ソ連/ロシアの消音グレネードランチャー

 今回は国内ではあまり知られていないと思われるソ連/ロシアの消音グレネードランチャーについて取り上げます。

その1、D消音拳銃/グレネードランチャー

http://www.gunsworld.net/russain/gl/silencerd/d.htm


D消音拳銃/グレネードランチャー

口径:9mmx93/30mm

冷戦の時期、ソ連の潜在的欧州大戦に対する構想は先手必勝であり、大規模な突撃による攻撃をもって迅速に戦略的要点をコントロール下に置くというものだった。またこの突撃による攻撃中に遭遇する反撃圧力を軽減するため、ソ連軍はスペツナズを利用してNATO構成国の国内に浸透し破壊を行う一連の計画を制定した。破壊対象は例えば無線通信の中継基地、弾薬および燃料倉庫、レーダー設備、飛行場にある戦術航空機、そして最重要の目標は中距離戦術弾道ミサイルだった。これらの予定された目標はいずれもソフトターゲットに属し、見積もりによれば1発の30mm小口径砲弾が持つ炸薬でもうコンテナを貫通して内部の設備を破壊するのに充分だった。さらに燃料タンクに点火することができ、パーシングミサイル(頑住吉注:1960〜80年代に配備された中距離弾道ミサイルで、射程は740kmということです。西ドイツからモスクワまでの距離の半分くらいで、当時ソ連だったリトアニア、ウクライナあたりまでなら届いたはずです)あるいは戦闘爆撃機にもたらす破壊もそれらを直ちに飛び立てなくするのに充分だった。スペツナズの行動人員を破壊活動中より隠密にし、破壊後容易に隠れ、逃走させるため、ソ連軍は騒音がなく発射炎もないグレネードランチャーを研究開発すべきことを決定した。行動人員の敏捷性を高めるため、この武器にダブルの用途を持たせることも決定された。つまり30mmの爆発力の高い炸裂弾あるいは焼夷弾を発射して300m以内の大型目標(航空機、燃料タンク、誘導ミサイル等)に対処することもできるし、口径9mmの徹甲弾を発射して200m以内の人員目標に対処することもできる武器である。

この多用途武器は1960年代から1970年代の初めに研究開発が成功し、「D」型装置(ロシア語では「Изделие Д」、対応する英語は「Device D」)と命名された。そして少数がスペツナズやFSBといったいくつかの対テロ部隊に支給され、使用された。

D装置は実はグレネードが発射できる消音拳銃であり、この銃のカギとなる重要な設計は9mmx93消音弾薬で、その設計はやや7.62mmx63PZ弾薬(頑住吉注:特殊ピストルを使って7.62mmx39弾頭を無音で発射する弾薬)に似ている。大型のスチール薬莢内に少量の発射薬とピストンがあり、発射薬は燃焼時にピストンを押し出す。ピストンによってその前にある弾頭は射出される。その後薬莢先端部がピストンの前進を食い止め、火薬ガスを薬莢内に封じ込める。このため消音、消炎、消煙の目的が達成される。

D装置には2種類の弾薬が使用された。1つは9mmPFAM「ファランクス」(ロシア語では「ПФАМ “Фаланга”」)であり、ピストン前に徹甲弾頭があった。もう1つは9mmPMAM「マウスピース」(ロシア語では「ПМАМ “Мундштук”」)であり、これは弾頭のない空砲弾薬で、30mmグレネードの発射に使われた。

PFAM弾頭は硬質スチールコア、銅製のジャケットを持つ尖頭弾で、重量は28g(432グレイン)、初速は250m/sだった。資料によれば、PFAM弾頭は距離100mで5mm厚の低炭素鋼板を貫通することができた。

(頑住吉注:原ページのここにある左側の画像のキャプションです。「9mmPFAM徹甲弾薬」 続いて右。「9mmPMAM空砲弾薬と30mmBMYa-31グレネード」)

30mmグレネードはPMAM空砲弾薬と組み合わせて使用され、一緒にBMYa-31「トカゲ」(ロシア語では「БМЯ-31 “Ящерица”」)と命名された。グレネード尾部のバーは装填後チャンバー内のPMAMの薬莢内に入り込み、ピストンにあてがわれる。発射時、ピストンは尾部のバーを押し動かし、グレネードを射出する。弾頭内には高性能炸薬あるいは混合焼夷剤が装備され、10mmの軟鋼材を貫通後に放火効果を発生させることができる。BMYa-31の重量は約130g、初速は110m/sである(頑住吉注:こんな速度では10mm厚のベニヤ板を貫通するのがやっとでしょうし、着弾時にはもっとずっと遅くなっているはずです。先端部に小型の成型炸薬があるとか、何らかの工夫があったんでしょうか)。BMYa-31グレネード後部の突出にはライフリングとかみ合うミゾがあり、発射後は自転して安定した。この他訓練用の惰性グレネードもあった(頑住吉注:「惰性グレネード」って何ですかね。実弾だってロケット弾じゃないわけですから惰性で飛んでいくのに変わりないはずですが)。

D装置本体は大型の単発ボルトアクション式拳銃であり、コッキングハンドルは銃の尾部にある。ボルトを回転させて開鎖して後方に引くと排莢され、エジェクションポートから新たな弾薬を入れ、ボルトを前進させて回転させ、閉鎖する。この拳銃は比較的重いため、射撃精度を高めるためのホルスター兼用ストックと着脱式で長さが調節できるバイポッドが装備された。グレネードの発射時、マズルにはさらにグレネード発射カップを装着する必要がある。チャンバーにPMAM空砲弾薬を装填し、グレネードを発射カップの前方から入れ、グレネードが発射カップのマズルにあるスプリング固定装置によってロックされると、やっとグレネード尾部のバーがしっかりとPMAM空砲弾薬のピストン内にしっかりとあてがわれることが確保される。しかも俯角射撃時でもグレネードがマズルから抜け落ちることはなくなる。

全長(発射カップ含む、ストックは含まず) 400mm
重量 空虚重量 2.8s
ストック、バイポッド、発射カップ含む 4.5s
有効射程 9mm徹甲弾 200m
30mmグレネード 300m

(頑住吉注:コッキングハンドルは真下に回して全幅を小さくできるようになっているようです)


その2、DM消音カービン/グレネードランチャー

http://www.gunsworld.net/russain/gl/silencerd/dm.htm


DM消音カービン/グレネードランチャー

口径:9mmx93/30mm

「DM装置」(ロシア語では「Изделие ДМ」、英語では「Device DM」)は消音グレネードランチャー兼カービンで、1970年代にスペツナズ部隊のために研究開発されたものである。その原理は拳銃型のD装置に基づいており、設計の目標は重量をあまり大きく増加させないという前提のもとでD装置の発射速度と精度を向上させることだった。DM装置は少量生産され、部隊装備もされたが、具体的な数量は不明である。現在ロシア軍のスペツナズ、FSB対テロ部隊が依然使用している。

DM装置は依然D装置と同じ9mm口径のPFAM徹甲弾薬を発射し、またPMAM空砲弾薬とBMYa-31グレネードを組み合わせて発射する。また依然ボルトアクション手動装填を使用する。だがDM装置はレシーバー下に着脱式マガジンが追加され、5発の9mmx93弾薬が装填できる。銃全体をよりコンパクトにし、重量を軽減するため、独立したピストルグリップは設計されておらず、マガジンをそのままグリップとして利用する。マズルにはグレネード発射カップが固定装備され、頻繁に取り外す必要はない。トリガーガード前方には着脱式で長さが調節できるバイポッドがあり、レシーバー尾部にはさらにAKMの折りたたみストックがある。

射手はボルトを操作して排莢と装填を行い、マガジン内に弾薬がありさえすれば連続して発射できる。グレネード発射時もボルトを操作するだけで空砲弾薬が装填でき、グレネードをマズルに入れるだけで発射できる。

全長 ストック伸ばし 720mm
ストックたたみ 480mm
空虚重量 3.9s
有効射程 9mm徹甲弾 200m
30mmグレネード 300m

(頑住吉注:原ページのここにある1枚目の画像のキャプションです。「スペツナズがDM装置を発射する姿勢」 続いて2枚目。「机の上に置いてあるのがD装置、手に持っているのがDM装置」)


その3、BS-1吊り下げ式消音グレネードランチャー

http://www.gunsworld.net/russain/gl/bs1/bs1.htm


BS-1吊り下げ式消音グレネードランチャー

口径:30mm

BS-1 Tishina(ロシア語では「」БС-1 Тишина 「沈黙」の意)吊り下げ式グレネードランチャー、ロシア軍での正式名称RGA-86(РГА-86)は口径30mmの消音グレネードランチャーである。主に特殊部隊、例えばソ連陸軍特殊部隊スペツナズに装備された。このシステムは1970年代に研究開発され、30mm消音グレネードランチャーであるD装置、DM装置の代替のために用いられた。BS-1はサイレンサーを装着したAKMあるいはAKS74Uの下面に吊り下げて使用する。

AKMに使用されるBS-1システムは、GSN-19 Kanarejka吊り下げ式グレネードランチャー、専用調節式サイト、PBS-1サイレンサー、7.62mmx39亜音速弾薬からなる。AKS74Uに使用されるBS-1システムは、GSN-19吊り下げ式グレネードランチャー、専用調節式サイト、PBS-4サイレンサー、5.54mmx39亜音速弾薬からなる。通常さらにバットプレートに装着できるゴム製緩衝パッドが装備される。

(頑住吉注:原ページのここにある画像のキャプションです。「GSN-19 Kanarejka」グレネードランチャー、AP-Iグレネード、空砲弾薬およびそのマガジン)

GSN-19グレネードランチャーの装填方式は前装も後装も必要とする。まず、マズルから装填するのは30mm口径の、あらかじめ作られたライフリングにかみ合うミゾを持つ徹甲焼夷榴弾(AP-I)である。この弾頭は一般的な戦術弾道ミサイルの発射装置、航空機の外殻、軍事機材等の目標を貫通、破壊でき、15mm圧延装甲を貫通できるが、グレネード自体には推進装置はない。グレネードを発射するのはチャンバー後方から装填される専用の空砲弾薬で、空砲弾薬はマガジン内(BC-1 7.62mm弾薬なら8発、BC-1M 5.45mm弾薬なら10発)に入れられる。マガジンはランチャーのピストルグリップ内に入れられ、ボルトアクション小銃に似たボルトによって装填と排莢が行われる。

空砲弾薬は実際にはグレネードと接触しておらず、チャンバー前方のピストンと接触している。空砲弾薬の撃発後、火薬ガスがピストンを押し動かして前進させ、ピストンがグレネードを射出する。ピストン、チャンバー、薬莢/ボルトが火薬ガスを閉じ込めるため、消音と消炎の効果が達成される。チャンバー内圧力が安全な程度まで下降した後、ボルトを操作して排莢と燃焼後のガスの解放を行うことができる。そして新たな空砲弾薬を送り込み、再びマズルから新たなグレネードを入れ、再度発射を行うことができる。7.62mm空砲弾薬使用時、グレネードの初速は100m/s強で、一方5.45mm空砲弾薬使用時は約175m/sである(頑住吉注:7.62mmx39と5.45mmx39の発射薬の量は同程度で、圧力は後者がかなり高いはずですが、ここまで差が出ますかね。いずれにせよこの速度で15mm鋼板を普通に貫通できるわけがなく、やはり成型炸薬なんでしょうか)。グレネードランチャーは特殊な支持架によって銃に装着される。

ランチャー全長 320mm
ランチャー重量 2s
有効射程 150〜200m
最大射程 400m

(頑住吉注:原ページのここにある1枚目の画像のキャプションです。「AKMSバージョンのBS-1システム」 クリックすると拡大される小さな画像6枚飛ばし8枚目。「AKS74UバージョンのBS-1システム。システム全長900mm、全体重量5430g」 これは銃を含めた数値ですね。5枚飛ばし14枚目。「専用の調節式リアサイト。小銃のリアサイト後方に装着されるが、小銃のリアサイトの使用には影響しない。」 使用はできても見にくくはなるでしょう。続いて15枚目。「グレネード尾部にはライフリングとかみ合う突起がある。このグレネードは基本的に尾部のバーをなくしたBMYa-31グレネードを改良したできたものである」)


 「消音銃」は基本的に音もなく敵を倒し、倒した以外の敵に攻撃されたこと自体気付かせない、という武器ですが、無音で炸裂するグレネードなどあり得ようはずはなく、「消音グレネードランチャー」という存在自体無意味なのでは、と思いましたが、要するに発射位置を不明確にして敵中での逃走を容易にする、というものだったわけです。それにしてもソ連の西ヨーロッパ先制攻撃準備にはぞっとします。実際に行われなかったことも、そしてこうした武器がテロリストの手に渡って使用された様子がないことも幸いとしか言いようがありません。原理的にはもうお馴染みの「カートリッジ内消音システム」で、別に新しさはありません。まあ徹甲弾とグレネード両方発射できるというのはちょっと面白いですが。完成度では明らかにBS-1が優れていますが、私はむしろDMにいちばん魅力を感じます。昔なら作ってみようと思ったかも。ボルトアクションでBB弾を連射することもできるし、できるだけ軽く作ったグレネードの尾部をエアを押し出すピストンに当てて発射もできるなんてのはどうでしょう。

 えー、本題と関係ないんですが、「無音で炸裂するグレネードなどあり得ようはずはなく」と書いておいてふと思いました。球体の中心に高低圧理論に基づく装薬容器を置き、これを囲んで全方向に向けた無数のバレルを設置し、これら1つ1つにガスを閉じ込めるピストンとスチールボールを装備したら、「消音グレネード」ができないですかね。無駄になる「弾」が多くなりすぎるならパラシュートをつけて下方45度くらいに「弾」を発射するようにするとか‥‥。









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