬に関する質問に答える意志があった(頑住吉注:「それは社内秘のデータなのでお教えできません」とか言わず、という意味でしょう)。そして、レミントン社の指揮による取り組みについて報告した。5月の始め、レミントンの研究開発のリーダーであるGreg Dennision指揮の下、5.56mmから6.5mm、7mmを経て7.62mmに至るさまざまな弾薬が試作され、選択可能性が生じた。7mm薬莢を除き、全ての薬莢に関し大小のプライマーケースが作られた。小さなプライマーケースを使えば、5.56mm弾薬と同じサイズに縮小したリムにできる可能性が生じる。同時に発射薬のデータの研究は終了し、弾道を計測するための条件が確定した。一方、決して簡単だと考えていたわけではないが、口径はまだ決まらなかった。原型となる薬莢の分析により、プロジェクトグループは装薬の均一性と低温時の成績により、大型のプライマーケースを装備したバージョンの使用を決定した。
 テスト者は一般に流通している弾丸に再び目を向けた。しかし、しばしば長距離射撃選手の弾薬選択に影響され過ぎた。だが、H曹長は300〜500mからの射撃だけでなく、近距離の1人の敵を排除することがいかに重要かということを知っていた。
 テストの間に、Troy Lawtonはチームリーダーにことのついでに質問した。「何故.270がテスト弾丸の中に最初から入っていないのか」これが問題解決の鍵となる質問になった。この口径のさまざまな弾丸をテストした後、有名な弾道学者Gary K.Robert博士に弾丸の重量に関する助言を受け、最終的に全ての要求を満たすアサルトライフル用短小弾薬が確定した。この弾丸の径6.8mmは.277口径にあたり、実測の直径は.270ウィンチェスターと同一である。6月の終わりにレミントンは6.8mm弾薬の薬莢を作った。この薬莢には.30レミントン同様大型のライフル用プライマーケースが使われていた。
 6.8mmx43SPC開発にあたり、チームはこの他補助的にSierra Bullets社のPat DalyとKevin Thomas、ホーナディ社の弾道学者チーフのDavid Emary、当時Ramshot Powders社に所属していたPete Forresの協力を得た。多くの実験の後、6.8mmレミントンSPCに信頼性、ストップ効果、そして命中精度を与えるべく、ホーナディ社とSierra社によっての2種類の115グレイン弾が作られた。Sierra社のマッチ キング弾はきわめて命中精度が高かったが、ホーナディバージョンの方がバリスティックゼラチンに対して10%高い効果を示し、これは決定的な差であるとされた。その後テストが続行されたのはホーナディバージョンである。
 基礎的テストの後、チームはまだ秘密保持の適用を受けている、ある最適な発射薬を見いだした。この火薬は新しいもので、一般流通では入手不可能である。これは薬莢のキャパシティに100%充填することを可能にし、しかもチャンバー内圧力を51000psiにしか上昇させない(これに比べ5.56mmx45は55000psiである)。この火薬を使うと、16.5inの長さがあるM16/AR15のバレルを使用して、初速が危険なく800m/sに達する。この銃身長はMk-12の6.8mmバリエーションとして部隊投入が検討されている。ただし、新型の12in(305mm)銃身モデルも同様に望まれている。
 6.8mmは魔法の弾丸ではないし、SPCの薬莢も約半世紀の歴史を持つ短小弾薬の中でベストのものではない。しかし実戦に投入される兵士が必要としている弾薬である。しかも、その開発に10年もの年月がかかったわけでは決してないし、何百万ドルもの税金がつぎ込まれたわけでもない。M4、M16、Mk-12、あるいはXM8をこの弾薬仕様に事後改変するコストは、マガジン、弾薬まで含め1挺あたり1000ドルかからない。これは他の軍備プロジェクト、そして投入される兵士の命に比べれば安い投資である。

ある握手
 フロリダで行われたSHOT SHOW 2003において、プロジェクトのため再び頂上会談が行われた。この場にはスペシャルプロジェクトチーム、いろいろなアメリカの特殊作戦軍メンバーとならんで、国防省の代表者、レミントン社とホーナディ社のチーフも出席していた。全ての、特にそれまでプロジェクトに関与してこなかった米軍特殊部隊はこの6.8mmx43SPCに強い興味を抱いた。ベースとなった薬莢を作っていたレミントンはこの弾薬の生産準備を整えた。新たなイニシアチブの枠組みの中で、政権にとってコスト負担なくコマーシャル用に生産されているカートリッジへの早急な改変が手配された。レミントンとホーナディは2003年の生産数を700万発と見積もった。
 さまざまな公的機関がレミントンに対し、M700シリーズのスナイパーライフル、類似のレミントンライトタクティカルライフル(「LTR」)をこの新弾薬仕様で作れとせきたてている。これらの銃がレミントンモデル700のショートアクション、あるいは人気の高いモデル7アクションで作られるかは現時点では確定していない。
 現在使用している発射薬の場合、新しい6.8mmx43SPCの115グレインホーナディ弾は距離0から500mまでの範囲で弾道係数が.350に達し、飛行特性は7.62mmx51NATO弾(147グレイン.308)と同一である。600mではそれより10cm下に着弾する。全ての7.62mmNATO用にセットされた制式スコープは、わずかな上への調整のみで600mにおいて使用できる。これに加え、6.8mmホーナディは全ての距離において1MOAの精度を達成し、従来より優れたストップ効果がある。7.62mmマッチ弾より優れていることはないにしても、少なくとも同等である。少ないリコイルは命中を視認すること、そして必要な場合素早い第2弾の発射を可能にする。そうした用途には最適ではないし、必要もないはずだが、6.8mmSPCとトリジコンACOG4倍スコープの組み合わせは、800mにおいてマンターゲットに初弾での命中が期待できる。
 6.8mmSPCは7.62mmx39より初速が100m/s高く、その成績をはるかに上回る。

最高のライフル
 弾薬開発と同時に、それを使用する銃が必要になる。より望ましいのは新弾薬の発射を可能にするM16のアッパーレシーバー部のみである。ここでもたくさんの問題が発生した。M4カービンはこのための解答ではなかった。ある妥当な解決をアーマライト社のMark Westromが提示した。彼はM16「ショーティ」およびそのガスシステムがたくさんの問題の原因になっている可能性があると見て取った。かれは中間サイズの全長を持ち、ガスポートがより前(M4とM16の中間)に位置し、問題が回避できるカービンを開発した。これは小規模なUSAMUとの共同作業であり、またWestromはプロジェクトグループには予算がないことを知っていたので、プロジェクトがこのアイデアを無料で使用することを許した。
 この新ライフルは公式にはMk-12のバリエーションだが、部隊では偵察部隊(recon)からとって単に「Recce Rifle」と呼ばれている。アッパーレシーバー部は軍で使用しているM16およびM4のロアレシーバーに適合する。バレルはウィスコンシン州のAlbanyにあるRock Creek barrels社が製造する16.5inのステンレス製マッチグレードが使われる。マズルにはアダプターとマウント・マズルブレーキを組み合わせたものが装着される。この形状はMk-12スペシャルパーパスライフルのものに似ている。このため6.8mmに組み替えたバージョンにも、Special Operations Peculiar Modification(「SOPMOD」)バージョンのMk-12SPRサイレンサー(カリフォルニア州のOPS社製)が使用できる。初速が減り、寸法が大きくなったため、6.8mm用バレルは900〜925発/分と発射速度が高い5.56mm仕様のM4カービンより命数がずっと大きくなり、少ない摩耗を示す。
 いくぶんボルトヘッドが大型化したRecce Rifleには、オハイオ州New BremenのPrecision Reflex社製のマガジンが付属する。このマガジンはコルト社の7.62mmx39用スチールマガジンをベースにしている。6.8mm用マガジンはM16用30連マガジンに似ており、28発装填でき、M16に適合する。同じように6.8mm弾を発射できるライフルとしては、HK G36およびXM8、アーマライトAR-180B、ナイト アーマライトSR-15、ロビンソンRAV-2000、IMI TR-21、FNC、CIS SAR-21、SIG552、ステアーAUGなどがある。M16用マガジンを使う5.56mmライフルならば、マガジンフォーロワとマガジンスプリングは変更なしに流用できる。

そして今後
 新弾薬にとって最も重要な戦いの時はさしせまっている。すなわち、米軍の兵器供給・調達を司る官僚組織との戦いだ。それが終わっても、プロジェクトはまだ抵抗と戦わなくてはならない。一方、民間人と警察はすでに6.8mmx43SPCを熱心に話題に取り上げている。Johnstonはすでに改造したCZ製ハンティングライフルで、ホーナディ110グレインV-MAX弾を使用している。彼は75ヤードの距離から、200ポンド(約91kg)の鹿を初弾で射殺した。しかし、レミントンはSHOT SHOW 2004での発表をとりやめ、6.8mm口径の銃も発表しなかった。Gemtech社はサイレンサーが付属したレミントン700ライトタクティカルライフルベースの銃を提示した。モンタナ州にあるJarvis CustomのRick Javisも現在レミントン700の6.8mmx43コンバージョンを作っている。.50BMGライフルで知られるバレット社もラスベガスで(頑住吉注:SHOT SHOW 2004で、ということです。ちなみにGUN誌に写真が掲載されています)すでに.223口径の各AR-15/M16を新弾薬に改造するためのセミおよびフルオート用アッパーレシーバーまわりを提示した。アメリカ海軍もすでにこの弾薬に強い興味を示し、フィールドテストのためのRecce型で16.5in(42cm)バレルを持つ銃を20丁オーダーした。


 銃自体の説明は分かりやすいんですが、開発にあたっての組織同士の関係等はその方面の知識不足も手伝って私のドイツ語力では理解しにくく、間違いもあろうかと思います。それでもなるべく間違いが少ないように努力しながらポイントを整理しましょう。
 まず、6.8mmx43SPC開発のきっかけです。ベトナム時代にM16(A1)とともに採用された.223レミントン(M193)は弾丸の重量が55グレインでした。これがあまりに軽すぎ、貫通力、遠距離射撃性能、人体に対するパンチ力などが足りないということで、M16A2に改良するにあたり、弾頭重量を63グレインに増加したM885に変更したわけです。湾岸戦争当時この新弾薬が性能不足であるという声は、少なくとも日本のガンマニアにははっきり聞こえてきませんでした(英軍のL85A1がどうもダメらしいという話は伝わっていたんですがね)。それなのにソマリア、アフガニスタン、そしてイラクでは威力不足であるという声が無視し得ないものになり、早急な解決が望まれるに至りました。湾岸戦争はM885が採用されて以後初めての大規模戦闘であり、そしてM885は従来よりは威力が改善されていたのでそのときには大きな不満の声が上がらなかったということもあるかもしれません。また湾岸戦争時、どうも敵の戦意が全体に低かったらしいなど、戦争ごとの条件の違いもあるかもしれません。でもそれでもやや不可解な気はしますよね。
 完全な解答になるかどうかは分かりませんが、今回の記事にはその理由が書かれています。第二次大戦初頭、ドイツが電撃戦により大成功を収めて以後、「陸戦の王者は戦車である」というのが常識になりました。戦争を支える国力や補給路、航空支援が重要なのはもちろんですが、陸戦兵器自体としては戦車が最も重要であり、その性能と数で勝敗が決まるという常識は湾岸戦争でもまだかろうじて健在でした。こうしたスタイルの戦争では、歩兵用ライフルの役割は相対的に低かったわけです。ところがその後この常識が崩れました。
 冷戦が終結し、世界大戦の危険が遠のいた一方で、冷戦のたがが緩んだために比較的小規模な地域紛争やテロの危険は逆に高まりました。その決定的な例が9.11テロなわけです。もはや主な敵はロシア、東ヨーロッパ諸国のような比較的先進的な国の第一線部隊ではなく、どこに潜んでいるか分からない途上国のテロリスト、ゲリラ達になりました。アフガニスタンでも、先のイラク戦争でも、大規模な戦車戦などそもそも起こらず、小規模な特殊部隊が敵が潜んでいるかもしれない家屋を1つ1つつぶしていくスタイルの戦闘が大きなウェイトを占めるようになりました。イラク戦争において、首都陥落、政権崩壊まではあっけなかったのに、ゲリラの抵抗は一向に止まず、その後の戦闘の方が長い時間がかかり、また多数の兵が犠牲になっているのはご存じの通りです。こういう戦闘では歩兵用ライフルの果たす役割が従来よりずっと大きくなり、それまで威力不十分とは思いながらも我慢してきたものが、我慢できなくなったというわけです。ちなみに「コンバットショットガン」の項目で登場したM16シリーズのバレル下に装着する「LSS」と、ドアのヒンジを破壊する特殊スラッグ弾の組み合わせもこうした新しいスタイルの戦争で強く要求された結果生まれたものですね。
 そして、この要求に応じていきなり6.8mmx43SPCの開発が始まったわけではなく、その前段階として重量を増やした「Mk-262 5.56mmx45 77グレイン弾薬」とこれを使用する「SOCOM Mk-12スペシャルパーパスライフル」というものが作られ、アフガニスタンで実際に使用されました。この弾薬は基本的には弾丸重量を増やしただけのもののようです。これは「従来より射撃効果が大きい」というデータが確かに読み取れるものではあったものの、威力増強は「微々たるもの」でした。7.62mm弾並の重量がある5.56mmx45サブソニック弾などというものもあるくらいですからもっと重い弾を使うことも不可能ではないでしょうが、薬莢の容積が限られている以上いろいろ無理が生じ、やはりラジカルな解決が必要だという結論になったようです。
 現在、新兵器開発は軍産複合体が利益を求めて始め、国が莫大な予算を投入して複数のメーカーを協力させ、長い時間をかけて行うのが通例ですが、この点で6.8mmx43SPCの開発はきわめて異色だったということです。現場が要求し、現場をよく知っている比較的下級の軍人が中心になり(もちろん上層部の承認は要りますが)、少ない予算で、短時間で開発が行われました。この際弾薬メーカーらの積極的な協力が得られたということです。これは愛国心のため、9.11ショックが続いていたため、ということもあるでしょうが、レミントンらメーカーが「これは商売になる」と判断したことも恐らく大きいでしょう。そして、最後にはレミントンらがイニシアチブを取ってコマーシャルカートリッジとしての生産設備を整えたため、国としては他に用途がない弾薬のための生産設備を整えさせる場合のような予算が要らなかったということです。
 しかし、実際には6.8mmx43SPCに最適な発射薬として選ばれたのはまだ秘密解除になっていない新しい火薬でした。普通ライフルの薬莢内に100%火薬を詰めると危険らしいですが、この火薬ならこれが可能で、圧力が上がり過ぎず、しかもかなり速い初速が得られるということです。この秘密の火薬を使っているせいなのか、XM8の記事ではSHOT SHOW 2004で行われる予定と書いてあった6.8mmx43SPCの発表は見送られたようです。実際GUN誌のレポートでも6.5mmグレンデルは紹介されているのに6.8mmx43SPCは(説明文内で触れられているもののそれ自体は)紹介されていません。弾薬メーカーだけでなく、バレットなどこの弾薬が使える銃を開発したメーカーとしてもこれでは困るはずですが、今後どうなるのかは不明です。しかし発射薬を通常のものに変え、結果的に少し性能が低下したものであれ、比較的近い将来一般市販されるのは間違いあるまいと思います。
 軍用としては「Mk-262 5.56mmx45 77グレイン弾薬」を使用する「SOCOM Mk-12スペシャルパーパスライフル」に似たライフルが開発され、部隊では「Recceライフル」と呼ばれているということです。この銃はXM8の記事でバランスが悪くなり、ひっかりやすい、着脱するたびに着弾点が変わるなどと批判された、ハンドガードまわりのレールにすべてのアクセサリーが集中するタイプのM16カスタムです。理由はよく分かりませんが、M4カービンの形ではガスポートが手前すぎて問題があり、M4とM16の中間くらいに位置させているということなんで、6.8mmx43SPCを使う限り極端なショートバージョンはできないということのようです。まあ、弾が重く、エネルギーが大きく、発射薬が多いこの弾薬の場合極端に短くすると反動や発射炎が大きくなりすぎる可能性が高く、仮に可能でも実用的ではないかもしれません。以前の説明では「少々の調整」で従来のM16シリーズに使えるような話でしたが、今回の説明ではアッパーレシーバーまわりごと交換が必要で、マガジンも専用が必要ということです。ただし、ロアレシーバーまわりは流用でき、専用マガジンもそのまま入ります。これでも予算の大きな節約になります。私は6.8mmx43の前段階で検討されていた6.5mm弾薬というのは5.56mmx45の薬莢の絞りを少なくして太い弾頭をつけただけのものだったのではないかと推測しましたが、これは外れでした。しかし、結果的に没になったものの、5.56mmx45と同じリムの大きさにしてボルトヘッドは交換せずに済ませるという案は実際にあったようです。
 現用の5.56mmx45が射程、威力不足であるという理由で6.8mmx43が要求されたわけですから、まずこの問題がクリアされているかどうかが注目されます。この記事によれば6.8mmx43は500mまで7.62mmx51と同一の弾道を持つということで、遠距離射撃性能の問題は一応クリアでしょう(M885と比べてどうかが書かれていないのが不満ですが)。マンストッピングパワーはバトルプルーフされるまで不明でしょうが、1つ大きな判断材料があります。.17HMRの項目で、この弾丸がキツネにすらギリギリの効力であるとされることから、これと初速と口径が似ており、弾頭重量が1.5倍強になったような弾薬である4.6mmx30の(キツネよりはるかに大きな動物である)人間に対する効力は疑わしいのではないかと書きました。今回の記事には、6.8mmx43を使い、人間の平均より体重がかなり重く、皮がはるかに丈夫な動物であるシカを75ヤードから1発で射殺したという記述があります。1件だけではサンプルとして少なすぎますし、その場に倒れて即死したとまでは書いてないわけですが、これなら人間に対する効力も充分なのではあるまいかと推測する1つの材料にはなるでしょう。
 今後6.8mmx43SPCがどの程度の範囲で使用されるのかは未定のようです。この記事ではこれを主力とすることが望まれるが、大きな抵抗が予想される、というニュアンスのようです。おそらくXM8を採用するか否かとも大きな関連があるでしょう。大量のM16シリーズ用6.8mmx43仕様アッパーレシーバーを購入した後すぐXM8を採用、配備したのではあまりに無駄ですから。私としては6.8mmx43SPC仕様のXM8が米軍の主力になる可能性はかなり高いのではないかと予想しています。 ただ、やはり欠点に一切触れられていないのは気になります。7.62mmx51の場合、銃にもよりますが、フルオートのコントロールは非常に難しいとされています。6.8mmx43の弾頭重量は7.62mmx51にかなり近く、初速はそれ以上です。こういう弾を、7.62mmx51を使う銃よりずっと軽量なM16シリーズ、あるいはもっと軽量なXM8で撃った場合、フルオート時のコントロールが困難になるのは避け難いはずです。また、弾頭重量が現用のM885の倍近くあり、薬莢も大きく、薬量も多いわけですから、理論上1人の携行弾数が減るのも間違いないでしょう。メリットとデメリット、どちらを重視するかというのは難しい問題だと思います。






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