中国製ナイフピストル

 「GUN」誌1990年5月号に、床井雅美氏による中国製ナイフピストルに関するかなり詳細なレポートが掲載されました。あの時には2種類の機種が紹介され、一方は86式、一方は名称不明となっており、残念ながら試射できなかったため命中精度等に関するデータ、評価はありませんでした。今回はその86式の改良型と思われる91式に関するページの内容を紹介します。ただその前に、知識上の前提としてこちらのページを見てください。このページは中国製の小火器を扱ったページで、ポケットピストルからアンチマテリアルライフルや重機関銃まで紹介されていますが、その中に今回のテーマであるナイフ銃(中国語では「匕首槍」)が簡単に紹介されています。前からおおよそ1/3あたりです。

http://www.360doc.com/content/10/1112/20/1372306_68849225.shtml


82-2式5.6mmナイフ銃

我が軍は対テロ行動中、常に犯罪分子が人質をとり、あるいは混雑した群衆の中にいるという情況に遭遇する可能性がある。犯罪分子を捕らえ、その命を奪わず、さらに無辜の群衆に傷を負わせないことを考えなければならず、このため特殊武器は2つの条件を具備しなければならない。すなわち非致命だが、それでも威力がある、ということである。さらに軽便敏捷で、携帯に便利であり、テロ分子をこれでとっさに殺傷できるものでなければならない。国産の82-2式5.6mmナイフ銃はまさに上述の要求を満足させる設計なのである。

この銃は折りたたみ式であり、ナイフ使用時は親指で突起したネジの頭を押し下げるとナイフが自動的にオープンする。使用後は突起したネジの頭を押し、左手でナイフをたたみ、その後突起を放すとロックされる。折りたたみ式の設計は軽便安全であり、かつ携帯に便利であるし、しかも折りたたみ後であっても射撃することができる。この銃の設計は非常に巧妙であり、撃発、発射機構はナイフの柄の中に隠して収納されている。装弾数は3発、有効射程は5〜8mである。この銃は構造、設計が斬新で、性能が他にないものであり、全体レイアウトが合理的で、密封性能が良好で、使用が安全で信頼性が高いなどの長所を持つため、1984年にひとたび定型に至るや、軍、警察各方面に装備され、使用部門の好評を得た。主要性能指標は以下の通り。口径5.6mm、初速140m/s、銃全長265mm、折りたたみ時の長さ150mm、全体重量330g、使用するのは.22ショート弾薬で、5mの距離で8.5mm厚の松板を貫通できる(頑住吉注:初速は黒色火薬時代並み、貫通力もクロスボウで簡単に達成できる程度ですね)。82-2式ナイフ銃は国内初のナイフ銃であり、その独創的な設計と信頼できる使用効果により、我が国が優秀なナイフ銃の研究開発を継続するための堅実な基礎を固めた。

82-2式ナイフ銃は多くの長所を持っているが、その弾丸の威力は比較的小さく、警察用武器として銃を持たない犯罪分子に対して使うならまあまあであるが、軍用の武器として捕虜、銃を持った敵に対して使い、あるいはテロリストを射殺する時のためには力不足が目立った。銃器工作者が80年代末期に研究を開始し、3年にわたって重要問題に取り組み、1992年に国産91式7.62mm4本バレルナイフ銃が設計定型に至った。国産91式7.62mmナイフ銃は我が国の独自開発によるもので、実際に装備され、またパテントを獲得した製品でもある。これは我が軍の偵察兵や公安特別警察が配備する新世代武器で、特殊兵や特別勤務人員が捕虜を獲得する任務、あるいは捕虜とすることに失敗した情況下で迅速に敵を射殺するのに充分な能力が保証されている。この銃は口径7.62mmで、使用するのは64式軍用拳銃弾薬、有効射程は10mに向上し、この距離で120mm厚の松板を貫通できる。元々の82-2式ナイフ銃は3本のファイアリングピンがあったが、これが1本に変わり、構造が簡略化され、故障率が下がった。ピストルとナイフの機能の他に、ヤスリ、ハサミ、切る、瓶の蓋を開ける、缶詰めを開けるなどの機能があり、野戦生存能力が向上している。91式4本バレルナイフ銃には射程が長い、射弾の殺傷威力が大きい、精度が高い、故障率が低い、射撃安定性が高いなどの長所がある(頑住吉注:これらはあくまでも82-2式と比較して、ということであって、信頼性を除きノーマルな軍用拳銃には大きく劣るはずです)


 重複するのでデータは省きます。床井氏が名称不明とした銃が82-2式であり、氏は86式よりも遅れて出現したとしていますが、実際にはこれが初の中国製ナイフピストルのようです。年式の後の、通常つかない「-2」の意味は不明です。米軍の「A1」のような改良型の意味かとも思うんですが、例えばドラグノフコピーの79式に小改良を加えた機種には新しい年式、85式という名称が与えられています。

 次に本題である91式に関するページをご覧ください。

http://www.makewar.cn/wuqizhuangbei/QSB-91-shi-7.62mm.html


スパイの優れた武器、QSB91式ナイフ銃を詳細に紹介

ナイフ銃は特殊兵が敵の後方にある時、あるいは特殊任務の執行時に使用する一種の自衛武器であり、多くの小火器愛好者が我が国の独自研究開発、生産によるQSB91式7.62mm4本バレルナイフ銃(略称91式)に非常に興味を持ち、この銃を理解したいという多方面からの希望がある。ただし大多数の人が語るのは結局のところその姿かたちを見ることができた、音を聞くことができたということであって、「零距離」でこの武器に触る機会があった人は非常に少なく、さらにはこの銃を射撃した時の感じ方を体験として語ったり、全面的な使用方法を語ったりはできずにいる。以下において筆者は、自分の射撃時の感覚や使用テクニックを小火器愛好者各位と共に分かち合おうと思う。

構造「小さくても全てが備わっている」

この銃はナイフ、銃本体、サイト、撃発機、鞘等から成っている。グリップ内には4本のナイフ軸線に沿って対称に配列されたバレルが装備されている。バレルはチャンバーを兼ね、装弾数は4発で、使用されるのは64式7.62mm拳銃弾薬である。銃本体内には2つのエジェクターが装備され、射撃終了後4つの薬莢を同時に排出できる。

この銃はファイアリングピン転位式撃発方式を採用している。トリガーを引くと、ハンマーはハンマースプリングの作用下でファイアリングピンをファイアリングピン穴に合わせ、弾薬のプライマーを打撃し、プライマーは発射薬に点火し、発生した火薬ガスは弾頭を推し、弾頭はライフリングに沿って前進しバレルから飛び出す。トリガーを緩めると、トリガーはスプリングの作用下で頂片(頑住吉注:意味不明ですがファイアリングピンが設置してある部品でしょうか)を連れて一緒に元の位置に戻り、発射準備状態に入り、1回の発射サイクルが完成する。トリガーを1回引くごとに1発の弾丸が発射でき、銃本体内の4発を撃ち終わると、排莢して改めて装弾される。不発が生じた時は、トリガーを再び引けばすぐにチャンバーが代わり次の1発が発射できる。このため戦機を誤ることはない。この種の装弾、撃発構造はリボルバーのちょうど反対(リボルバーのファイアリングピンは動かずチャンバーが回転する、一方このナイフ銃のチャンバーは動かずファイアリングピンの位置が撃発ごとに変動する)であるが、信頼性は非常に良好である。この銃は初期に生産された82-2式ナイフ銃と比べると、構造はずっと簡略化され、元の3本のファイアリングピンは1本に減少し、一方バレルは4本となって射手にさらに多くの射撃機会を与えている(頑住吉注:この銃の撃発システムは要するにCOPなどに近いものですね)。

分解と装弾

一般に武器の分解はクリーニング、油を塗る、検査、故障の排除等のためであるが、このナイフ銃の分解はさらに装弾と排莢という作用を兼ねている。具体的には分解は4つの段階に分けられる。すなわち、(頑住吉注:以下説明される方法は装弾時のものではなくもっと細かく分解する際の方法のようです)

ナイフを抜き、クリーニングロッドを取り出す 左手で鞘を握り、右手で銃本体を握り、両手の親指と人差し指の間を相対させ、右手を右に向け、力を入れてナイフを抜き、その後鞘内からクリーニングロッドを取り出す。

ファイアリングブリーチ(頑住吉注:床井氏にならった名称)を回して抜く 左手で銃本体を握り(ロックピンの操作部分は上に向ける)、右手の親指でロックピンの操作部分を前に押し、他の指でファイアリングブリーチをひねる。

後部フタを外す 左手でファイアリングブリーチを握ってハンマースプリングを左に向け、右手でネジの頭をひねり、クリーニングロッドの刃部を使って3本の固定ネジを回し、その後後部フタを外す。

エジエクターを取り出す 左手で銃本体を握り、右手を後方に向けて2つのエジェクターを取り出す。

装弾時は、まず分解前の2段階の要領でファイアリングブリーチを取り外し、順次弾薬を4本のバレル内に挿入し、その後ファイアリングブリーチをひねって固定する。これで銃はすでに発射準備状態であり、もし発射しない時はフロントサイトそばのセーフティをかけることができる。

射撃方法

ナイフ銃が比較的小さいので、銃を構える時は一般に片手でしか行えない。右手の掌の中心を上に向けてナイフの柄を握り、人差し指はトリガーに、親指は銃本体とナイフの接合部の突起に当て、他の指はナイフの柄を握る。指先は上に向けすぎてはならず、これによりフロント、リアサイトによる照準に影響させないことを原則とする。右手を挙げ、銃を構えるときの力を適当としなければならない。この銃は外部に何ら動く部品がないので、後座力はやや大きく感じる。両手で銃を構えてもよく、この場合左手は右手を握り、銃の保持をさらに安定、強固にさせるが、決して銃本体を握ってはいけない。これにより余った指や指先が銃口にかかり、傷害を引き起こすことを避ける。

91式ナイフ銃とロシアが生産したNRSナイフ銃(頑住吉注: http://russian-weapons.com/2008/09/nrs-2/ )を比較すると、構造はちょうど反対で、NRSのバレルは後方に向かって開口しており、射撃時に刃先が射手に向く。一方91式の刃先は敵に向く。個人的に91式の設計の方がやや合理的であると考える。特に敵と近距離でのナイフ格闘で相対した時、より多くの射撃機会がある。さらに刃先を自分に向けて射撃を行うことは、人の心理上一種の不安全感を生み、このため射撃の正確度に影響する。

照準。ナイフ銃の照準は普通の銃とは異なる。これは主に4本のバレルが異なる位置にあり、一方サイトは1つしかないためである。この4本のバレルは2つのグループに分けることができる。すなわち1本目、2本目が第1グループ、3本目、4本目が第2グループである(フロントサイトの下にあるのが第1のバレル、以下反時計方向に第2、3、4のバレル)。筆者は10mの距離において試射を行った。第1グループのバレルを使って中央を照準し射撃した際、2発とも左上に逸れた。着弾点は互いに80mm離れ、平均偏差量は高低が250mm、左右が200mmだった。一方第2グループの散布の中心はちょうど10点圏の中央だった。このため、照準時、前の2発は6点圏の右下、その後の2発は中央を照準して射撃を進行させなければならない。当然もし射撃距離がもっと近ければ、前の2本のバレルの偏差量は縮小する可能性がある(頑住吉注:こうした形式の銃の場合、第1のバレルから射撃を開始したとしても、途中で射撃を止めると、次の射撃の際には途中のバレルから射撃が始まることになり、次にどのグループのバレルから射撃されるのか分かりにくくなるはずです。あるいはこの銃の場合、分解して再装填すると次には必ず第1のバレルから射撃が始まるようリセットされるような機能があるんでしょうか)。

この銃の撃発に要するトリガーストロークは比較的長く、約20mmである。その他の銃と比較した場合、このストロークはずっと長い。たぶん設計者は主に安全という角度から考慮したしたのだろう。もしその他の銃と同じだと、ごく軽くトリガーを引けばすぐに撃発できることになり、これは装弾しての携行に不利であろう。この他、この銃のトリガープルは44.1ニュートンであり、一般的なハンドガンより少し大きい。このため射撃時は我慢強さが必要で、後方に向けてなるべくトリガーをまっすぐ引いて発射しなければならない。もし射撃中に不発が生じたら、すぐにもう一度トリガーを引いて別の1発を発射し、チャンバー内にある弾薬を撃ちつくすまで射撃できる。

機能アピール

太行山の下の繁茂したジャングルの中で、某部特殊偵察分隊がまさに敵を襲撃し捕虜を獲得する科目の演習を進めている。数名の巧妙に偽装した我が軍の偵察兵が音も立てずに敵軍陣地に接近し、素早く潜入して身を隠したことだけが見える。「敵軍」役の完全武装した一隊の士兵が通過する際、後方にいる数名の「敵兵」が、我が軍の隠密偵察兵にナイフによって突然息の根を止められた。前方の「敵兵」が後方の声を聞いてまさに身をひるがえそうとした時、我が偵察兵のナイフから飛び出した銃弾が命中する。我が偵察兵の手腕は何故こうも非凡なのか。これにはまさに91式ナイフ銃が鍵となる作用を発揮したからである。

QSB91式7.62mm4本バレルナイフ銃は近距離内で敵を殲滅する新型自衛武器であり、主に特殊兵と公安特別警察に装備される。捕虜を獲得し、また敵との格闘中に、より良好に隠密行動の意図が達成でき、突然の火力で敵を打ち倒す。これは「穏形」武器の一種であり、ナイフでもありピストルでもある。ナイフを使って敵を殺傷することもできるし、銃弾を発射して近距離内の生体目標を殺傷することもでき、不意を突き、意表を突く効果を達成する。特に我が方の行動企図を暴露することが許されない敵制圧時、あるいは敵と格闘しているが敵を殺すことは許されない時、あるいは敵が逃走している時や1人で多数を相手しなければならない時、いずれの場合も迅速に銃弾を発射して敵を制圧あるいは殲滅することができる。

QSB91式ナイフ銃の主要性能

91式ナイフ銃は1992年に設計定型に至った。この銃は射程が長い、発射される弾丸の殺傷威力が大きい、精度が高い、故障率が低い、射撃安定性が良好であるなどの長所がある。その重量は軽く、構造は簡単で、用途が広く、使用が便利で、ノコギリ、ヤスリ、ハサミ、刺、カン切り、栓抜きなど多種の機能を兼ね備え、劣悪な環境下で比較的良好に障害を排除でき、野戦生存能力を増強させる。ナイフと鞘にあるハサミ支座を組み合わせれば3mm以下のスチールワイヤーを切断でき、その背部のノコヤスリと平ヤスリはベークライト、鋼鉄等比較的硬い物体に対しノコギリ、ヤスリの役割を果たす。この銃に使用するのは64式7.62mm拳銃弾薬であり、10mの距離で120mm厚の赤松板を貫通できる。

QSB91式ナイフ銃主要諸元
口径(mm) 7.62mm
全体重量(kg) 4発装弾、鞘含む 0.69
未装弾、鞘含まず 0.52
鞘の重量(kg) 0.14
全長(mm) 265
ナイフ刃の長さ(mm) 140
銃身長(4本、mm) 86.5
照準長(mm) 65
初速(m/s) 300〜320
有効射程(m) 10
装弾数(発) 4
トリガープル(ニュートン) 44.1
全銃寿命(発) 2000

(頑住吉注:「全銃寿命」は判読できないので最初に紹介したページの記述によりました)


 ちょっと分かりにくい言い回し、検索しても不明な専門用語が多く、細部には不正確な部分が多いと思いますが、重要な部分に大きな間違いはないと思います。

 床井氏が紹介した86式は.22LR4連発で、刃はダガーナイフ状の両刃、刃の側面の弾丸の通る部分にはクリアランスを確保するためにミゾが彫ってあり、鞘は他に機能のない革製、後部のファイアリングブリーチはねじ込みになっていました。今回の91式は86式とよく似ていますが、64式拳銃弾薬4連発、刃はバヨネット状の片刃、刃にミゾはなく、鞘はワイヤーカッター機能のあるスチール製、ファイアリングブリーチを固定するロックボタン状のものが備えられるなど、かなりの改良が加えられています。ちなみに64式拳銃弾薬は、「スイス銃器マガジン」による解説によれば、セミリムドの.32ACPと異なりリムレスで、約20%強装であるとされます。最初に紹介したページには82-2式と91式に関する記述はあるものの、86式に関する記述はありません(ノリンコによる広告写真らしいものには3機種が並んで写っているんですが)。私の推測では「まず.22ショート3連発の82-2式が開発され、装備されたが非力である等の批判が出て.22LR4連発の86式が開発された。しかし威力の向上が充分でないとされて64式拳銃弾薬4連発の92式が開発され、装備された。86式は国内では装備されなかったが、海外では64式弾薬がほとんど入手不可能であるため輸出用にある程度の数が生産された。」ということではないかと思うのですがどうでしょうか。

 ロシアのNRSとの比較がなされていますが、確かに戦闘力では4連発で、刃先の方向に弾丸が発射できるためナイフ、弾丸による攻撃が瞬時に選択できる91式の方が文句なく上のはずです。しかしNRSにはカートリッジ内消音システムによってほとんど無音で発射できるという大きな長所があり、どちらが総合的に勝っているかは難しい問題でしょう。なお、バレル2本ずつのグループで着弾点が大きく異なるというのは工作精度に問題があるとしか考えられず、あるいは銃ごとのバラツキが大きいのかも知れません。ただこの銃を使用するのはほとんど至近距離でしょうからあまり問題にはならないのではないでしょうか。

 さて、今回の内容は国内ではほとんど知られていなかった情報であるとは思いますが、92式は既知の86式の改良型と考えられ、さほどびっくりするようなものではありませんでした。しかし今回調べていて驚くべき中国製特殊兵器を発見しました。最初に紹介したページをもう一度見てください。3本のナイフ銃が並んだ画像の下に、82-2式とよく似たナイフ銃の画像があります。これは82-2式の発展型で、何と.50口径の麻酔弾を発射するナイフ銃なのです。.22口径から.50口径へとは、ワイルド7の飛葉ちゃんもびっくりです。次回はこの、ナイフピストルならぬ「ナイフ麻酔銃」に関し紹介する予定です。











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