H&K P2A1
現在ドイツ軍で使われている信号拳銃はH&KのP2A1という銃ですが、あまり広く知られていないと思われます。ドイツ語版「Wikipedia」にはこんな説明がありました。
http://de.wikipedia.org/wiki/HK_P2A1
HK P2A1
ヘッケラー&コック社によるP2A1シグナルピストルは傾斜バレル(頑住吉注:ブレイクオープンシステム)を持ち、一連のシグナルもしくは照明落下傘弾薬を305mの高さまで、6〜25秒の燃焼時間で発射する。この銃は警察およびドイツ連邦国防軍にも、救助作業および航空、海運(職業的およびスポーツ操船)にも使用されている。
このプラスチックフレームを持つ傾斜バレル式銃器は、口径26.5mmのシグナルおよび照明落下傘弾薬を305mの高さまで上昇させることができる。
このピストルは全長200mm、銃身長155mm、全高145mm、全幅38mmである。重量は未装填状態で520gである。
このピストル用には催涙ガスグレネード発射用改造セットもあった。この場合後方から差し込みバレルがバレル内に挿入された。これに前方からグレネード用発射カップがねじ込まれた。発射のためには7.62mmx51NATO弾薬仕様の特殊な駆動弾薬が必要となった。メーカーはこの改造セットをもはや提供していない模様である。
この銃はスイス陸軍用にW+Fでライセンス生産され、Raketenpistole(頑住吉注:ロケットピストル)78の名称がつけられている。
全般的情報 | |
軍における名称 | SigPi(頑住吉注:シグナルピストルのドイツ語の略) |
使用国 | ドイツ |
開発者および生産者 | ヘッケラー&コック |
生産国 | ドイツ |
銃器カテゴリー | 特殊銃器 |
寸法 | |
全長 | 200mm |
全高 | 145mm |
全幅 | 38mm |
重量(未装填) | 0.520g |
テクニカルデータ | |
口径 | 26.5mm |
可能な装填数 | 1発 |
効果的射程 | 305m |
装填原理 | 傾斜バレル |
書籍「HECKLER & KOCH」には次のような記述がありました。
多くの他の会社およびモデルの後を追い、ヘッケラー&コックも1974年にこのような器具を作るという考えに至った。オベルンドルフの人(頑住吉注:H&Kスタッフ)は軍および警察任務に対応したが、それだけでなく海運、航空および救助業務や緊急事態対応業務のような民間領域もモダンな信号拳銃を切実に必要としていた。傾斜バレル閉鎖機構を持つ信号拳銃P2A1はこうして誕生した。
バレルはシームレスで引き伸ばし加工された高精度スチールから作られ、一方フレームはプラスチック製である。ハンマーとバレル閉鎖金具はフレーム上部に配置されている。バレル閉鎖金具のロック解除は自動的なオープンをもたらす。同時に発射済み薬莢は一部突き出される。この役目を負っているのはエジェクターであり、これはバレル下に内蔵されている。全てのスチール部品は燐酸塩処理され、強度の天候の影響から保護されている。
取り扱い
バレル閉鎖金具を下に押すことにより、バレルは自動的に前方に傾斜する。弾薬導入後、バレルは再び発射位置にもたらされる。ピストルは装填され、ロックされ、セーフティ状態となる。発射のためにはハンマーをコックする。ピストルはこの状態でセーフティ解除となる。トリガーを引くことによりハンマーがレットオフし、ファイアリングピンによって弾薬に点火される。
催涙ガス用発射器具としてのP2A1使用の際は発射カップと差し込みバレルが必要である。発射のためにはピストルを開き、発射薬を導入し、ピストルを再び閉じる。引き続きグレネードを発射カップ内にセットする。ハンマーをコックし、トリガーを引く。発射後ピストルを再び開き、一部突き出された薬莢を取り除く。
付属品としてはキャリングバッグが挙げられる。これはベルト上で携帯するか、吊るすことができる。さらにブラシ付きクリーニングロッド、オイルとクリーニングパッチを伴うコンテナが属す。
弾薬
P2A1を使って口径26.5mmx80および1150mm(頑住吉注:115mmの間違いでしょうか)の全ての弾薬種類を射撃できる。この際、それが1つ星、複数星、色付き、煙、音響、落下傘照明のいずれであるかはどうでもよい。
赤色の照明弾薬はインターナショナルな使用において特別な位置付けを持つ。2発の素早く連続しての発射は緊急事態を示すからである。このため光の強さは65,000cd(頑住吉注:カンデラ)でもあり、上昇高度は300mである。落下傘照明弾薬は30秒の照明継続能力を持つ。しかし大晦日の花火への使用を考えるべきではない。個々の弾薬種類の価格は実に高いからである。器具も弾薬もそのような使用は予定していない。P2A1にも弾薬にもドイツの購入証明書が必要である。
P2A2のテクニカルデータ
口径 | 4(26.5mmx80) |
機能原理 | シングルローダー |
閉鎖システム | 傾斜バレル閉鎖機構 |
セーフティ | オートマチックデコッキング |
閉鎖機構の素材 | スチール |
フレームの素材 | プラスチック |
寸法 | |
全長 | 200mm |
全高 | 145mm |
全幅 | 38mm |
銃身長 | 155mm |
重量 | |
空虚重量 | 520g |
装填時重量 | 585g |
弾薬 | 約65g |
差し込みバレル | 0.35kg |
発射カップ | 0.86kg |
弾薬 | |
駆動弾薬の口径 | 7.62mmx51 |
火薬種類 | 黒色火薬 |
上昇高度 | 約120m |
燃焼継続 | 8秒 |
45度での発射 | 約200m |
色 | 赤、白、緑 |
第二次大戦後半、ドイツはLP42信号拳銃を多数使用しました。
http://www.pwbrowning.com/leuchtpistole42/index.html
http://www.asamnet.de/~ehrenred/ersatzt/leuchtp.htm
http://forum.valka.cz/viewtopic.php/p/82405
戦後はプレス製フレームを亜鉛ダイキャストに変えたものを使用していたという記述を読んだ記憶がありますが、こP2A1もデザイン上この流れを汲むものと考えられ、エジェクターのシステムなどは特に似ているようです。
特殊で注目すべき特徴を持つカンプピストルが有名で人気があるのが例外的なのであって、信号拳銃なんてものは通常光が当たらないものです。ドイツ、スイスという先進国、かつ軍事技術上重要な国の制式信号拳銃でありながら、この銃に関する情報はきわめて限られています。
http://www.heckler-koch.de/HKWebText/detailProd/1929/94/4/16
H&K公式サイトにもたったこれだけの情報しかありませんし、アメリカのH&K
Inc.公式サイトには紹介ページがありません。何故上昇高度が「305m」などという中途半端な数値になっているのか不思議ですが、公式自体がそうなっているんですね。
http://www.deactivated-guns.co.uk/detail/H_AND_K_flare.htm
他にこの銃を扱っているページを探しても、これ以上のものは見つかりませんでした。バレル後端上部が少し切り取られているのが確認できますが、たぶん弾薬のリムのギザギザで種類を判別するためでしょう。
この銃はコレクター向きに販売されることがあり、商品紹介のページが時々見られます。しかしそういうページは商品が売れると消えてしまうことが多いです。
http://www.signal-flares.com/images/Pics/6325.JPG
http://www.signal-flares.com/images/Pics/6322.JPG
http://www.signal-flares.com/images/Pics/6323.JPG
これらは弾薬の画像で、いちばん上の長い弾薬が「落下傘照明弾薬」です。
これは書籍「HECKLER & KOCH」に載っていた「差し込みバレル」のイラストです。ワルサーカンプピストル用にも類似のものがありましたが、後方から小口径のバレルを差し込み、本来のマズルから突き出た雄ネジに「射撃カップ」をねじこんで固定するものです。これを使えば対人、対戦車榴弾の発射も可能なはずですが、実際には催涙弾しか使用されなかったようです。「HECKLER
& KOCH」のテクニカルデータの下の方にあるのはこの状態でのデータで、飛距離が最大になる仰角45度で射撃すると約200m届く、ということのようです。燃焼時間というのはたぶんこれに使用される催涙弾が催涙ガスを放出する時間でしょう。黒色火薬を使うのは安価だからでしょうか。手入れが大変になると思われます。
「セーフティ」が「オートマチックデコッキング」となっており、詳しい説明はありませんが、ハンマーコック状態で装填しようとするとオープン時、もしくはクローズ時にハンマーが安全に倒れるようになっているのではないかと思われます。
http://www.myvideo.de/watch/1023283
これは非常に貴重なこの銃の発射に関する動画です。