サブコンパクト.45ACPオートピストル その2

 「Visier」2004年4月号に掲載された、サブコンパクトサイズ.45ACPピストルに関する3回シリーズの第2回目の内容です。


サブコンパクト.45

3回シリーズの2回目となる今回の記事では、「サブコンパクト.45」カテゴリーに属するピストルをさらに4挺紹介する。それに加え、我々はさらに、これらの弾薬に期待される効果はそもそもどうなのかという疑問にも簡単に触れる。(頑住吉注:本当はスイスにおける法規制や公用への使用可能性といった問題にも触れているんですが法律用語やスイスの状況といった知識が足りないのでよく分からず、たいていの人はあまり興味がないと思われるんで省略します)

ブコンパクト.45ピストルに関するこのシリーズの1回目では4挺のDAおよびDAOピストルを紹介した。今回はさらに4挺のSAピストルを紹介する。こうしたピストルはその構造から(特にアメリカでは)、「コック アンド ロックド」、つまりハンマーをコックしてセーフティをかけた状態で携帯されるのにふさわしいとされる。これらはグリップした手で操作しやすい形で設置されたセーフティレバーを必要とするが、それだけではなくグリップを握り、かつトリガーを引かない限り意図しない発射をいかなる場合でも確実に阻む、効果的なオートマチックセーフティも必要とする。この要求は今回紹介する全ての銃でかなえられている。というのは、これらの銃は1911系の原型に軽く手を加えたバリエーションであり、そのセーフティレバーは操作しやすい形で、銃の後部、ちょうどスライドとフレームの中間に設置されている。その上追加のグリップセーフティにより、ピストルが射手の手である程度固く握られて初めてトリガーが引けるように配慮されている。そして第3の、自動的に作動する安全設備がある。これはある種のボルトからなり、トリガーが引かれないかぎりファイアリングピンをブロックしている。トリガーが引かれて初めてある種の「テコメカニズム」がスライド内のボルトを上に押し動かし、そしてファイアリングピンはフリーになる。このメカニズムはトリガープルに「2、3ダースグラム」の荷重をかける。だからこの安全設備は競技銃ではしばしば取り外され、グリップセーフティは前位置でブロックされる。この措置はやや良好なトリガープルを結果として生じさせるものの、ディフェンスガンではそのような射撃練習における優位というのは問題ではない。というのはそもそも緊急事態においてこの程度トリガープルが重かろうが軽かろうが大きな意味はなく、反面常に携帯する銃がどんな状況においても意図しない発射を起こさないことは非常に重要なことだからである。つまり素人細工は禁物ということだ! さて、ここに4挺のピストルがある。

パラ-オーディナンス P10.45
 姉妹機種のP12.45によってカナダから、3.5インチバレルと12発用の大きなグリップを持つ「縮小した」SAピストルが大口径シューターたちのためにすでに登場している。だが、それ以来市民の銃器携帯者のマガジンキャパシティを定めるアメリカの銃器法が最大10発に限定してしまった。そこでこれと同時にさらなる「ミニチュア化」が開始された。その最終結果は全長168mm、そして全高たった120mmのSAピストルだった。比較するとP12.45の寸法は180mmx126mmである。オールスチール製造方式で作られ、P10の空虚重量は我慢できる範囲の910gとなった。11発の弾薬を装填すると、全体重量は約1135gに増大する。代替案としてライトメタル製フレームバージョンがあり、こちらは空虚重量が692gとなる。
実射:2本の指にしか置き場所がない短いグリップにもかかわらず、P10.45はその高い重量によって、相応のトレーニングをすることで比較的よくコントロールできる。小指までかけられなければ嫌だという人は写真で示したような延長マガジンボトムを取りつけることができる。射撃した全てのパラ-オーディナンスピストルは、+P弾薬(この銃の場合506ジュール)でも命中点の位置、グルーピングに関し良好だった。これは決して当たり前のことではない。グリップ前部も包むタイプに換えればこの小さなラバーグリップより確実にコントロールしやすくなる(同様に延長マガジンボトムも)。
 ライトメタルバージョンはたぶん時々の強装弾薬の使用にかろうじて充分という程度だろう。これはこの紹介記事における残りの軽量ピストルに関しても同様に当てはまることだ。Samson−Matchの185グレインセミワッドカッター弾を使用した弾薬はパラ-オーディナンスには適していない。途中で繰り返し突っ込みを起こしたため装填すら困難だったからだ。

パラ-オーディナンスP10.45
銃器タイプ:ロック機構のあるSAオートピストル
メーカー:パラ-オーディナンス(カナダ)
口径:.45ACP
トリガープル:2430g
銃身長:76.20mm
安全機構:マニュアルレバーセーフティ、グリップセーフティ、オートマチックファイアリングピンセーフティ
マガジン装弾数:10発
寸法:168x34.5x120mm
サイト:固定
重量:885g(アルミフレームモデルは692g)
素材:スチール(アルミフレームモデルあり)
価格:1490スイスフランから、ドイツでは978ユーロ(デュアルトーン)、999ユーロ(アルミフレーム)

弾薬 初速(m/s) 初活力(ジュール) 命中精度(10m・mm)
PMC 230grs(14.90g) VM 207.6 321 74/112
PMC 200grs(12.96g) VM 238.0 367 50/69
SAMSON MATCH 185grs(11.99g)VMSWC 189.3 215 65/104
CBC 230grs(14.90g) VM 206.0 316 69/97
UMC 230grs(14.90g) VM 219.4 359 40/87
VETTR+P 200grs(12.96g) TMJKS(ハンドロード) 279.3 506 58/73



パラ-オーディナンス P10.45リミテッド
 このリミテッド型は装備パケットを高めたものだ。コンバットリアサイト、スケルトンハンマースパー、形状の変更されたビーバーテイル、マッチバレル、アンビとされ、延長されたセーフティレバーが装備に含まれる。外に張り出したビーバーテイルのためピストルの全長は173mmになっている。
実射:このリミテッドはSamson−Matchを使って15mで38mm、25mで51mmと最小のグルーピングとなったが、喜んではいけない。というのはこの弾薬とこのカナダ製ピストルの組み合わせで障害なしに3発以上続けて撃てたことは決してなかったからだ。ただし、平均して15mで52mm、25mで74mmという結果により、参加機種中トップだったのはやはりこリミテッドだった。
 その上、ガバメントタイプを素早い操作が要求される「狩りにおけるとどめの1発」と緊急事態用の銃の両方、または後者のみに使用する場合、延長されたセーフティレバーは短いスタンダード型に比べ、操作確実性に関しきわめて大きな長所であることが示された。だが、片方のみのセーフティもできるだけスリムなピストルシルエットとし、ホルスターに収めるためには正しい選択である。
 マガジンにはいろいろな種類がある。一部は10発装填するのに強い力が要らないが、他は手で、つまりローディングツールなしでは9発しか装填できない。

パラ-オーディナンスP10.45リミテッド
銃器タイプ:ロック機構のあるSAオートピストル
メーカー:パラ-オーディナンス(カナダ)
口径:.45ACP
トリガープル:2050g
銃身長:76.20mm
安全機構:マニュアルレバーセーフティ、グリップセーフティ、オートマチックファイアリングピンセーフティ
マガジン装弾数:9発
寸法:173x35x120mm
サイト:左右調節可能
重量:887g
素材:スチール
価格:1490スイスフランから、ドイツでは1455ユーロ



スプリングフィールドV10ウルトラコンパクト
 6発装填されたマガジンが短縮されたグリップフレームに挿入されている。バレルは89mmしかないが、全長は180mmある(全高は130mm)。装備としてはトリガーストップつきのスケルトンライトメタルトリガー、スケルトンハンマー、ハイグリップビーバーテイル、フィンガーチャンネルつきホーグ製ラバーグリップが含まれる。「DANGER/EXHAUSTPORTS/READ MANUAL」というチャンバー上の文字は見苦しくていらいらさせられる。この指示は本来全部で10個開けられたコンペンセイターの役割を果すバレルの穴を見落とさないためのものだ。このため当然スライド前部の両側にもこれと対応する、ガスが出るためにフライス加工された穴がある。
実射:このピストルはシューティングレンジではエキサイティングであるが、バレルから出る「コンペンセイター花火」自体は日光の中でさえ見逃すことのできない問題点である。その操作マニュアルの中で、スプリングフィールドアーモリーは安全に関する指示のみで1ページ使用している。V10は7発装填した状態ですでに1200gを越え、これが銃のコントロールを決定的に容易にする。トリガーはその「安全レスト」から作動を初め、少なくとも軽い「むずむず」を結果として引き起こすが、意図しない発射は起こらない。
 自己発光機能のあるサイトは薄暗がりなどでも見やすく、ほめられてしかるべきだ。少なくとも私の手の大きさではラバーグリップは卓越した握りやすさである。これに対しほめるわけにいかないのは最大300mm狙点より下に着弾することだ。スタンダード弾薬ではガス圧の損失は劇的というほどではない。+P弾薬ではこれよりは多くなるがやはり劇的というほどではない。トップの機種(P10.45の506ジュール)と比べると59ジュール少ない。2番目に小さい機種(AMTバックアップの467ジュール)よりさらにちょうど20ジュール少ない。

スプリングフィールドアーモリーV10ウルトラコンパクト
銃器タイプ:ロック機構のあるSAオートピストル
メーカー:スプリングフィールドアーモリー(アメリカ)
口径:.45ACP
トリガープル:1480g
銃身長:88.90mm
安全機構:マニュアルレバーセーフティ、グリップセーフティ、オートマチックファイアリングピンセーフティ
マガジン装弾数:6発
寸法:180x35x131mm
サイト:自己発光機能のあるトリチウム3ドット
重量:971g
素材:ステンレススチール
価格:1764スイスフラン(この銃はもはや生産されていない)

弾薬 初速(m/s) 初活力(ジュール) 命中精度(10m・mm)
PMC 230grs(14.90g) VM 203.0 307 64/94
PMC 200grs(12.96g) VM 240.5 375 61/86
SAMSON MATCH 185grs(11.99g)VMSWC 189.9 216 72/85
CBC 230grs(14.90g) VM 187.8 263 69/102
UMC 230grs(14.90g) VM 212.3 336 49/64
VETTR+P 200grs(12.96g) TMJKS(ハンドロード) 262.7 447 86/108


L.A.R.変換システム ピットブル
 ドイツではピットブルは所有者が立法者に特別な要求を受ける、危険な犬の品種に属する。ピットブルピストルが紹介されている他の.45ピストルより危険であると言い張ることはできないが、いくらか性格が違うものである。主要な違いは寸法にあるが、これは本来ベースの口径.45ウィンチェスターマグナムであるグリズリーピストルの寸法を変える変換システムだからである。そしてフレームはそのままであるため、バレルが93.20mmであるにもかかわらず全長はかなり大きい196mmに達する。これはとりわけ62mmという極度に大きいグリップ前後幅(パラ-オーディナンスP10.45は52mm)のためである。ちなみに全体寸法は196x34x137mmである。この銃は本来サブコンパクトには含まれず、その境界を緩く設定している本レポートでもやや異なる存在である。
実射:固定サイトにより、.45ACPのピットブルは狙点より最大200mm下に着弾した。最終弾の供給前に「信頼性を持って」常ににスライドストップがかかった。命中精度ポテンシャルは並み程度である。珍しい偶然だが、PMCの200グレイン弾によるグルーピングはタウルスPT−145のそれと全く等しく、初速もほぼ等しかった。
 このモデルで最も結果がよかったのはVETTER+Pだった(頑住吉注:+Pは全体に命中精度が低くなる傾向にあり、+Pが最もよかったのはこの銃だけです。やはり元々強力な弾薬用の設計であるせいですかね)。

L.A.R.ピットブル変換システム
方式:変換システム
メーカー:L.A.R.マニュファクチュアリングINC.(アメリカ)
トリガープル:2310g
銃身長:93.20mm
安全機構:マニュアルレバーセーフティ、グリップセーフティ、オートマチックファイアリングピンセーフティ
マガジン装弾数:7発
寸法:196x34x137mm
サイト:固定
重量:1140g
素材:スチール
価格:/45ACP変換システムは729ユーロ、ベースのピストルであるグリズリー.45WMは2000ユーロ(この変換システムはスイスでは提供されていない)

弾薬 初速(m/s) 初活力(ジュール) 命中精度(10m・mm)
PMC 230grs(14.90g) VM 206.2 317 62/87
PMC 200grs(12.96g) VM 240.5 375 52/81
SAMSON MATCH 185grs(11.99g)VMSWC 192.9 223 61/85
CBC 230grs(14.90g) VM 192.7 277 60/104
UMC 230grs(14.90g) VM 220.0 361 67/100
VETTR+P 200grs(12.96g) TMJKS(ハンドロード) 278.8 504 46/77

 

.45ACP弾薬とその傷弾道学的効果(囲み記事)
 .45ACP弾薬についてはすでに多くの記述があり、その中のかなり多くは純希望的観測かファンタジーである。9mmパラベラムは期待される効果をもたらさず、だからといって薬莢を延長して発射薬をさらに増やしたとしても同じである、ということは議論の余地がないというのである。そうこうするうちに例えば.357SIG、.40S&W、10mmAUTOといった9mmパラベラムと.45ACPの隙間を埋めうる新しい弾薬が生じているが、それにもかかわらずかなりの専門家が相変わらず古い.45ACPが望ましいと主張している。.45ACPの寸法は他の弾薬に比べて少し長いし、少なくとも直径と重量は大きい。直径と重量が大きいというのは、本来は根拠として不充分なのだが変形弾を使えない場合は.45ACPが優れているとする強力な論拠になる。
 これら制限された立場から.45ACPに賛成、反対する全ての論拠をリストアップするのは困難であると言える。公式化や理論的ランクづけすら受け入れがたい。というのは現在いろいろな状況証拠によって弾薬の実際の効果を表現しうる専門家の意見も統一には程遠いからである。そのような疑問に答えるためのよい方策は、Evan P.MarshallとEdwin J.Sanow執筆による「Handgun Stopping Power,The Definitive Study」(頑住吉注:「最終的研究」くらいの意味でしょうか)という本である。無数の検死レポートと警察の統計に基き、全ての既製弾薬について、どのくらい高い確率で1人の攻撃者が1発の射撃によってストップしたかという情報をパーセンテージで示してある。それによれば.45ACPは最も頻繁に過大評価される弾薬のひとつである。単にフルメタルジャケットラウンドノーズ弾の効果を比較した場合(我々にはそれしか許されていないから)、大口径+P弾薬のメリットは少ない。当然この本の考察には威嚇効果の精神的な要因は含まれていない。精神的な要因に傷弾道学はどっちみち影響しないからである。


 この筆者はガバメントタイプの銃を時代遅れと考えているようですが、今回はストレートにはそう主張していません。しかし.45ACPの効力に関する記述はいかにもヨーロッパ系の主張です。日本ではどうしてもアメリカ系の意見を多く目にすることになりがちなのでこういう意見を目にするのも悪くないと思います。
 それに紹介されている本は明記されてはいませんがまず間違いなくアメリカ人による本で、主観を交えず純統計的にデータをまとめた結果.45ACPのストッピングパワーが強いという主張が否定されているようなので注目に値するでしょう。実物を見てみたいです。

 さて、まずパラ-オーディナンスのピストルですが、公式サイトにおける紹介ページはここです。

http://www.paraord.com/pages/pxt_highcap.html#1245

 公式では「P10.45」という名前でなく「WARTHOG」(イボイノシシ)というニックネームで紹介されています。かっこよさげではないですがなかなか強そうで、ぴったりくるネーミングではないでしょうか。

 一方スプリングフィールドアーモリー公式サイトにおける「ウルトラコンパクト」の紹介ページはここです。

http://www.springfield-armory.com/prod-pstl-1911-uc.shtml

 記事にもあったように「V10ウルトラコンパクト」というバレルに直接10個の穴を開けたインテグラルコンペンセイターモデルはすでに生産されていないようで公式にもなく、これがない「ウルトラコンパクト」のみ紹介されています。これは「初速が落ちる」、「昼間ですら花火のようなフラッシュが吹き上げて目がくらむ」、「誤ってこの上に体の一部を位置させると危険である(例えばヒップシューティングができない)」といった問題点があるからでしょう。リコイルを軽減することを意図しているわけですが、どの程度効果があるのかには触れられていません。しかし明らかに長所となるような効果があるのなら書いているはずですから重量やグリップデザインの差を含めれば効果があるのかないのかはっきりしない程度なのではないでしょうか。スプリングフィールドアーモリー自身も生産を止め、他にも採用しているメーカーは少ないようなので、少なくともデメリットに見合うほどのメリットはないとみなされているんでしょう。ただ、バレルに直接穴を開けると命中精度に悪影響が出るとも言いますが、データを見る限りではそうでもないようです。

 ピットブル変換システムはメーカー公式にも紹介がなく、他にも画像は見つかりませんでした。そもそも何に使うものなのかもよくわからないですね。

http://www.largrizzly.com/parts_diagram.htm







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