NATOで標準化される? 敵味方識別システム

 サイト「WaffenHQ.de」のフォーラムに興味深い未来の敵味方識別システムに関する記事が引用されていました。

http://www.whq-forum.de/invisionboard/index.php?showtopic=12268&st=90

 小さく表示されている記事をクリックすると拡大して表示されますが、いつまで見られる状態にあるか分からないので失礼して写真の部分だけ切り取ってお見せします。



 記事の内容は次のようなものです。


味方兵士への多すぎる射撃

ドイツ連邦国防軍の技術が国際的に興味を集めている

ハメルブルグ発(Dubi) 
(頑住吉注:「u」はウムラウト。記者の名前のようです)

 25カ国から来た68人の高位の将校がハメルブルグの部隊演習場で恐らく世界唯一の種類のシステムのデモンストレーションを見守った。その銃が放射するレーザー光線と、パートナーのヘルメット上の小型無線機からの返信によって、兵は1秒以内に自分が友軍兵士の前に立っているのかどうかを認識することができる。

 「このシステムは断念してはならないものである。」 締めくくりに歩兵学校の司令官、Johann Berger准将は強調した。歩兵学校における夜間屋内戦闘での演習シナリオは、緊急事態においては50%までの自軍内における犠牲が要求されるかもしれないとしている
(頑住吉注:話の流れからして敵の位置や人数などを正確に調査する時間的余裕のない一刻を争う夜間における屋内への突入戦闘においては10人の敵を排除する場合、最悪同士討ちで5人の犠牲者が生じることも想定せざるを得ない、といった意味と思われます)

 個々の兵士の急速な識別はまだ幼稚園レベルに留まっている。最初の突破口は2年前にあった。いろいろな実戦投入を行っている国々の構成要素がそれによって互いにコミュニケーションできる共通のスタンダードに関しNATO諸国が合意した時にである。

 実地における約6カ月の研究の後、この技術は歩兵学校でデモンストレーションするに適するほど熟成した。「我々は世界一流である。」 発展開発部門のリーダーであるWolfgang Althoff中尉は強調する。使用者の認識成功率は100パーセント近く、一部は窓ガラスを通してさえ達成される。

 陸軍局のプロジェクトリーダーKosakはこのシステムが実戦使用能力を得るのは2009年と計算している。その際このコンポーネントはさらに小さくなり、有効範囲は3000mに拡大するはずである。

 だが将校たちの多くはまだ懐疑的な様子である。イギリスからは、このエレクトロニクスの実戦使用時には使用原理(かみ合いのルール)に手を加えなくてはならず、大多数は共有されないとの異論が出ている。

 さらに兵士は敵が明確に識別できた際、または正当防衛においてのみ射撃してよい。つまり最終的な決断は依然として個々の兵士に委ねられているのである。

(頑住吉注:写真キャプション) 国際的な熱い関心がハメルブルグの部隊演習場における実演での自軍兵士電子式別システムに集まった。 写真Wolfgang Dunnebier(頑住吉注:「u」はウムラウト)


 フォーラムでの発言自体が6月なのでそれ以前のものであるのは確かですが、この記事がいつの、どの媒体から引用されたものなのかは残念ながら書かれていません。3つ前の発言の「das hier」(ココ)をクリックするとメーカーであるラインメタル公式の宣伝ページが表示されます。その内容は次のようなものです。

http://www.rheinmetall-defence.de/index.php?fid=3271&lang=2&pdb=1


ZEFF 基本デモンストレーター兵

 ZEFF 基本デモンストレーター兵はSTANAG-4630に合致した識別システムの能力をデモンストレーションするためのDSIDバージョン(分離型兵識別装置)である。DSID識別原理はレーザーによる問い合わせおよび無線による応答に基づいている。

 ZEBaS(頑住吉注:「ZEFF 基本デモンストレーター兵」の略)は次のようなコンポーネントからなっている。
●問い合わせ装置グループ(典型的には手で持って撃つ銃に取り付けられる)
●応答装置(肩またはヘルメットに固定される)
●キーボード

 問い合わせ装置グループのレーザーはこの目的で識別される物体に向けられる。問い合わせの操作をすると問い合わせ装置グループは暗号化されたレーザー光線を発信する。レーザー光線が応答装置に当たるとこの情報が受信され、その有効性が検証される。問い合わせが有効と分かると、応答装置は暗号化された無線信号を応答として発信する。問い合わせ装置グループはこの信号を受信し、分析し、有効な応答の場合結果は「友軍」となる。

主な特徴
●離れた位置にいる兵のため、または車輌に乗っている際の信頼性の高い友軍識別
●暗号化されたコミュニケーション(レーザーおよび無線信号による)
●STANAG-4630に合致

テクニカルデータ
識別に要する時間 1秒以内
有効範囲 2,200mまで


 「STANAG」というのはNATOにおける標準化された基準のことだそうです。

 原理的には比較的簡単なもので、特定の情報を含むレーザー(明記されていませんが当然不可視でしょう)を発信して、対象が味方であれば相応の返信が戻ってきてそれを知ることができる、というわけです。敵味方が混在しているような状況下で特定の対象の敵味方を識別するには問い合わせは無線等でなく指向性を持ったレーザーでなくてはならず、互いに移動中ということもあるので確実な応答のために無線が使われるということでしょう。また、これも明記されていませんがたぶん問い合わせを受けた側にも「今友軍から問い合わせを受けたよ」という知らせがあるんでしょう。



 銃にはグレネードランチャー等も付属していて紛らわしいですが、基本的にこのシステム(問い合わせ装置グループ)は赤で囲った部分のさらに一部であるはずです。青の矢印部分は何なのか不明で、このシステムと無関係なのかも知れませんし、上の使用状態の写真と比較すると起倒式のアンテナのようなものかも知れません。

 技術的にはさほど困難とも思えず、むしろ今まで何故こういうものが実用化されてこなかったのか不思議にさえ思います。サバイバルゲームをやったことがある人なら実戦でも同士討ちの危険が高そうだということは容易に想像できるはずです。

 ただよく考えるといくつかの疑問も生じます。応答装置はどのように使用者に味方であるとの情報を伝えるんでしょうか。ランプが点灯する等の方法だと夜間屋内戦闘において敵に位置を悟られる恐れがあるでしょうし、音だと状況によっては聞き取れないこともあるでしょう。かといってあまり大きな音を出すのも当然まずいはずです。また原理的に、そして「一部は窓ガラスを通してさえ達成される」という書き方からしても、濃いブッシュの先にいる相手、また屋内のコーナーの向こうにいる相手を確認することは難しいと思われます。敵の向こうに味方がいる、という状況では判断を誤る可能性も考えられますし、敵味方が入り乱れ、多数の問い合わせや応答が行われている状態では無線による別の確認の結果が受信されて判断を誤ることがないのかという心配もあります。このシステムによって知ることができるのは相手が味方だという事実だけであり、その確認ができなかった場合味方であるのに確認に失敗したのか、あるいは敵であるのかは分からず、また状況によっては無関係の第3者やこの装備を持たない味方(後方支援要員など)という可能性もあるわけです。そうした時、手がかりがない場合よりもこの装置を使用して応答がなかった場合、「敵だろう、撃ってしまえ」という誤った判断をしやすくなる恐れもあるでしょう。

 さらに、訳文ではいまいち意味が不明なイギリスからの批判というのはこれに関係するものかも知れませんが、暗号情報を多くの国で共有したらどこからその情報が漏れるか分からず、それを悪用すれば敵が一時的には(例えば大規模な奇襲攻撃に際して)優位に立てることになってしまいます。まあ現実的には現在NATO諸国が対決する可能性があるのは高度な技術や装備を持たない途上国のゲリラやテロリストたちであって、そんな可能性は小さいでしょうが。

 そして現在でもさまざまな電子機器、バッテリーを携行しなければならず、負担が増加している現在の兵士にさらにこのシステムを加えることの問題も考えなくてはなりません。確かに有効な場合はあるでしょうが重量増加の負担やコストに見合うほどかどうかはまた別の判断になります。もしアメリカを含むNATO諸国が採用すれば自衛隊も採用を検討することになるでしょうが、果たしてこのシステム、広く普及するんでしょうか。














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