二十六年式拳銃製作記

 ご存知の通り二十六年式は初の国産制式軍用拳銃であり、「二十六」は明治二十六年、つまり1893年を表しています(実際の制式化は翌年)。偶然ですが前作のボーチャードピストル(C93)と同じ年式ということになります。日露戦争等で主力軍用拳銃として使用されたのはもちろんですが、1926年に十四年式拳銃が登場した後も長期にわたって生産が続けられ、1935年に生産は終了したものの終戦まで補助的に使用が続けられました。生産数は約6万挺とされています。意外ですが生産数は将校用の補助拳銃だった九四式より少なかったんですね。

 以前から作ってみたかった銃であり、できるだけリアルに特徴を再現してみるつもりです。



 現在メカがほぼ固まったところです。実銃通りダブルアクションオンリーでハンマーが動き、シリンダーが連動します。ブレイクオープン、カートの出し入れもできますが、エジェクターの再現はまったく不可能なので省略します。トリガーガードを下げることにより工具なしでサイドプレートがオープンできる特徴も再現します。実銃ではトリガーガードはそれ自体の弾性によって後部が保持されますが、キャスト製キットでは保持が確実にできないのでロック(特別の操作は必要ないクリック)を設けます。ただし外観はほとんど崩さない形式にできるはずです。

 当時としては珍しくない特徴ですが、二十六年式には独立したシリンダーストップがなく、トリガーの一部である突起が兼用しています。製品でもこれに近い形にしますが、一工夫を盛り込みました。アイバージョンソンの時、このシステムを再現しようとしたことがあるのですが、精度の低いガレージキットにおいてシリンダーを確実に停止させるにはシリンダーストップの突起をできるだけ早く、大きなストロークで上昇させる必要があります。ところが上昇が早すぎると突起がシリンダーに早く触れ始め、回転を阻害してしまいます。

http://www.littlegun.be/arme%20britannique/webley/aa%20images%20webley%20fr.htm

 このためこうしたトリガーにシリンダーストップの突起を設ける銃の中にはこのようにシリンダーストップ用のノッチを思い切り長くし、ストップ位置の直後にはすぐノッチが始まっているような形にしているものもありますが、アイバージョンソンや二十六年式などをこのようなシリンダーにしたら外観を崩してしまいます。このためアイバージョンソンの時にはこのシステムの再現は断念しました。

 今回はこのシリンダーストップ用の突起を弱いスプリングの力で上向きのテンションがかけられた可動部品としました。これによりシリンダーストップが早く上昇してもシリンダーへの摩擦は最小限となり、より確実な作動が得られます。まあこれは比較的大型の軍用拳銃だから可能だったことで、アイバージョンソンの時にはどっちみち不可能でしたが。

 進行状況は随時このページでお伝えする予定です。

4月20日



 だいぶ形になってきました。しかしシリンダーを正確に回転、停止させるという、当然困難が予想される部分が案外簡単だった一方で、予想外の困難にぶつかりました。

 まず1つ目はバレルラッチです。過去何度もGUN誌で解説されているのでご存知の方が多いでしょうが、二十六年式のバレルラッチの後端には後ろ向きの突起があり、一方ハンマー前面にはくぼみがあってハンマーダウン時、突起がくぼみにはまるようになっています。日本のトイガンマニアにたぶんいちばんなじみのあるブレイクオープンリボルバーだと思われるエンフィールドにはご存知の通りこんなしくみはありません。なくていいものならわざわざコストをかけてこういう形にはしないわけで、エンフィールドには不必要なのに二十六年式にはこれが必要であるわけです。二十六年式のバレルラッチは原理的にロックが不確実で、ロックがかかっていても強引にブレイクオープン方向に力をかけるとフレームとバレル(と一体になったフレームのブリッジ部を形成する部分)の間に隙間が開いてしまうようです。発射時にこれが起きては困るので、ハンマーが倒れきった瞬間にはバレルラッチとハンマーのかみ合いによって補助的にバレル、フレームをロックし、隙間が開くのを防いでいるわけです。鉄で精密に作ってもこうなのですから、精度や剛性の低いガレージキットでこれが起きないわけがありません。シリンダーを回すとき、シリンダーハンドによってラチェットが上に押されますが、この力だけでバレル、フレーム間に2mm近い隙間が開いてしまいます。寸法やパーツの傾斜等を詰めてこれを防ごうと努力しましたが、不可能であるという結論に達しました。過去アイバージョンソン、モーゼルC78でブレイクオープンリボルバーを体験していますが、こういう問題は起きておらず、これは明らかにシステム自体の問題です。そこでやむを得ずバレルラッチのシステムを変えることにしました。実銃のバレルラッチは前に軸があって後方を上に回すことで解除となりますが、製品ではバレルラッチがストレートに前後動し、後方に引くことで解除となります。これは実銃でも採用可能なシステムであるはずで、もしその時にはパーツ間の接触部に傾斜を設け、バレルを戻せば自動的にラッチがかかるようにすることが容易です。しかし製品でそれをすると実銃にない傾斜部がどうしても露出してしまいます。このためバレルを戻すときにもいちいちラッチを引く必要が生じました。ちなみにガレージキットの精度でバレルラッチの突起が正確にハンマーのくぼみにはまるように作るのは無理で、正確に再現すれば突起が破損してしまいます。そこでハンマーはリバウンド位置までしか倒れないようにしました。

 次に、観音開きになるフレームにも意外な部分に問題がひそんでいました。グリップ、サイドプレート間に隙間がないように、かつヒンジをしっかり作ると、サイドプレートを開くときにどうしてもサイドプレートがグリップにこすれてしまいます。製品でこれをやると必ずグリップの塗装がはがれてみっともないことになります。サイドプレートを閉じている時にはきっちり固定されるがちょっとでも開くとぐらぐらになって意図的に上に持ち上げて回せば接触しない、という方法でなんとかなりそうですが、やはりリアリティを損なうことになります。

 いずれも残念なアレンジではありますが、総合的にこれがいちばんましな選択であると判断しました。通常状態の外観はほとんど崩さないのでご勘弁いただきたいと思います。

4月25日



 まもなく仕上げに入ります。

 グリップのチェッカリングも問題の1つです。いちばんチェッカリングを彫りやすいのはもちろん平面です。次に簡単なのはガバメントのようなゆるいカマボコ型の曲面で、曲面がきつくなるほど難しくなります。二十六年式のように断面が円というきつい曲面はそれだけでも難しいですが、この場合さらにバナナ型に湾曲しているのでもっと難しくなります。まあ一応チャレンジはしてみるつもりですが、製品では少数ながら実在する水平のグルーブ状滑り止めになる公算が高いです。

5月2日



 仕上げ作業中です。グリップはやはりグルーブにしました。グリップがグルーブの銃は基本的にトリガーガードの滑り止めもグルーブであり、またシリアルナンバーにも範囲があるので、どちらかに決めないとおかしなことになるからです。

5月16日



 昨日試作第一号が完成しました。と、いうことで、

 気泡が抜けにくいパーツがあるなど手間がかかりますが、大きな問題はないようです。作動も完璧です。ランヤードリングはアルミ製を使ってみましたが、この画像でもちょっと分かるようにこすれてすぐ地が出てしまうのでタコ糸を鋳込んだプラキャスト製に変更しようかと思っています。シリンダーストップを早期に上昇させているのでシリンダーにこすれた跡がついていますが、これはまあしょうがないでしょう。カートはまだ未完成ですが、.38スペシャルの実物ダミーを切り詰めるなど手を加えて複製したものを使う予定です。中田商店製のホルスターに入りますが、皮が硬くて閉じようとする力が強いので入れるのが大変です。金属製ならえいっと押し込んでしまえば問題ないんでしょうが。価格は3挺くらい作ってから決めますが、23,000円だったライトニングよりできれば多少安くしたいです。ちなみに今回も完成品のみの販売とします。










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