ヒトラー暗殺用サイレンサーカービン?

 「Waffen Revue」20号に面白い形をしたサイレンサー銃の紹介記事が掲載されていました。実はこの記事はかなり以前にざっと読んでみたんですが、正体不明で量産もされておらず、驚くほどユニークな特徴があるわけでもない、要するに重要な意味を持つものではないと判断して紹介しませんでした。しかし先日購入した「世界の兵器 ミリタリーサイエンス 近代ウエポンはじめて物語」(高橋昇氏著 光人社刊)という本にこの銃がヒトラー暗殺未遂に使われたものであるという記述があり、驚きました。そうなると歴史的にかなりの意味を持つ存在ということになるわけで、この記事の内容を紹介することにしました。


秘密コマンド用サイレンサー銃

前文

 今日我々は我々の読者にある銃を紹介したい。これに関してはわずかな細目しか知られておらず、そしてそれにもかかわらず非常に意味ありげなので、我々はこの銃に少々取り組みたいのである。

 我々は我々にしてもこの独自方式のサイレンサー銃に関して非常に多くのことを述べられないことを特別に残念に思う。しかしそれにもかかわらず写真は雄弁であるから興味を呼び起こすだろう。

 アメリカの情報ソースによれば、1939年にはすでに秘密国家警察のベルリンにおけるチーフだったHelldort伯爵は、消音され、長射程の、かつこれを使って遠距離においても「ハエの目」に命中させられる銃を作るという依頼を受けていた。この望まれる性能はピストルでもリボルバーでも達成できず、しかしライフルは運搬のためにハンディでなさすぎたため、全長約80cmしかない一種のカービンが誕生した。

 この「カービン」は2挺が製造されたとされる。依頼は「秘密コマンド目的」として進行し、そしてこの銃の存在は厳格に秘密保持されることが意図されたので、この銃には刻印も全く入れられなかった。つまり今日までメーカーは知られないままである。

 この銃のうち1挺は1945年のベルリン陥落以後、Helldort伯爵邸の廃墟の中から発見され、西ベルリンのあるアメリカ将校の所有物となった。役所との長く複雑緩慢な「書類戦争」の後、彼はついにこの銃をアメリカに輸出することを許された。しかしこの銃は一時的にアメリカ政府の使用に供されなければならなかった。その後アメリカの全ての秘密諜報機関がこの銃に詳細に取り組んだ。この銃はこの方式の中で本当にまたとないほど優れたものであり、大きな感嘆を呼び起こした。いろいろな射撃テストに際してこのサイレンサーカービンが命中精度の手本となるものに該当するだけでなく、「彼らが期待した全てをも持つ」ものであることが最終的に確認された。

 ベルリンにおけるこの銃の購入およびアメリカ国内への輸出が規定通りに行われたため、この銃はテスト後再び所有者に返却されねばならなかった(もちろんあらかじめ全ての細目はできるだけ正確に計測され、写真撮影された)。

 知られているのはこの銃の所有者が何回か変わり、現在アメリカ、ニューイングランドのプライベートな銃器コレクションの中に存在するとされていることだけである。

 製造されたとされる第2の銃はロシアにあるとされる。これはある程度納得いくように思われる。

推測

 次のような推測が表明される。この極度に精密に射撃できるサイレンサー銃は「秘密国家警察」の特殊コマンド用に開発された。ここから出発するなら、この銃を使えば射程は全てのピストルを凌駕することができ、命中精度は申し分なく、そして最後に消音性も真に最適であったし、とすれば実用性は完全に認められると見られる。

 それではなぜこの銃はそれにもかかわらず大量に製造されなかったのかに関してはもはや全く説明され得ない。ひょっとすると分解状態で約45cmという寸法がそれでもまだ長すぎ、約50cmのケースがまだ目立ち過ぎたのだろうか? これを今日まだ誰が説明できるだろうか? あるいはひょっとしてそれでも???

説明

口径:弾薬としては古くからプルーフされた9mmパラベラム弾薬(つまり卓越した性能を持つピストル弾薬)が使用された。そしてマガジンはピストーレ08でも使われたものだった。つまりさらに特別な新しいマガジンは作られなかった。

 この銃の発見されたマガジン内にはスチール弾付きの弾薬があった。これは周知のように高い貫通成績を持つ。

発火機構はカラビナー98に似ている。つまり突起による閉鎖機構を持ち、これは提示された要求を完璧に満たしたい時にはサイレンサー銃用として必ず見られるものである(リボルバーまたはロック機構なしのピストルに装着されたサイレンサーは全くの冗談である)。各発射後には手で連発操作を行わなくてはならなかった。その際空薬莢はエジェクションポートからストックの右上に投げ出された。ボルトの前進時、新しい弾薬がマガジンから取り出され、バレルのチャンバーへと押し込まれた。

トリガー。トリガーシステムは等しく理解されるように特別に綿密に考え抜かれて作られている。2つのトリガーが見られるが、そのうち最初の、つまり前のものがノーマルなトリガーであり、第2のものは「Stecher」(頑住吉注:「差し込むもの」)である。つまり使用者はまずトリガーを使ってレットオフ前のトリガーが重くなるポイントまで動かし、そしてその後でこの「Stecher」を使って全くソフトにトリガーを引くことができた。つまりこれは発射時に銃が大きく逸れることが実際上排除されたことを意味した。このことは他方ではまた正確な操作の必要を示している(頑住吉注:要するにセットトリガーだと思うんですが、通常は前のものではなく後ろのものをトリガーと呼ぶはずです)。

 ただし発射は射手がピストルグリップにあるグリップセーフティを操作した時だけに起こった。さらなるセーフティは必要でなかった。

スコープ。7倍の倍率を持つスコープは、射手がこれを装着した後でもなお、例えば近距離射撃のためにスコープが必要とされなかった時、フロントおよびリアサイトを使って射撃できるように作られた。装着設備のスリットは邪魔されないサイトラインのために配慮されていた。

ストックは研磨された木製であり、完璧な加工が行われている。ストック内にはボルト、マガジン、トリガー設備、バレルが収められている。バレルは約5cmが露出しているが、全長は約32cmある。

サイレンサー部分はストックに前方からかぶせられ、差し込みネジによってしっかりと止められた。このネジはバレルの上下のみにあるのがはっきり見える(頑住吉注:「差し込みネジ」というのは日本語で正式に何と言うのか知りませんがこの場合バレル側雄ネジおよびサイレンサー側雌ネジの上下のみにネジ山があり、サイレンサーを横倒しにして装着し、90度ひねると固定されるものです。同じ原理が使われた大砲の閉鎖装置もありますね)。

 サイレンサーの構造は残念ながら知られていない。サイレンサー部分の内部にバレルの導入部があることは確かである。余分なガスはこの部分の後ろ1/4にある開口を通って後方に拡張できるまで比較的太いサイレンサー部分内部にまず蓄えられると思われる。

 このサイレンサー部分は発射時に左手で保持されるフォアストックとして役立つ。

 消音性に関しては、これが真に最適であるとされていることが知られる。発射に際してはファイアリングピンが前進し点火カプセルを打撃する時の小さな「クリック」のみが聞こえる。

分解性。運搬のために分解された銃を発射準備状態にするには何秒もかからなかった。射手は長さ約50cmのケースから装填され(コックもされ)、マガジンとボルトが入ったストックを取り出し、サイレンサー部分を手に取り、これを前からバレルにかぶせ、1/4回転の後にこれを固定した。スコープを装着し、そしてすぐさま発射準備状態の銃を手にした。

寸法:バレルを含めないストック=40cm。バレルを含めると45cm。サイレンサー部分=34cm。全長=約80cm。

評価

 我々はここで特異に命中精度の高い銃を扱っており、これを使って遠距離でも(スコープ)最高度に確実に狙った大きく逸れることのない(「Stecher」)射撃が行える、とまでは言うことができる。

 70年以上前から最高度にプルーフされてきた9mmパラベラム弾薬の卓越した性能については我々はもはやさらなる言葉を費やす必要はない。

欠点

 我々はこのサイレンサー銃が何のために構想され、どこに投入されるはずであったのか、確実性をもって知ってはいないが、80cmという短さをもってしても誰にも気づかれない射撃は不可能であったとは言うことができる。

 しかし恐らくより大きな欠点は、我々がここでセルフローダーを扱ってきているわけではないということだろう。それ故銃は各発射後にターゲットから逸らされ、再装填されねばならない(この欠点に関しては我々はここですでに繰り返しレポートしてきている)。

 それにもかかわらずこの推測が非常に近いと正確に言うことはできない。後方に引かれるボルトのストロークは何cmでもなく、ボルトは急速な動きの際に簡単にひっかかるからである。ボルトの写真は半固定のロッキングの特徴的な性質を示していないということもある(頑住吉注:この部分何が言いたいのかよく分かりません)。

 我々は銃器技術上特異に興味深い銃を扱ってきているのも確かである。この銃はすでにいくつかの「頭痛」をもたらしている。この銃に関し非常にわずかしか知られていないからである。

 しかし、ひょっとすると我々の読者が正確な関係を知っているだろうか?






 本文中で何故か触れられていませんが、この銃の最大の特徴はブルパップ形式のボルトアクション銃であるという点でしょう。そもそもそういう銃は珍しい部類に入りますし、最初のものかどうかはともかく時期的にも非常に早いもののはずです。これは高い命中精度を達成するための長いバレルと短い全長を両立させるためのデザインだったと考えられますが、反面発射速度をさらに低下させたのも確かです。

 さてこの記事は要約すれば「この銃は正体不明だが秘密国家警察の特殊コマンド用と推測され、非常に優秀なので何故量産されなかったのか不可解である。情報求む」といった内容になっていますが、前掲書では情報ソースは示されていないながらヒトラー暗殺用のものと断定されています。確かにこの記事から読み取れる銃の性質は腕のいいガンスミス(ゴルゴ13のデイブのような)に大金を与えて特製で作らせた、遠距離からの確実な暗殺を意図した特殊カービンと考えると納得できるものとも思えます。しかしこれを使うのはプロ中のプロのはずで、そういう銃(しかもセットトリガーを持つ)にわざわざグリップセーフティを組み込むだろうかという疑問も感じます。また、後に正体が判明したにしても使用弾薬(青酸弾)、入手の経緯や所有者(連合軍が押収し現在ペンタゴンにある)に関する記述まで全く異なっているのは不可解です。真実はどうなんでしょうか。











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