SW9M

SW9M
SW9M

アメリカンハンドガンナー誌
「AMERICAN HANDGUNNER」誌1997年5・6月号

 一流メーカーのS&Wがグロックを露骨にパクったシグマを発売したのは衝撃的でした。日本のトイガン界でいえばMGCがマグナそっくりのM92Fを発売したみたいな感じで、「末期症状か?」という印象も持ちました。H&KのUSPも、ワルサーのP99もグロックの強い影響を受けていますが、強い独自色はあるわけで、それに比べシグマのパクリぶりはストレートすぎました。現在もシグマシリーズは生き残っていますが、ワルサーと提携したP99系の製品の方が評判はいいようで、今後はなくなっていく方向かもしれません。そういや先日コラムでアメリカ各州警察の制式拳銃のリストをご紹介しましたが、グロック、S&WのP99系はあったのに、シグマはなかったですね。スタームルガー以下ということでしょうか。
 さて、シグマといえばフルサイズ系を思い浮かべますが、シグマには中型系も存在します。以前私がモデルアップした.380シグマは非売品のコーナーでご紹介しています。これは国内の専門誌でも実銃がレポートされたのでご存知の方が多いでしょう。しかし、シグマの中型系にはもうひとつ、SW9Mという銃があります。こちらは国内ではレポートされていないので、知らない方も多いと思います。中型クラスのハンドガンでありながら、9mmパラベラムをストレートブローバックで発射するという珍しいものです。AMERICAN HANDGUNNER」誌1997年5・6月号に、この銃のテストレポートがあるので、内容をちょっとお知らせします。

 レポーターはCharles E. Pettyという人ですが、このチャールズおじさんの文章は口語的なくだけた文体で、英語力の低い私には非常に読みにくいです。たぶん日本語力の低い外人が読む場合、ターク氏や床井氏の文体は比較的読みやすく、イチロー氏やジャック氏の文体は読みにくいと思うんですが、それと同じことですね。以下に記事の要約を示します。


 従来S&Wは護身用拳銃を、「よく撃つ銃」として作ってきたが、実際この用途の銃はめったに撃たないものだ。.380シグマは「めったに撃たない銃」として作られている。このシリーズに9mmパラベラムを使用するSW9Mが加わった。
 SW9Mは外観上.380シグマにそっくりで、全長、全高がわずかに大きいだけだ。内容的な違いとしては、.380シグマではジンクアロイだったスライドがインベストメントキャストスチールになったことが重要だ。そして重要な共通点として、作動がブローバックだということが挙げられる。
 通常ブローバックのハンドガンで使える最強の弾薬は.380ACPとされている。9mmパラベラムはブローバックには強すぎるので過去にあまり例がない。私が撃ったことがあるのは1985〜1986に短期間生産されたデトニクスポケット9と、アストラ600だけだ。その両方ともリコイルは強烈すぎて射撃は不快だった。また、リコイルスプリングが強すぎて操作も難しかった。また、ポケット9は750gもの重量があり、ポケットピストルと呼ぶのにはあまりにも重い。
 SW9Mの作動がブローバックで、重量が500g強しかないことを聞いたとき、私は猛烈にきついリコイルを想像した。しかし撃ってみると想像よりずっとましだった。その理由はまず、プラスチックフレームの弾性がリコイルを吸収することだ。また、スライドが非常に重く、銃の重量の大部分を占めていることもリコイルをマイルドに感じさせている。しかし最大の理由はフリーボアを5mm以上と長くとっていることだ。
 フリーボアはチャンバー直後、バレル基部のライフリングがない部分だ。フリーボアを長くすると、弾頭は加速され、一方チャンバープレッシャーの上昇に抵抗がかかる。ガスが前方に膨張できるから、後方への圧力上昇が抑えられるのだ。この方法はIPSCレースガンのリコイルを軽減したり、ハイパワーライフルのチャンバープレッシャーが上がり過ぎないようにするためにも使われる、よくある方法だ。この方法は初速には影響せず、SW9Mの初速は同じバレル長で同じ弾薬を発射する銃と同じだ。
 体感的なリコイルはS&WのJフレームから.357マグナムを撃った場合と同じくらいだ。強烈ではあるが、コントロール不能ではない。アストラ、デトニクスよりずっとましだ。それにこの銃を実際に使用するときは、リコイルが不快だなどと感じている余裕はないだろう。
 チェッカリングのデザインは.380シグマと同じだ。.380の場合はいいのだが、SW9Mの場合リコイルがきついので手にくいこんで痛い。グローブをするか、素手でよく撃つようなら削り取ってしまった方がいい。
 銃にはマガジンローダーが付属している。マガジンスプリングが非常に強いため、これがないと装填は困難だ。これは、強力な弾薬をブローバックで発射するためスライドの後退スピードが速く、強いリコイルスプリングによる復帰も速いからだ。


 まず驚いたのは、SW9Mのことではなく、.380シグマのスライドがジンクアロイだということです。ジンクアロイといってもピンキリなんでしょうが、基本的には日本の金属モデルガンに近い素材のはずです。我々は亜鉛合金のキャストが衝撃に弱く、かなりの肉厚があっても割れやすいことを知っていますから、ブローバックのハンドガンに使用するには最強クラスである.380ACPのキックをストレートに受け続けて大丈夫かな、という感じです。また、亜鉛合金は長い時間が経つともろくなるとも言われていますが、20年くらい経ったある日、.380シグマを撃ったらスライドが粉々になって破片が顔面を直撃、なんてことはないんでしょうかね。
 チャールズおじさんはアストラとデトニクスを挙げていますが、我々がよく知っている9mmパラベラムを使うストレートブローバックのハンドガンとしてはH&KのVP70などもあります。ただ、これは純粋ハンドガンではありませんからやや性格が異なります。過去にはベレッタやワルサーといった一流メーカーもストレートブローバックの9mmパラベラムオートを作って失敗しています。日本の専門誌がほとんど取り上げないアメリカの三流品には、異常に肉厚で重いスライドを使って9mmパラベラムや.45ACPをストレートブローバックで撃つ銃も現存します。しかし、一流メーカーが現代に作ったものとしてはSW9Mは非常に珍しい存在です。ちなみにデトニクスポケット9mmという銃は初めて知りました。ガバメントの切り詰め型とはまったくデザインが異なるダブルアクションオートで、いかにもダメそうなデザインです。興味のある方は検索してみてください。 
 さて、「フリーボアを長くとる」ことでリコイルを軽減できるというのは初めて知りました。要するに、薬莢から離れて加速しはじめの部分にしばらくライフリングがなく、無抵抗に進めるため弾頭が急速に加速し、前方へガスが膨張できるため後方へのプレッシャー上昇は抑えられる、という理屈のようです。というか、プレッシャーが過度に上昇する前に、早く弾頭をマズルから出してしまう、という感じでしょうか。ガスを弾頭の前方に逃がすというVP70の方法と違い、初速は低下せず、レースガンやライフルでもよく使われるなら命中精度にも大きな悪影響はないんでしょう。
 しかしまあこれに加え、プラスチックフレームの弾性、重いスライドというリコイルを軽く感じさせる条件が加わっても、リコイルはかなり強烈のようです。この銃はストレートブローバックを採用することで、「リコイルがきつい」「スライドが引きにくい」「装填にマガジンローダーが必須」といった大きなデメリットが生じているわけです。一方メリットはといえば、構造が単純になるということくらいです。現在主流のSIGタイプのショートリコイルならパーツ数もほとんど変わらず、さほどのコスト高にはならないと思います。だとすれば素直にショートリコイルにすればよかったんじゃないでしょうか。
 .380シグマ同様、SW9Mもあまり人気が出なかったようで、短期間のうちに生産中止となりました。ポンチとハンマーでスプリングピンを叩き出さないと分解できないという部分からも、この2つは一流メーカーS&Wが血迷って発売したサタデーナイトスペシャルもどき、という感じがします。SW9Mを国内の専門誌がレポートしなかったのも、「だめだこりゃ」と思ったからかもしれません。
 
 

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