2.7 遅延された閉鎖機構
 
 我々はすでに閉鎖機構運動の遅延の簡単な方法に言及した。すなわち、溝による薬莢とチャンバーの間の摩擦の増大である。この溝は薬莢素材の弾性限界を超えないように、ごく浅くなくてはならない。この原理の使用可能性の限界は、薬莢底部が押しつけられた薬莢前部からちぎれる可能性のある圧力の下にある。その上この薬莢とチャンバーの間の摩擦は、異物質の存在に依存する(溝は例えば燃焼残存物あるいは弾丸の油脂分によって満たされるかもしれない)。これにより、閉鎖機構の速度は変化させられ、銃の信頼性が問題になるかもしれない。そういうわけで強力な弾薬用としてはこうした危険のない、他の閉鎖機構構造が開発されてきた。

2.7.1 ガス圧による遅延を伴う重量閉鎖機構

 閉鎖機構の遅延のための1つの簡単な方法は火薬ガスの圧力を使うものである。この原理はBarnitzke(頑住吉注:開発者の名)に起源があり、第二次大戦中Suhlのグストロフ工場で開発された(頑住吉注: http://www.lexikon-der-wehrmacht.de/Waffen/Bilderseitenneu/Volksgewehr.htm )。この機能は図2.7-1で説明したい。

 バレル(1)は銃のフレームに固定され、上部はスライド(2)によって包まれている。このスライド前部は内部が研磨されたシリンダー(3)で終わっており、これはバレルとともにリング状の仕事シリンダー(ブレーキ空間)(7)を形成している。仕事シリンダーの前後は(5)および(6)のパッキング材によってほとんどガス気密状態で閉鎖されている。発射時、ガスは高圧をもって穴(4)を通ってリング空間内に出て行き、後方を目指すスライド(2)の動きを遅延させる。前のパッキング材(5)が太くされたバレル端部を過ぎるとすぐ(b)、すでに穴(4)やバレルから流れ出した以外の火薬ガスは発散できる。スライドの重量、穴の位置、数、大きさ、仕事シリンダーの容量、閉鎖スプリングは互いに同調していなければならない。





図2.7-1 ガス圧による遅延

 ステアー-ダイムラー-Puch AGのピストーレPi18(頑住吉注:この銃が小改良を経てステアーGBになったようです)およびH&KのPSP(図2.7-2で断面図が示されている 頑住吉注:P7の初期モデル)はこの原理に従って働く。このブレーキ空間はPSPの場合バレル下に位置するシリンダーとして形成されている。バレルはチャンバーすぐ前に穴が開けられ、ピストンはスライド前部に取り付けられている(頑住吉注: http://hkp7.com/motion/p7motion.htm )。


 このシステムは第二次大戦時における、低コストの銃で比較的強力な弾薬が発射できないかという模索の中で開発されたものであり、ローラー遅延システムと同様の経緯ということになります。このシステムを持つ最初の銃がグストロフの国民突撃銃ですが、これ以後長物に応用されて少なくとも成功したケースはないようです。一方ピストルでは「まあ成功と言えるのかなあ」くらいの製品がいくつかあります。最もメジャーなのは比較的少数とはいえ公用に採用もされたP7シリーズでしょう。ステアーGBはグストロフ国民突撃銃のレイアウトにより似ており、バレルがピストン、スライドがシリンダーを兼ねるのでより単純な構造になっています。「MODERN BERETTA FIREARMS」(GENE GANGARROSA Jr.著)という本によれば、ステアーGBは結果的にベレッタM92B-Fが勝利したXM9トライアル当時、「入手しうる最も進歩した9mmピストルの1つ」と考えられていたそうです。しかしインベストメントキャスト製スライド、プレス、溶接で作られたスチールフレームなど、いくつかのコスト削減策が盛り込まれていたにもかかわらず、そのガスロッキングシステムは非常に小さな公差を要求し、これが製造コストを高いものにしてしまいました。グロックに負けたオーストリア本国の軍用サイドアームトライアルに続いて米軍のトライアルでも負けた結果、ステアーはこうした大規模注文がなければコスト的に他社製品に競合できないと考え、やがて生産を中止したとされています。ちなみにXM9トライアルにおいてステアーGBは対照実験用のガバメントより低い信頼性を示して初の失格者となっています。いろいろな事実を見ていけば、このシステムが9mmパラベラム仕様のオートピストル用としてショートリコイルに及ばないことは明らかでしょう。


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