「タボール」アサルトライフル

 ベレッタ「スタンピード」のレポートが掲載されていたのと同じ、「Visier」2003年8月号に、イスラエル製新型アサルトライフル「タボール」(TAVOR」)に関する記事がありました。これは銃自体のレポートではなく、周辺の事情などを説明した記事で、日本の銃器雑誌にはあまりないタイプのものです。強いて言えば「軍事研究」誌に近い傾向の記事かもしれません。興味深い内容を含んでいるので、簡単に紹介します。ちなみに「タボール」の外観についてはしばらく前のコンバットマガジンに掲載されていましたし、検索によっても画像がたくさん見られるので私の下手なイラストは不要だと思います。


一体「タボール」アサルトライフルにどんな不都合があったのだろうか?開発からすでに10年、背後関係と立場上の問題によって、この銃は政治的流砂にはまりこんだままでいる。

 IMI(イスラエル・ミリタリー・インダストリー)はユダヤ人国家における半官(国営)半民の兵器コンツェルンである。この国は継続的な戦争状態にあり、兵器の安定した供給を必要としている。戦争の継続と、戦闘に使用されての評判が、販売上有利に働いている。イスラエル軍はその戦いぶりから明らかなように高度なプロ集団であり、イスラエルのハイテク産業はトップレベルのものである。
 にもかかわらず、最近のイスラエルの小火器産業は一見して停滞状態にあるように見える。1950年代のUZIサブマシンガン登場時期、IMIはもっと活発な販売を行っていたのではなかったか。1970年代のはじめには、カラシニコフのバリエーションである.223口径のガリルがイスラエル軍に採用された。ただ、大部分の部隊はそのときからすでに30年の長きにわたり、アメリカ製M16、CAR−15、その変種であるM4カービンを使用してきている。IMIは単独でガリルを本国に十分供給するばかりか、アメリカに輸出するだけの生産力を持っているにもかかわらず。何故か? そしてここ2,3年、多大な出費をしていくつかの口径に変換可能な「バラク」ピストルの宣伝を行ってきた。しかし、その結果は芳しくないように見える。何故か? すでに存在する「ジェリコ」ピストルは、グロック、ベレッタ、SIGザウエルといった突出したメーカーの製品と比べ、その普及力で負けているように見える。玄人筋は「重すぎ、高すぎ、新鮮味なし」と評している。IMIの小火器部門はエレクトロニクス、コンピュータ関係の立ち遅れもあって不利な立場にある。そして世界のピストル、サブマシンガン市場はほぼ飽和状態にあり、狭いマーケットの中でパイを奪い合っている。こうした中で多くの利益を上げるのは難しい情勢にある。こうした中でIMIは苦戦しているのだ。
 「タボール」アサルトライフルは、現時点でIMIの重点商品である。その名前はガリリアのタボール山にちなんでつけられた。その計画は1991年に着手され、「TAR」(タボールまたはタクティカル・アサルト・ライフルの略)の名のもとに進行してきた。しかし、ガリルと違ってイスラエル軍から直接の注文はなかった。
 外観上TARの設計者はステアーAUGを充分にテストし、その影響を受けたと思われる。全てのブルパップ火器に共通する根本的な問題点は、エジェクションポートをふさいでしまうため、右肩から、左肩からと、射撃姿勢を自由に変換できないことだ。この問題は「タボール」でも解決されていない。AUG同様短時間でエジェクト方向を変更できるようにはなっているが、これは素早い射撃姿勢のスイッチができないという問題の解決にはならない。他の欠点として、トリガーバーが前後に非常に長くなってトリガープルの感覚ががさつになるというものもあるが、「タボール」も同じ欠点を持つ。
 1996−97年、TARプロジェクトはシリーズが完成し、IMIは自国、そして国外にも売り込みを開始した。特に国内では政治家にも働きかけを行った。しかし、当時イスラエル軍は、いろいろなCAR−15バリエーションとタボールを交換するというリアクションを起こさなかった。イスラエル軍も、ドイツ語の「未来歩兵武器」、アメリカの「US−OICW」にあたる新世紀型火器の研究を楽観的な見通しの下にすでに進行させていた。このため、「タボール」すなわちガス圧作動、回転閉鎖式ボルト、口径.223、ブルパップ、プラスチック外装といった性格の火器に大きな将来性があるとは考えにくかったのだ。また、こうした火器にはステアーAUG、シンガポール・テクノロジー・エンジニアリング社のSAR−21などがすでにあり、その一部は10年以上前から供給されていたのではなかったか。
 大部分の人にとって、「タボール」は、「それを選ぶこともできる」といったものにすぎず、決め手を欠く。独自のカテゴリーに属する火器を開発して市場に浸透したFNのミニミとは事情が違うのだ。イスラエル軍は最も有望な買い手だったが、テストすらしなかった。アメリカのイスラエル防衛政策の必要上、イスラエル軍は自国の兵器よりアメリカの兵器を安く買うことができたからだ。

 しかし、イスラエル軍は1999年になって、「タボール」の大規模なテストを行った。イスラエル軍は接近戦における豊富な経験と希望を開発に生かすことができる。テストは2、3の偵察部隊に、演習および実戦に使用させてのものだった。これはコルトM4カービンとの比較テストとなった。この結果は「タボール」に不利と出た。そこでメーカーは改良を行った。
 しかし、これと同時にコルトM4の最初の供給プログラムがスタートし、2002年の終わりまでにイスラエル軍はアメリカ特殊部隊も使っているこの銃を11,000挺以上購入した。銃の選択における決定的事実として、「タボール」が1,000USドルもすることがあげられる。にもかかわらず、昨年再びフィールドテストが行われた。ここでは、M203グレネードランチャーを装着してのテストも行われた。この結果、イスラエル軍は多くのテスターがM4カービンより「タボール」を選んだとして、多数の購入を決めた。しかし、周囲はこれが政治的決定であることを見抜いていた。これは自国の新ウェポンの輸出チャンスを増やすためだったのだ。イスラエル軍はさしあたり充分な小火器を保有しているにもかかわらず、今から1年のうちに1万挺以内の「タボール」の購入を行う。
 IMIは2002年8月、「タボールU」を発表した。これは流行のレーザーサイト、ナイトサイトの装着も意識したものだ。他の面では2002年半ば、アメリカで「タボール」のライセンス生産が始まった。アメリカのバレット社が観測気球として「タボール」のセミオートバージョンを発表した。これは外装が従来のものとは明らかに違う、アメリカのシビリアンマーケット向けのものだ。

 2003年1月、IMIはインド軍との間に2千万ドルの契約が成立したことを発表した。この内容は3,000挺の「タボール」、150〜200挺のガリル7.62mmスナイパーライフル、350万ドルのいろいろな照準装置の供給とともに、4つの新しいコマンドバタリオンをイスラエルのエキスパートが教育するという内容だった。このため、すでに成立していたH&KのMP5、PSG−1の供給契約は水の泡となった。このビジネスはIMIにとって金の湧き出る泉となった。インドはカシミール地方の複雑な民族問題による血まみれの対テロ戦争を抱えており、1995年にルーマニアから購入した10万挺のAKを、今後イスラエル製銃器に交換していくつもりだ。いや、「タボール」とIMIにはさらに可能性があるかもしれない。


 率直に言って、「タボール」はトップクラスの実力を持つアサルトライフルではあるものの、はるか以前から供給されているステアーAUGに勝る特別のメリットはないようです。イスラエルの「政治的決定」というのは、例えばしょぼい映画を、ビデオ発売時に「劇場公開作品」と銘打ちたいがために小さな劇場でごく短期間公開するような感じでしょう。今後主力を「タボール」に交換する気などはさらさらなく、「あの精鋭イスラエル軍も採用! M4カービンより実力が上とする歴戦の勇士も多数いた!」といって自国の兵器を国際的に売りやすくするために、高価なので多少損をすることは覚悟で採用した、ということのようです。このセールス戦術にまんまとはまったのがインド人、といったら失礼でしょうね。アメリカがイスラエルに売るM16シリーズより高いとはいえ、たぶんインドが買うにあたってドイツ製よりは安いでしょう。決して劣った兵器ではないようですし、今後は対テロ戦争にもMP5では威力不足と思われることも考えれば、まあ大きな間違いではないのかもしれません。それに加え、インドの抱える問題と、イスラエルの抱える問題は地域の民族問題から起こるテロという点でやや似ており、豊富な経験を持つイスラエルの専門家が教育までしてくれるというオプションはインドにとってもかなり魅力的だったはずです。他国のメーカー、例えばたぶんかなり安価だと思われるライバルのシンガポール製品では真似できない、半官半民のイスラエルメーカーならではの販売戦術といえるでしょう。「政治的決定」ともあわせ、イスラエルが兵器輸出にかなり力を入れようとしていることのあらわれでしょうね。
 私はしばらく前までイスラエル軍の主力はガリルで、補助的にM16シリーズを使ってると思っていましたが、事実は逆でした。弾薬が同じとはいえ、マガジンの互換性がないM16とガリルの混在は不便ではないんでしょうか。ちなみに写真で見る限りアメリカのシビリアンマーケット向けの「タボール」はM16と共通のマガジンが使えるようにしているようですが、オリジナルの「タボール」のマガジンキャッチは前面にあるレバー式なので互換性はないはずです。後部にレバーがあるガリルとも互換性はないでしょう。使うとしても補助だとわかっていてなぜ互換性を持たせないのかはよくわかりません。マガジンの外観が3者とも非常に似ているだけに現場では混乱するような気がするんですが。
 直接的には高価な買い物で損をしても国内の兵器産業を保持することが国益につながる、という考え方は日本と似ているかもしれませんね。ただ、イスラエルと日本では置かれた立場が全然違いますし、イスラエルですら主力を輸入で済ませているなら、日本もそれでいいのではという気もします。



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