銀座のビルの用心猫

私は銀座のある高級クラブ等が入った雑居ビルの警備員として勤務している者です。私にはピンと来ませんがその筋では「いつかはあのビルに店を出したい」と言われる由緒あるビルだそうで、芸能界、相撲関係などの有名人も多くお客様として訪れます。

私は近所の複数の別のビルにも勤務に入ったことがありますが、飲食店が複数入った銀座の古いビルはまず必ず鼠が出ますし、当ビルもかつてはネズミの害に悩まされていました。しかし奇跡的なことにここ数年当ビルには鼠が全く出ません。周囲の路上には鼠が走り回っており、2つ隣のビルなどは最近ネズミの侵入を防ぐため、

吸排気口にこのような金網を張りましたが感じられるような効果はないそうです。おそらくどのビルもネズミの駆除業者を入れているはずですが、根絶はまず無理です。

周囲のビルは全てネズミの害に困っているのに当ビルにだけ全く鼠が出ない、この本来ありえないはずのことには理由があります。

2008年春のことですが、当ビルの地下機械室に野良猫が幼い子猫2匹を連れ込んで住み着いてしまいました。ビルのオーナー会社の方に状況を説明したところ、小さな子猫がいるのに無理に追い出すのはかわいそうだということで猫3匹が地下室に住むことを黙認してもらえることになりました。警備員としての長年の経験上、このような理解ある対応はほとんどありえないことです。

えさ代は我々警備員がポケットマネーから出し、子猫はすくすく育っていきました。そして、

根っからの野良猫である母猫が3匹ばかり鼠を血祭りに上げ、オーナー会社の方は猫が役に立つことを認めて下さいました。まさに猫の恩返しです。

しかし夏になると、

困ったことにまた子猫を生んでしまいました。これはまずいということで私が母猫を動物病院に連れて行き、自費で不妊手術をしました。オーナー会社の方が役所に相談に行ったのですが、当初はそんなことどこにでもあることとばかりほとんどまともに相手にされなかったそうです。しかし「うちのビルで働く者が自費で不妊手術をしまして」という話をすると、「ああ、そこまでしたのなら」ということで地元銀座の猫ボランティアの方を紹介していただき、下の子たちの行先は全て決まり、私はペット可のマンションに引っ越して上の子の片方を引き取りました。

猫がいる地下2階の鼠はすぐにいなくなったのですが、上の階の鼠は当初そのままでした。しかしおそらく猫の匂いが人には感じられないが鼠には感じられる程度の強さで空調ダクトなどを伝ってビル全体に回るようになったからでしょうか、3年目くらいから上の階の鼠も減り、ここ何年かは全く鼠がいない状態になりました。

母猫は

前は痩せて目つきも鋭く、人間に指一本ふれさせなかったのですが、

別猫のように穏和になり、私に自分から体をこすりつけて甘え、餌をねだるようになりました。

母猫はだいぶ年取ってきましたがまだまだ元気で、子猫1匹と共に辛い野良猫時代には想像しなかっただろう安楽な後半生をビルの地下室で楽しんでいます。

子猫の妹分の猫は私の家で幸せに暮らしています。

今ではオーナー会社に月々猫関係予算を組んでいただき、えさ代、トイレの砂代なども警備員がポケットマネーから出す必要はなくなりました。

先日、ビルの責任者の方が近所のビルの責任者の集まりに出席した際、当ビルを除くすべてのビルが鼠の害に困っていることを知って改めて猫のおかげだということを再認識し、もし今の猫が死んでしまっても次の猫を飼い続けることを決めたそうで、それほど当ビルの猫は確固たる地位を築いています。私としては、単にいい話として紹介したいのではなく、現に多くのビルが鼠の害に非常に困っており、業者などによる駆除に少なからぬ予算をかけてネズミの害を「減らそう」と努力しているが、ビル内できちんと管理して猫を飼うことによって鼠の害を「ゼロにする」ことが可能だということを紹介し、より多くのビルで同様の試みがなされ、さらには殺処分される猫が減ることにもつながることを希望しています。

























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