SPSスタンダードプラスU

 「Visier」2004年8月号の「スイス銃器マガジン」ページに、スペインのメーカーSPS製のハイキャパシティガバメント亜流マッチモデル、スタンダードプラスUに関する記事が掲載されていました。


SPSスタンダード プラスU
スペインの銃器メーカーSPSが「スタンダード プラスU」という形で今年春に発表した銃は、一般的な改良の枠を超えている。このアイデアは「Guided barrel」と名付けられ、つまり「誘導された銃身」である。その背後に隠されたディテールについては以下の記事が示す。

加の「プラスU」は、SPSのスタンダードピストルにすでに2回の変更が加えられていることだけを推測させる。最初の変更は「Dust Cover」に関係するものだと記憶しており、これはつまり下部構造のマズルまでの延長である。これによりこのピストルには好都合な追加の前部ウェイトが付与された(頑住吉注:「ダストカバー」という呼び方が一般的なのかどうかは知りませんが、要するにフレーム前部がマズルまで伸びている、最近では珍しくないスタイルです。確かにこの形はノーマルな形よりスライドとフレームの間に異物が入りにくそうではありますね。ちなみにこの銃では単にフレームが前方に伸びているだけでスライドとかみ合うレールの長さはノーマルのままです)。そうこうするうちにほとんど全ての1911系類似の銃のメーカーがこのリニューアルをプログラムに組み入れるようになった。その結果SPSは再び1911系システムの弱点を見つけだし、同様に問題の解決を提案することになった。1911系は、ほぼ100歳であり、すでにに十分な改良が加えられたに違いないにもかかわらず、スペイン人はさらに有望な改良を試みた。今回技術者はバレルに疑問を持ったようである。より正確に言えば、発射の際のバレルとスライドの間の遊びにである。というのは、ガバメントタイプの銃のバレルは閉鎖状態では完全にぴっちり安定させることができるにもかかわらず、スライドが後方に動くやいなや、この状態は急激に変化する。一方ではバレルはマズル後方のどこかでよりルーズになることを強制される。それによってバレルはティルトできるのである(そういうわけで球面で支えるバレル保持ブッシングが使われることがある 頑住吉注:S&Wなどが使っていますね)。そしてバレル前部周囲がもはやスライドに誘導されなくなるやいなや、バレルは全方向に動き、最小の抵抗を提供する。
 ここでちょうど反論が生じるかもしれない。ティルトが始まる時には、弾丸はすでにとっくにバレルから去っていると。これは正しくはあるが、ただしコルトシステムではモダンな閉鎖システムでは除去されている、さらにもうひとつのバレルの動きが加わる。それは縦軸に沿っての回転運動である(頑住吉注:バレル後部がフレームにほぼ固定され、ここを軸に先端部が上から見て左右に振れる動きのことです)。これは弾丸がライフリング内で圧縮され、そしてその慣性モーメントの一部がバレルに伝わることによって呼び起こされる。つまり原則的にコルトバレルはかなりの程度に完璧だが、ただリンクの受け入れが適したフレームの切り欠きにセットされ、自分の軸に沿っての回転が妨げられればの話である。この領域の公差が小さくなればなるほど、バレルとフレームは互いに安定してふるまう。しかしここには最低限の公差が設定されている。さもないとピストルは最小の汚れで作動に支障をきたし、少なくともティルトにブレーキがかかる。これにより信頼できない作動をはっきり示す可能性がある。
 今日普通である近代化されたブローニング閉鎖システムはリンクを放棄しており、そしてこのかわりに「あやつるKulisse」を持っている(頑住吉注:辞書には「連結リンク」と出ていますが、それじゃ区別できなくて困ります。意味は分かりますよね。最近主流のブロック状のカムでバレルをティルトさせる形式です。少なくとも理論上バレルとリンク、リンクとフレームの間に公差が設定されるガバ系より、バレルとフレームの間のみに公差が設定されるこのシステムの方が精度上有利だということです)。しかしずっと重要なのは、もはや節のような形に配列されたバレル上の突起がスライド内の対応する凹みにグリップされることによって閉鎖を担当しておらず、チャンバー周り全体のブロックがエジェクションポート内でグリップされ、これにより「大々的に」閉鎖されるという事実である。このブロックはこの際その両サイドをスライドによって導かれ、縦軸に沿ってのバレルの回転は不可能である。
 そしてまさにSPSはこの「ねじれ運動」を排除することを望んだのである。「Guided barrel」というのはこのための解決法であり、ドイツ語では「誘導された銃身」である。これは、マズル近くのバレル上に固定されたレールがフロントサイトを乗せているだけではなく、さらにスライドの対応する切り抜き部にグリップされ、そしてそれによって縦回転を阻止するということを意味している。レールはたっぷり10mmの幅、42mmの長さ、そして側面は4mmの高さがある。これによりレールはスライド上に2mm突き出している。つまり、この解決法によりバレルは2つの異なる場所で回転に反するよう誘導される。1回目は後下、2回目は上前でである。このシステムがより良い命中精度を提供するか否かはシューティングレンジでのテストで示されるに違いない。だが、その前にさらにそれ以外の変更箇所に少々触れる。これらはスライド上部領域に関わるものである。縦方向のフルートは、視覚的にアクセントになっているだけでなく、マテリアルの「とりのぞき」にも効果がある。これは前部のバレル誘導用切り抜き部と合わせ、若干スライドを軽量化している(頑住吉注:一応フルートと訳しましたが、普通のフルートとは違い、何と言うんですかね、スライドを輪切りにすると上のエッジ部ってふくらんだ曲面になっているじゃないですか。あれが逆に凹んだ曲面になっていることを指しています)。これは少なくとも軽いスライドと重いフレームを備えた銃を好むシューターにはプラスになる。
 SPSはグリップフレームにもいくらかの配慮を行っている。これは特にグリップ確実性に役立つもので、特殊な方法によってざらざらのシャープな表面が生じている。「ハンダゴテで熱加工したようだ」、私のある射撃仲間はこのピストルを最初に手に取ったときに思った。事実、プラスチックの凹みは細いハンダゴテの先端でマテリアルに深く熱による加工を行ったように見える。この加工を行ったグリップフレームは追加価格80スイスフランが加算される(頑住吉注:日本のトイガンマニアには1980年代からお馴染みの、実際にハンダゴテまたはそれに準ずるものを使った滑り止め加工だろうと思います)。この他、SPSにとっては当然の、例えば大型化されたマガジンキャッチボタン、一体のマグウェル、延長されたアンビのセーフティレバーといった「おまけ」がある。
 スタンダード、またはディフェンス用としての実戦使用において、私は個人的に固定サイトをベターなものとして気に入っている。だがいろいろな弾薬を試す人、またはむしろ精密ターゲットシューティングを好む人には、マイクロメーターサイトが良好に役立つ。そしてこの銃の精密射撃の結果は(25mからのシッティング、依託射撃)、最初のテストでまったくもってどこへ出しても恥ずかしくないものになった。ベストの5発グルーピングはFiocchiの「Major」によって33mmとなり、Magtechの48mmがそれに続いた。残る3種類は80mm程度になった。興味深いことに、いくつかのフラットノーズ弾は装填障害を起こし、通常ピストルにとって「くるみ割り」である全てのホローポイント弾は完璧に作動した。

テクニカルデータ
モデル:SPSスタンダードプラスU
銃器タイプ:ブローニング式閉鎖システムを持つオートピストル
口径:.40S&W。自己の選択により9mmパラベラム、.38スーパー、.45ACPが入手可能。
銃身長:123mm
サイト:アジャスタブルターゲットサイト
マガジンキャパシティ:15発
セーフティ:グリップセーフティ、ハンマーのセーフティコック、トリガーに作用するアンビのセーフティレバー
全長:216mm
全高:151mm
全幅:41mm(マグウェル部)
重量:1070g
素材:ステンレススチール(スライドおよびフレーム)、アルミニウム(ビーバーテイル)
グリップフレーム:プラスチック
価格:3640スイスフラン(レザー製キャリングバッグ込み)


SPSスタンダードプラスUから射撃した.40S&W弾薬の成績

弾薬 弾丸重量(グレイン/g) 弾丸タイプ 初速(m/s) エネルギー(ジュール) IPSCファクター
Magtech 180/11.7 ジャケッテドホローポイント 283 467 167
Fiocci(Major) 170/11.0 フルメタルジャケットフラットノーズ 339 633 189
Fiocci 145/9.4 FMJHP (頑住吉注:意味不明です) 343 553 163
Federal Hi-Shok 180/11.7 ジャケッテドホローポイント 304 539 179
Federal Hydra-Shok 180/11.7 ハイドラショックジャケッテドホローポイント 299 521 177



メーカーの公式サイトはここです。

http://www.sps-dc.com/

 一応「スタンダードプラスU」という機種は紹介されているんですが、どういうわけか公式の銃は「ガイデッドバレル」になっていません。まあここで興味深いのはこのアイデア自体であってこのマイナーなメーカーの製品自体はどうでもいいでしょう。

 マズル部を上から見るとこんな感じです。



 通常ガバメント系のスライド上部は丸い曲面になっていますが、この銃は多角形のようになっていて、真上の面はフラットですがそれ以外の面は内側に丸く凹んでいるわけです。
 さて、「ガイデッドバレル」というのはバレル先端上部に黒で表現した突起部があり、グレーで表現したスライドの切り欠き部にはまって誘導される、したがってバレル先端が左右にぶれることはない、というアイデアです。うーん、ここでは新しいアイデアのように語られていますが、ガスポートのために同様の突起部があってスライドとかみ合っている機種はずっと昔からあったような気がするんですが。
 実際の効果はといえば、この銃のグルーピングはマッチガンとしては悪くはないにしても特別によくはないようです。ただこの記事の、いわゆる「SIGロッキング」の銃はそれ自体にバレルのぶれを止める効果があるなどの理論的な話はちょっと興味深かったです。それならいっそリンクも独立したロッキングラグ、リセスも止めてSIGに似た方式に変えてしまえばいいのでは、という気もします。さてそこで登場するのがペーターシュタール製のガバメント亜流品です。11月号に、同じ筆者によるペーターシュタール「マルチキャリバースポーツデュオトーン」の記事が掲載されています。この銃はガバメント亜流でありながらこうした部分はSIGに似た形式をとっています。この筆者はペーターシュタール製品をどう評価するんでしょうか。












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