2.7.2 後退運動量分割を伴う閉鎖機構

 この構造ではリコイルショックによって生じた運動量が完全に閉鎖機構あるいは閉鎖機構とバレルに伝達されず、かなりの部分がすぐにフレームに伝達される。これにより閉鎖機構に伝えられる運動量はより小さく、射手の手に作用する力は大きな閉鎖機構の運動量を持つ構造の場合より小さくなる。リコイルショックの力を発生時にフレームと閉鎖機構に伝達するのにはいろいろな可能性が存在する。

 図2.7-3は、H&Kによってセルフローディングピストル モデルP9およびP9Sにおいて組み込まれたようなローラー閉鎖機構を示し、図2.7-4は発射時の力の流れを示している。バレル(1)はフレームに固定され、後部側面に2つの側面板を持っている。その間でボルトヘッド(2)が走る。このボルトヘッドはボルトキャリア(4)上に移動可能に配置されている。ボルトキャリアはスライド(5)に固定されている。

 ファイアリングピン(6)はボルトキャリア内に収納されている。リコイルショックはまず始めにボルトヘッドに作用する。ここからこの力は垂直に位置するローラー(3)を通じて一部はボルトキャリアに、そして一部はバレル側面板に、そしてこれによりフレームに伝達される。これによりボルトキャリアはスライドごと後方に動かされる。ローラーがボルトヘッドとバレル側面板の結合を解き、ボルトヘッドがボルトキャリアによって後方に連れて行かれることができるようになるまでである。



図 2.7-4 ローラー閉鎖機構における力の流れ

 「支え跳ね板閉鎖機構」の原理は図2.7-5で示されている(ベネリ モデルB76)。バレルはフレーム(1)に固定されている。スライド(2)内には「連れて行くもの」(4)を備えたボルトヘッド(3)が移動可能に内蔵されている。後部ではボルトヘッドの移動可能性は「支え跳ね板」(5)によって制限されている。「支え跳ね板」は「遮断するもの」(6)にあてがわれている。この「遮断するもの」はスライド内に保持されている。ファイアリングピン(7)はボルトヘッド内に位置している。発射準備状態ではボルトヘッドはフレームの左下の斜面に、そし左上では「支え跳ね板」を介して「遮断するもの」にあてがわれている。リコイルショックによってボルトヘッドは後方に、そして左は上へと圧せられる。この際、力の一部はフレームに伝達され、そしてスライドは後方へと加速される。b)ではロック解除状態が表現されている。スライドはオープン時、ボルトヘッドを「連れて行くもの」を使って連れて行く。





図2.7-5 支え跳ね板閉鎖機構の図式的表現。a)は閉鎖、b)は後退中。

 遅延された閉鎖機構は強力な装薬に向いている。ここで言及したベネリとH&Kのピストルは9mmパラベラム弾薬仕様に作られ、P9は.45ACP弾薬仕様でも作られている。


 先日、「waffeninfo.net」のアニメーションと説明を見て、ローラーによる遅延システムとはこういうことなのではないかという推測に至ったばかりですが、ここでは全然別の説明がなされていました。この説明はこの説明で分かりやすく、要するにストレートブローバックの場合後退の運動量が全て閉鎖機構(スライドやボルト)に伝達されるが、こうしたシステムでは一部が直接フレームに、一部が閉鎖機構にと分割して伝えられる、だから閉鎖機構が後退しようとする力は弱くなり、この結果重い閉鎖機構や強いリコイルスプリングなしで強力な弾薬が使えるのだ、というわけです。その例としてH&Kお得意のローラーによる遅延システムの他に、全く形態は異なるが原理的に近いというベネリのオートピストルのシステムが示され、むしろこの方が理解しやすい感じです。

 このベネリB76という銃に関しては銃そのものよりハンマーが折れてイチロー氏の目を傷つけた事件の方が有名っぽいですが、確かあの記事にはメカの詳しい説明はなかったはずです。アームズマガジン1993年1月号には詳細なリポートがありますが、FALに似たティルトボルトなどと説明され、ガスオペレーションではないこの銃の場合何故ボルトが傾く(というか最初傾いているものが水平になる?)のかに関する納得のいく説明がなく、当時首をかしげたもんです。「Faustfeuerwaffen」の説明では、ボルトがフレームの段差に当たっているためストレートには後退できず、ガツンと当たって跳ね上げられる際に後退の運動量の一部がフレームに伝達され、これによりスライド後退の運動量が小さくなるのだ、ということです。しかも、後退の運動量が分割して時間差で射手の手に伝わるため、リコイルショックも小さく感じられる、ということです。しかし同じ外形、同じ重量を持つショートリコイルの銃から同じ弾薬を発射した場合と比べて理論上どちらのリコイルショックが小さく感じられるはずであるのかについては言及がありません。少なくとも以前はH&Kはローラーロッキングの反動軽減効果を強調していましたし、アームズのレポートでもB76のリコイルはマイルドであると評価されています。

 ベネリB76に関してはネット上に情報が少ないようです。こんなページくらいしか見つかりませんでした。

http://www.armyrecognition.com/europe/Italie/Armes/Benelli/Pistolet_Benelli_Italie_description.htm#B76

http://www.littlegun.be/arme%20italienne/a%20benelli%20fr.htm

 で、「waffeninfo.net」のときの推測が全く誤りなのか、「そういう要因もある」のかは不明のままです。






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