ある国民突撃兵器

 今回も「Waffen Revue」から、24号に掲載されていたナチ・ドイツ末期のきわめて特殊な国民突撃兵器に関する記事を紹介します。国民突撃兵器に関してはGUN誌で過去にライフル、サブマシンガン、ピストルがそれぞれレポートされたことがありますが、たぶんこのタイプは国内で紹介されたことがないんではないかと思います。7.92mmx33弾薬を使用するセミオートマチックカービンであり、この性格は知られている中ではGUN誌1989年1月号で紹介されたグストロフVG1-5にいちばん近いです。しかし、これは床井氏が「7.92mmx33弾をこれだけ単純化して作ったライフルで射撃できるのは驚きだ」と評されたグストロフVG1-5よりはるかに単純な、ちょっと考えられないような銃です。


フォルクスストゥルム ゼルブストラーデカラビナー(頑住吉注:「Volkssturm-Selbstladekarabiner」、「国民突撃自動装填騎銃」といったところです)

序文

 アメリカ部隊はその進駐の際にWetzlarに所在する「ヘッセン州工業工場」の銃器部門において、ある手動連発ライフルとセルフローディングカービンを発見した。これは国民突撃隊用に開発されたものだった。手動連発ライフルに関してはわずかな情報しかないが、セルフローディングカービンは我々の特別な注目を受けて当然である。

 この銃はわずかな部品のみからなり、この結果長時間の訓練なしに使用でき、製造時間を短縮するため、そしてコストを下げるため、全く単純な加工がなされていた。

 これはいわゆるクルツパトローネ8mmx33(頑住吉注:StG44などに使われたもので日本では7.92mmx33と呼ばれることが多い弾薬です)用5連ボックスマガジンを持つセルフローディングカービンであり、リコイルローダーとして空冷に設定されていた(頑住吉注:この種の銃はまあ空冷に決まっており、特別な意味はありません)。この銃の特別な点はある意味非常にプリミティブな製造にあるのではなく、むしろドイツ製銃器にはあまり用いられないいくつかの構造上の独自性にある。

1.発射の際、ボルト(そう言っていいならば)はその位置に留まり、バレルがバレルジャケット(バレルケース)内を前方に動いた。その際空薬莢はバレルのチャンバーから引き抜かれ、投げ出された。

2.トリガーはリボルバーの場合に使われるようないわゆる「ダブルアクション」だった。これは発火機構のコッキングがトリガーの引きによって引き起こされるという意味である。つまり我々はここで純「Abzugspanner」(頑住吉注:英語に直訳すれば「トリガーコッカー」、ダブルアクション銃のこと)を扱っているわけである。

3.この理由からさらなるセーフティも存在しなかった。これはたいていのリボルバーの場合も放棄している。なぜならそれが不必要だからである。

4.不発の際、つまり弾薬が最初の射撃において点火しなかったとき、もう一度トリガーを引くだけでよかった。そしてこの際ターゲットは目で捉え続けることができた。

 弾薬がそれでも発火せず、チャンバーから取り除きたいときは、バレルを前方に引く必要があった。というのは、ボルトは全く動かないからである。ボルトハンドルも存在しない。

説明
 バレルジャケットはシームレスのスチールパイプからなり、長さ26.6cm、内径2.6cm、厚さ1.8mmである。前後端にはネジが切ってあり、後ろは「筒」にねじ込み固定され、カウンターネジによって緩みが妨げられている。

 (頑住吉注:バレルジャケットの)後方の下には「誘導筒」が結合部品として取り付けられ、ストック内に挿し込まれ、さらなるネジによってバレルジャケットとストックを結合している。

 サイトは最高度に風変わりである。バレルジャケット前部には一種のリングが溶接されている。その中には1本の「頭幅広ネジ」がフロントサイトホルダーとして入れてある。この頭部には円筒形のピンが埋め込まれ、ここがフロントサイトとしての機能を果す。「頭幅広ネジ」の右左への回転によって、そこに固定されているフロントサイトも同様に左右に調節できる(頑住吉注:「頭幅広ネジ」=「Breitkopfschraube」は辞書に載っていませんが、図によると文字通り頭部が直径は大きく、上下幅は小さい円筒形になっているネジで、偏心してフロントサイトの突起が取り付けられています。これを回すと突起が左右に調節できるわけで、「最高度に風変わり」と言ってますけど要するに原理的にはUZIのフロントサイトと近く、何故か上下調節ができないだけです)。「筒」後部には単純なV字型リアサイトが取り付けられ、これは調節できない。

 つまりこの調節は左右方向にしか行えない。距離はターゲットの狙い方で調節するしかない。

 「」は長さ165mmの円筒からなっており、フレームに粗野に溶接されている。「筒」およびフレーム内には「弾薬誘導」が、マガジンのロード、弾薬の供給、空薬莢の投げ出しのためにはめこまれている。

 フレーム内には発火機構の可動パーツとトリガーがあり、一部はトリガーケース内に置かれている。フレーム後部には穴が開けられている。この開口を通してネジが挿し込まれ、これが「筒」後部をストックと結合している。5発入りボックスマガジンはフレームに結合され、弾薬はマガジンフォーロワおよびスプリングによってチャンバー前方の弾薬ホルダー内に押される(頑住吉注:理屈からして前方なわけはないと思うんですが、この部分の訳はこれで間違いないはずです)。

 「発火」メカニズムは、回転軸によってハンマーおよびスプリングと結合されたトリガー、およびエキストラクターの付属した「弾薬誘導」、ファイアリングピンホルダーからなっている。ファイアリングピンはスプリングのテンションがかけられてセットされている。

 トリガーケースは2本のピンでフレームに固定されている。トリガーガードの延長部がマガジン底板の役割を果している。

 バレルブッシングにはミゾがつけられ、バレルジャケット内にバレルを保持する役割を果している。

 「コック筒」はバレル前部にねじ込まれ、冷却のための開口を備えている。

 バレル(8mmx33弾薬用)は後部にショルダーを持ち、バレル後退のストッパーとしての役割を果している。

 バッファースプリングはバンドスチールから作られ、バレルに巻かれている。

 リコイルスプリングは単純なスプリングとしてバレルに巻かれている。

機能
 ライフルは装填されており、「ボルト」はバレルに接している。トリガーを引くことによってスプリングでテンションがかけられた、そしてトリガーと結びついたハンマーがコックされる。さらに引くと、ハンマーは解放され、前方に急速に進み、ファイアリングピンを叩き、これで弾薬に点火される。この際生じた「ガス打撃」(ノーマルな場合リコイルショックとして認められる)が、バレルが固定されていないことによってその方向を逆転され、そしてボルトが固定されていることによりバレルの前進運動が利用される。

 つまり、弾丸がバレル内を進む間にバレルは前進し、この際同時にリコイルスプリングを圧縮する。この前進運動の終わりにおいて、同時にエキストラクターによって保持されている空薬莢がバレルから引き抜かれる(頑住吉注:というか、空薬莢はその場に留まり、バレルが前方に「脱げる」ような形ですね)。

 弾丸がバレルを去り、その生じたエネルギーを利用されていたガスが空中に拡散すると、バレルはリコイルスプリングの圧力で後方へ逆戻りする。その間にスプリングのテンションがかけられてセットされているエジェクターが空薬莢(すでにすっかりチャンバーから抜かれている)を投げ出す。そしてマガジンフォーロワが「弾薬ホルダー」内の新しい弾薬をチャンバーの高さまで押し動かす。後ろに滑ってきたバレルがすぐ使えるように置いてある弾薬に「かぶさり」、これでチャンバー内に挿入されたことになる。

 このライフルは再び装填され、ボルトは閉鎖され、発射準備ができている。トリガーを引くとこの経過を繰り返す。このようなシステムのため、フルオート射撃はできず、トリガーは射撃前に再び放さなくてはならない。これによりトリガーとハンマーは出発位置に戻ることができる。だがこのとき目をターゲットから放す必要はない。

結語
 我々が見たように、わずかなパーツと単純な発射メカニズムによって間に合わせ、そして安く製造できるセルフローディングカービンを大量生産向けに開発することが試みられていたのである。残念ながら信頼性および成績については知られていない。


テクニカルデータ
口径:7.92mm
弾薬:8mmx33
銃身長:407mm(ライフリングは右回転)
ストック:612mm
コック「筒」:88.4mm
バッファースプリング:139.5mm
リコイルスプリング:305mm
バレルジャケット(バレル筒):226mm
「筒」:165mm
ピストルグリップ:89mm

フォルクスストゥルム レペティエルゲベール(頑住吉注:「Volkssturm-Repetiergewehr」、「国民突撃手動連発ライフル」といったところです。以前にも触れましたが「Repetiergewehr」は特別に断らない場合ボルトアクションライフルを指すことが多いようで、この銃もそうです)

 冒頭で言及したように、同じ会社において手動連発ライフルも発見された。この銃にはすでに記述したフォルクスストゥルムカラビナーの多くのパーツが使われていた。例えばストック、独自の弾薬供給システム、サイト、トリガーのようにである。このライフルはノーマル弾薬8mmx57用に設定され、そして奇妙なことにこれにも冷却ジャケットが備えられていた(頑住吉注:発射速度が遅いボルトアクションなら多数の冷却穴のついたバレルジャケットは必要なく、少しでもシンプルに作る事を眼目に開発された銃としてはこんな余計なものがついているのは奇妙だ、ということでしょう)。多くのパーツはカラビナーのもので、より大きな弾薬に適合しているだけだし、結果として銃も大型化している。残念ながら掲載した以上の写真はもはや知られていない。


 お分かりのように、この銃はドイツに限らず長物の自動火器に使われることがきわめて少ない、ブローフォワード作動方式になっています。それにあたる言葉は全く使われていないので、ドイツ語でブローフォワードを何と言うのかは不明のままです。「Waffen Revue」にはシュワルツローゼピストルに関するレポートもあるので、時間があれば読んでみたいです。

 GUN誌1989年1月号を見ていただければ分かりますが、極度に単純化を進めたと言われるグストロフVG1-5も、トリガーメカなどは結構複雑になっています。それに対し機種名称すら不明なこの銃にはグストロフVG1-5に存在する(ディスコネクターのような)セミオートメカニズムも、セーフティも、マガジンキャッチも、ディレードブローバックシステムもありません。

 ブローフォワードシステムにしたのも単純化のためでしょう。通常のシステムだと、バレル、レシーバー、ボルトの基本3パーツが必要になりますが、ブローフォワードならバレル、フレームの2パーツでいいわけです。通常のシステムでもバレルとレシーバーは機能的には一体ですから同じ基本2パーツと見ることもできますが、両者を一体で作るのは現実的ではなく、無理にそんなことをしても逆に製造が難しくなるだけでしょう。この銃ならフレームはある程度複雑にならざるを得ませんが、可動部分のバレルは単なるパイプから加工した単純な形態にできるわけです。ちなみに「レシーバー」というのはバレルの受けになっているパーツのことだと思うので、この銃の場合それを避けてフレームと言っているわけですが、間違っていたらご指摘下さい。

 外観はこんなです。



 ストックは全体に直線部分が多く、いかにも簡単に作れることを重視したデザインになっていますが、こんなので済むならみんなこうしているわけで、たぶん使いにくいでしょう。ピストルグリップはまあまあ握りやすそうですが、とってつけたような不調和な感じです。フラッシュハイダーのように見えるのが記事中で「コック筒」と呼ばれているコッキングピースです。穴はアウターのみに開いている冷却用のものであり、バレル内部に貫通したガスポートではないようなので、フラッシュハイダーやマズルブレーキの機能はないと思われます。いくら冷却穴があっても、ある程度射撃した後で不発が起こり、コッキングピースを前に引き出さなくてはならなくなったら、素手では触れないくらい加熱している場合もあったでしょう。



 パーツ構成はこんなです。1.が「コック筒」、2がバレルブッシング、3.はフロントサイト、4.はバレルジャケット、5.は「誘導筒」、6.はフレーム、8.はリアサイト、9.はバッファースプリング、10.はバレル、11.はリコイルスプリング、12.はハンマー、13.は「弾薬誘導」、14.はマガジンフォーロワ、15.はトリガー、16.はトリガーケース、17.はマガジン底板です。番号振るの忘れちゃいましたが、4.の後方、上にエジェクションポートが開口しているやや太いパイプ状部分が「」です。

 バレルには段差がありますが、基本的に単なるパイプから回転して加工できる非常に単純な形状です。バレル先端には「コック筒」をネジこむための雄ネジが切ってあります。リコイルスプリングは普通のコイルスプリングですが、バッファースプリングには断面が長方形の帯状スチール材をコイルにしたものが使われています。これらをバレルジャケットの前から挿入し、スプリングを押し縮めながらバレルブッシングをねじ込むわけです。何故バレルブッシングに長い前方への突起が付属しているのかについては説明がありませんが、「コック筒」が勝手に回転しないためだろうと思います。単なるパイプ状のバレルジャケットは前部にもバレルブッシングをねじこむための雄ネジが切ってありますが、後方にも同様に切ってあって「」にねじ込まれています。「」も単なるパイプから加工されており、スチールプレス製フレームに溶接されています。発火メカニズムはバレルの前後動とは無関係な、ダブルアクションオンリーです。詳しい説明や図がないので不明ですが、たぶんハンマーはリバウンドするようになっているんでしょう。トリガーケースもスチールプレス製で、マガジン底板と一体で作られています。パーツ名称では通常そういう意味なのでマガジンフォーロワとしていますが、直訳すれば「供給するもの」です。形状からして通常のマガジンフォーロワとは機能がかなり違うと思われますが、詳細は不明です。着脱マガジンでなく5発固定式マガジンであるのは確かですが、「独自の弾薬供給システム」がどういうものであるのか残念ながら文章とイラストのみでは理解できません。組み上げた機関部はストックに上からはめ込まれた後、下から1本のネジをストックを通して「誘導筒」にねじ込み、もう1本のネジをグリップ上方の穴から水平に入れ、7.の穴を通して反対側のナットにねじ込みます。

 極端にシンプルで簡単に製造できる粗末な銃ですが、それなりに工夫された興味深い性格であるのが分かります。威力の低い短小弾薬を発射速度の遅いダブルアクションオンリーでしか撃てず、装弾数もガーランドより少ない5発だけですから正面から撃ちあえば当然不利でしょうが、当時の状況では少しでも短時間で作れる銃を多数揃えることが先決だったわけでしょう。疑問なのは、ライフル弾の中では低威力とはいえ、ピストル弾よりはるかに強力で高圧を発生させる7.92mmx33を「ストレートブローフォワード」で発射して問題はないのかという点です。グストロフVG1-5もストレートブローバックでは問題があるからこそ生産性を低下させるガスロックシステムを追加せざるを得なかったわけでしょうし。特殊なバッファースプリングが使われているのは強烈なバレル前進のショックを受け止めるためでしょうが、これはバレルが早く前進しすぎて高圧ガスが後方に吹き出すことの対策にはなり得ません。まあ長いバレルと「コック筒」を合わせた重量は一般的なボルトよりは重そうですが。

 ちなみに発見されたカービンとライフルは単数形で、いずれも1挺のみだったわけです。試作段階で終わった可能性もありますが、あるいはもっと以前に作られ、これではダメだと結論が出されたものが廃棄されずに残っていただけなのかも知れません。







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