2.9.1.3 押し込み可能な閉鎖機構ホルダー(誘導レール)による結合

 スポーツピストルのスター モデルF、スタンダードピストルのZiegenhahn モデルW、H&KのモデルPSP(頑住吉注:後のP7)は、フレームに取り付けられ、押し込むことができる誘導レールを使っている。これにより閉鎖機構はバレル後方で上に持ち上げて前方に向け銃から取り去ることができる。図2.9.3はZiegenhahnピストルの部分断面図を示している。(1)は銃のフレーム、(2)は閉鎖機構であり、閉鎖機構は1本のスプリングによってスライド体(3)を介して閉鎖位置に保持されている。閉鎖機構の誘導は前部ではスプリングのテンションをかけてフレームに収納されている閉鎖機構ホルダー(6)および(7)によってなされる。そのレールはスライド側壁内面にフライス加工された縦方向のノッチ(4)内をグリップしている(割線AAを見よ 頑住吉注:この図ではまるでノッチがフレームに切られているように見えますが、スライドのノッチのみを表現したものです)。その上このスライド体と前部に位置するスライド側壁の結合部はスリット内で誘導される。このスリットはフレーム内バレル(8)下にボア軸と平行にある。もう一つの誘導は突起(5)によってなされる。この突起はフレーム後部のノッチ内を走る(割線CCを見よ)。このノッチは1箇所において突起の幅で上に向けて開放されており、この結果閉鎖機構は適合する位置において閉鎖機構ホルダー(6)および(7)が押し込まれた際に上に持ち上げることができる。

 この押し込み可能な閉鎖機構ホルダーによるスライド保持の原理はすでに1908年にはワルサーのピストーレ モデル1において存在した。




 この方法は非常に分かりやすいと思います。前部の誘導はボタンを左右から押し込むとレールが内側に引っ込んで機能しなくなりますが、ボタンを押さない限りいつでも機能しています。後部の誘導は何の操作をしなくても常に1箇所で途切れています。だから後部の誘導が途切れた1箇所でボタンを押せば閉鎖機構が上に外れるわけです。

 ただ、ボタンを押さなくとも閉鎖機構は1箇所において後部が誘導されない状態になり、ここで強引に持ち上げればいくぶん浮くはずで、個人的にはあまり気持ちよくない方法です。まあこれは精度や剛性の低いガレージキットを日常扱っているからそう思うだけで、実銃、それも質の良いスチールで精密に作られた競技銃では実用上何の問題もないんでしょうが。

 これとは形式が異なりますが、同様にレールを内側に押し込んで機能を失わせることによる分解はオルトギースピストルでも使われており、これに関しては二式拳銃の「実銃について」で説明しています。これに似ているのがH&KのP7シリーズです。この両者においては前部の誘導はバレルによって行われます

http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/HK_P7K3_BJ86_Ex.gif

 なお、図示されたZiegenhahnピストル、オルトギース、P7全てスライドをやや後退させた状態でボタンを押すようになっています。完全閉鎖状態でボタンを押すと銃が分解してしまうのでは使用時、携帯時に誤って分解してしまうおそれがあるからでしょう。Ziegenhahnピストルは弱装弾を使用する競技銃なのでスライドをやや後退させて保持しながら両側からボタンを押す形式でも問題ありませんが、オルトギースとP7はリコイルスプリングが強いためスライドをやや後退させた状態で保持しながら両側からボタンを押すという操作はやりにくく(あるいは単に単純化のためかもしれませんが)、片方から押す形式になっています。ただしこのためボタンを押さなくてもこの1箇所においてスライド後部右側の誘導は途切れています。特にP7の場合強力な9mmパラベラムを使用するコンバットオートがこんな形式でいいのかと思いますが、この点に関する批判意見は見たことがなく、問題ないんでしょう。

 ちなみに上の図は一時期のみで絶版となった.22LR、.32ACP、.380ACPの3つの口径が使い分けられるP7K3(ドイツ語のキャリバーにあたる語は頭文字がK)の分解図で、今回の趣旨と関係ありませんがどういうものかいまだに詳細が不明な油圧バッファーも描かれています。これを見るとスライド後退の最終段階で短距離(1cmくらい?)作動するもので、完成状態で部品供給され、ユーザーによる分解は不可能らしいです。













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