ベレッタ「スタンピード」

「Visier」

 ドイツの銃器雑誌「Visier」2003年8月号にベレッタの新製品「スタンピード」のレポートが載っていました。これを書いている時点での最新号、コンバットマガジン2003年10月号にもレポートが掲載されていたので全体像などはそちらで見ることができますし、ベレッタUSAの公式サイト等でも見ることができます。コンバットマガジンのレポートは何というかアメリカンスタイルでありまして、好きな人も多いでしょうが、もう少し詳細な情報が欲しいという方も多いでしょう。その点ドイツの銃器雑誌にはその分を補う情報が詰まっています。以下にレポートの要約を示します。


初めてのベレッタ製ウェスタンシックスシューターが登場した。この銃は「スタンピード」と名付けられ、従来ある程度の人気を持っていたイタリア製ピースメーカーコピー品にとってかわるものと見られる。

モデル:ベレッタ 「スタンピード」
価格:約580ユーロ
口径:.45コルト 6発
サイズ:全長332mm 全幅42.5mm 全高133mm
銃身長:190mm(7.5in)
バレル内径:山部11.26mm 谷部11.45mm(.4508in)
照準長:215mm
重量:1102g(空状態)
初速:236m/s
グルーピング:65mm(25m、6発。初速ともCCIブレーザー225グレイン)

 世紀の変わり目に、世界最古の銃器メーカーであるベレッタ社は、レプリカメーカーのアルド・ウベルティの事業を引き継いだ。これにより、ベレッタの三本の矢のロゴマークをつけたウェスタン風SAリボルバーが登場して世間の注目を集めるのは時間の問題となった。2002年、すでにベレッタのエージェントはピースメーカーコピー品の発売を予告していた。そしてニュールンベルグにおける先のIWAで、ベレッタはこの銃のプレゼンテーションを行った。1挺はニッケルメッキで5.5inバレルを持ち、もう1挺は7.5inバレルだった。これはアメリカの騎兵隊が採用していたタイプである。今回のテストにはこれを使用した。
 ベレッタ「スタンピード」には、.357マグナム、.44-40、.45コルトの各タイプがあり、スタンダードなバレル長として43/4、51/2、71/2が供給される。そして3種類の表面仕上げを選択できる。「ブルー」(ブルーイング仕上げ、ラバーグリップつき)、「デラックス」(ブルーイング仕上げ、厳選されたウォールナットグリップつき)、そしてニッケルフィニッシュで木製グリップつき、ネジはブルーイングという各タイプだ。現在のところ最後のタイプは輸入されていない。ただし、輸入業者の「Hege」の店主ワルデマー・ゴルザブスキーはこれに関し、次のように語っている。「我々はこの問題に解決策を用意している。約150ユーロの割増料金によって、磨耗や射撃のダメージから銃を守る、いわゆる『オリオン処理』(リン化ニッケルメッキ)の銃を提供することができる」。「Hege」は編集の締め切りまでに最終的な価格計算を終えていない。だが、「スタンピード」は約580ユーロの価格であり、現在ウェスタン系の銃として普及しているスタームルガー「バーケイロ」より150ユーロほど安い。組み立てはメリーランド州で行われているが、パーツはイタリア製のようだ。

4つの変更点
 この銃のバレル上部には「BERETTA U.S.A. CORP. ACKK,MD」という刻印が1行で入っている。これにより、この銃がアメリカマーケットを目標としていることが明らかとなっている。だが、バレル下面には「A.UBERTI..ITALY」の文字がある。
 メカニズムは一見してSAAとほぼ同じで、「古いワインを新しい皮袋に入れた」感じだ。
 オリジナルとの相違点は4つある。まず、ファイアリングピンがフレームに内蔵され、トリガーにはトランスファーバーが付属している。
 2つめはシリンダーハンドに板バネが付属していない。そのかわりにコイルスプリングでテンションのかかったスチールのボルトがシリンダーハンドを前に押している。このため、分解、組み立て方法が少し違う。グリップフレームを外すと、フレーム後部に小さなイモネジが見える。これを抜くと中にスプリングとボルトが入っている。組み立て時はこれを所定位置に戻す。
 3つめはフレーム下部に内蔵されているシリンダーストップ(ボルト)にテンションを加えるスプリングが板バネではなくワイヤーを曲げたものになっている。4つめはシリンダーに関するものだ。コルトのファースト、セカンドジェネレーションのものと違い、「スタンピード」のものは軸と軸穴の間にソケットがない。コルトの場合、ブラックパウダーバージョンの銃で強力なスモークレス弾薬を撃つには強度上の問題がある。コルトは1970年代にピースメーカーのサードジェネレーションでソケットを廃止した。しかし大部分のレプリカメーカー、たとえばユナイテッドステーツファイアアームズ、アーミ・サン・パウロ、ウベルティはコルトの旧型と同じ構造になっている。
 
ブルーのまだら仕上げ
 フレームのフィニッシュはベレッタUSAのホームページで確認できる。これはベレッタ カラー ケース フィニッシュと呼ばれる。フレームの色はブルー、グレー、ブラウンの美しいハーモニーとなっている。ただし、オリジナルに特徴的なレッド、バイオレットの色調は欠けている。

クオリティとファンクション
 金属パーツの表面仕上げには欠点は見られない。パーツの接合も申し分ない。平面部はファーストクラスのポリッシュ仕上げで、加工跡は見られない。いや、マズル部分に少しだけラフな仕上げの部分が見られた。そして、ラッカーが不充分だったのか、ウォールナットグリップのフチに吹き出物のような状態の部分が見られた。
 機能としては、トリガー、シリンダー、ハンマーの協調に問題はなく、不発はまったく見られなかった。ロックされた状態のシリンダーの左右のガタは最小だ。一方バレル基部とシリンダー前面の間には0.13mmの空間があって前後にわずかなガタがある。これは好ましいことだ。チャンバーはわずかに広めになっていて、弾薬はスムーズにすべり入る。トリガーのフィーリングはきっちりした感じで、トリガープルはわずか125gとなっている。トリガーはオリジナルへの忠実性より引きやすさを優先して幅6mmとワイドになっている。

フロント・リアサイト
 サイトは固定だ。フロントサイトは幅2.3mm、リアサイトはこの種の銃にとって普通のスタイルであるミゾ状のもので、谷は長方形、幅は2.4mmとなっている。このためサイトはクリアに見え、フロントサイトの両側からわずかに光が漏れる。これはウェスタン競技における通常の使用法で、素早い照準を行うのに理想的だ。
 射撃テストは25mで行った。サイトはほぼベストの状態に調整されていた。最初の射手は狙点より下、および左にそれぞれ5cmの位置がグループの中心となっていた。「スタンピード」の命中精度はかなりいい。グルーピングは成績のいい弾薬では大部分が45mm以下となり、スモークレスよりブラックパウダーの方が全体にいい結果となった。

結論
 ベレッタのこの分野への新参入作である「スタンピード」の出来は上々だ。トランスファーバーを持ち、この型のシリンダーハンドスプリングを持つ銃はこれだけであるから、ウェスタンシューティングにおいて有用なものとなるだろう。


 本題の前にちょっと余計な話です。ウェブサイト全体のことをよく「ホームページ」といいますが、本来はこれは誤用で、「ホームページ」はトップページのみを指す言葉です。で、そういう使い方はやめろという人と、もうそれで通用しているんだからいいじゃないかという人がいます。私はまあたいていのことは「大体でいいじゃん」といういいかげんな人間なので後者です。で、このレポートの中にベレッタUSAの「Home-page」という記述がありました。この誤用は日本人だけのものかと思っていたら、緻密、厳密好きのドイツ人の間でもウェブサイトという意味での「ホームページ」という誤用が通用しているようです。ちょっと意外でした。
 私が「スタンピード」という単語を知ったのはかなり昔、プロレス技の「オクラホマスタンピード」によってです。この技は相手をうつぶせの状態で肩の上に担ぎ上げ、リングを対角線状に走って叩きつけるものです。テレビか雑誌か忘れましたが、「スタンピードとは家畜(牛)の暴走を意味し、この技の名はそれをイメージしてつけられたもの」という説明がありました。銃の説明と直接関係が薄いので訳は略しましたが、このレポートの冒頭でも「スタンピード」は家畜の暴走を意味し、当時この危険を知らせる合図として拳銃が使われたという解説がありました。コンバットマガジンの説明ではウェスタン競技会の意味とされていて、そういう意味もあるんでしょうが、この場合は「家畜の暴走」の方がぴったりしていて、しかもかっこよさげな感じだと思うんですが、いかがなもんでしょう。
 
 表紙の見出しには「Der erste Colt von Beretta」とあります。これは英訳すると「The first Colt of Beretta」、つまり「ベレッタによる最初のコルト」という意味です。「俺のコルトはベレッタだぜ」みたいですが。(←わからないって)

 さて、「スタンピード」の最大の目玉はなんと言ってもトランスファーバーです。コンバットマガジンには残念ながらこれがはっきりわかる写真が掲載されていなかったので、「Visier」の写真をイラスト化して示します。

イラスト1 イラスト2  

 まあこんな感じです。ハンマーの前面には縦長の溝があり、通常はハンマーダウンしてもファイアリングピンの後端はこの溝にはまって押されません。トリガーを引いたときだけ溝の中に縦長の棒状のトランスファーバーがせりあがり、溝を埋める形になってファイアリングピンが叩かれるわけです。ちなみに囲み記事にトランスファーバーの説明があり、ここにはアイバージョンソンリボルバーがトランスファーバーシステムの元祖であることが明記されていました。トランスファーバーがあれば、ハンマーダウン状態ではもちろん、例えハンマーコック状態でトリガーを引き始めた後に誤って銃を落とし、ハンマーがレットオフしても、ハンマーが倒れるより先にトランスファーバーは下降し、暴発はしません。トリガーを引いていない限り理論上絶対暴発しないわけで、特に激しいウェスタンアクションを行う際に誤って落としても安全、というのは大きなメリットだと思います。一方ハンマーノーズがないのはいやだという人も当然いるでしょうね。
 シリンダーハンドのスプリングは要するにブラックホークなどに近いということです。ただしブラックホーク等ではスプリングの後端をグリップフレームで支えており、分解時に紛失しないようやや注意が必要なのに対し、「スタンピード」はイモネジをねじ込んで抜けないようにしてあるようです。シリンダー軸の「ソケット」云々は、要するにシリンダーと軸が直接コンタクトしているか、パイプ状のスリーブを介しているかの違いということのようです。

 床井雅美氏の「ベレッタストーリー」にもベレッタ製リボルバーは試作、輸入モデルしか掲載されていませんし、現在のベレッタUSAのサイトにも「スタンピード」以外のリボルバーはないので、これはベレッタ初の、そして現在のところ唯一のベレッタ製リボルバーということのようです。デビュー作でありながら、作り、仕上げ、使用感、性能などほとんどの面でいい評価が下されており、なかなかいい銃のようです。これは「Visier」だけの評価ではなく、コンバットマガジンのレポートも好意的ですし、検索によってたどり着いたアメリカのサイト上での評判も全般によろしいようです。ここで論じられているように、当面の敵はスタームルガー製品ということになるでしょう。ブランドイメージからすればベレッタの方が上でしょうが、ウェスタン系ということで純アメリカンなメーカーであるスタームルガーにも分があるかもしれません。果たしてどうなるんでしょうか。

 

 

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