もし「ワリヤーグ」の図面が手に入っていなかったら

 中国国産空母に関する記述なんですが、興味深い裏話が含まれています。

http://military.china.com/important/11132797/20130828/18018437.html


中国によるワリヤーグ号の完備された図面の獲得は極めて大きく国産空母の研究開発を促進した

(頑住吉注:原ページのここにある画像のキャプションです。「ネットに伝わる中国国産空母の分段らしきもの」)

イギリスの「週刊ジェーン安全保障業務」ウェブサイト8月2日の報道によれば、上海に近い江南造船集団長興島造船工場内の1隻の艦船の分段は、中国初の国産空母の一部分である可能性が高い。外国メディアの中国の装備に対する推測は非常に大きな程度上一種の参考としての意義しかなく、その情報ソースも玉石混淆である。だが非常に多くのネットユーザーにとって、軍用艦艇ないし空母の建造は非常に神秘的である。いわゆる「分段」と空母建造にはまたどんな関係があるのだろうか?

古代から近代造船に至るまで、竜骨の据え付けは一般に船舶建造開始の象徴である。竜骨は船、汽船、あるいは小舟の最も重要な重量の受け入れ構造で、船の底部に位置するため、過去の造船業の中で竜骨の据え付けは一般にいつも造船過程の中の非常に重要な事件であり、ある新しい船の建造の開始を意味した。建造者は竜骨の鋼板をドックあるいは船台の中に敷設し、かつ正確に位置決定し、このようにしてやっと低層から船の外殻の建造を開始し、少しずつ全体の造船過程を完成することができた。だが1940年代から現代造船業が開始され、これには軍用艦艇の建造も含まれるが、すでにモジュール式分段建造方法が採用されていた。そして過去のいわゆる艦艇の竜骨も、竜骨の分段に変わった。アメリカを例にすると、現在空母の建造開始を示すものとしては、第1枚目の鋼板の切断から起算する。アメリカの空母建造開始の儀式の中では、わざわざ空母の名を取った者の親族、配偶者が招待され、これらの人の署名も竜骨の鋼板上に溶接される。その後さらに署名のある鋼板をその他の鋼板と一体に溶接して巨大な分段とする。アメリカの最新の「ジェラルド フォード」号空母を例にすると、フォード大統領の娘が署名した鋼板も一辺の長さ50cmの正方形の鋼板だった。だがこの空母の真の第1の竜骨の分段は、少なくとも一辺の長さ40m、重量数百トンに達する正方形の巨大なしろものである。技術的に言うと、この分段は空母の低層建築に属し、空母建造の中心点でもある。後のあらゆるその他の分段はこれを中心に四方と上下に延長、展開されるのである。一部の専門家はこれを「タワー式建造法」と称する。

このため現代の軍用艦艇建造技術から見ると、アメリカだろうと中国だろうと、すでにいわゆる空母の分段が出現した時は、空母の建造はとっくに開始されているかもしれないのである。

(頑住吉注:これより2ページ目。画像のキャプションは「ソ連が当時ワリヤーグ号建造に採用したのは総段建造法だった。画像の中のそれぞれの空母のモジュールの重量はいずれも1,000トンを超える。」です。)

旧ソ連が空母建造に使用したのは総段建造法だった。例えば、「クズネツォフ」号の建造は、機格納庫の甲板を境界線とし、上下全部で24の総段に分けた。実際に見ると、米ソには空母組立の上で実質的な差異はなかった。アメリカの空母建造も小さなモジュール分段で、溶接作業場内でより大きな全部で161の「スーパー吊り上げ分段」に組み立て、できる限り効率を高めた。実はソ連の模式の「総段」と「スーパー吊り上げ分段」の意味には大差がなく、前者の重量がずっと大きいだけである。例えばアメリカ最大の「スーパー吊り上げ分段」は700トン余りあるが、一方ソ連の最大のものは1,400トンに達する。

米ソの空母建造のカギとなる重要な差異はアメリカのはドック造船法で、一方ソ連は船台造船法だというところにある。前者は海辺あるいは川辺に相当するところを鉄筋コンクリートを使用して強化し、大きな穴を掘り、水を抜いて水門の開閉扉を閉めればもう造船ができ、建造が終わると再度水を入れ、船を出す。一方船台は海辺に斜面を建設し、船が完成したら、レールに沿って海中に滑り込ませることができる。造船史上、船台はドックより早かった。ドックの建造価格はより高いが、メリットはドックはトン数がより大きい船舶が建造できるところである。1934年にイギリスは3.7万トンの「クイーンメリー」号豪華客船を建造したが、船台から進水させた後、船体の板架が変形する重大問題が出現し、米英などの国は普遍的に船台造船法はすでにトン数が超越的に大きな艦艇の建造には適さないと考えるようになった(頑住吉注:基準排水量64,000トンの「大和」や「武蔵」も斜面から海に進水させたようですが、戦艦と豪華客船では構造的な強度が全く違うでしょうからね)。このためアメリカの10万トンの原子力空母はいずれもドック造船を選択した。だがソ連は歴史および地理的な原因ゆえに、ドック造船に対する重視がずっと不充分で、逆に船台造船技術を継続して掘り下げた。50,000トン以上の「クズネツォフ」艦建造のために、ソ連は特別に進水滑走ルートと水中支持架を改造して進水の安全を保証した。

2011年、ロシアはフランスから4隻のミストラル級強襲揚陸艦を購入すると言明した。このうち最初の2隻はフランスで建造され、一方後の2隻はロシアで建造される。最初の2隻のミストラル級強襲揚陸艦は、60%の作業はフランスによって担当され、一方40%はロシアによって担当される。ロシアのサンクトペテルブルグのバディスキー造船工場は一部の分段の建造を担当し、その後分段をフランスのアトランティーク造船工場に輸送して総組み立てが行われる(頑住吉注:コラムで川を牽引される強襲揚陸艦の一部の画像を紹介したことありましたよね)。その後さらにサンクトペテルブルグに輸送してロシアの武器設備を取り付ける。協議によれば、ロシアは後の2隻のミストラル級の総組み立てを行うことになる。だが現有のバディスキー造船工場は依然ロシア伝統の船台建造技術を採用しており、このためロシアはサンクトペテルブルグより西32kmのカテリン島に新たなドックを建造し、ここをミストラル級ないしロシアの将来の水上艦艇の建造基地にする。ロシアのこの行いは中国のかつての長興島造船基地計画にやや似ている。ロシアがかつてのソ連の大型水上艦艇建造技術を回復し得るか否かに関しては、まだロシアの長期計画と投資への力の入れ方を見る必要がある。

(頑住吉注:これより3ページ目。画像のキャプションは「最近、遼寧艦は大連造船工場に戻った。あるネット仲間は大連造船工場で新たな分段に酷似した部材の影を発見した。ある人はこれを『大連空母分段』と称している。この新たな『分段』は広く疑問を引き起こしている。」です。)

アメリカおよび旧ソ連以外に、フランス、日本、インドもドック造船法を採用して空母あるいは「準空母」を建造している。まずドックの大小が基礎的な条件で、その寸法、特にドックの幅が空母甲板の大小を決定している。例えばインドの空母を建造するコーチン造船工場と、日本の「いずも」号ヘリ空母を建造する横浜造船工場のドックの幅はいずれも60mを超えておらず、アメリカの原子力空母を建造する幅76mの大ドックと比べると非常に大きな隔たりがある。

形式から見ると、現在の空母など大型艦艇の製造は基本的に全て分段モジュール化組み立て方式を採用している。だが技術含有量の差異は、空母の全体設計レベルと全体製造プロセスの統制にある。しかも両者は相互に浸透し影響するのである。空母が大きくなるほど、設計はどんどん複雑になる。この設計とは単に空母の大小や機能を意味しているのではなく、さらに指導できる工程の実践が必須である。空母は1つの全体であり、設計が合理的で、艦載機、人員などの使用上の要求を満足させる必要がある。しかも異なるモジュール総段あるいは分段に関して言えば、作業面の拡大、作業条件の改善、製造誤差の減少、製造効率の向上に有利である必要がある。この中の設計のルートは、長期にわたる生産実践の結果でもあるし、ある国の艦艇製造業の最も核心的な機密でもある。この点から言うと、アメリカは大型空母の建造の上で他国にはるかに先んじている。もしアメリカが大きな一歩を踏み出したと言うなら、ソ連は半歩踏み出したに過ぎず、フランスも小さな半歩である。空母のような戦略級の装備に関しては、他国が核心的な機密や貴重な経験を分かち与えてくれることはなく、設計、建造はごく小さな事柄が全体に影響を及ぼし、重大なミスの発生がよく見られる。フランスが原子力空母「ドゴール」号を研究開発した時、多くのミスが起きたことがまさに典型的な例証である(頑住吉注:「エンタープライズ」の時はどうだったんですかね)。フランス人の設計が不注意だったと言うことはできず、中に地雷が埋められた場所が実際多すぎたのである。人々はよく失敗は成功の母だと言うが、空母の超越的に高い建造価格ゆえに、もしフランスのような先進国であっても、軽く味見をして止めざるを得ず、大型空母建造の道を行き続ける実力と気迫はないのである。

旧ソ連はすでに「ウリヤノフスク」級原子力空母を開発していたが、最終的に完成することはなかった。もしソ連が依然存在していたら、「ウリヤノフスク」級原子力空母には非常に多くのミスが起きただろうが、それでもずっとロシア式空母開発という別の道を行き続けただろう。だが歴史にもしもはない。建造技術に比べ、現在アメリカのより優勢な部分は大型空母の設計と建造の経験をしっかりと独占し、したがって間接的に制海権を握り、あらゆるアメリカの海上の利益への挑戦者を威嚇しているというところにある。

インドと日本に関して言えば、大型空母の建造は政治的リスクの他、技術と経験の上での欠陥がより主要な問題である。より大きく、より専門的なドックがあることを必要とする以外に、いかにして世論と経費に制限される下で持続的に空母製造を推進するかが中心的問題である。日本とインドがひとたび大型空母を製造すれば、重大なミス発生の確率が非常に高く、工期全体が遅延し、プロジェクトの遅延がもたらす資金の損失は何百、甚だしきに至っては1,000億アメリカドルを超えるかもしれない、ということが想像できる。世論の非難は大きく高まり、公衆が強く騒ぎ立て、政治家が責任逃れするムードの中で、さらに頑張って続けられるか否かがまさに大きな問題になる。大型攻撃型空母製造への一歩を踏み出すのは、決してどの国にもできることではないのである。

(頑住吉注:これより4ページ目。画像のキャプションは「中国の大連に停泊するワリヤーグ号空母」です。)

ここから見ると、中国の空母開発はやはり非常に幸運である。「済南時報」2011年の徐増平に対する特別インタビューによれば、1つの重点が注意に値する。それは「ワリヤーグ」号のオークション行動中、中国サイドが「ワリヤーグ」号の設計図面を獲得した、ということである。すなわち第1回目に中国サイドが運んできた50トン30万枚の図面の中で、カギとなる重要な部位の図面がウクライナ国防省とロシアの情報人員によって持ち去られていた。後に、徐増平が再度ウクライナに赴き、私的関係を通じてついに黒海造船工場工場長と総工程師を説き伏せ、造船工場技術室が保存していたもう1セットの完備された図面を持ち帰ったのである。

造船を熟知した人は皆分かっているが、もし関連の図面がなかったら、「ワリヤーグ」に対する改装はもう行えなくなっていた。基本的な機能から見て、図面はシステム図面と製造図面の2種類に分かれる。前者は主に設計者の設計意図を反映し、製品としての機能のために配慮されている。一方後者は製造者がいかに動くか指導するのに用いられ、製品の組み立てのために配慮されている。空母建造(改装を含む)というこの極めて複雑な作業の中で、図面、特に製造図面が欠けていたら、結果は災難である。徐増平が2回にわたってウクライナ黒海造船工場から持ち帰ったのは、製造図面であった可能性が高い。

まず我々は図面から「ワリヤーグ」が建造中使用したのがどんな種類の材料なのか(この中には鋼材など建造材料が含まれるだけでなく、溶接、塗装材料等も含まれる)知ることができ、このことは中国が国産空母を建造する時の材料選択に参考を提供できただけでなく、改装中に使用する適した代替材料のために基準を提供することもできた。次に、図面は我々が「ワリヤーグ」号の船体構造、強度上の特徴を理解するのを助けることができ、したがって艦体および艦橋内部の改装時に構造的損傷を避けることができた。例えば本来の「花崗岩」対艦ミサイル発射装置はすぐ取り除かれたが、これは図面の助けなしには実現し難く、しかも極めて大きな技術的リスクを冒す必要があった。第3に、「ワリヤーグ」号内部の船室は極めて複雑で、図面のおかげでできる限り操作人員が負傷、甚だしきに至っては生命のリスクに直面するのを避けることができた。第4に、図面は「ワリヤーグ」号の改装のプロセスコントロールのために参考を提供することができ、全局面の上に立って「改装作業」を指導することができた。図面があったから中国は「ワリヤーグ」号に対し改装が実施できただけでなく、さらに大型空母の設計、建造に関するいくつかの極めて重要な核心的機密情報をを深く突っ込んで理解することができたのである。

このため、中国がウクライナから「ワリヤーグ」号およびその図面を獲得できたことは、客観的に見て中国が空母プロジェクトに着手する決心と速度を極めて大きく促進し、中国空母の「参入障壁」を上げた(頑住吉注:「下げた」の間違いでは。それとも図面を持っていない他国が中国空母の真似をしようとしてもハードルが高い、というような意味ですかね)。もし「ワリヤーグ」がなかったら、中国がもし後に空母プロジェクトに着手しても、技術的リスクとチャレンジ性は非常に大きく上がっていた。中国のような「おこぼれにあずかる者」は、冷戦終結といった種類の王朝交代に似た世界的で重大な政治構造の転換でこそやっと出現できる。この機会は、ほとんど「この村を過ぎたらもうこの店はない」。このため創律集団の会長徐増平氏は、現地メディアに対し空母回航の事情を話し始める時、言葉を慎重に選んで、「これは百年待っても会えない、本当に千載一遇のチャンスだった。」と話したのである。

(頑住吉注:後のページのキャプションは全て「整備修理中のワリヤーグ号空母」です。)


 この記述がもし本当なら、ウクライナやロシアは中国が空母を持つことを警戒し、少なくとも遅延させようとしたことになります。この筆者の言うとおり歴史にもしもはないんですが、ウクライナの造船工場が勝手なことをしなければ、中国以外のアジア諸国は安全保障上ずっと有利になっていたわけですね。










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