その2.どういうシステムか

 すでにお分かりの方も多いとは思いますが、どういうシステムかを説明します。従来品同様バレル内に強いスプリングがあり、ダミーカートを入れて閉鎖するとこのスプリングはカートを介して圧縮され、閉鎖機構(スライドやボルト)を後方に強く押します。従来品では通常の銃とは役割が異なるシアを設けて後退しようとする閉鎖機構をひっかけて止め、トリガーを引くと閉鎖機構が解放されて強いスプリングの力で後退して排莢、その後弱いリコイルスプリングの力で閉鎖機構が前進する、この際はカートはもうないのでバレル内のスプリングは圧縮されない、というシステムでした。新ギミックでは全く実銃通りの方法で閉鎖機構をロックします。閉鎖状態では閉鎖機構はバレル内の強いスプリングの力で後方に押され、一方バレルは前方に押されています。これは実銃の、閉鎖機構が発射ガスの圧力で後方に押され、一方バレルは抜弾抗力によって前方に押されるという状態と近く、要するに撃発の瞬間のような状態です。実銃では発射反動によってバレルとスライドがロックされた状態のまま共に短距離後退してロックが解除されますが、新ギミックでは当然発射反動はなく、放って置けば閉鎖状態が持続し、これが装填状態となるわけです。ここでトリガーを引くことによってバレルと閉鎖機構を短距離後退させてやります。するときっかけが反動ではなく指の力であるという点を除けば実銃と全く同様にバレルと閉鎖機構のロックが解除され、閉鎖機構が後退するわけです。

 種明かしをすれば「なあんだ」と言われてしまいそうですが、これを思いついたときは我ながら非常にいいアイデアであると思いました。前回書いたように、理屈上このアイデアは全てのショートリコイルに適用できるはずです。ただ、ティルトバレルの場合、精度の低いプラキャスト製キットで閉鎖機構をスムーズに動かすためにはフレームと閉鎖機構の間など各パーツのフィットをかなりルーズにする必要があり、このガタによって勝手にロック解除されてしまうおそれがあります。また九四式やモーゼルなど独立ロッキングブロックをフレームで支えるタイプにも同様の問題があります。クーガーなど回転バレルは比較的楽そうですが「あやつるカーブ」まわりの造形が困難そうです。ベレッタ92系などのバレルで独立ロッキングブロックを支えるタイプも比較的楽そうですがロッキングブロックのパーツ形状やサイズにちょっと難点がありそうです。結局バレルエクステンションで独立ロッキングブロックを支えてボルトをロックする十四年式のシステムが最も難易度が低そうだと判断したわけです。

 当初はトリガーの力でバレル(エクステンション)を後退させ、その後トリガーの引ききりによってバレルとトリガーの関係が断たれるという形にすることを考えました。これなら理屈上、「バレルと閉鎖機構が一緒に短距離後退する→ロックが解除され、閉鎖機構が後退、排莢する。ほぼ同時にバレルとトリガーの関係が断たれる→バレルは復帰しようとするが閉鎖機構が後退しているうちは実銃同様前進できず、閉鎖機構の前進終了直前に共に前進、完全閉鎖となる」という実銃通りの経過が再現できると考えたわけです。この理屈には何の誤りもありません。おそらく東京マルイの「作るモデルガン」程度の精度と剛性を持った製品なら充分この線で再現できるはずです。しかしガレージキットの原型製作の途中、この場合これでは上手く作動しないという結論に達しました。プラキャスト製ガレージキットではあまり強いスプリングが使えません。最も強いバレル内のスプリングもさほどは強くできず、これによる閉鎖機構の後退を邪魔しないためにはリコイルスプリングをかなり弱いものにせざるを得ません。一方こういうシステムにすれば、トリガーとバレルの関係が断たれた後、バレルを復帰させるリターンスプリングが必要になります。十四年式の場合は元々これがあるのでスペース、配置等には問題ありませんが、閉鎖機構が後退しているうちに引ききりによってトリガーとバレルの関係が断たれ、スプリングによってバレルが復帰しようとすると、ロッキングブロックが上昇しようとして閉鎖機構の前進にブレーキをかけてしまいます。この場合のガレージキットに使える弱いリコイルスプリングではこの抵抗に負けて閉鎖機構は停止してしまい、閉鎖できません。おそらく1挺1挺多くの手間をかけて調整すれば何とかなるだろうとは思いますが、ある程度安価で量産し、少なくとも一定程度の期間信頼性を持って作動させるのは無理だと判断しました。そこで、残念ではありますがトリガーとバレルのディスコネクトは断念し、トリガーをバレルに固定しました。つまり、「バレルと閉鎖機構が一緒に短距離後退する→ロックが解除され、閉鎖機構が後退、排莢する。→閉鎖機構が前進、閉鎖するがバレルは短距離後退したままなので閉鎖機構はロックされていない→トリガーを放して初めてバレルと閉鎖機構が共に短距離前進し、閉鎖機構はロックされる」という経過になります。また、同じ理由から、従来品と違ってトリガーを引かなくても閉鎖機構を後方に引くことは確かにできますが、引かれた閉鎖機構はスムーズに前進しません。前進させるには手でアシストするかトリガーを引いてやる必要があります。
 十四年式の場合フレーム後下部に穴があります。資料によれば点検穴ではなく切削加工の都合であるとされており、理由はどうあれ実銃では異物が混入して作動不良の原因となるおそれがある欠点だったと思われますが、製品としてはボルトを引くと実銃同様ここからロッキングブロックが上下動するのが見え、私はこれでもかなり面白いギミックを持った製品にできたと考えています。ただ、これなら従来のギミックの方がましと考える人もいるでしょう。

 この欠点は原則どのショートリコイルシステムでも同様であると考えられます。ただし私の考える範囲では1つだけ例外があります。それはトグルジョイントです。いまさらルガーをモデルアップしてもダメでしょうから、やるならボーチャードということになるでしょう。というわけでボーチャード製品化の可能性が強まっています。ベレッタM1951等他のショートリコイルの銃をモデルアップする場合、新旧どちらのシステムを選ぶかは今回の製品の評価を見て決めることになろうかと思います。






戻るボタン