その1.何故この機種を?

 誰もがきっと「何故この機種を?」と思うでしょう。従来私がモデルアップしてきたのは大メーカーが作っていない製品であり、その後大メーカーが製品化したものはあっても、機種決定時点ですでに大メーカーが製品化を済ませていたものは1つもありません。頑住吉が手作りで原型を作り、プラキャストを主な素材としてモデルアップするガレージキットは当然のことながらグレード面でどうしても量産品に劣り、競合したら売れないのは分かりきっているからです。しかもこの機種はモデルガン、コッキングガン、ガスガンと現用の製品が3つも揃っています。それでもこの銃を作ろうと思ったのには理由があり、この路線でモデルアップすればある程度売れるだろうという見込みがあったからです。機種決定にあたっての経緯、どういう製品であるのかを順次説明していきたいと思います。

 きっかけは「知識の断片」で内容を紹介している「Faustfeuerwaffen」でした。あの本でモダンな構造を持つオートピストルの第1号として紹介されたシュワルツローゼM1898について調べているうち、この銃をモデルアップするとしたらどういう形でできるだろう、と考えるようになり、非常にいいアイデアと思われるものが浮かびました。しかしいくらなんでもこの銃はマイナーすぎる、他の銃にこのアイデアを応用できないか、と考えが進み、理論的にはこのアイデアは全てのショートリコイル式ピストルに応用できる、という結論に至りました。しかし実際には精度、剛性の低いプラキャスト製ガレージキットで実現するには難易度に差があり、例えばティルトバレルは事実上無理だろうと思えました。最も難易度が低いのが十四年式のシステムであったわけです。当初はほぼ同様のシステムを持ち、大メーカーがまだ製品化していない南部式をモデルアップするつもりでしたが、南部式はボルト後部の菊状の模様、曲面に全面チェッカーが入ったグリップ、タンジェントサイトなど造形の面で難易度が高い部分が多く、全く初めてのギミックと組み合わせるのは冒険過ぎると思われました。そして前述のようにすでに量産品が普及している機種であっても、この路線でモデルアップすれば受け入れられるはずだ、と思ったわけです。もちろんこれには「黒くて排莢する十四年式のモデルガンはない」、「日本物はマニア人気が高く、よく売れる傾向にある」という条件も手伝ってのことであり、もしこれがガバメントとかP38であったら製品化には踏み切れなかったでしょうが。

 今回はまず新製品の特徴をお知らせします。

●基本的には従来と同じ、1発のみブローバックのような動きをして排莢する擬似ブローバックモデルです。
●従来のモデルはスライドやボルトが閉鎖状態で固定されており、トリガーを引かないと引くことができませんでしたが、新ギミックではそのまま引くことができます。
●従来のモデルではショートリコイルは省略されるか(九四式拳銃)、いわゆるうそんこ(M1900)でしたが、新ギミックでは実銃通りのロックドショートリコイルです。当然バレルを前に引きながらスライドやボルトを引いても引けませんし、ホールドオープン状態でバレルを前に引こうとしても引けません。
●トリガーを引くとまずバレルまたはバレルと一体のバレルエクステンションが後退し、これにより実銃通りのロックが解除され、スライドやボルトが後退して排莢が行われるという、「うそんこショートリコイル」を組み込んだ量産品のブローバックモデルより(この点1点だけに限っては)リアルなプロセスが進行します。
●従来品ではフルサイズのマガジンが使えず、短いマガジンで我慢するしかありませんでしたが、新ギミックではフルサイズのマガジンが使えます。

 ここまでは新ギミック一般の性質です。次にこの製品に限っての特徴を示します。

●マガジンと木製グリップはハドソン製モデルガンと共用可能に作りました。金属製マガジンを使えばボルトがマガジンフォーロワにあたるという実銃通りの形でホールドオープンしますし、当然重量アップにもなります。また木製グリップを苦労して自作する必要がありません。言うまでもありませんがハドソン製品から型取りして複製したパーツは1つもありません。
●カートはリムの強度を増すため後端に0.3mmプラ板を貼って厚くしたものの、実物ダミーからのリアルな複製品です。
●マニュアルセーフティはライブです。

 かなりヒントを出しているのでどんなギミックであるのかすでにお分かりの方も多いでしょう。アイデアが浮かんだ時点では、世が世なら、つまりモデルガン全盛時代ならマルイの「作るモデルガン」のさらに下の入門機種として量産化されてもおかしくなかったほどのグッドアイデアだと思われました。しかし、私が見落としていたポイントもあり、残念ながら新ギミックは従来品に劣る点を1点だけ抱えることにもなりました。もしこの時点でその点まで見抜ける方がいたらちょっと凄いと感心します。

続く




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