タウルスPT24/7

 「Visier」2004年4月号に、ブラジルのメーカー タウルスの新製品、PT24/7のレポートが掲載されていました。


24時間

タウルスPT24/7 この名前は狙ってつけられたものである。というのは、このSHOT SHOWにおける新製品は、使用者が絶えず携帯し続けるためのものだからだ。1日24時間、週7日。


 映画で、大勢が海水浴をしているところにサメが登場するが、それがちゃちなゴム製の模型であるのがまるわかりで失笑を買う、というようなことはよくある。このような「なあんだ」という反応は、従来品改良型のピストル、リボルバー、ライフルにおいてしばしば起こっている。2004年、SHOT SHOWとIWAで初めて公開された新製品、タウルスPT24/7にもこういうことが起こるだろうか。同じような運命が今にも見舞いそうである。頻繁に世界初レポートを書いている我々のアメリカ通信員Walt Rauchがこの銃を扱い、射撃することができた。これは最初の個人によるインプレッションである。

 この銃がどの系統かというのは一目見ただけで分かる。この新製品は現在でも入手可能なモデルPT111ミレニアムをベースにしているのだ。これについては別冊ナンバー17で.380ACP、9mmパラベラム、.40S&W、.45ACPモデルをすでにテストしたが、信頼性とコストパフォーマンスの高さが確認されている。しかし同時にこのバックアップ用ピストルのグリップが成人男性の手にはやや小さいということも示された。PT24/7はブラジルメーカーのこの問題に関する解決策でもあり、そしてミレニアムのプルーフされた技術と良好な装備をスポイルすることなく、さらにいくつかの新しい特徴を加えたものでもある。

製品の環境
 一見してPT24/7は何百万ドルという金を払わせられる恐れがある製造物責任裁判へのメーカーの不安の典型的な結果としてこのような形になったものだ、ということが分かる。すなわち、ダブルアクションオンリーのピストルであるにもかかわらずマニュアルセーフティレバーが追加されており(これは警官が銃をひったくられた場合に備えるため官庁が要求したものでもあるが)、一体のキーロック式セーフティがある。現在ある銃が厳しい批判を避けようとするなら、そして無難な射撃結果を得ようとするなら、それは熟練した使用者が泣くようなものにならざるを得ないのだ。
 技術的な観点から、PT24/7は単なるミレニアムの拡大版ではない。変更はむしろ目立たない点で行われている。例えばサイトは同じものだ。フロントサイト、そしてノバックスタイルで作られたリアサイトは、合わせると3点ドットとなり、大きな白のドットは視認しやすい。フロント、リアサイトとも1本ずつのネジで固定され、フロントサイトは補助的に接着もされている。上下にも左右にも調整はできないが、純セルフディフェンスガンとしては異例ではない。スライドは角張ったデザインだがシャープなエッジはなく、しかも滑り止めのセレーションはつかみやすく、引く時に滑りにくい。

安全 法の名の下に
 マッシブなエキストラクターは栓抜きのようである。エキストラクターは上下2ピースであり、上部分はローディングインジケーターとして機能する。チャンバーに弾薬を装填すると突き出してピストルがロード状態にあることを見ても、触っても確認できる。さらに安全装備としてキーを使ってピストルを機能封鎖状態にすることができる。これでロックした状態ではトリガーを引くことも、スライドを引いて装填することもできない。
 これは、タウルスがアメリカの6州(コネティカット、マサチューセッツ、カリフォルニア、ニュージャージー、ペンシルバニア、メリーランド)で採択された「Child Safety Lock Laws」にいちはやく反応したものである。それによれば、購入される新品の銃にはそれぞれに子供用の安全装置を同封しなくてはならない。ただしメリーランド州の規制はさらにもう一歩先に進んでいる。銃に固定された一体の部品としての子供用安全装置をメーカー段階で要求しているのだ(頑住吉注:ちょっと分かりにくいですが、要するに他の5州ではトリガー部分を左右からはさんでキーでロックするような外づけの子供用安全装置を標準装備として同封すればよいが、メリーランドはこの銃のように組み込みでなくてはならない、ということですね)。
 当たり前だが、子供用安全装置をかけ、トリガーを力ずくで引こうとしてみても引けなかった。しかしながらこれは決して保管時の「Waffenschrank」のかわりになるものではない(いずれにしても我々の場合法律が許さないが。 頑住吉注:この単語は辞書に載っていません。「Waffen」はこの場合銃、「Schrank」は「柵」「仕切り」といった意味です。文脈からして、日本で銃をカギのかかるスチール製のロッカーに入れなくてはならないという法律があるように、ドイツでもピストルを何かの中で保管しなくてはならないという法律がある、そしてこの子供用安全装置があるからといってそうした配慮が不要になるわけではない、ということが言いたいらしいです)。というのは、全ての禁じられた物品というものは子供を刺激し、子供は工夫し、障害を乗り越えてしまいがちなものだからである。
 マニュアルセーフティは左面にあり、親指が届きやすい。上がセーフで、押し下げることによる解除は人間工学的に有利である。例えばワルサーPPKs(頑住吉注:見慣れませんがこういう表記になっています)のように時間のかかる握り直しは不要だ。トリガープルは4.5kgもあるが、このため使用者はセーフティをかけなくても安心できる。さらに、トリガーを引くことによって解除されるオートマチックファイアリングピンブロックがあり、落としても安全である。

プラスチックと合成ゴムのミックス
 ミレニアムと最も大きく異なるのはフレームだ。大型化され、前部にはピカティニーレールが装備されている。ここにはいろいろなタクティカルライト、レーザーサイトが装着できる(例えばシュアーファイアー200X、Streamlight M-6など)。ミレニアムとの銃自体の全高の差は27mmだ。その上10連マガジンには交換可能なプラスチック製マガジンボトムが付属してグリッピングを向上させている。
 だが、ポリマー製グリップフレームは単に上下に延長されただけではない。タウルスはPT24/7で初めてグリップ部分にゴムのカバーを使用した。表面に薄い板状のゴムを使用する方法は同社がリボルバーで使用しており、このデザインはそれを発展させたものである。グリップ側面のくぼみはグリップを確実にし、セーフティとスライドストップに指が届きやすくしている。その前方には分解ラッチがあり、分解方法はベレッタ、タウルスの従来品を思い出させるものだ。分解するには、このラッチを90度下に回し、その後完全に抜き取る。ただし、このラッチにはリコイルスプリングのテンションがかかっている。金属製のもの、例えばマガジンリップ、空薬莢、ドライバーなどの助けなしには抜き取れない。

それは長い道程
 この銃のダブルアクションオンリーのトリガーはかなり長い、しかしなめらかな作動が特徴的だ。トリガーガードはどんなに手の大きな人でも、また寒冷地で手袋をしていても充分な大きさがある。DAOトリガーはいくらか慣れのための時間を必要とする。25ヤードからターゲットを狙って空撃ちしてみるとサイトがジャンプするが、問題はない。PT24/7の第一の用途はセルフディフェンス用であり、その使用距離は最大でも15m以下なので、ぶれは小さくてすむ。この種の銃では遠距離の精密射撃は元々不可能である。

好き嫌いなし
 25mからの5発のグルーピングは平均5インチ(約12.5cm)であり、受け入れ可能だ。より現実的な15mの距離からより速く射撃してみたが、テスト者全員において20cm以下の結果となり、IDPA(インターナショナル ディフェンシブ ピストル アソシエーション)ターゲットのセンター部分に収まった。
 この銃は、Black Hills製115グレインの軽量なホローポイント弾、レミントン製124、150グレインホローポイント+Pから、いろいろな出所の軍放出品フルメタルジャケット弾をコーヒー缶にごちゃまぜに集めたものまで、各弾薬をやすやすと消化した。

結論
 タウルスPT24/7の安全機構は目的をいくぶん越えた過剰なものになっている。DAOにマニュアルセーフティレバーを追加したり、レアケースにおいては敵を利する可能性もあるキーロック式セーフティを備えていたりといった点においてである。この銃に妥協のない最高のセルフディフェンスガンであることを求めるのは過剰な要求であり、雄牛に乳房を求めるようなものである(頑住吉注:これはまた面白い言い回しですね)。ここまで厳重な安全機構は初心者だけが必要とするものであり、使用者がこの銃を長く使い続けることはできない。
 充分良好な命中精度、どんな弾薬も消化する信頼性、いくぶん大きめのサイズと大きな重量(SIGプロSP2340、ワルサーP990DAOと比べて)から、この銃はセルフディフェンス用、公用としてならまだ適当なサイズと認められる。しかしコンシールドキャリー用のサブコンパクトガンとしてはとても認められない。この用途には古いミレニアムの方が向いている。

モデル:タウルスPT24/7
価格:649ユーロ
口径:9mmパラベラム(.40S&Wもある)
装弾数:10+1
寸法:181x32x140mm
銃身長:102mm(ライフリング6条)
重量:779g
型式:薄いゴム製カバーが付属したプラスチック製グリップフレーム スライドはブルーイングまたはステンレススチール キーロック式セーフティ ローディングインジケーター ピカティニーレール 3ドット式サイト DAOトリガー


 まず前作のミレニアムですが、GUN誌1998年8月号でターク氏がレポートされています。サブタイトルは「セルフ・ディフェンス(自己防衛)の要求に文句なしにこたえられるツール」となっていまして、これでお分かりのように安い割に高性能という高い評価が下されています。事実けっこう売れているようです。余計なことですがアカデミーがコッキングガンを作っていて、私も1挺持ってますがこれも思い切り低価格の割にはまあいい出来です。
 タウルスはベレッタのブラジル工場を引き継いだメーカーであり、比較的最近までオートに関してはベレッタ亜流製品ばかりでした。しかしベレッタ方式のショートリコイルはベレッタ自身が苦労したようにコンパクト化が難しく、またコストも高くなります。そこでタウルスはベレッタ方式を(新製品では)放棄してティルトバレル式のコンパクトで強力な製品シリーズを作り始めました。最初全体デザインはベレッタ風でしたが、ミレニアムでは完全にオリジナルデザインになっています。
 さて、ミレニアムが成功したので「これはいけるぞ」とばかりにフルサイズ化し、新たなアイデアもいくつか盛り込んで発売したのが最新モデルPT24/7というわけです。GUN誌2004年5月号のP36にも掲載されていますし、
http://www.taurususa.com/whatsnew/pistols.cfm
こちらの公式サイトには透視図などけっこう詳しい情報があります。ちなみに検索してみましたが公式以外にはあまりいい情報に行き当たりませんでした。まあこれは発売からあまり間がないというせいもあるんでしょうが。外観はかなりカッコいい感じ、少なくともsp−21よりずっとましという印象です。

 このコーナーではアルゼンチン製の「ミニファイアストーム」に続き南米製新製品の紹介ということになります。あちらはちょっと甘すぎではと疑問を持つような内容でした。今回はアルゼンチン製よりグレードが高そうで、今や1.5流という印象のタウルス製品ですから、大筋好意的な内容を予想していました。しかし実際はやや婉曲な表現ではありますが、ずばり言えばプロも含め熟練者には使えない銃だという厳しい評価です。
 そもそもメーカーの意図としては、この銃は公用を狙ったものでしょう。安全に対する配慮などいろいろなアイデアを盛り込み、ピカティニーレールも装備し、あわよくば低価格を武器にグロックのシェアに食い込んでやろうという狙いだと思うんです。それでもレポーターは公用の可能性はほとんど一顧だにせず、初心者の自衛用としては使えるが長くは使えないし、コンシールドキャリー用ならミレニアムの方がいい、というんですからきついです。
 まあ、この銃を見ると、キーロック式セーフティやピカティニーレールを組み込むなど一見流行に敏感なようで、逆に鈍感すぎる部分がある気もしますし、これも含めて弱点がかなり多いように思われます。

●「プラスチックフレームを使っているのに内容、機能に比べちょっと重すぎる」 ミレニアムもそうなんですが、この銃はインナーフレームにアルミを使っています。それにしては重く、これでは同クラスの純アルミフレーム製品と変わらない感じです。
●「左利き射手への配慮が少ない」 ミニファイアストームやH&KのP2000などスライドストップまでアンビの銃が現われているのにPT24/7はセーフティすらアンビになっていません。この記事にも公式にもメリットとして書いていないので、たぶんマガジンキャッチも左右交換できないんだと思います。
●「安全と命中精度を両立させた特殊なセミダブルアクションが流行の兆しを見せる中、思いっきり重い単なるDAOトリガーである」 そう言えばフルサイズで純DAOの銃って、古くはVP70(あえてもっと古いものを挙げればCz38)、オールアメリカン2000、シグマ、Cz100と、こけた例が多い気がする、というか文句なしに成功と言える機種が思い当たらないんですが。
●「素手では事実上分解できない」 GUN誌のレポートでは触れられていないので、ミレニアムは素手で分解できるようです。両者の分解法は同じで、ラッチを90度回す点はベレッタ風ですが、その後完全に引き抜くわけですから実際はガバメントのようなブローニング方式に近いと言えます。明らかにベレッタより不便ですが、最新の製品でもワンタッチで分解できないオートはsp−21、SIGプロ、P2000など多く、ということはさほど不利にはならないということなのかも知れません。
●「サイトが完全固定である」 (メーカーは調整の必要がある場合は交換するとしています)

などの点ですね。それに公式サイトを見るとアメリカでの価格も特別に安くはない感じです。スムーズでひっかかりにくそうなデザイン、引きやすそうなスライド、(このレポートを見る限り)高い信頼性、まあまあの命中精度、ゴムのカバーを含め握りやすく滑りにくそうなグリップなど、評価できる部分もあるんですが。それに2ピースのエキストラクターやキーロック式セーフティ、本来なら必要ないはずのマニュアルセーフティなど、無用に複雑化し、誤操作や破損による機能停止の可能性が(少なくとも理論上)大きくなるなど、全体にどうも好感が持てない感じです。正直言うとこの内容を読むまでなかなかカッコいいし、けっこういけそうな銃という印象だったんですけど(←影響されやすい)。
 ちなみにsp−21、ミニファイアストーム、PT24/7と、ここで取り上げた製品も含めて最近のオートはキーロック式セーフティを備えるものが多くなっています。この理由にはこういうセーフティがメリーランド州で法律によって義務化されたことがあったわけですね。これら3製品は全てアメリカ以外のメーカー製ですが、アメリカは非常に重要な輸出先であり、その1州で販売不可能になるというのはかなり痛いはずです。しかも今後追随する州が出る可能性も高いと思われますし、「現にこういう安全対策をとっているメーカーがあるのにそうしなかったからこういう事故が起きた」という理屈で裁判時に不利になる恐れも出てきます。日本のガンマニアからすればちょっと興ざめな機能ですが、今後こういう装備を持つ銃は増えていくでしょうね。

 

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