9mm機関けん銃について思うこと

タイトル

9mm機関けん銃と 同クラス最高の評価を受けているMP5K

 9mm機関けん銃について考えるにあたって、まずサブマシンガンの歴史をふりかえってみたい。なお、ここでの世代区分は便宜的なもので一般的な区分とは異なっている。

第1世代:トンプソン、ベルグマンなど、主にスチール削り出し工法で作られ、木製ストックを装備しているもの。生産に手間がかかり、コストも高い。活躍した時期は主に第一次大戦から第二次世界大戦前半まで。

第2世代:MP40、STEN、M3グリースガン、PPSh43など、日本を除く第二次世界大戦後半の主要参戦国が大量に使用。主にスチールプレス工法で作られ、コストが安く、短時間に大量生産できる。日本は最後まで第1世代の百式機関短銃を使用し、第2世代のサブマシンガンを開発すらしていない。

第3世代:1950年頃登場したUZIと、大量に出現したそのコピー、亜流製品群。バレル後部をボルト前半が包み込むテレスコピックボルトを採用し、全長は短く、バレルは長い。(一般的にはこれを戦後第1世代ということが多い)主にプレス工法で作られている点は第2世代と同じだが、より安全性に配慮してある。

第3.5世代:基本的な性格はUZIと大差ないが、グリップを握りやすくするためにマガジンをグリップ内に収めるのをやめてポストUZIを狙ったベレッタM12S、ワルサーMPKなど。1960年ごろ登場したが、あまり成功したとはいえない。ちなみに日本はこれらよりやや遅れてニューナンブM66を開発した(試作のみ)が、これは基本的に第2世代の銃である。

第4世代:クローズドボルト、ロック機構を備え、従来不可能だった100m程度での狙撃が可能なほど命中精度が向上したMP5シリーズ。主にプレス工法で作られているが、構造が複雑なためコストは従来品よりはるかに高い。世界最高のサブマシンガンという評価を不動のものにしたのは1980年代。この地位を脅かす存在は今だに出現していない。

新世代:プラスチックを多用し、小口径高速弾を採用したH&K PDW、FN P90などが出現しているが、これが第5世代となるか、第3.5世代のように定着しきれず終わるかはまだ未確定。

 9mm機関けん銃は、工法的には第1世代、機構・レイアウト的には第3世代のものだ。日本のサブマシンガンはことごとく遅れているという指摘は外れているだろうか。しかも時代の趨勢からの乖離はより極端になっている気すらするのだが。


 サブマシンガンが軍用の第1線兵器だったのは第2次大戦までで、拳銃弾より強力な弾薬を容易にフルオート射撃できるアサルトライフルが普及してからは、軍用サブマシンガンの価値は激減した。ただ、警察用としては貫通力が低いため2次被害を出す可能性が低いサブマシンガンは有用で、MP5はその目的にぴったりだったから大成功を収めることができた。9mmパラベラム弾は軍用としては射程が短すぎ、ボディーアーマーなどに対する貫通力も低すぎてアサルトライフルを装備した敵に対抗することが困難だ。サイレンサーの効果が高い拳銃弾を使う特殊部隊用はいまだに需要があるが、これは敵にこちらから接近して一気に殲滅する攻撃用であり、防御用の9mm機関けん銃とは用途が違う。

 最近のサブマシンガンは2つに分化しているようだ。ひとつはMP5と同じ警察、対テロ用のもの。これは従来型の拳銃弾を使い、コストが高くても命中精度が高いものを目指し、クローズドボルト、ロック機構を設けている。ステアーTMPはこれに含まれる。
 もうひとつは軍用の補助兵器(個人防御兵器)だ。大きく重いアサルトライフルが装備できない兵が万一のとき自衛に使う。これは貫通力、射程の大きい小口径高速弾を使い、比較的シンプルで小型軽量なもの。H&K PDW、FN P90などがこれに含まれる。

 9mm機関けん銃は明らかに後者を目的とした軍用サブマシンガンだ。主要国がこうした目的に従来型の拳銃弾を使用するサブマシンガンを新規開発し、採用したという例は少なくともここ20年くらいのうちにはないはずだ。自衛隊の場合専用の特殊弾薬をこの銃だけに使用するというのは現実的でないというのはわかる。しかしそれなら89式小銃の折り曲げ銃床(またはなし)、短銃身モデルを開発すればいいのではないか。この方が生産、部品管理、訓練上も合理的で、威力も大きい。マガジンの交換もできるし、銃を他の兵が使用することも容易だ。この場合全長は9mm機関けん銃より長くなるが、2.8kgという重量は大差ないものになるはずだ。

 9mm機関けん銃は大部分がスチール削り出し工法で作られており、特にアッパー、ロアレシーバーは巨大な鉄の塊から削り出している。あまりにも不合理な印象だ。プレスよりタフになるのは確かだが、この銃は長時間酷使するタイプの銃ではなく、そんなタフさが必要とは思えない。それなら89式をもっとタフにする方が先決だろう。しかも削り出し加工はきわめて複雑に行われており、必然性が感じられない。もしどうしてもこういう外形が必要だとしても、もっと簡単な削り出し加工物に型で量産できるプラスチックの造形物をかぶせればすむのではないか。この結果「高価であることが唯一の欠点」というMP5の2倍以上の価格になっている(これはアメリカでMP5が市販されていたときの価格との比較。公用に納入する場合はもっと安いらしいから差はさらに開く)。
 兵器の国産技術を保持しておくことが国家の危機管理上必要だという意見もある。一理はあるが、それなら仮に少数生産のためにかえってコスト高になってもプレス工法で作り、有事の際は短時間で大量生産できるようにしておくべきではないのか。どんな場合にも量産に向かないスチール削り出しで銃器を国産する能力を保持しておく必然性があるのだろうか。


 細かいデザイン上の疑問も多い。こんな大型のフラッシュハイダーが必要なのだろうか。9mmパラベラムを使用するサブマシンガンで、こんなものをつけている例は見たことがない。ということは有効ではないということではないのか。せめてフレーム前端と同じ長さでいいのではないか。またスリットの長さがそれぞれいちいち違う非常に複雑なデザインは意味があるのだろうか。

 グリップは明らかに左利きの方が握りやすい。それなら左利き用かといえばセレクター、マガジンキャッチは左利きには使いにくい。ちなみにエジェクションポート周辺の隆起がケースディフレクターの役割を果たすかどうかは不明。

 フォアグリップが太いボルトで前、中、後の3箇所で固定されている。こんな必要があるとはとても思えない。また、少なくとも3種類以上の六角レンチで回すネジ、プラスドライバーで回すネジ、指で回せるネジなどが混在しているのも疑問。

 常識的には、完全固定サイト、最近は必須アイテムになりつつあるアクセサリー固定用マウントレールの不備、デザイン上サイレンサーが装着しにくい(バレルナット程度の細いものでないとフレームに干渉する)、といった点は問題だが、この銃は遠距離を精密に狙うことも、特殊作戦に攻撃用として使うことも考えていないようなので問題ないか。だが、そういう使い方もできるものにしておいて損はないはずだ。

 発射速度が速すぎるのではないか。毎分1100発では25連マガジンが一瞬で空になってしまう(大容量マガジンの予定はないらしい)。一気に敵を殲滅する攻撃兵器ならともかく、ある程度反撃を持続する必要のある防御兵器としては疑問だ。また、攻撃用の特殊兵器は高度に訓練された射手が使用するが、万一の備えといった性格の銃ならコントロールしやすい発射速度に調整しておく方がいいだろう。


 以前モデルアップしたH&K PDWは、9mm機関けん銃と比べて、はるかに軽量、スリムで、しかも収納時には邪魔になりにくい伸縮式ストックを装備している。左利きにも充分配慮され、アクセサリー、サイレンサーも装備できる。有効射程ははるかに長く、ヘルメットやボディーアーマーを貫通することもできる。発射速度も速すぎず、大容量マガジンも用意されている。全体に洗練されたデザインで、ひっかりが少ない。公表されていないが、価格もはるかに安いはずだ。もちろんPDWはバトルプルーフされておらず、意外な欠点がある可能性も充分ある(それは9mm機関けん銃も同じだが)。だがコンセプト自体に大差があるのは否定しようもないだろう。 


対案

  1. 89式小銃のストックなし、銃身長20cmくらいのコンパクトモデルを開発する(これなら大型フラッシュハイダーが必要だろう)。
  2. MP5等最高レベルのサブマシンガンをライセンス生産し、警察用、対テロ用としても使う。
  3. 9mm機関拳銃をクローズドボルト化し、発射速度を毎分800発程度まで抑え、形状を単純化してコストを下げる(1個1個削り出す加工なら途中から仕様を変えるのは比較的簡単なはず)。

 実銃に関してはまったくの素人だけれど、我々の税金で装備され、もしかしたら我々の安全を直接守ることになるかもしれない大事な兵器なので、モデルアップしながら考え、感じたことを率直に書かせてもらった。もちろん事実誤認の部分があれば訂正させていただく。

 

3月11日追加
 いくつかご意見をいただいたことも含め、追加したい。
 まず、六角レンチを必要とするネジについて。スポーツ銃、競技銃はともかく、六角レンチを必要とするネジは通常あまり軍用銃には使われない。そもそも軍用銃にはネジをなるべく使わないのがよい(工具なしで分解、組み立てができ、ネジ紛失の危険がない)わけで、それは約100年も前からの常識だ。使うにしてもマイナスドライバーで回せるネジが主に使われる。これなら緊急時にドライバーがなくても、ナイフなど適当な金属製品の先で回すことも可能だし、多少サイズの適しないサイズのドライバーでも回すことができる。これに対し、六角レンチで回すネジは、ぴったり合うレンチがないと回すことがまず不可能だ。軍用銃である以上、敵に包囲された中で緊急に銃を修理しなければならない、という事態もありうるわけで、外観上ちょっとかっこよさげな六角レンチ用のネジを多用する設計には疑問がある。

 コントロールを容易にするために発射速度を落とす案の他に、フルオートを廃止してセミ・3発バーストのみにする方法もあるだろう、というご意見もいただいた。確かにそういう方法もある。オープンボルトの銃に3発バーストを組み込んだ例は知らないが、特別な問題はないはずだ。ただ、3発バーストより発射速度を落とす機構(レートリデューサー)組み込みの方が単純に設計しやすいはずだとは思う。

 以前のコラムで紹介したボフォースのCBJ-MS PDWは、バレルの交換によってサボ弾を使用できるそうだ。これをヒントに、9mmのサボの中に6mm程度のスチール尖頭弾を内蔵し、バレル交換不要で使用でき、ヘルメット、ボディーアーマーや遮蔽物などに対する高い貫通力を持つ特殊弾を開発するという方策も考えられる。ただ、専用小口径高速弾が流行のきざしを見せる中で当然こういう方法があってもいいはずなのに、そういう話は聞かないので、何か問題があるのかも。

 全体レイアウトの問題もある。この銃はUZIをデザインのベースとしている。UZIが採用したテレスコピックボルトは、銃全体は短く、バレルは長くすることができるのが長所だ。それなのにこの銃はバレル前方に他の物が大きく突き出し、全長に比べ銃身長が短くなっている。下の図のようなデザインだが、実際のバレルはバレルナットの少し前までしかないらしい。


イラスト1

 下のようなデザインにすれば、バレル、照準長ともに長くなり、性能や機能が向上するはず。これなら全長は短く、バレルは長いという意味のあるデザインになる。バレルが長くなればフラッシュハイダーも自然に小さいものでよくなるし、サイレンサー装着の支障もなくなる。ついでにアッパーレシーバー前側面にアクセサリー装着用のレールを設置することもできる。9mm機関けん銃のデザインはやはり不合理な気がしてならない。

イラスト2

11月10日追加
 関係者の方からご指摘をいただきました。アッパーレシーバー、グリップフレームはアルミ製だそうなので、この点は訂正させていただきます。

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