SSU特殊消音水陸両用ユニット

 ネット上に「DWJ」2007年11月号に掲載された非常に興味深い特殊弾薬に関する記事がありました。

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トップシークレット

おそらくジェームス ボンド映画の天才発明者Qでも、SSUの名称を持つこの秘密の、決して量産に至ることがなかったユーゴスラビアの水中弾薬よりほとんどベターな発明はできなかっただろう。DWJだけに、5つしか存在しないプロトタイプのうち2つが提示された。これはLinz(頑住吉注:オーストリアの都市名)の設計事務所EBWが開発した。

 音もなくユーゴスラビア軍戦闘スイマーは敵オブジェクトに接近する。彼はすでに敵戦闘スイマー1人を水中で、彼のSSUを使って排除している。彼は同様に岸の歩哨1人をSSUからの無音の1発によって片付ける。彼は敵の射撃管制所を爆破してしまうと、同じ銃を使って照明弾を発射する。これは待機している上陸ボートへの攻撃の合図である。

 そのいくつかの使用目的により、むしろジェームス ボンド映画由来の発明品のように聞こえるSSUは、銃器技術上の現実である。全部で5つのプロトタイプしか存在しないけれども、これらは発射および実戦使用能力があり、水中でも水上でも機能する考え抜かれたコンセプトを印象的に証明する。‥‥そして実際上無音で。

前史

 1980年代末、ユーゴスラビア海軍はユニバーサルに使用できる水陸両用(頑住吉注:この語は両生類も指し、要するにフロッグメンのような部隊を指しています)特殊部隊用の火器を求めていた。このためそのような火器に対する大まかな要求項目の概略もすでにできていた。すなわちその銃は水中そして水上で使用でき、無音で、厚い潜水グローブをしていても操作可能でなければならなかった。西側では依然として秘密事項にランク付けされているヘッケラー&コックによるピストーレP11が水陸両用特殊部隊においてかなりの普及を見せている一方(頑住吉注:「DWJ」の他の号に掲載された記事には、「イタリアがP11を海軍の戦闘ダイバー集団である「Incursori」で使用している。専門家はイタリアの第9連隊「Col Moschin」および「Grupo di Intervento Speciale」もP11を使用していると推測している。さらにこれとならんで他の国々、すなわちイギリスのSBSおよびSAS、アメリカのデルタフォースおよびSEALs、イスラエルの「Flotilla 13」、デンマークのフロッグメン兵団、オランダのBBE、フランスの「Groupe d’ Intervention Gendamerie Nationale」が使用していると推測される。」とあり、また書籍「H&K」には「ドイツではP11が遠距離偵察隊、戦闘ダイバー、GSG9に、そして国際的にはイギリス、デンマーク、ノルウェー、フランス、オランダ、そして当然アメリカとイタリアで使用されていることが以前から知られている。」とありました)、水中ピストルは東ブロック内では「不足がちな商品」だった。ソ連のSPP-1の普及はむしろわずかだった。

 ユーゴスラビアは銃器技術上すでに常に好んで東ブロックから独自路線を取っており、そしてこのため戦闘スイマーに適した銃の開発に際しても我が道を行った。ユーゴスラビア国内における張り合いと、開発を急速に、安価に、そして特に秘密で行うべきであったことが理由で、海軍秘密情報機関からの発注は銃器分野に深い経験を持つオーストリアのLinz所在の設計事務所EBWに与えられた。

 これに関し、ユーゴスラビア戦争前にはこの種の国境を越えた開発プロジェクトが全く普通だったということに留意すべきである。

 新たに開発すべき銃器に向けた要求項目リストは次のようなものだったようだ。

●水上、水中で実戦使用可
●減音されている
●サイズが小さい
●40m/5バールまで水密
●実戦使用射程水上で20m
●実戦使用射程水中で10m
●潜水グローブを使って操作可能
●潜水ボンベを貫通可能

 これらの基準により、開発のハードルは高かった。EBWスタッフが提供し、前述の全ての基準を満たした解決策は実に天才的であると同時に単純なものだった。つまりそれは新しい銃器を開発するのではなく、「単に」ある弾薬を開発するというものだった。これは既存の銃から発射でき、そしてそれにもかかわらず要求項目リスト内で挙げられた全ての基準を満たすものだった。

 海で活動する部隊は全て信号拳銃を持っているので、これをベースの銃として使うことはすぐに思いついた。このため、このSSU(Self Supressing Unit)はその外形が4口径(頑住吉注:何故こう呼ばれるのかは不明ですが、ドイツでも伝統的に使われている口径26.5mmのことです)の信号弾薬に非常に似ている。その薬莢先端部から突き出ている矢だけが、これがいくらか違うものであるということを漏らしている。

 このコンセプトは提示された際、ユーゴスラビアの海軍秘密情報機関に大いに賛成された。このためスタッフは1989年初めには、機能するプロトタイプの製作というプロジェクトの第2局面に進んだ。

構造

 寸法が同一であることによりSSUが外観上ノーマルな4口径信号弾薬と非常に似て見えるにしても、それにより類似性は使い果たされる(頑住吉注:外観以外は全部違う、ということです)。使用される矢状弾に約310m/sという必要な速度を与えるため、この弾薬は特別な構造を必要とした。ベースの銃は最大110バール(!)という圧力しか許さないからである(頑住吉注:「マズルをめぐる弾道学」の項目によれば、近代的かつ実戦に使用できる弾薬の中では最も低圧な部類に属する.45ACPの、最も圧力が低下するマズル部での圧力が約110バールであるとされています。要するに低圧の信号弾しか発射しない信号拳銃にはまともな弾薬の発射に耐える強度は備わっていない、ということです)。

 ここで気付くのは、弾丸を(頑住吉注:実際の初速である)310m/sを越えて加速することも技術的に簡単に可能だっただろうことだ。しかしそうした場合水上ではもはや減音効果がなかっただろう。というのは、弾丸の音は2つの構成要素からなっている。1つは弾丸により音速の壁が破られることに起因する超音速音であり、もう1つは外に出る高温の燃焼ガスの騒音であるガス音である。人間の耳には両構成要素が1つの騒音として知覚される。ガス音がサイレンサーによって、あるいは他の構造的術策によって減音できる一方、超音速音を減音することは不可能である。このため減音されるべき弾薬は必然的に、常に音速よりも遅く飛ばねばならない。

 SSUは高・低圧バレル原理に従って作られている。この原理は第二次大戦中にドイツで、できるだけ低くさほどではないガス圧でできる限り速い初速を達成するために開発された。この場合火薬はいわゆる高圧部分の中で点火される。高圧部分はバレル(低圧部分)と1つの、あるいは多数の寸法の小さい開口部(ノズルプレート)のみによって結ばれている。使用されるNC火薬(頑住吉注:ニトロセルロース火薬、すなわち通常の無煙火薬)により、SSUの場合高圧部分の中では1200バールまでの圧力が生じるが、高圧部分と4つのノズルで結ばれている低圧部分では何百バールもない圧にしかならない。これにより矢状弾は均一に、「ゆっくりと」加速される。

 高・低圧バレル技術は第二次大戦後、ほとんど過去のものとなっていた。これが近年40mmグレネードの領域でルネッサンスを祝うことができるまでは。このためこの技術の使用はこの場合においてエキゾチックではなく、40mmグレネードの場合成功裏に使用されている原理の、筋の通った転用に過ぎなかった。

 高圧チャンバーは直径9mm、長さ10mmであり、これにより容量は.38スペシャル薬莢の領域である。ここには一般に流通しているNC火薬がロードされているが、点火方式は非常に変わっている。つまり火薬が全くノーマルに、プライマーを用いて後方から点火された場合、膜が破られた後でまだ点火されていない火薬粒が圧によってノズルプレートの開口部に押し込まれ、これを塞いでしまうという危険がある。これによりさらなる圧力上昇がコントロール不能となり、劣った命中精度が結果として現われるかもしれない。このためSSUの発射薬は前から点火される。これを達成するため、一般に流通しているマグナムプライマーの炎は、同時に点火釣鐘(頑住吉注:ドイツ語からの直訳では「金床」とも呼ばれる、プライマー内の点火薬が後方から打撃されて叩きつけられる前方の受けのことです)としても役立つ炎パイプを用いてノズルプレートすぐ手前まで伝達される。その後点火炎は逆戻りし、こうして発射薬は前から燃焼させられることになる。それにもかかわらずこの時上昇したガス圧は、4つのノズルを通って前方に漏れ出すことはできない。この手前にまだ厚さ0.6mmのプラスチック膜があるからである。このため高圧チャンバー内できれいな燃焼のため充分な圧力が上昇することが保証される。これが達成されて初めて、膜が破れてガス圧は一気に低圧チャンバー内に流れ込み、矢を加速する。

 一般に流通しているマグナムプライマーは防水ではないため、後方からの水の弾薬内部への浸入を防ぐために風変わりな解決策が必要となった。このためEBWスタッフは伝達ファイアリングピンを設計した。これは通常なら直接プライマーを打撃するハンマーの運動エネルギーを、弾薬内部でさらにプライマーへと伝達することだけに役立つ。このため、この伝達ファイアリングピンは後方がやはりプライマーのように見え、前部中央は尖っている。ここが本来のプライマーに当たる。この伝達ファイアリングピンはさらに1個のOリングによって完成される。これは伝達ファイアリングピンと誘導ケースの間からの水の浸入を防ぐ。

 発射の際、強く圧搾された大量のガスは膜が破れた後にノズルプレートを通って低圧部分内に入る。低圧部分は長さ110mm、直径20mmである。ノーマルな高・低圧バレルの場合、低圧部分は同時にバレルでもあるが、SSUの場合太さ8.7mmの矢が使われ、この領域は(頑住吉注:弾の直径よりも)ずっと広い。

 これは特に、得ようと努められた弾薬の減音性と関係がある。EBWのアイデアは、熱い、膨張した、そしてこれにより音の大きいガスをすぐに周囲へ漏らすことを決してさせず、弾薬内部に収容して閉じ込めるというものだった。

 このためにはいわゆる加速および誘導ピストンが役立つ。このピストンはノズルプレートのすぐ前に位置し、やはり20mmというその直径のため低圧部分を閉塞する。これによりピストンはノズルプレートから漏出した熱い燃焼ガスによって前方に駆動される。このピストンの前面中央には発射される矢の尾部のための受け入れ部が設けられている。この結果矢はきちんと誘導されて加速される。矢の前部における誘導は弾薬先端の孔によって行われる。この前部では、矢はOリングによって誘導され、これは同時に水の低圧部分への侵入を防いでいる。

 ピストンがその前部のデッドポイントに達した際(これは内部で低圧部分の前端に衝突することを意味する)その特別な造形が同時に、駆動ガスが「マズル」から出られないようにもする。そしてそこでは熱いガスが出られず、騒音も生じ得ない。これによりSSUは減音に向けた要求にもかなっている。

 しかしここで注意すべきなのは、撮影されたピストンは秘密保持上の理由から量産用のピストンとは違うことである。量産型のピストンはDWJに提示されたが、EBWの要請で撮影はされなかった。これは閉じ込められた熱いガスがその後複数時間にわたってピストンにある1つの特殊な開口部を通って削減されることを意味している。しかしこれは耳を直接SSUにつけた時にしか知覚できない。このため実戦から帰った後、弾薬を適する工具を使って分解し、新たに装填することもできる。

弾丸

 空気に対してはるかに高い水の密度は水中銃器用弾丸の構造に大きな影響を与えている。ノーマルな(頑住吉注:ハンドガンはおろか)ロングアームの弾丸でさえ、水によって5m未満のうちに完全にブレーキがかけられてしまう。この理由はノーマルな弾丸の比較的低い横断面負荷にある。このため水中銃器用の弾丸はできるかぎり長細く、つまり矢状に設計される。SSUの場合この矢は直径8.7mm、全長122mmである。矢には2つのタイプがあり、これらはシャフト部の肉厚のみ異なる。タイプ1は硬化処理されたスチール製先端部の後ろに肉厚0.5mmしかないアルミニウムシャフトを持つ。これに対しタイプ2は肉厚1.75mmである。このため弾丸重量はタイプ1が12g、タイプ2が21gである。これにより、ここから生じる横断面負荷の数値はタイプ2の場合357マグナム弾の倍よりも高くなる。

 だが矢形状は水中でさらなるメリットを提供する。SSUはバレルを持たないので、弾丸は安定のためのライフリング回転を与えられることもできない。しかし重いスチール製先端部と軽量なアルミニウムシャフトにより、これは必要ないとも言える(頑住吉注:水や空気の抵抗で先が先になって進むということです。もし単なる鉄のシャフトを発射すれば比較的近距離で横転弾となり、抵抗の増大で射程が短くなってしまうはずです)。矢原理に従った安定は、ショットガン用スラッグ弾の場合Wilhelm Brennkeのおかげで1910年以後成功裏に使用されたように、水中でも卓越した機能を示す。この場合達成される命中精度は(次段落参照)この銃の使用目的(近接戦闘)には充分以上である。

 弾丸頭部に関し、尖ったスチール製先端部の使用には意味がある。一方においては軍用として使われる弾丸はいくつかの「人道的戦争遂行」上のいくつかの法規と結び付けられている。これにより拡張する、またホローポイント弾は当然に除外される。他方において頑丈なスチール製の潜水ボンベを貫通しなければならないという事情もある。ゆえにこの場合硬化処理されたスチール製先端部の使用はベストの解決策である。そういうわけでテストの枠内で、単に硬化処理された弓スポーツ由来の先端部のテストも実施された。

実用テスト


 最初の機能するプロトタイプ5つが作られた後、実地でこれが要求項目リストの内容にかなっているかどうかの証明が課題となった。もっとも重要なポイントの1つは水中弾薬の場合侵入する水に対する水密性である。これは弾薬をすぐさま使用不能とするからである(頑住吉注:プライマーが湿って不発になるのももちろん困りますが、「低圧部分」内に圧縮されない水が入ってしまったのに気付かず発射したら、最悪ユニットごとバレルが破裂して射手を殺傷するおそれがあります)。

 このため組み込まれたOリングによる弾薬の水密が正しい寸法決めであるか、また水密が維持されるかを検査することが最初の課題となった。Linzは複数の深い湖を持つSalzkammergutから遠く離れていないので、EBW社スタッフは実践主義的にここへ出向き、ベストの旅行者のやり方で1艘の足踏み式ボートを借りた。そして湖の真ん中に出て装填していない弾薬体をロープを使ってまず20mの深さに沈め、そこで30分間負荷をかけた。引き上げ、外部の水を切った後に弾薬体は分解され、水の浸入がチェックされた。

 約8時間(「我々は一日中湖の上で過ごし、絶え間ない揺れのために全く気分が悪くなっていた。大型の定期船が半時間ごとに親切にも毎回かなり我々の横ぎりぎりを通り過ぎてくれたからである。このため甲板上の旅行者たちは笑っていた。」)(頑住吉注:カッコがついており、DWJが取材したEBWスタッフの話をそのまま引用した、ということのようです。どうでもいいですが定期船が同じコースをたどるのは当たり前で、自分たちが避けりゃいいのではと思いますが)の時間と強い直射日光に耐えた後、水密原理が正しく機能したことが明らかになった。70mの深さに沈めたときでさえ(つまり要求された圧より60パーセントの超過圧)、まだ水の浸入は起こっていなかったからである。(「我々は70mであっさり断念した。どっちみち40mは越えていたからだ。困ったことにその上、全く簡単に言って錨につけるロープが70mまでしかなかったのだ」)

 次の段階としては当然、実験室内における射撃テストが行われた。頑丈な発射装置装置から発射された結果、弾薬体は正しい寸法で作られていることが示された。弾薬体は非常に頑丈なので、SSU弾薬はバレルで全く包まなくても発射できるはずだ。圧力が最高1200バールを越えるにもかかわらずである。口径26.5mmのノーマルな信号拳銃は110バールまでしか許さないという考えに、官僚たちは額に汗をにじませたようだが、実際にはSSUの頑丈な構造により無意味だった。

 この実験と同時に、当然SSUの騒音上の特性に関する実験も行われた。これに関しては、一方においてこの銃は音が小さくエアライフルのレベルであること、そして他方においてはこの発射騒音は可動式で気密機能のあるピストンを持つ構造により発射音とは知覚されないことが分かった。ハンマーダウンだけがそのように知覚され、この音は主観的には発射音よりも大きい。

 さらなる重要なテストには弾丸の貫通力が該当する。これに関しては普通に流通しているスチール製潜水用ボンベが射撃された。プロトタイプ局面では比較的垂直に近い命中角度のみが試されたが、全てのケースでボンベは貫通された(頑住吉注:この流れからしてボンベの試射は水中で行われたのではないと思われます。抵抗の大きい水中で10m離れても貫通するかどうかは疑問です)。

 厚いグローブをつけての操作性チェックがまだ比較的簡単なテストに属した一方、命中精度テストはより高い要求を課した。レストマシンに固定した状態のSSUの命中精度をチェックすることは比較的簡単に可能だが、結局のところLinzの開発者たちにとっては手から撃った銃でいかにあたるかを知ることが重要だったのである。しかしここには信号拳銃はサイトを持たないという問題があった。このため命中精度テストだけのために単純なサイト設備が設計された。これにより、SSUは課された命中精度上の要求を問題なく満たすことが検証できた。

 射撃フィーリングは極度に風変わりな描写となる。SSUはまず最初に(信号拳銃としては)中程度のリコイルショックを示すが、可動式のピストンが前端部に衝突した際、明瞭に感じられる反対モーメントが生じるのだ。しかしこの銃は単発銃であるため、この反対モーメントは結局意味を持たない。

終わり、そして展望

 1991年初め、ユーゴスラビアが内戦に突入するという結果になった時、SSUの開発はEBWによっても、海軍秘密情報機関によっても即時中止されたようだ。この時点で5つの発射機能のある試作品が存在した。そうこうするうちに、このうち3つはカッタウェイモデルに加工された。

 技術的にはSSUの開発は終了していると見られ、この弾薬はすぐに量産に移行できると思われる。変更が行われるのは使用されるマテリアルに関してだけである。量産に適するようにする際には高圧チャンバー(特殊鋼)を除き、塩水からより良く保護されるため全てのスチールパーツがアルミニウムおよびプラスチックパーツに換えられるためである。

 しかしこのインターナショナルな開発作業は目下別の方向に走っている。海洋特殊部隊および水中作戦はいわゆる不均衡な紛争では実際上何の役割も演じないからである。(頑住吉注:ちょっと分かりにくいんですが、「冷戦時代とは違い、現在先進諸国にとっては自分たちと同等な装備や軍事力を持たないテロリストに対抗することがメインテーマになっており、敵が水中から攻撃してくることはまずないので、いつでも量産に移せるSSUの需要はない」ということのようです)。

 このため銃器技術上天才的な、技術的現実性と適性が証明されているアイデアであるSSUは、それにもかかわらず決して量産されることはないだろう。しかしひょっとするとジェームズ ボンド映画の中で使われるかもしれない。銃器マイスターQはSSUを大いに気に入るだろうからである。

(頑住吉注:続いてキャプションの内容を示します。画像は元のページで確認してください。なお、左から右、上から下の順とします)

P55

家族関係 左は短い信号弾薬、白色で単一の星(頑住吉注:照明弾)を含む。落下傘付きの白色で単一の星を含む右の長い弾薬は、SSUとほとんど同じ長さである。

ハーフカット 弾薬全体の断面。この弾薬(頑住吉注:の各構成要素)がどのように後方からロードされ、完成されるかがよく分かる。考え抜かれた構造のおかげで発射済み弾薬はリロードすらできる。

複雑 高圧部分および伝達ファイアリングピンの構造のディテール。

P56

分解
 矢、ピストン、高圧部分、ケース/低圧部分という主要構成要素に分解されたSSU弾薬。

紛らわしい 伝達ファイアリングピンは後方からはノーマルなプライマーのように見える。

ディテール 伝達ファイアリングピン。後部は真鍮製、前部は特殊鋼製ピン。

発射済み 発射済みプライマーともども炎パイプを後方から見たところ。

精密 低圧部分後端には、同時に矢後部のガイドとしても役立つピストンがある。

P57

説得力ある 左は重いタイプ2の矢でシャフト部の肉厚1.75mm。右は軽いタイプ1の矢で肉厚は0.5mmしかない。このため弾丸重量は前者21g、後者12gである。

水密 低圧部分のケースはマッシブな肉厚を持つ。マズル領域のOリングは潜水深度70mまで水の浸入を防ぐ。

フル(頑住吉注:に長さを使用?) マズルから突き出す矢の先端部は同時にローディングインジケーターとして役立つ。このため戦闘スイマー(好んで暗中で作戦行動する)は、手にしているのが発射機能がある弾薬か、発射済みかチェックできる。

マッシブ SSU弾薬の最初の負荷テスト用発射装置。

P58

穴の開けられた 炎パイプを持つ高圧チャンバー。炎パイプはプライマーの炎を発射薬の前にもたらし、そこで4つの開口によって均等に分配する。カッタウェイではノズルもよく分かる。

個別部品 SSU弾薬の高圧チャンバーおよびそこに組み込まれる炎パイプ、そして膜。ノーマルなニトロセルロース火薬がロードされる。

比較 写真のうち左は真のプライマーを持つ真の信号弾薬を撮影したもの。これに対し右はLinzのEBWによるSSU弾薬。


 冒頭の仮想使用状況は、水中でも水上でもほとんど無音で発射でき、同じ銃から信号弾も発射できるというこの特殊弾薬のメリットを非常にうまく表現しています。私は例によって、量産に至らなかったこの兵器の「どこがダメだったのか」という視点で読み進めましたが、意外にもダメな点は出てきませんでした。お読みの通り、発注国の政治状況で中止され、国際的な軍事状況から需要がないから生産されていないだけで、兵器としては完成している、ということです。

 「バレル」内に発射ガスを閉じ込めるこの弾薬の消音システムはすでに引用した記事で私が想像したP11の発射システムとよく似ており、P11との比較に関する言及があることを期待したのですが、残念ながらありませんでした。

 この弾薬は「高・低圧理論」を応用したものです。これに関してはあまり分かりやすい説明を読んだことがないんですが、私の理解によれば次のようなものです。事情によりあまりバレル肉厚が取れず、強度が確保できない場合、発射薬を多量に使用することはできません。しかし少量の発射薬では高い初速を得ることが難しくなります。こんな場合、通常のように弾丸(この場合はピストンですが)の後方に直接発射薬を置いて点火するのではなく、密封された容器(高圧チャンバー)内に発射薬を入れて点火し、圧力が充分上がったところで容器を破裂させたりこの場合のように膜を破ったりして一気に弾丸に作用させると、比較的高い初速が得られる、ということです。この弾薬の場合高圧チャンバーと弾丸の間に「ノズルプレート」があり、後方から押された未燃焼の火薬が開口をふさいだりふさがなかったりということが起きると初速にばらつきが出て命中精度が低下するので、「炎パイプ」でプライマーの炎を発射薬の前に導くという面白い工夫も盛り込まれています。

 プライマーが通常のように弾薬後端に露出しておらず、Oリングが付属した「伝達ファイアリングピン」によって点火される手法は、市販のプライマーが防水でないためとされていますが、水中弾薬と言っても使用前水中にそんなに長時間留まることもないでしょうし、単に防水のためなら通常のようにプライマー周囲にラッカーを塗ることでも水の浸入は防げるのではないかと思われます。この構造は簡単にリロードするためと、またおそらく長時間持続する内部の高圧のためにプライマーが後方に押し出されてしまうことを防ぐためではないでしょうか。

 単発ですから5連発のH&K P11、4連発のSPP-1とまともに撃ち合ったら不利なのは明らかですが、そもそも敵がそんなものを持っている可能性は低く、信号拳銃を別に持つ必要がないなど、それらにはないメリットもあることは注目に値します。この弾薬の規格はドイツ軍が使用している信号弾薬と同一で、弾薬本体の頑丈さからバレルなしでも発射できるとされているので、まず間違いなくH&K P2A1信号拳銃(スイスでも同じ銃が使用されています)でも発射できるはずです。また必要ならば対人用、対装甲車輌用榴弾も同一の銃から発射でき、それこそ007チックな秘密兵器となります。またこの原理は40mmグレネードにも応用できますね。多数のフレシットをほとんど無音で発射できるランチャーは、場合によっては強力な武器になるのではないでしょうか。

 ちなみに記事の表紙に登場するだけで機種名すら明らかにされていない信号拳銃はユーゴスラビア製でしょうか。記事内容からして重要ではないので詳しく触れられなかったのは当然でしょうが、気になります。









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