ドイツ警察ピストルのための「技術的指針」

 ドイツ警察のいくつかの装備は「技術的指針」と称する公的基準に適合したものであることを求められます。今回はピストルに関する「技術的指針」の内容を紹介します。

http://www.pfa.nrw.de/PTI_Internet/pti-intern/WG/Regelungen/Pistolen/Pistolen_TR0697.pdf.html


技術的指針

ピストル

1995年5月成立

(ナンバー2.2.4の変更による補正。1997年6月成立)

発行者:
AKIIの技術委員会(頑住吉注:AKIIは「第2研究専門集団」の略らしいです)

編集:
警察指導アカデミーにおける技術委員会執行部、警察技術のための研究および開発部署(FEStPt)。(頑住吉注:連絡先が明記されてますが省略します)

 この技術的指針の「安全保証任務を持つ官庁および組織」(BOS)の外での使用のためのリプリント、翻訳、公表、使用は(抜粋も)技術委員会執行部の書面による許可によってのみ許される(頑住吉注:ごめんね)。

前文

 この技術的指針(TR)は、警察ピストルの新規開発のための構造上および機能上の特徴のカタログを含む。

 このTRに従ったあるピストルの技術的適性の証明のためには、そのつど有効な版の「TRピストルのためのテスト指針」に基づくテスト方法が用いられる。

 テストには、個々の構造上の特徴がこの技術的指針の要求から逸脱しているピストルも提出することができる。

 行われた技術的テストに従ったピストルの選択のためには、「ユーザーテストのためのプログラム」が糸口として役立つ。

 調達の際にはさらなる要求および技術的ディテールが「技術的納入条件」の中で定められる。

(頑住吉注:目次省略します)

1.全般的要求

1.1 機能確実性、寿命

 警察用ピストルは極端な状況下でも機能確実に働かねばならない。

 法で定められた試射とならんで、こうした銃はテスト指針に基づいた方法のテストを受けねばならない(頑住吉注:ドイツの法律では原則全ての銃において試射が義務付けられ、「試射マーク」が刻印されることになっているようです。警察ピストルはその他に警察ピストル用のテストも受けなければならない、というわけです)。

 こうした銃のための寿命としては10,000発の負荷が要求される。

 「テスト指針」によって定められた消耗部品5,000発寿命が要求される)はこれから除外される。

 全ての部品は、射撃負荷寿命の少なくとも半分の寿命が「ドライ負荷」でも達成されることが証明されなければならない。

 ドライ負荷は訓練や日常業務で発生するような銃の取り扱い負荷であり、例えば

●ロード、アンロード
●セーフティオン、セーフティオフ
●コック、デコック
●トリガーの引き

による(頑住吉注:発射せずとも日常的にこうした操作を繰り返していて、簡単にガタが来るようではダメ、少なくとも5,000回には耐えよ、というわけです。「トリガーの引き」は空撃ちのことだと思われ、これはファイアリングピンに過大な負荷をかけて望ましくないともされますから意外に厳しい要求かも知れません)。

1.2 取り扱い、操作、安全性

 単純な取り扱いと簡単な操作において最高度の射手安全性および取り扱い安全性が保証されなければならない。

 ピストルの全ての操作エレメントは、少なくとも右利き射手によって銃を握った手で快適に、ルート上でも力の上でもコントロールできるよう配置されなければならない(頑住吉注:例えばデコッキングレバーやマガジンキャッチに親指が届きにくかったり、不自然な角度まで指を曲げないと作動しなかったり、過度な力を必要としたりしてはダメだということです)。左利き射手が大幅に考慮されていなければならない。デコックはトリガーの操作なしで可能でなければならない(頑住吉注:過去ドイツ警察で使用されましたがHK4はこれを満たしません。グロックが満たすか否かは解釈によりそうです)。

 銃への落下および衝突負荷の際に発射が起こってはならない。

 銃は1発の弾丸がバレル内に詰まって留まった際にも、バレル、閉鎖機構、フレームの破裂を起こすことなくさらなる1発の発射に耐えねばならない(頑住吉注:不完全閉鎖で発火したグロックがバラバラになって吹っ飛んだなんていう話もありますが、一般的に一流のオートはこの条件を満たしているもんなんでしょうか。かなり厳しい要求だと思われます)。

1.3 射撃準備性

 銃は高められた射撃準備性の状態で、すなわち装填され、デコックされ、即座の射撃準備状態で安全に携帯し、引き抜くことができなければならない。

 即座の発射はマニュアルセーフティの操作なしでトリガーによって可能でなければならない。

 打撃メカニズムは急速に、そして安全にコックできなければならない。

 銃は、トリガー操作なしに発射し得ることを妨げる点火セーフティ(例えばファイアリングピンセーフティ)を装備しなければならない。

1.4 射撃時の銃のふるまい

 握りやすいグリップの造形と正確に設定された重心位置により、射手の手に作用する(リコイルショック、回転モーメント)はできるだけ小さく抑えられていなければならない。

1.5 命中成績

 実用距離25mでの良好な命中成績が要求される。命中成績はPDV982(頑住吉注:ドイツ警察の射撃マニュアルらしいです)で定められた射撃状況の中で計測されねばならない。だがこの際5発の命中弾全てが16cmの円内に位置しなければならない。

1.6 形状、携帯方法

 携帯方法に関してはフラットに抑えられた、平滑で丸みを帯びた銃の形状が必要である(頑住吉注:例えばH&KのUSPシリーズは発展するごとに丸みを帯びていっています)。銃は、警察の使用に合わせた携帯方法全てにおいて困難なくクイックドロウを可能にすべきである。

2.技術的要求

2.1 銃の全般的データ

2.1.1 弾道学的成績

 参照弾薬を使って発射後3mにおける弾丸エネルギーは平均で480ジュールと520ジュールの間にあることが保証されねばならない。この際複数の測定における個々の値460ジュールを下回ってはならない。

 参照弾薬は目下9mmx19弾薬 DM11A1B2WKである(頑住吉注:検索しても何のことか分かりませんでした。これが作成された時点では、まだ「アクション4」は登場していないはずです)

※そのつど有効な参照弾薬は技術委員会執行部に照会することができる。

2.1.2 素材

 銃の素材選択の際には25年の使用継続期間のための老化耐性を基礎に置かなければならない。

2.1.3 重量

 銃の重量は空マガジン込みで900gを上回らないこと。

2.1.4 寸法

 得ようと務められる数値は次の通りである。

●全長(ハンマーデコック時)      180mm
全高                  130mm
全幅                  34mm

 全ての寸法はボア中心軸に対して垂直もしくは並行に計測される(頑住吉注:「以下」とはなっていません。小さすぎても使いにくく、これくらいが適したサイズということでしょう)。

2.2 構造および機能上の特徴

2.2.1 バレル構造グループ

 バレルの内部寸法は、そのつど有効な版の3.WaffV(頑住吉注:「銃器法のための第3の命令」。結果的に性能が出て、かつ事故が起きなきゃいいような気がしますが、こういう寸法じゃなきゃダメだと法的に決まっているようです)の寸法表に適合していなければならない。

 口径としては9mmあるいは他の計測システムの適合する寸法が求められる(頑住吉注:上でエネルギー量が細かく規定され、ここで口径も決まっているので、事実上9mmパラ以外は使えないでしょう)。

 弾薬は採用されているサブマシンガンから発射できなければならない。

 弾丸誘導部の長さは最低でも口径の8倍であるべし(頑住吉注:「弾丸誘導部」はライフリングが刻まれている部分と考えていいでしょう)。

2.2.2 閉鎖機構構造グループ

 システムは、フリーに位置する薬莢部分の確実な支持を保証し、そしてこれにより安全上重大な薬莢の変形を排除するため、包底面の遅延が十分であるように設計されていなければならない(頑住吉注:スライドが早く後退しすぎて薬莢が膨張するような銃はダメだということです。当たり前のようですが、ドイツ警察が戦後一時使用していた、9mmパラをストレートブローバックで発射するアストラピストルではこれが時々起きたようです)。

 点火閉鎖機構が閉鎖されている時のみ可能でなければならない。

 システムがロックされている際、閉鎖機構間隔の増大は全寿命にわたって0.2mmを越えてはならない(頑住吉注:検索によれば「閉鎖機構間隔」とは弾薬底部と包底面の間の間隙のことだそうです)。

 閉鎖機構間隔ゲージ「T」19.75mmを入れた時、銃が発射できてはならない(頑住吉注:9mmパラの薬莢長は約19mmですから、19.75mmのゲージを入れると完全閉鎖の少し手前で止まるはずです。発射というか、この状態でハンマーやストライカーが落ちてはいかん、ということでしょう)。

 システムがロックされていない際、点火は最も早くて残余前走ストローク1.5mmの際になされてもよい(前走セーフティ)(頑住吉注:ロック解除ポイントから1.5mm未満前進しただけでハンマーやストライカーが落ちてはいかん、ということでしょうか)。

 閉鎖機構部品はつかむ領域にミゾを備えていなければならない(頑住吉注:「ミゾ」と訳した「Riffelung」は滑り止めミゾを表す語として頻出します。ウロコ状の滑り止めなどは厳密には適合しないはずです)

 ハンマーがコックされていない際に閉鎖機構を完全に引く時に克服しなければならない装填抵抗は、100ニュートンを越えてはならない(頑住吉注:前述のアストラピストルは非常にスライドの引きが重かったそうです。P7も比較的重いといわれますが、100ニュートンを越えているか否かは分かりません)。

2.2.3 フレーム構造グループ

 フレームは都合の良い角度設定によりグリッピングが確実なように製造しなければならない。

 得ようと務められるグリップ傾斜110度である(計測されるのはバレルボア軸とグリップ前端の間の角度)。フレームは発射時の銃の確実な保持を保証するよう作られねばならない。

 交換可能ないろいろな形のグリップパネルあるいはグリップ部品を用意しなければならない。

 グリップパネルが緩んだ、あるいは破損した際の全ての部品の信頼性ある誘導および受け入れが要求される(頑住吉注:厳密に解釈すればSIG P220系等は適合しないと思われます)。

 フィーディングランプは警察に採用されている弾薬用に適していなければならない。

2.2.4 トリガーおよびセーフティ設備

 原則的に銃はトリガーシステムのための少なくとも2つの異なる強さの抵抗を持たねばならない(頑住吉注:原則DA/SAということでしょう)。

 デコックされた銃器状態からの発射のためには力の急上昇のない均一な力の上昇が要求される。

次の状況が満たされねばならない。

コックされた銃器状態
トリガー抵抗     20ニュートン±2ニュートン
トリガーストローク  5mm

デコックされた銃器状態
トリガー抵抗     65ニュートンもしくはそれ以下
トリガーストローク  最大14mm
トリガー仕事  最低600Nmm、最大650Nmm(頑住吉注:「Nmm」とはニュートンミリメートルというトルクの単位らしいです)

●ディスコネクターストローク 4mm未満(頑住吉注:流れから言ってスライドが完全閉鎖する4mm以上手前でレットオフしてはいかんという話ではなく、ディスコネクターまたはその役目を兼ねるトリガーバーが4mm押し下げられてもまだディスコネクトしないようではいかん、ということだと思われます)

●落下ストローク 2mm未満(頑住吉注:たぶん競技銃においてトリガーストップで短く調節したりする、レットオフ後のトリガーの空走距離のことでしょう)

 幅広く滑りにくいトリガー(6mm以上)を備えなければならない。

 単純な伝動要素が要求される(頑住吉注:たぶん例えばハイパワーのような迂遠な力の伝達は望ましくないということでしょう)。少ないパーツ数が得ようと務められねばならない。外装ハンマーは、良好な操作性で、隠された携帯方法の際のひっかかりを妨げるような形状に作られねばならない。

 トリガーガードは両手射撃に適したものでなければならない。このためトリガーガードは、トリガーの簡単な操作が可能で、トリガーフィンガーが挟まることが妨げられ、裏地のある指付き手袋を装着しても射撃できる形状でなければならない。

2.2.5 セーフティ

 セーフティシステムは、高められた射撃準備性の際の銃の危険のない携帯および取り扱いを可能にしなければならない。

 例えばグリップセーフティやマガジンセーフティのような外部から操作しなければならないセーフティエレメントなしで、自動的に働く点火セーフティ(例えばファイアリングピンセーフティ)が要求される。打撃エレメントがコックされている際もファイアリングピンが確実に拘束されていなければならない。銃がトリガーの操作なし発射してはならない(頑住吉注:これを満たすとすれば事実上、トリガーと連動するタイプのオートマチックファイアリングピンブロックしかないでしょう)。

 銃の安全性は、高められた射撃準備性および打撃エレメントがコックされた状態で、「テスト指針」にしたがった落下実験によって実証される

2.2.6 サイト設備

 サイトの間隔は技術的に可能な限り大きく、サイトラインの高さは低く抑えられねばならない。

 フロントサイト幅少なくとも3mmであるべし。

 サイトはターゲットを狙った際、フロントサイト両側に明瞭な光の間隙が視認できるよう設計されなければならない。

 調節は簡単な手段で可能でなければならない。リアサイトとフロントサイトの片方あるいは両方が交換可能でなければならない。一体で削り出されたフロントサイトは硬化処理されていなければならない。

25mでのサイトの調節範囲

●上下 ±20cm
●左右 ±25cm
●段階 2.5cm

 コントラストサイト(頑住吉注:黒字にホワイトのドット等が入ったサイトのことらしいです)が備えられねばならない。オプティカルサイト設備が望ましい。

 サイトの領域内の反射する面は許されない。

2.2.7 マガジン

 収容能力最低8発でなければならない。

 完璧な機能が保証されねばならない。これは特にマガジンリップ、フォーロワ、ケースの頑丈さが確実なものにする。

 マガジン内容可視でなければならない。

 マガジンキャッチは射手によって好都合に到達可能で、素早いマガジン交換を可能にしなければならない。マガジンキャッチはマガジン内にある弾薬のプライマーに触れてはならない(頑住吉注:FN、コルトの両M1900、ワルサーモデル1、イングラムなどのマガジンキャッチはプライマーに触れるといえば触れるかもしれませんが、現代の公用を想定したピストルにこういうタイプはないと思われますし、これで問題があったという話も聞いたことないです。リコイルショックで発火するとはちょっと考えられませんが、何か他の理由があるんでしょうか)。

2.2.8 さらなる機能

 薬莢射手が(特に実戦使用状況下での射撃の際に)妨げられないように投げ出されねばならない。

 スライドストップはマガジンが空の際に閉鎖機構を確実にストップし、保持し、解除できなければならない。

 さらにスライドストップを操作した際、閉鎖機構を後ろのポジションで保持しなければならない(頑住吉注:マガジンがなくてもマニュアルでスライドをオープンできなければならないということで、ワルサーPPシリーズ、H&K HK4、P7等はこれを満たさないことになります)。

 スライドストップは、外部から簡単に操作でき、その形状と取り付けにより射手を銃の操作および取り扱いの際妨げないような造形でなければならない。

3. その他の要求

3.1 分解可能性、クリーニング、手入れ

 銃は射手によって補助手段なしに主要部分に問題なく分解でき、再び組み立てられねばならない。

 銃とマガジンは、間違って、あるいは逆向きに組み込まれる可能性があり、この結果銃およびマガジンが機能不能となり、あるいは射手の安全がもはや保証されないような部品からなっていてはならない。

 クリーニングと手入れ簡単に実施できなければならない。

3.2 修理、交換可能性

 機能部品の簡単な入手可能性は簡単な製造によって保証されなければならない。

 修理のため全ての部品の事後加工なしでの交換可能性が保証されなければならない。この際可能な限り大きな経済性が得ようと務められねばならない。適する交換部品が提供されねばならない

 Deckungsmittelを持つ問題ない表面処理が要求される(頑住吉注:「Deckungsmittel」は辞書に載っていませんが、「カバー」+「手段」です)。

3.3 トレーニング可能性

 経済的見地から、トレーニング可能性(例えば小口径差込みシステムあるいは変換システム、もしくは練習システム)が、銃の同一の取り扱いと操作で用意されねばならない(頑住吉注:安価な.22LR弾薬を使用するための、ノーマルバレル内に差し込むライナー式、あるいはバレル自体を交換する方式の変換システムなどが必要だということです。「練習システム」に何が含まれるのかは不明確ですが、FX弾薬Bulliteのようなものでしょうか)。

3.4 技術的文書

 テストのために提出される銃とともに技術的文書、すなわち銃の説明と取り扱い規則、およびテストおよび修理の説明書が提出されねばならない。

4.新しい銃器の提出

4.1 照会部署 FEStPt

 テストのコード化警察指導アカデミー(頑住吉注:連絡先が明記されてますが省略します)における警察技術のための研究および開発部署(FEStT)が担当する。

4.2 要求の証明

 ある銃がこのTRに適合するという証明は、FEStPtによって承認されたテスト部署鑑定によってなされる。


 さすがドイツ人、ここまで細かく決めなきゃいかんのかと首を傾げたくなるほど詳細な規定です。ただし、本文中にも「テストには、個々の構造上の特徴がこの技術的指針の要求から逸脱しているピストルも提出することができる。」とあり、またDAオンリーの銃が実際に使われていることからも分かるように、これに厳密に適合しない銃は一切許されないというものではありません。ただこの規定により合った銃の方が選定上有利になるとは考えられ、USPシリーズのデザインがどんどん丸みを帯びていったり、左利き用スライドストップが追加されたり、グリップ後部が交換可能になったかと思えば側面も交換可能になった、といった変化はこうした要求に合わせたものと考えられますし、また少なくとも最近になってグロックがドイツ警察によって新たに採用されたという話は聞きません。