2.11.5.4 ツーピースのトリガーバーを持つダブルアクション銃

 ロシア製のマカロフピストルは、ちょうど今論評したものとは、トリガーバー(3)に関節結合されたコックレバー(4)の介入方法が異なるダブルアクションシステムを使っている(図2.11.21を見よ)。(a)および(b)(俯瞰)ではこのメカニズムがデコックされた状態で表現されている。コック部品(6)はハンマー(5)のセーフティレスト内をグリップしている。トリガー(2)はフレーム(1)に1本の回転軸を使って関節結合され、トリガーバー(3)とトリガーの穴内をグリップするピンによって結合されている。他の端ではコックレバー(4)が回転可能にトリガーバーと結合されている。トリガーバーはフレーム内にフライス加工されたノッチ(8)内で誘導される。このノッチはトリガーを引いた際トリガーバーとコックレバーが下方に逸れるのを防ぐ。

 ハンマーは左下にコックレバーのフライス加工部内をグリップする突出部を持つ。図c)で示されているように、トリガーを引いた際ハンマーは突出部を使ってコックレバーによって右へと回転させられる。コック運動の最後に、右前方に位置するコックレバーの斜面が(7)で表されているコック部品(6)の突出部に当たる。この後さらにトリガーを引いた際、コックレバーはハンマーの突起から外され、この結果ハンマーはハンマースプリングの圧力下で左へと急速に進む。







図2.11.21 ツーピースのトリガーバーを持つダブルアクション銃(マカロフ)

 ハンマースプリングおよびコックレバースプリングとしては(図示されていない)板バネが使われている。この板バネはフレーム内マガジン後方に収納されている。このコックレバースプリングはコックレバーを時計方向に回転させようとしている。このスプリングは同時にトリガースプリングとしても役立つ。

 2.11.5.3で論評したシステムと今回のシステムのトリガーキャラクターの比較は示唆に富むものであり、そしてなぜマカロフがコックレバー(図2.11.21における4)を採用したかを理解させる。図2.11.22では両方のシステムの本質が表現されている。Pはハンマーの回転軸である。ハンマーの「連れて行くスパイク」はコック時、弧上を矢印方向にそれぞれ約80度動く。これは分かりやすく説明するために等しい20度の4段階に分割されている。ハンマーの運動はa)およびb)ではトリガーバーの運動によって、c)ではトリガーバーに関節結合されたコックレバーによって引き起こされる。トリガーバーはどのケースでも矢印Dの方向に動く。a)ではデコックされたハンマー上でのトリガーバーの接点は、回転ポイントPから垂直に下に位置する。強まっていくハンマースプリングの圧力に逆らってハンマーをレットオフポイントまで回転させるためには、20度から20度まで進捗する小さなルートを進むことになる。0において開始されるルート軸を見るようにである。抵抗は大きくなり、トリガーはこの時どんどん小さくなるルートを進む。トリガー抵抗は望まれない急斜面のキャラクターを持ち、また抵抗が大きくなる。

 ハンマーがデコックされれている時のトリガーバーの接点をb)で示すように約40度右に位置させると、トリガーを引いた際にトリガー(トリガーバー)が進むルートは実にコンスタントになり、またPからルート軸への垂直線にシンメトリックになる。だがそのような配置の場合、トリガー抵抗もトリガールートが進むにつれ大きくなる。ハンマースプリングの上昇する圧力ゆえにである。ただし回転およびストロークのほとんどコンスタントな比率ゆえa)ほどは急上昇しない。

 c)はマカロフシステムの原理を示している。トリガーを引いた際、トリガーバーの結合軸とコックバーの中央ポイントBは、右のポジション(デコック)から左の位置(コックされ、レットオフ寸前)まで動く。この際、コックバーのハンマーへの接点Aは下のポジションから上のポジションに回転させられる。ルート軸に見られるように、トリガーバーが20度の回転運動のために進まねばならないルートは強まる回転と共に大きくなる。これは、ハンマースプリングによるトリガーへの抵抗が強まるのに際し、長い仕事ストロークを進まねばならないことを意味する。つまりトリガー抵抗は程度の差はあれトリガーを引いている際コンスタントに留まる(この場合ハンマーストロークは分かりやすいように80度として表現されている。たいていの構造は45〜60度のルートを使用している。しかしこのことは原理に影響しない)。







図2.21.22 ワンピースの(aとb)およびツーピースの(c)トリガーバーを使った場合のトリガー抵抗


 私にとっては非常に難解な内容で、正直細部まで完全には理解しきれていませんが、大筋はこういうことでしょう。

 マカロフのダブルアクションシステムはユニークなものであり、通常のトリガー→トリガーバー→ハンマーという力の伝達ではなく、トリガー→トリガーバー→コックレバー→ハンマーという力の伝達になっていて、つまりパーツ数が1つ多くなっています。マカロフという銃は基本的にワルサーPPを拡大強化してロシア流のアレンジを施したものですが、全体的にPPよりシンプルになっています。それにもかかわらず余計なパーツが1つ増えているのには理由があるというわけです。通常のダブルアクションではほぼ直線運動をするトリガーバーが回転運動するハンマーを直接動かすのでトリガーを引いて行くにつれて力の伝達の効率が悪化することと、メインスプリングが圧縮されてテンションが高まることによってトリガープルが急速に重くなって行きます。一方マカロフではハンマーに追随して回転運動するコックレバーがハンマーを動かすので伝達の効率が落ちにくく、またこのデザインによりメインスプリングのテンション増加分も補正されてずっとコンスタントなトリガープルになるわけです。

 マカロフを3度もモデルアップした私ですが、まあトリガーメカを再現したことはないということもあり、あまりこのトリガーシステムには注目していませんでしたし、こういう特性を持っていることも知りませんでした。また床井氏やターク氏らがこの点に触れた記述をされた記憶もありません。例えばGUN誌1992年7月号の「GUNのメカニズム」でターク氏は「筆者にとってマカロフを撃つのは今回が初めてである。ダブル・アクションのプルは想像していたよりスムーズで比較的軽かった。ワルサーPPK/S、モーゼルHScよりはるかに優れたトリガー・プルである。」また「トリガー・デザインは他に例を見ないユニークなものである」などと書かれていますが、何故優れたプルになるのかといった説明はされていません。

 ただ、マカロフという銃にとってダブルアクション時のトリガープルがコンスタントであることがどれだけ重要なのか、つまりコストアップに見合うほどなのかと問われれば、ちょっと首を傾げざるを得ません。ただ、ダブルアクションオンリーの銃ならばこの方式を検討してみる価値があるかも知れません。





















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