中国人の方からメールをいただきました

 中国人の方が見ているとは思わず好き勝手書いてましたが、非常に知識の豊富な銃器愛好家の方から、丁寧なご指摘等のメールをいただきました。非常に面白い内容なので、先方の許しを得て翻訳文を発表させていただきます。なお、最初と最後の挨拶等一部省略させていただきました。


私は中国の銃器愛好家です。偶然の機会を通じ、私はあなたがあなたのウェブサイト上で発表した、中国製銃器に関する翻訳と評論の文章を拝読する幸運を得ました。このことで私は、我々が共通の話題で交流できると考え、このメールを書きました。

まず一言お詫びさせてください。私の日本語力は、知っている漢字と一部の助詞のみというレベルに留まっており(頑住吉注:これは明らかに謙遜です)、私はまだ日本語であなたと直接交流できません。やむを得ず、まずは中国語で書きました。

あなたの文章を読んで、私はあなたが一部の中国語の銃器に関する語彙や専門用語、および中国の小火器界の背景、環境についてまだあまり熟知していないことに気付きました。一方私はこの方面に関しても多少は知っていると思うので、一部の疑問を解決する助けをしたいと思います。

それでは、文章の発表順序に沿って行きましょう。まず、「中国製QSZ92自動拳銃」という一文の中に、「設計定型時のフロントサイト位置は銃口帽上」という部分です。ここでの「槍口帽」(頑住吉注:表示できない漢字は日本語式の漢字に直しています。以下同じです)が指しているのは、銃口で銃身を連結および固定している部品で、中国語ではこれを「槍管套」と呼ぶこともあり、英語ではバレルブッシングです。「DAP92式5.8mm拳銃弾薬」の一文の中の、「頑住吉注:特殊な表記なので原ページの弾薬の断面図のすぐ上を見てください。意味も不明です」という部分です。私は原文と比べて見ましたが、あなたが分からないのはR50、R100という2つの符号の意味でしょう。実はこの2つの符号は、一種の射撃散布精度の表示方式です。中国語でR50のことを一般に「半数必中円半径」あるいは「半数弾着円半径」と呼び、R100は「全散布円半径」あるいは「全数弾着円半径」と呼びます。比較的簡単な言葉を使ってこれらの定義を解釈すると、R50とは「着弾点の最も密集した区域の中心点(この点を通常「平均着弾点」と呼びます)を中心とし、描き出されたちょうど50%の着弾点を含む円の半径」を指し、R100とは同じ点を中心として全部の着弾点を含む円の半径を指します。拳銃弾のテスト時は、通常それぞれ20発、3回の射撃試験を行って平均の数値を出す必要があります。さらに毎回の射撃前には一般にあらかじめ3から5発の弾を銃をあたためるために発射することがあります。射撃後、作図法を通じてデータ処理を行い、平均着弾点、R50、R100を算出します。平均着弾点を求める方法は、ターゲットペーパー上に水平および垂直線を、それぞれの直線の両側の弾孔の数が等しくなるように、しかも直線と両側の最も近い弾孔の距離が同じになるように引きます。この時、2本の直線の交わった点がすなわちこの回の射弾の平均着弾点となります。

この他私はさらに、5.8mm拳銃弾の殺傷効果について指摘します。原文中の描写や石鹸を使った射撃対比テストの画像に騙されてはいけません。ここで私は先に1つ説明します。「槍砲世界」というウェブサイト上の圧倒的大部分の資料は、ウェブサイトのリーダーであるD-Boy氏が自分で収集、翻訳、編集したものです。ただし中国製兵器に関する部分だけは例外です。これらは基本的に全て、官方が背景にある軍事雑誌上に掲載された文章の引用であって、D-Boy氏自身の視点(特にマイナス面)はその中に非常に少なくしか現われていないのです。これはD-Boy氏がこれらの中国製兵器に存在する問題を知らないというわけではなく、中国で現在行われている特殊なネット審査制度によるものです。もし彼が、彼の知っている秘密を全て書いたならば、彼のウェブサイトの存在が危機に陥る可能性が高く、このため彼はうわべのことしか書かないのです。さて、余談はさておき、この5.8mm拳銃弾による石鹸貫通試験は、実は操作されています。当時の試験中、5.8mm拳銃弾はきわめて高い貫通力を見せましたが、石鹸中に比較的大きい空洞を作ることは難しかったのです。9mmパラベラム弾と比べてより高い殺傷効果を表現できるように、最後の試験時には石鹸の射入口側に、1枚の薄い鋼板が加えられました。こうしてやっと、まさに画像中に見られるような比較的大きな空洞が作られたのです。これは全てある人が非公式の場で話したことで、信用度は保証できます。当然5.8mm拳銃弾の貫通力が非常に高いものであるのは確実です。その設計上の要求は有効射程内で2枚のNIJ IIIA基準の防弾衣を貫通することを保証する、というものであって、この点ではFNの5.7mmx28やSS190と同程度に優れています。

「CS/LS06サブマシンガン」の一文の中の、「国立射撃場での定型試験後」の一句ですが、この「定型試験」という言葉についても解説しましょう。ただしまず先に中国の軍隊における新兵器の研究開発の流れについて説明する必要があります。中国では、もし軍隊が1つの新兵器を加えたい時には、まず軍隊内部で理論的論証を進める必要があります。これをもって軍隊が確実にこの種の新兵器を必要としていることを証明するのです。続いて軍によって新兵器の各種性能指標が提出されます。軍需産業系統内部の各設計所(いくつかの設計所が共に連合研究開発グループを組織することもあります)において内部的な競争入札が行われます。各設計所はまず自分たちの、書面による設計方案を提出する必要があります。高級専門家と軍の代表が組織した、委員会に似た臨時組織での審査を通じ、比較して優劣を決め、指標に到達しない方案を却下し、同時に改良に向けた意見が提出されます。勝者は改良に向けた意見に基づいて初期の製品を作り、さらなる新しい段階の審査に向け提出します。さらなる改良を経た正式の製品が審査に提出されます。この段階の審査を通過すると、基本的に定型試験に入ることができます。いわゆる「定型」は、命名、基準の確立と理解することもできます。ひとたび一つの新兵器が定型試験を通過すれば、それはすなわち、軍がこの兵器の採用を肯定したことを意味します。ただし定型試験を通過したことは、この兵器がすぐに正式な「定型」に至ったことを意味しません。この兵器が定型の資格を獲得したことを証明するだけです。その後さらに少量の試験的生産が行われ、熱い地域(海のある地域)、砂埃の多い地域、寒い地域等、いろいろな地域の部隊で試用試験が行われます。さらに同時に詳細な設計と説明書が提出され、「設計定型審査」(これは主に、この兵器を将来大量生産するための工業基準と使用操作規範を制定する準備です)に対応します。さらにこの期間に各方面からフィードバックされた意見に基づき、最終的な細部の改修が行われます。これら一切が全て完了した後、この兵器はやっと真の定型を獲得でき、大量生産と軍隊への装備が開始されるのです(頑住吉注:このように「定型」は簡単には言い表せない内容を持っているようです。多くの場合は「制式採用」と訳しても大きなずれは生じないと思いますが、正確な理解が必要な場合はこの文章にリンクして参照してもらうことにしましょうか)。

「87式5.8mm小口径弾薬」の一文中で、あなたは中国の小口径弾/銃系統の戦術技術論証指標の中の精度の項目において、比較対象として56式ではなく、「SKSの発展型」の63式が採用されたことを意外に感じています。ここでまず私はあなたの誤りを指摘して正す必要があります。実際には63式は「SKSの発展型」ではありません。これら2つの銃は外形上よく似ていますが、63式の内部構造は基本的にはAK系統です(頑住吉注: http://www.gun-world.net/china/rifle/1963/63.htm )。AKと異なるところは、63式がピストンとボルトキャリアが分離したショートストロークピストン式を採用している点です。この他63式がAKと比べてさらに改良されているところは、ボルトグループの重心とバレル軸線間の距離が短くなっている点です。この2つの改良はいずれも力偶(偶力 Couple)を減少するのに有利に働き、点射時の精度を高めます。この方案は後の81式自動小銃でも採用されましたが、1970年代初めには、中国国内に精度が56式と比較してさらに高い自動小銃はまさにこの63式だけだったのです。このため63式をもって新しい銃の精度の比較対象としたことは理の当然です。

「最終的に最高司令部兵器部と五機部」の一句中、原文の「総后軍械部」が指しているのは、「解放軍総后勤部軍械部」であり、「五機部」が指しているのは「第5機械化工業部」であり、これは1982年以前に中国国務院の下に属していた部門で、通常兵器の研究開発と生産を管理していました。

「例えば人間の脳を目標とする(頑住吉注:表現が露骨すぎて怖いです)」この一句はおそらくあなたの誤解です。ここで表現しようとしているのは危険区(Beaten Zone)の概念であって、DBP87弾の初速が高く、弾道がフラットで、危険区の範囲が大きいという意味です。残忍に人間の脳を照準して射撃すると言おうとしているわけではありません。

「塗装仕上げの(頑住吉注:鉄製?)」薬莢を使用すれば」は間違っていません。中国の圧倒的大部分の弾薬の薬莢はスチール製です。中国は銅資源の乏しい国家なので(頑住吉注:あんなに広い国で産出しないのかと疑問に思って調べました。中国の生産量は世界第6位ではありますが、チリの生産量が1/3以上と圧倒的で、中国は約5%です。人口を考えれば足りないのも当然でしょう)建国初期である1950年代のごく短期間銅製薬莢を生産したことがあるだけで、その後の生産はは基本的に全て銅でコーティングしたスチールと、塗装仕上げのスチール製薬莢です。ただ一部の輸出用弾薬だけは銅製薬莢になっています。

「05式サブマシンガン」の文章の最後で、あなたはこの新銃器に関し、軍がまだ未発表の段階で軍事フォーラム上に画像等の情報が流出したことを不思議に思うと書き、さらに画像上の人が処罰されたのではないかと心配しています。実際のところ、こういう心配はいりません。この新銃器の情報が流出したのは、この銃がすでに定型試験を終えた後のことです。この時基本的に半公開的な状態にありました。しかも情報流出源も当の設計所であり、軍内部の人員です。いかなる処罰をも受ける心配はいりません。しかもこういう人のすることは、ふざけて「壁登り党」と呼ばれる一部の熱狂的軍事マニアと比べればたいしたことではありません。この「壁登り党」が一般に指すのは、地理や撮影機材の方面に特に熱狂的な軍事マニアで、彼らは中国製新兵器の情報を獲得するために、あえて付近の飛行場、ドック等軍事基地の塀を乗り越え、柵ごしにそこで研究開発あるいは建造中の新型軍用機や艦船を撮影することすらします。私が知るところでは、彼らのうちその場で逮捕された人が受ける処罰も、撮影機材の没収、画像データの削除、そして身分と供述を記録されるだけにすぎず、司法部門での起訴、裁判に移行することはありません。(当然、もしこれらの情報を他国の情報組織に売った証拠があれば別問題になります)(頑住吉注:さらに後のメールによれば、職場や学校に知らされて恥ずかしい思いをすることが実質的な処罰になることもあるそうです)

「03式自動小銃」の一文の中で、私はあなたが05式小銃に関し推測しているのを見ました。実はこの銃がG36に似ているという説の他に、この銃は中国版のSCARの類であると言う人もいます。実はこうした説はいくつかの研究所や軍が関係したものばかりです。また軍事フォーラム上の人々が喜んででっち上げた「ネット伝説」もあります。私はあなたに真相を告げることができます。この05式を装備している部隊は中国版の中国版のOPFORと考えることができます。このため内情を知っている一部の人たちは皆05式のことをふざけて「戦略小銃」と呼んでもいます。05式は実は中国がコピーしたM16であるCQ系列の小銃であり、軍隊がこの銃を装備する目的からして、この銃の装備量も非常に少ないです。(頑住吉注:要するに仮想敵部隊が使用する銃だということのようです。それがM16系だということは、仮想敵国は日本でもロシアでも韓国でも小さな紛争が実際に何度もあったベトナムでもないわけですが、はたしてアメリカなのか台湾なのかはよく分かりません)

さらにあなたが最近中国警察用リボルバーの事情に関心を持っているのを見ました。実はあなたが翻訳した文章は、約3年前に中国公安部が9mmリボルバーを宣伝、勢いづけるために使ったものであり、しかも中国の現場の警察官の本当の考え方を代表するものとは言えません。あなたの見た文章の最後にはまとめとして、「現場の人民警察、巡邏警察には9mmリボルバーが最も適している」とありますが、実際に試験に参与したのは全て刑事警察、特別警察の隊員で、現場の警察官ではありませんでした。少なくとも私の接触した警察官のうち大部分は、この9mmリボルバーに反対あるいは態度を明らかにしていません。反対者はこの銃の威力が小さすぎ、銃を発射しなければならない緊急の状況に実際に遭遇した時でも効果を発揮することが難しいと考えています。こうした人が気に入っているのは92式9mm拳銃です。また態度を明らかにしていない人は、彼らの圧倒的多数の業務には銃は必要ないと考えています。銃を装備することは往々にして業務上不便なことをも招きがちです(これも中国の治安案件の烈度が比較的低いことと関係しています)。ここで、さらに中国の警察用武器の出所という問題に触れざるをえません。中国では、軍用装備の研究開発を正式プロジェクトとして立ち上げること、研究開発を行うこと、および輸入に関することは当然に全て軍方部門の管理の下にあります。かつて中国公安武装警察組織が使用していたのは全て軍用兵器でした。これもまさにいわゆる「軍警不分」です。この体制下では、軍の関係部門が発行する評定証書を得るまでは、メーカーは大量生産に入れません。公安武装警察部門であっても新しい銃を装備することはできないのです。現在解放軍がリボルバーの研究開発に向けた要求を提出することはあり得ず、このため正常な過程によったのでは正式プロジェクトとしての立ち上げは全く不可能です。そこで公安部はこの体系を迂回する方法をとりました。自己単独の組織力量でこの警察用リボルバーを研究開発しましたが、これに先立って調査論証作業が充分に行われたのかどうかはきわめて疑わしいです。一部の軍事、警察関係のフォーラムでは、このリボルバーは公安部の某幹部が思いつきで研究開発を決定したという説が伝播しています。このリボルバーの全体的な研究開発過程は警察用装備調達制度に違反しているので、中国の軍需産業系統内部では悪いものの典型と評価されています。現在このリボルバーの情報を聞くことは、すでに非常に少なくなっています。


 中国は軍が大きな力を持った国です。そういう人は多いのではないかと思いますが、少なくとも私にはそんな中国を、戦前の日本に近いイメージで見る悪い癖があるようです。

 中国において一部の熱狂的軍事マニアが、日本の「鉄オタ」のような、不法侵入も含む過激な撮影行動を取ること、それに対して基本的には厳しい処分が課せられないことは、非常に意外でした。小口径拳銃弾の射撃結果が操作されたものであることも、ネット上ではできなくとも非公式の場で発表されて銃器愛好家の知るところとなり、ここで翻訳文を発表するのもかまわないということですから、思ったほどの厳しさではないようです。

 一方ネット上での発表に制限があることは事実で、私は意外に中国製兵器の欠点にも触れてあるなと感じたのですが、基本的にはそれは軍が背景にある軍事雑誌に載っている内容であり、勝手に欠点を発表することは難しいようです。

 私は、一時的な不況に陥ることも当然あるでしょうが基本的に中国はあと数十年単位で発展を続けるだろうと思っています。そして、言論の自由の範囲も広がる方向に進むだろうと思っています。今後日中関係はさらに重要になり、役に立つだろうと思ったから中国語の勉強を始めました。こうした交流はほんの小さなことですが、相互理解の助けになればと思います。

後に追加

後にいただいたメールの内容に従って追加します。中国には銅資源が少なくはないのですが、多くは輸出用銅鉱石に回され、また含有量が少ないものが多い、分散しているといった問題もあるので需要が満たせないのだそうです。このため近年アフリカ、南米において多くの銅鉱床を買う動きがあるということです。

05式を使用する仮想敵部隊は特定の国の軍隊を模すべきものではなく、いろいろな国の武装力量を模す必要がある、また最も重要なのはその国の戦術思想を模すことだ、ということです。仮想敵部隊が西側国家や西側国家の軍事思想で訓練された軍隊を模倣することに重点を置いていることは確かだが、特にアメリカや台湾を仮想敵としているわけではないそうです。西側装備の典型例のような感じでしょうか。











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