アメリカ海軍の消音ショットガン弾薬

「ミニグレネード」の項目に続く、「THE WORLD'S FIGHTING SHOTGUNS VOL.IV」からの紹介です。うかつにも見逃していましたが、この内容は当然PSSの「実銃について」で触れなければならなかった内容です。


アメリカ海軍の消音ショットガン弾薬
 これまでショットガン用に作られた弾薬の中で、最も風変わりなものは、AAI社が開発した12ゲージ消音弾薬だ。1967年、アメリカ海軍が、軍用のスタンダードな12ゲージショットガンに使用でき、発射が敵に気づかれにくい弾薬を要求したことが開発の発端となった。この弾薬は近距離において、位置がはっきりしない敵に即応した場合にも高い命中、殺傷可能性を持つことが求められた。完成の暁には、この弾薬は東南アジアのジャングルにおける作戦行動で、ネービーシールズおよび海兵隊内の偵察チームによって使用されることが想定されていた。
 要求のアウトラインにあったように、この弾薬は単に音が小さいだけでなく、近距離での高い殺傷可能性を持つことも求められていた。発火時と発射時の両方で消音が求められ、さらに昼夜両方における作戦行動中、射手の位置を暴露する発射煙、発射炎も排除しなければならなかった。
 AAIは要求に答える弾薬の開発に成功し、それは「サイレントショットガンシェル」としてよく知られるようになった。設計したのはRobert Schnepfeで、I.R.Barrが考案し、AAIがパテントを取得していた火薬の力で動く伸縮デバイス(頑住吉注:原文は「Telecartridge device」ですが、カートリッジという言葉を使うと弾薬全体と混同してややこしくなるのでこう訳しておきます)を使用していた。伸縮デバイス自体は多目的のアイテムであり、元々はミサイルのために設計されたものだった。このデバイスはユニークなもので、かなりの柔軟性を持つ部品を必要とし、製造には技術が求められた。デバイスの心臓部は、薄いスチールの袋で、半分はそれ自体の中に折りたたまれていた。この袋は内圧によって最大全長まで伸びるようになっており、伸びる間、そしてその後破裂しないように設計されていた。
 この伸縮デバイスが「サイレントショットガンシェル」に応用されるにあたり、内部に作動用の火薬がチャージされ、圧力によってプライマーが飛び出さないようにする構造が盛り込まれた。この弾薬を完成するために他に求められたのは、内圧に耐える壁の厚さを確保しながら限られたスペース内にこのデバイスをうまく収納すること、袋の内径と袋の先端の形状を維持するため内部にピストンを収めることだけだった。火薬に点火すると袋は内圧によってピストンをコンスタントに押しながら全長まで伸びた。袋が伸び終わると容積は大きく増大するので、最終的な内圧は比較的小さなものになった。デバイスには「高・低圧理論」チャンバーが応用され、内部に煙、炎、ガス、微細な破片、そして騒音を閉じ込めた。
 1968年の早い時期、AAIは12ゲージの「サイレントショットガンシェル」を完成させ、テスト用の試作品200発をアメリカ海軍兵器研究所に提出した。この弾薬の薬莢はカドミウムメッキされたスチール製で、2/3はストレートだった。先端の1/3は直線的に浅い角度のテーパーがかけられていた。これは発射後に抜けなくなるのを防ぐためだった。このテーパーは薬莢の外部のみで、内径は一定になっていた。薬莢のベース部もカドミウムメッキされたスチール製だった。リム部には小型のライフル用プライマーのスペース、プライマーのフラッシュが通る穴、カップ状の容器に収められた発射薬の収納スペースがあり、そして伸縮デバイスを固定するためのリセスが内部に切られていた。ベースは発射時の圧力に耐えねばならなかったので、ボディー部にプレスされてフィット、密封された。プライマーも圧力に耐え、防水機能を持たせるため全周にわたってかしめられた。
 エネルギーの大きい、即燃性の発射薬がアルミニウムのカップに収められ、ベース内の収容スペースに圧入されていた。このカップは高圧チャンバーを形成し、十分な高圧が生じた後に破裂してその圧力が伸縮デバイスに作用するように、前面に十文字の溝が切られていた。
 伸縮デバイスの心臓部である肉の薄いスチールの袋は1010スチールで作られ、薬莢の内径にちょうどフィットするようになっていた。袋の内部には、段差のあるプラスチック製のピストンがタイトフィットされていた。袋の外径は薬莢内部、内径はピストンの細い部分によってそれぞれ保持された。この配置によって袋の保持されない部分は最小限とされた。実際保持されない部分は折り返しが起こる、その時点の袋の先端部だけだった。この部分は小さい範囲なので圧力に耐えることができた。また、この部分もピストンの段差部である程度は保持された。ピストンの太い部分は薬莢内部にフィットしていた。
 「サイレントショットガンシェルに」装填された散弾は、硬化処理された12個のNo.4バックショット(直径6.1mm、重量1.3g)だった。これらは1列4個を互い違いにして3列で収められていた。散弾の合計の重量は0.5オンス(14.2g)をわずかに越えていた。これを収めた薬莢の先端部は浅いカップ型のアルミニウムのフタで閉鎖され、防水加工された。
 「サイレントショットガンシェル」は通常のシェルとほとんど同じサイズ、形状だった。発射前の全長は6.4cmだった。発射後は伸びた袋の先端が薬莢の先から約8.1mmはみ出す。これは通常のプラスチック製シェルの折りたたまれた先端部が発射後に伸びるのと同程度である。
 「サイレントショットガンシェル」は設計、構想上完全防水であり、またあらゆる自然環境に耐え得るものだった。だが試作品は海軍の使用環境に対する耐性、安全性、運搬に関するテストでやや問題が生じた。海軍兵器研究所は量産版の弾薬に向け少々の助言を与えた。全ての試作弾薬は軍用のレミントンM870及びサベージM77Eで正常な作動が得られた。初速は性格上当然低かったが、散弾の斉射による命中可能性、殺傷力は強かった。
 AAIの本来の計画では、初速は168m/s出るはずだった。しかし社内テストでは散弾が過度に分散し、また一部の弾薬で初速がこのレベルに達しないことが分かった。初速は137m/sあればやむなしとされた。ターゲット内部での弾道、狙点と着弾点の標準的な偏差はきわめて良好とされた。初速が低いことを除けばNo.4バックショットのターゲットまでの弾道もまったくノーマルだった。有効射程は短かったが、この弾薬は隠密な作戦行動に使用するために設計されたもので、長距離の射撃は想定されていなかった。
 「サイレントショットガンシェル」は全くの無音ではなかったが、それにきわめて近かった。発火する時、弾丸が飛行する時の音まで消すのは事実上不可能だが、これを使用する場合、発射時の音はポンプアクションの作動音より静かだった。ベストの通常型サイレンサーを使用する銃より音によって発見されがたいと考えられた。
 「サイレントショットガンシェル」はテスト用のオリジナル試作品以上生産されなかった。その理由は優先順位と経済的理由だった。使用可能な財源は、より高い優先順位のプロジェクトに振り向けられなければならなかった。現在、使用可能な状態で現存するこの弾薬は存在しない。しかし、将来技術の進歩によってこのアイデアが復活し、量産に移されるかもしれない。


消音シェル発射前 消音シェル発射後


 原理的にはPSSなど、ピストン、シリンダーによって「薬莢内に発射ガスを閉じ込める消音システム」と同じですが、伸縮式の袋を使うというアイデアは非常に面白いと思います。ピストン、シリンダーを使うものより明らかに技術的に困難で、また袋が伸びる時大きな抵抗が生じるはずなので初速のロスも大きくなるとは思いますが、うまくいきさえすればより高い気密性、結果的により高い消音性を実現できるはずです。
 イラストは左が発射前です。青い部分が核心であるスチールの袋で、それ自体の中に折りたたまれています。この袋の窪んだ部分に散弾を詰めればいいような気もしますが、これでは発射時、散弾につぶすような力が加わってだめなんでしょう。そこでここにはピストンを詰め、散弾はピストンによって押されて発射されるという形になっています。やろうと思えばこのピストンを金属製にしてスラッグ弾のように発射することも可能なはずです。収容スペースが小さいので散弾の重量は一般的な12ゲージ弾薬の半分以下です。
 もう一つ注目したいのは、発射薬がアルミニウムのカップ内に密封され、「高・低圧理論」チャンバーになっているという点です。この「高・低圧理論」というのはナチ・ドイツが火砲に使用し、M203の弾薬にも応用されているらしいです。このカップ(分かりにくくてごめんなさい。紫色で表現しています)がなくても十分発射はされるはずです。しかし広いスペース内で発射薬を燃焼させて徐々に圧力を上げるより、このカップ内に発射薬を密封し、内部の圧力が充分に高まった後に破裂させて一気にこの力をスチールの袋に作用させる方がより強力に発射されるということのようです。バレルの短い電動ガンでは空走距離を長くした「加速シリンダー」で一気にBB弾を加速、発射した方が初速が上がるのとちょっと似ているかも知れません。
 右は発射後です。発射薬を密封しているカップには十文字の刻みが入っているのでこのように一定の形に裂けます。袋は全長まで伸び、先端はややはみだします。散弾の直径は6mmBB弾と同程度、初速もエアソフトガンのいわゆる極悪銃程度で、全鉛製のため重量がずっと大きいだけということになります。初速140m/sとして計算してみると、散弾1個のエネルギー量は13ジュール以下です。私が持っている鉛弾が撃てるハンドクロスボー「スティンガーマグナム」の8.5ジュールよりは強力ですが、通常使われるピストル弾薬として最も威力が小さい.22ショート、.25ACPの1/5程度ということになります。全部合わせてもPSSに使用するSP−4や.32ACP以下です。至近距離から散弾が全て命中すればかなりの威力が期待できるかもしれませんが、少し距離が離れて散弾が少数しか命中せず、ジャングルの中ということで途中枝葉に当たって減速し、さらに比較的厚い服の上からの着弾だったりすれば「痛てっ!」くらいで済んでしまうかもしれません。

 「ミニグレネード」の項目に続いてこの内容を読み、私はこの著者の姿勢にやや疑問を感じました。ちょっと研究対象に対する愛情が強すぎるんじゃないでしょうか。この「サイレントショットガンシェル」は試作で終わったわけで、明らかにダメだったわけです。予算上の優先順位が相対的に低いなんてのは最初から分かっている話で、それでも予算を組んで開発させたわけです。当時はベトナム戦争の真っ最中ですし、特に海兵隊はジャングル戦に適したショットガンがお気に入りでした。結果的に出来たものが有効に使えそうなら量産の予算だって出たはずです。量産されなかったのは特に威力面で期待したほどのものにならなかったからでしょう。
 将来の可能性はまた別ですが、こういう場合、歴史的事実としてダメだったものは「こういう理由でダメだった」と率直に評価するべきだと思います。この本では、すでに金属製の小さな矢を多数発射する「フレシット弾薬」の記述を読み、かなり興味深い内容を含んでいるのでいずれ紹介したいと思いますが、やはり「何故フレシット弾はダメだったのか」に関する記述はごくわずかでした。ブルパップショットガンであるハイスタンダード10Bの記述もあり、この後読もうかと思っていたんですが、この著者ではいちばん興味がある「何故普及しなかったのか」に関する記述は期待できそうもないので止めました。



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