「テイザー」

 「Visier」2003年10月号に、ピストル型スタンガンと思われるもののレポートが掲載されていました。実は私はスタンガンというものの護身用としての有効性に以前から疑問を持っています。油断している相手に攻撃を加えて拉致するとか、すでに監禁している相手を痛めつけるなどの悪用なら可能ですが、例えばナイフで突いてくる、鉄パイプやバールなどで殴ってくる暴漢に対し、極端にリーチが短い武器であるスタンガンで一体どうやったら対抗できるのか私には見当がつきません。もし不幸にしてそういう羽目に陥ったら、相手の顔めがけて思い切り投げつけて逃げようとすると思います。で、この記事はどうもこれがアメリカの公用に多用されている、という内容のようでした。アメリカでスタンガンがどう評価され、どう使われているのか興味を持ち、読んでみました。読み進めてすぐ、まったくの勘違いをしていたことに気付きました。


 アメリカでは現在、2700の警察署がテイザーを使用している。その成果には注目すべきものがあるし、それどころか現在これを航空の安全に役立てようという議論も行われている。

 約4年前から、オレンジの国フロリダでは、パトロール警官によってテイザーが使用されている。フロリダでは2000年の始まりから2003年6月までに、ちょうど2020回の警察による強制力行使が行われた。その中で991回はテイザーによるものだった。そのうち23件は銃の使用が許される、命に関わる状況下での使用だった。テイザーを使用するようになって以後、同じスパンでの警察官の受傷率は80%に、犯罪は67パーセントにそれぞれ減少した。これは偶然だろうか。それとも必然だろうか。フロリダでは今後も長期的展望のもとに、全部で1300人の警察官にテイザーを装備する予定である。
 アメリカ上院は、2001年9月11日の同時多発テロを受けて、航空機パイロット(貨物輸送機すら含め)の、銃器およびテイザーによる武装にゴーサインを出した。ユナイテッドエアラインは、緊急時に航空機護衛官やパイロットに協力すべき立場にいる客室乗務員用に、1500のテイザーを配備した。これに比べるとドイツの現状は遅れている。

より小さく、より軽く、より効果的に
 去年、非致死武器のひとつである電気ショック器具は、大きな技術的進歩を経験した。アメリカの会社、テイザーが発売した公用モデルM26は、一体のレーザーサイトがつき(頑住吉注:ここで私は「れ、レーザーサイト?! スタンガンに?」と驚きましたが、まだ勘違いに気付きませんでした。皆さんは分かりますか?)、小型化され、多くのポリス、シェリフデパートメントで好評を得、急速なテンポで普及が進んでいる。そして今回、さらに優秀な、新しいXジェネレーションが登場した。

システム 
 Xシリーズの機能自体は従来のテイザーと同じである。2つの矢状の電極にワイヤーがつながり、スイッチと連絡している。そして矢は125気圧の窒素ガスの圧力で発射される。矢の速度は50m/sに達する(エネルギーは7.5ジュール)。市販のバージョンの射程は5m、公用バージョンは7mである。
 テイザーはEMD(エレクトロ・マッスラー・ディスラプション:電気で筋肉に失調を起こさせる)インパルスによって作用する。電気インパルスは筋肉を収縮させ、敵は倒れる。テイザーは神経に直接命令する。これによって脳からの命令は筋肉を動かすことができなくなり、ほとんど体全体が動かせなくなる。この効果は麻薬、アルコール、その他薬物類によってまったく減殺されない。催涙ガス類より効果が大きいことは明白だ。また、その効果は体のどこにヒットしても有効だ。催涙ガスは頭部周辺にかからなければ効果がないし、銃器ですらその上胴体部分をカバーするにすぎない。

効果は条件によって左右される
 しかし、テイザーの効果の程度は、命中点にどれだけ筋肉がついているかによって大きく左右される。例えば効果大なのは胸、背中、太ももといった部位だ。一方筋肉が少ない横腹部分はもっとも効果が悪いゾーンである。
 また、実例はあまりに近距離での使用時にも効果が悪く、敵に傷つけられることがあるという事実を示している。これは、矢と矢の間隔が離れているほど大きな範囲の筋肉が影響を受け、効果が大きいからである。この間隔をなるべく大きくするため、矢には角度がつけられている。上の矢はサイトラインどおりに的に向かって飛び、下の矢はそれより8度下に向けられている。1mの距離では間隔は15cm、5mでは67〜70cm、7mでは90cmとなる。もちろん、片方の矢がはずれてしまえば電気回路は閉じず、効果はない。しかし、両方があたる範囲でなるべく距離をおいた方が効果が大きいということになる。従来品では、両方の矢を通して5万ボルトのショックが与えられる。しかし、1000以上の使用例がありながら、命に関わる傷を負ったという例は知られていない。しかし、リスクの可能性は残っている。これまで、矢が額に刺さった例は報告されておらず、そのとき何が起こるかはわからない。

インパルスの数はプログラムされている
 新しいX26の場合、セーフティレバーを切り替えて5秒の間に、赤いディスプレイが充電の様子を0〜99%まで表示したのち、充電が完了して使用状態になる。
 従来品のMシリーズは18ワットが18回流れる。これは1秒につき、1回1.76ジュールのインパルスがが10〜12回ということだ。M26では、26ワットを1秒間に15回のインパルスに分けて流す。
 Mシリーズでは、インパルスは5秒のサイクルにプログラムされている。公用モデルでは、これを2つのインターバルに分けている。1回目は19のインパルスを2秒間流し、その後15のインパルスを3秒間流す。これは新型の公用モデルX26Eでも同じだ。使用する警察官は、この5秒間に犯人をとりおさえ、安全に手錠をかけることができる。その5秒が過ぎたとしても、犯人はすぐに逃亡することはできない。市販バージョンのX26Dでは、インパルスは15秒の過程をとり、さらにこれを延長することができる。つまり、トリガーを何回も引ききればインパルスの時間はさらに持続し、犯人をその場に30、45、60秒間釘付けにすることができる。そして、犯人に刺さってインパルスを発し続けているテイザーを放棄して、使用者は安全に逃げ延びることができる。

より少ないエネルギーでより大きな効果を
 Xシリーズの新しい26系列は、従来品より60パーセント小型軽量化され、しかもより効果的になっている。メーカーは、この種の製品の効果を計る、筋肉の反応に関する独自の単位すら開発している。いわゆるMDU(マッスラー・ディスラプション・ユニット)だ。MDUは武器の電気インパルスによって引き起こされる筋肉の不動の度合を表現するものだ。M26は過去長い間、最も効果的な非致死武器であったので、これを100パーセントの効果という意味をこめて100MDUとしていた。X26はこの効果をさらに5%高めてあり、しかも必要なエネルギーはたった1/5となっている。
 これは、新しいシェイプド・パルス・テクノロジーのおかげである。エネルギーは小さなスペースに収まり、服や皮膚の抵抗に打ち勝つ。Mシリーズでは、90パーセントのエネルギーは抵抗に打ち勝つことに消費されていた。ただし、Xシリーズの価格は未定であるが、この大きな効果は明らかに価格にも反映するはずである。少なくともM18(339ユーロ)の倍のコストになるはずだ。

悪用防止策 
 発射のたびに、40の紙吹雪のようなもの(いわゆるAFIDs)が現場に散布されるようになっている。この1枚1枚にはカートリッジのシリアルナンバーが記録されているので、購入時の記録から、使用者をつきとめることができる。テイザー社は公共の利益のため、安全策をさらに進めた。テイザーにはデータ記憶装置があり、2000回の使用が内蔵されたデータ記憶装置に完全に記録される。このデータはコンピュータに接続して呼び出すことができる。
 M26はセーフティレバーを使用側に回すと、自動的にレーザーサイトが使用可能になる。これだけで威嚇効果は絶大だ。イギリスではすでにテイザーの投入例が80回あるが、このうち実際に相手に向かって発射されたのはたった1回である。新しいXジェネレーションでは、さらにホワイトライトも装備され、レーザーとの選択ができるようになっている。

バッテリー
 Mシリーズには市販の8個のミグノン電池(AA)を使用する。この電池は高価であり、もっと安いデュラセルなどの電池は使えない。プロの使用者には充電式のNickel−Metallhybrid−Akkusバッテリー(充電器込みで128ユーロ)の使用を勧める。通常の電池は摂氏4度といった低温時に一様な成績が望めないからである。新しいX26では、メーカーは6ボルトのリチウムバッテリーパックの使用を選択している。これは貯蔵期限が10年もあり、入れっぱなしにしておいて内蔵のソフトウェアの使用がが2年間自動的に保証される。バッテリーはグリップ内に収納されるが、この下に予備の発射カートリッジを接続することもできる。
 射程、矢の重さ、長さの異なる4つのカートリッジバリエーションがある。市販カートリッジは37ユーロである。尖端を4mm長くしたイエローXPカートリッジ(公用のみ)は4倍の貫通力がある。これなら厚いダウンジャケットも問題なく貫通するので、寒い地方、季節に適している。ただし、メーカーの言によれば、スタンダードのカートリッジでも厚さ60〜70mmの布地を貫通でき、充分であるという。短い矢に釣り糸を接続したトレーニング用カートリッジの販売も予定されている。

どれだけの効果があるのか
 昨年のアメリカの警察その他(例えばアルカイダテロリストの捕虜をキューバからグアンタナモベイ刑務所に移送する際)の使用による統計および経験から、その有効性、安全性はきわめて高いことがわかる。この他、危険を伴う仕事、例えばデパートの警備員、高額の現金を扱う人、航空機護衛官などにも有用であると考えられる。


 ご覧のように、「テイザー」というのは日本では数年前に販売が禁止されてしまった、ガス圧で矢を飛ばして離れた相手に電気ショックを与える武器であり、いわゆるスタンガンとは全くの別ものだったわけです。まあ正確に言えば数年前に禁止されたというより、この武器は銃刀法上実銃のガス式空気銃にあたる、という警察の判断が示された、つまり初めから販売できないはずのものが販売されていたので指摘して中止させた、ということだったはずです。まあ初速こそ強力なエアソフトガン以下ですが、125気圧という高圧(CO2ですら60気圧でしたよね)ガスで金属の矢を発射して突き刺し、そのエネルギーが7.5ジュールもあるのではやむを得ないでしょう。
 メーカーには公式サイトがあります。やたら凝った演出があって重いですが。http://www.taser.com/
 たしか20年位前にテレビで放映されたアメリカのアクション映画で見たような記憶があるのでかなり昔からこの種の武器は存在するはずです。アイデアのルーツはひょっとしたらジュール・ベルヌの「海底二万マイル」かもしれません。あの小説にはノーチラス号乗員の武器として、敵の体内に入って高圧電流を流し、大型のサメも一撃で倒すという銃弾が登場していました。 
 このテイザーならナイフや鈍器類を持った犯人には充分対抗できるはずです。ハンドガンも、実際の使用距離は数mであることが多く、場合によっては対抗可能かもしれません。「ホローポイント弾」などのコーナーで触れたように、銃弾が敵を行動不能にする効果は中枢神経系に直接命中するケースを除き、直接的なものではなく、痛みによるショックや出血による脳への酸素供給の削減などによって起こる間接的なものです。そして、ドラッグを使用している犯人に対しては効果が現れるのが遅くなることも多いわけです。これに対しテイザーの効果は神経に直接作用し、ドラッグにも影響を受けないという長所があります。また、銃と違って手や足の先などに命中しても大きな効果があるわけです。インパルスを受けている最中の犯人を取り押さえて手錠をかけても警官が感電することはないんですね。しかも相手を殺してしまう可能性はきわめて低いので、比較的心理的な圧迫なく使用できるはずですし、万一敵に奪われてしまった場合のリスクも比較的小さいはずです。リコイルも小さいでしょうし、簡単なフロント、リアサイトのほかレーザーサイトがついているので、初心者にも扱いやすいでしょう。トリガーを何度も引くとインパルスの発せられる時間が延長され、この間にテイザーを放棄して逃げることができるというのには感心しました。また、発射によってシリアルナンバーを記録した紙吹雪のようなものが多数ぶちまけられるという悪用防止策も非常によく考えられていると思います。125気圧でぶちまけられた紙吹雪を全部回収してから逃亡するというのは事実上不可能と思われます。記憶装置というのは、万一知らないうちに持ち出され、カートリッジをつけかえて使用してから戻されても分かるし、警察が疑いをかけた人物のテイザーを調べれば犯行時間に使用したか否かが分かる、逆に言えば所有者は身の潔白を証明できるということでしょう。これだけ高度な悪用防止策があり、大きな傷を負わせる可能性が低いなら、日本でも法整備の上、簡単な許可制で解禁してもいいような気がします。金融機関や深夜営業の店などにこれがあればかなり心強いと思います。もちろん警察官にも大いに有効でしょう。
 ただ、旧型のM18でも339ユーロし、新型がこの倍となればこれはもう一流のプラスチックフレームオートピストルより高く、簡単には買えないですね。また、私にはテイザーの大きな弱点と思える点に言及がないのがやや気になりました。まず、テイザーは単発であり、初弾を外したらおしまいだということです。緊急時にカートリッジの交換をしている余裕はないでしょう。もちろん、敵が複数の場合も対処できません。レーザーサイトで威嚇し、発射しないうちに敵が退散してくれることに期待するだけです。外したらおしまいなのに極端に近距離では効果が薄いのでなるべく離れて発射しろというのは無理難題に近い気がします。そして、スイッチを入れて5秒間充電しないと使えないというのも緊急時には命取りになりうる大きな弱点だと思います。たぶん警察による使用では2人以上のチームで、相棒が万一に備えて銃でバックアップしながら使用するんでしょうが、個人が護身用に使う場合にはこの2点は大きな問題だと思います。まあ、実際の使用例が多く、実績を上げているわけですからさほどではないのかもしれませんが。



2004年3月27日追加

 「Visier」2004年3月号に「テイザー」に関するニュースが掲載されていました。


ベルリン警察で「テイザー」が厳しくテストされている。
 銃を使用してよいかどうかの決断は、警察が行わなくてはならない最も難しい判断である。この代替となるものとして、2001年8月13日以来、ベルリンのSEK(特別投入コマンド部隊)に8挺の「テイザー」(「Visier」2003年10月号参照。)が採用に向けてのテストのため提供されている。これは5万ボルトの電気ショックによって攻撃者を少なくとも5秒間戦闘不能状態にするというものだ。この時間は警官が犯人を取り押さえ、手錠をかけるのに充分である。また、2004年1月24日のケースで実際に証明されたように、自殺者志願者を保護することもできる。このケースでは37歳の男が「テイザー」の1発で制圧され、病院に運ばれた。ナイフで武装した犯人を制圧することもでき、ベルリンのSEKではすでに4件の実例がある。「テイザー」の人命を救う能力に警察が満足しているのは確かである。このためできるだけ早い全パトカーへの装備が期待される。しかしベルリン特別州のKoerting内務大臣はいまだ決定を下していない。警察はいつまで待たされることになるのだろうか。


 ドイツの銃規制は日本よりはるかに緩いですが、銃を使った凶悪犯罪は意外に少なく、この点ではアメリカより日本に近いわけです。警察官は長時間の射撃訓練を積んでおらず、銃の使用にはかなりのためらいがあるようです。実際に婦人警官が屋内においてナイフで武装した犯人に襲われて発砲した結果、弾丸が犯人の体を貫通して、自分を助けようとした人まで殺してしまうという事件も起こったわけで、銃の発射に大きな危険が伴うのは事実です。この事件を受けて人体に対する貫通力が低い「アクション4」が採用されたわけですが、「テイザー」の試用もこれと無関係ではないと思われます。「テイザー」なら銃よりはるかに心理的圧迫なしに発射できますし、銃以外で武装した単独の犯人相手で、パートナーのバックアップが得られる状況ならたいていの場合「テイザー」で充分のはずです。日本でも「テイザー」の採用を検討する価値は大いにあると思います。


戻るボタン