1.12.2 トリガーに関節結合されたダブルアクションシアを持つダブルアクション銃の発達(頑住吉注:ドイツ語ではダブルアクション銃のことを「Abzugspanner」と言います。英語に直訳すれば「トリガーコッカー」です。ダブルアクションシアは「Spannklinke」で、直訳すれば「コッキングレバー」ですが、文中に本来のコッキングレバーである「Spannhebel」も出てきて混乱するので、より分かりやすいようにこう訳します)

 我々はアダムスのあるパーカッションリボルバーが1856年にイギリス軍に採用されたことに言及した。この銃は1851年にパテントが取得されたRobert Adamsの設計に起源を持つ。まず始めにはDeaneのアダムスリボルバーがロンドンにおいてAdams & Deaneで、後にはLondon Armory Companyの改良された型が作られた(Beaumont-Adams-Revolver)。

 図1-34a)はアダムスのダブルアクション銃の原理を、そしてb)はBeaumont-Adamsのダブル発火機構のそれを示している。単純にするため、それぞれシリンダーハンドは省かれている。この構造では、シリンダーハンドはコルトのようにハンマーにではなくトリガー上に、ダブルアクションシアと同じ軸に関節結合されている。小さな矢印は、同様に図示されていないダブルアクションシア(1)とコックパーツ(2 頑住吉注:シア)のスプリングの力の方向を意味している。アダムスのダブルアクションa)の原理は単純である。トリガーを引いた際、コッキングノッチをグリップしているダブルアクションシアが持ち上げられる。ダブルアクションシアはまず始めにはハンマー上にあるが、結局はさらにトリガーを引いた際ハンマーの腹によってコッキングノッチから押し出される。これによりハンマーはコックされた位置から解放される。ダブルアクションはBeaumont-Adamsリボルバーの場合も同じ方法で機能する。発火機構をシングルアクションとしても形成するため、イギリス人F. B. E. Beaumontがコックパーツを加えた(パテントナンバー374。1855年)。

 図1-34b)はコックされた発火機構を示している。この場合レットオフのためには単にコックパーツ(2)がダブルアクションシア(1)によってハンマーのコッキングノッチから押し出される。シリンダーの拘束はトリガー本体上にあるノーズによって行われる。トリガーがその前方の出発位置にあると(a)、阻止ノーズはフレーム内に引っ込む。トリガーを引いた際、阻止ノーズは上方に出て来、シリンダーを対応する切り欠きの端で固定する。シリンダーハンドに対応する歯車とシリンダーハンドは互いに同調するので、シリンダーは阻止ノーズによる拘束まで動き、そしてハンマーがレットオフされる。シリンダーの切り欠きと阻止ノーズは、シリンダーのチャンバーの位置をバレル後方に固定する。このシリンダー回転および拘束のためのシステムは、多くのリボルバーで使われた。例えばナガンのいろいろなモデル、スイスの軍制式モデル78および82、フランスのミリタリーリボルバーChamelot & Delvineモデル1873においてである。
 
図1-34 Adamsのダブルアクション発火機構a)およびBaeumontAdamsダブル発火機構b)の原理図。1はダブルアクションシア、2はコックパーツ。(頑住吉注:いずれも単純なので補足説明は不要でしょう。黒で表現しているのはハンマーおよびトリガーを動かす板バネです。b)は最も単純なダブル、シングルアクション発火機構ですが、現在のものと違いハンマーをコックしてもトリガーは動かず、プルこそ軽いもののダブルアクションと同じストロークを引かなくてはなりません。「現在のものと違い」と書きましたが、ワルサーP99のアンチストレストリガーとは似ていると言えるでしょう)

 コルトリボルバーとAdams & Deaneリボルバーの信奉者の間では、銃の長所、特にコルトのシングルアクションシステムとアダムスのダブルアクションシステムのメリットに関する激しい論争が始まった。イギリスの銃器産業の中心地であるバーミンガムのW. Tranterによる、1853年にパテントが取得されたリボルバー設計も興味を引く理由になるだろう。

 図1-35はTranterモデルのうちの1つを図示している(頑住吉注:こんなのです http://www.gold-net.com.au/archivemagazines/apr20/tranter1.html )。この銃はコルトに対して、Adams & Deaneリボルバー同様シリンダー上で閉じられたフレームによって際立っている。このブリッジはフレームに大きな安定性を与えた。そういうわけでこのブリッジは急速に銃器製造において普及した。しかし特別に注目に値するのはコッキングレバーである。これを使ってハンマーを、トリガーの引きによってレットオフする前に中指でコッキングすることができた。図1-36はこのTranter発火機構の機能を示している。a)ではコッキングレバー(2)は後方に引かれている。コッキングレバー内に回転可能に収納されているダブルアクションシア(4)はハンマー(1)をコッキングしている。この状態で操作者が人差し指で、同様にコッキングレバー内に収納されているトリガー(3)を引くと、ダブルアクションシアはハンマーのコッキングノッチから押し出され、そしてこれによりハンマーはレットオフする。はっきりさせるためにb)はコッキングレバーの断面図を示している。ダブルアクションシア内の小さな矢印は図示されていないダブルアクションシアスプリングの力の方向を表わしている。

図1-36 Tranterリボルバーのトリガーシステム。(1)はハンマー、(2)はコッキングレバー、(3)はトリガー、(4)はダブルアクションシア。(頑住吉注:この銃については「SchlundおよびDimanceaリボルバー」の項目でもちょっと触れましたが、あの記事では機能だけで構造に触れられていなかったのでよく理解していませんでした。私は普通のトリガーとハンマーの関係にコッキングレバーを加えたようなものを想像していましたが、これを見るとコッキングレバーがダブルアクションピストルのトリガーに近く、トリガーは単にレットオフのきっかけを与えるキーといった感じです。シリンダーストップもコッキングレバーに付属されており、当然発射の瞬間コッキングレバーは強く後方に引いたままでなければなりません。図b)ではコッキングレバーの断面図が示されていますが、この図の点線で充分理解できるので省略します。言うまでもなくダブルアクションシアはスプリングによって時計方向に回転するようテンションがかけられています。)

 Deane-Adamsリボルバーおよびコルトネービーリボルバー同様、Tranterリボルバーは弾丸セッターを装備している。この設備は、弾丸は非常にタイトにチャンバーにセットしなければならず、このため素手では装填できないという理由で重要性がある。セットが緩い場合、弾丸はリコイルショックによって前方にずれ、場合によってはシリンダーを妨げる。その上隣の発射薬が、シリンダーとバレルの隙間を通って出た火によって点火される可能性がある。

 このTranterリボルバーは、ある興味深い安全設備を装備している。ハンマーをレスト位置に置くと、ハンマーがここではプライマーに触れることができないようにするため、Tranterは彼の銃にかんぬきを与えた。このかんぬきは、操作者がハンマーを軽く後方に引いた時、1本のスプリングによってハンマーの前に押し動かされる。コッキングレバーを完全に引いた際、このかんぬきはその阻止位置から動かされ、この結果ハンマーはプライマーに当たることができるようになる。このほとんどオートマチック(頑住吉注:セットは手動、解除は自動)なセーフティは、基本的な考え方において、いくつかのモダンなリボルバー(S&W、コルト)、そしてピストル(SIGザウエルおよびワルサーPP、PPK)のそれに似ている。ただしそれらの場合、セーフティは射手の助けなしに銃を相応の安全状態にするが。

 ある他のTranter発火機構は、広範囲に及ぶ重要性を持っている。これは1856年にパテントが取得されたものである。図1-37はこの原理を示している。トリガーとハンマーはダブルアクションシア(1)によって結合されている。ダブルアクション射撃の際、ハンマーはアダムスリボルバーに似た形でダブルアクションシアによってコッキング、レットオフされる。アダムスリボルバーとの差は、ハンマーのコックの際、トリガーも後方に動くことである。これにより、シリンダーはすぐに回転そして拘束される。シリンダーハンドはトリガー上にダブルアクションシアと同じ位置に関節結合されているが、その上さらに上に位置するノーズの形でシリンダーストップを担っている。トリガーの動きとハンマーの動きのカップリングは、ダブルアクションシアがフックを備え、これがハンマーの腹にある切り欠きをグリップすることによって達成される。シングルアクション射撃の際、ハンマーは下に位置するコックパーツ(2)によってコック位置にホールドされる。レットオフの際、コックパーツはトリガーおよびトリガーノーズ(3)の圧力によってコッキングノッチから押し出される。セーフティレストは装填された銃の比較的危険のない携帯を可能にしている。

図1-37 Tranterリボルバー、シングル、ダブルアクション発火機構の原理図。(1)はダブルアクションシア、(2)はコックパーツ、(3)はトリガーノーズ。(頑住吉注:ダブルアクションシアのフックがハンマーの切り欠きにかかり、ダブルアクション時はダブルアクションシアがハンマーを押し上げ、シングルアクション時はハンマーがダブルアクションシアを介してトリガーを後退させるわけです。現在のリボルバーにはほとんど見られないシングルアクション用シアが独立して存在し、トリガーによって直接押されてハンマーをレットオフします。このシステムは以前モデルアップしたアイバージョンソンセーフティハンマーリボルバーに非常によく似ており、唯一と言っていい違いについては後に言及されます)

 このTranter発火機構は多くのリボルバーで使われた。我々はそれをウェブリーのブルドッグ、ハーリントン&リチャードソンおよびアイバー ジョンソンの銃の中に、そしてChamelotおよびDelvigneによるフランスのアーミーリボルバーモデル1873にも変更された形で見いだす。

 ChamelotおよびDelvigneによる発火機構は、1858年にパテントが取得されたベルギー人Chaineuxの設計に起源を持つとときどき主張される。これは特殊な型に関しては当たっているかもしれない。しかし、Chaineux発火機構の原理は、このTranter発火機構に完全に似ている。ただChaineuxではハンマーが歯を備え、ダブルアクションシアがフォークを備え、このフォークがハンマーの歯ををグリップしているだけである(頑住吉注:要するに、「Chamelot & DelvigneChaineuxに似ているのは事実だが、Chaineux自体が単なるTranterの亜流であるから、真の起源はTranterにあると言うべきである」ということです)。同一の機能の場合Chaineux発火機構は製造が難しい。ChaineuxTranterのパテントを避けたかっただけであるというのが妥当と思われる(頑住吉注:「Gabel」=「フォーク」という単語はこの場合の意味上フックと似ていますが、フックは突起が単一で、フォークは複数であるということのようです。後にイラストを示しますが、ダブルアクションシアに2つの突起があり、この突起の間にハンマーの突起が入ってかみ合っているわけです)。

 図1-38および1-39はフランス陸軍に採用されたChamelot & Delvigneリボルバー モデル1873を示している(頑住吉注: http://www.littlegun.be/arme%20francaise%202/a%20chamelot%20et%20delvigne%20fr.htm 下の方に異様な形状のリボルバーが出てきますが、ここで説明されているのは上の方のモデルです)。ダブルアクションシア(2)はトリガー上に関節結合され、フォークによってハンマー上のコック歯をグリップしている。図1-38ではダブルアクションシアと同じ位置に関節結合されたシリンダーハンドは図示されていない。表現をよりクリアにするためである。操作者がトリガーを後方に引くと、ハンマーはダブルアクションシアによってコックされる。コックの動きの最後に、ダブルアクションシアのその軸をめぐる回転運動はストッパー(5)によって阻止される。このためさらにトリガーを引いた際ダブルアクションシアはトリガーとともにトリガー軸の周りを回転することになる。このことによってハンマーが解放される。このトリガーシステムがTranterシステム同様アダムスのメカニズムに広範囲にわたって似ていることは容易に理解される。ハンマーの下側にはTranterリボルバー同様セーフティおよびコッキングノッチが備えられている。しかしコックパーツ(3)は逆の方向に作用している。この結果コックパーツのノッチを切らなければならなくなっている。すなわち原理的に言えばTranterリボルバーに対する退歩である。銃をより簡単に分解できるようにするため、この銃はハンマースプリング緊張テコ(4)を装備している。このテコを移動するとスプリングの緊張は解ける。この結果スプリングは簡単に取り出すことができる。

 図1-39は同じ銃のハンマーをセーフティコック状態にした状態を示している。ダブルアクションシアのフォークはこの位置でも歯をつかんでいる。ハンマーがコックされると、歯はダブルアクションシアを介してトリガーをその後方位置に回転させる。トリガーを引くとコックパーツが回転し、ハンマーは解放される。

図1-38 Chamelot & Delvigneリボルバー。(頑住吉注:本では銃全体の図になっていますが、かえって分かりにくいので核心部分のみ示します。また、図1-39はなくても充分理解できるので省略します。要するにシアのかみ合いが逆であるのと、ダブルアクションシアとハンマーの凹凸が逆であるだけで、上のTranterリボルバーとほとんど同じシステムです。文中のストッパー(5)というのは赤丸で囲った部分のことで、要するにトリガー上でのダブルアクションシアの回転角度が制限されているというだけのことです。4の「ハンマースプリング緊張テコ」はスライドさせると突起がハンマースプリングを押すのをやめててテンション解くというだけのようですが、イラストだけでははっきり分かりません)

 図1-40はウェブリー全般の起源となるリボルバーを示している。形状と発火機構の細目が、この銃がTranterによって製造されたものであるとの推測を抱かせるにしてもである(ひょっとするとウェブリーの注文によるものか?)。この1866年頃製造された銃は.577口径(14.7mm!)のセンターファイア弾薬用に作られた。シリンダーは6発の弾薬を収納し、バレルは長さ10cmである(頑住吉注:これは現在エアガンメーカーであるウェブリー&スコット公式サイトの歴史に関するページです。 http://www.webley.co.uk/historicguns.php3 この上から2番目の銃です)。

 コルト社はその成功をシングルアクションリボルバーの上に基礎づけたので、同社が遅くになって初めてダブルアクションへと移住してきたのは不思議なことではない。しかし後の1876年、コルトのW. Masonがそのようなリボルバーを設計した。この銃は1877年から1910年まで作られた。(頑住吉注:図はこれで代用します。 http://www.wisnersinc.com/explodedviews/Colt_1877.htm )図1-41における断面図が示すように、トリガー上に関節結合されたダブルアクションシア(2 頑住吉注:ネット上の展開図では7)はハンマー内のスリットをグリップしている。コックパーツ(3 頑住吉注:8)はハンマーの下側に位置している。ハンマーの腹にはコックおよびセーフティノッチが形成されている。後の全てのコルト製ダブルアクションリボルバーの場合同様、やはりトリガーに関節結合されたシリンダーハンドは2つの段を持っている。シリンダーの運動はまず上の段によって行われる。その後運動の最後に第2の段がシリンダーをシリンダーストップに向けて押す。シリンダーストップ(1 頑住吉注:10)はスリット内をグリップしているが、このスリットは普通のようにシリンダー外周ではなく、後面に削られている。この銃はまず.38口径で作られ、後に.41および.32口径でも提供された。.38口径銃用のライトニング(稲妻)リボルバーという名称は、コルトではなく、ある取り扱い商によって導入されたものである。

 ウェブリーによって製造されたリボルバーである「Royal Irish Constabulary」(R.I.C.モデル 図1-42 頑住吉注:上に示したウェブリー&スコット公式の一番上の銃です)および「The British Bulldog」(図1-43 頑住吉注:同じく上から3番目の銃です)も軽くモデファイされたTranter発火機構を持つ。両銃はいろいろな弾薬用に作られた。特に口径.442および.476/455である。R.I.C.モデルにはアメリカの弾薬である.44ウィンチェスターおよび.45コルト用もあった。この銃は1878年から1914年まで製造された。特にブルドッグはしばしばコピーされた。このことは、この民間マーケット用と定められたリボルバーの成功を物語っている。

 マサチューセッツ州Worecesterにある警察署における、あるあわや事故となるところだったケースが、ベストのものの1つであり、そして今日最も頻繁に使われているリボルバー用安全機構開発のきっかけとなることになる。パトロールから帰ったある警官が、彼のコックされていないが装填されているリボルバーを壁の棚に置いた。ある他の警官はその棚から本を取ろうとした。その際このリボルバーはハンマーを先にして床に落ちた。衝突によって発生したハンマーへの打撃は弾薬に点火した。弾丸は壁を貫通し、すんでのところで隣の部屋にいた人を傷つけるところだった。近くのFitchburgに銃器工場を持っていたノルウェー出身のライフル工、Iver Johnsonはこの出来事を聞き、事故対策のなされたリボルバーを開発することを引き受けた。彼の研究の結果がセーフティオートマチックモデルリボルバーだった。この銃は1892年にマーケットに導入された。この銃は、Chaineuxの構造に似たサイドにコッキングのためのフォークのあるダブルアクションシアを持つ。このフォークはハンマーのコッキングノーズをグリップしている。

 だが、ダブルアクションシアが上方に延長されているところにChaineuxとの差がある。図1-44が示すように、ハンマーダウン状態の銃のハンマーはファイアリングピンの上側、フレームの張り出し部にあてがわれている。この結果弾薬は点火されることができない(a)。トリガーが引かれた時、ダブルアクションシアの延長部(1)がファイアリングピンの後方に位置する(b)。ハンマーの打撃は、延長されたダブルアクションシアからファイアリングピンに伝導される(c)。我々はこの銃の中で、銃をトリガーを引いた際だけ射撃準備状態とする、初めての(頑住吉注:完全)オートマチックセーフティと出会う。我々は今日例えばルガーのシングルアクション、ダブルアクションリボルバー、そしてマークVおよびマークXシリーズのコルトリボルバー発火機構の中にこの構造と大幅に似た安全機構を見いだす(頑住吉注:アイバージョンソンによる元祖トランスファーバーに関しては過去の製品であるアイバージョンソンセーフティハンマーのページで詳細に説明しているので図は省きます)。

 このアダムスに起源を持つダブルアクション発火機構の形(Tranterによって発達した)は、ハーリントン&リチャードソンおよびアイバージョンソンによって口径.22LR、.22WMR、.32S&Wロングのシンプルなリボルバーに今なお使われているだけである。このことは、この発火機構が提供する構造のクオリティーあるいは可能性を物語るものではない。

 パーカッションリボルバーから弾薬リボルバーへの移行は、ヨーロッパでは実際上スムーズに行われた。点火方式およびシリンダーを、パーカッション点火方式からリムファイア、あるいはピンファイア弾薬へ改造するためにわずかの変更しか必要としなかったからである。新しい世代の最初のリボルバーは、初めて広く普及した金属弾薬であるピンファイア弾薬用に作られた。しかし、アメリカではパーカッションリボルバーから金属弾薬用リボルバーへの過渡期はそれほどスムーズには推移しなかった。まず最初にはコルトがそのパテントに基いてかなりの競走上の優位を確保することができ、パーカッションリボルバーから金属弾薬用リボルバーへの過渡期にはスミス&ウェッソンがより強い立場に立った。1855年、R.Whiteはアメリカにおいて、リボルバーに関するあるパテントを得た。そのチャンバーはパーカッションリボルバーのそれとは違って完全に貫通していた。Whiteは彼のパテントをコルトに売ると申し出たが、断られた。Whiteはスミス&ウェッソンで幸運を手にした。すなわち、スミス&ウェッソンが彼のパテントを買い取り、1870年代の始めまでノーマルな弾薬用のリボルバーにおける独占的立場を守ることができたのである。

 (頑住吉注:Whiteがパテントを取得した)1885年、ヨーロッパにおいてはすでに何年か前から金属弾薬用リボルバーおよび完全に貫通したシリンダーが知られていたので(ピンファイア弾薬)、何故スミス&ウェッソンがWhiteのパテントからこの権利を得たのかは本来的には不思議である。

 最初のS&Wリボルバー(モデルNo.1)は1857年にマーケットに登場した。この小さな銃ではシリンダーとバレルを傾斜させることができた。そのヒンジはシリンダーの後上方に位置していた。このモデル1は.22ショート弾薬用に作られている。この弾薬はS&WによってFlobert弾薬から開発されたものだった。その最初の薬莢は銅でできており、このため柔らかく、この結果その底部は発射時ひどく膨らみ、シリンダーの回転を困難にし、あるいは妨げた。これを予防するため、この銃はまず始めにはシリンダーと共に回転するStossboden(頑住吉注:ピストルやライフルでは包底面のことなんですがリボルバーの場合何と言うんでしょう。フレーム前面の、複数の薬莢底部と接する面のことです)を与えられた。よりよい(より堅い)薬莢を作ることが学習されると、回転可能なStossbodenは捨て去られた。S&Wはモデル1を1857年から1881年まで製造した。

 パテント保護の終了後、他のアメリカの銃器メーカーがすぐに一体弾薬、すなわちリムファイアおよびセンターファイア弾薬用のモデルをマーケットに持ち込んだ。その際コルトはシングルアクションアーミーリボルバーによって大きな成功作を得た。この銃は同社の名声に決定的に貢献した。


 非常に興味深いダブルアクションリボルバー発達の歴史でした。ダブルアクションオンリーからシングルアクションシアの追加、シングルアクションの際ハンマーコックによってシリンダーが回転してトリガーが後退するメカへの改良、そしてオートマチックセーフティにようる完成という流れ自体だけでなく、コッキングレバーによるダブルアクションとは異なる方法による連射、即応性と命中精度両立のための試み、セットは手動で解除は自動という初期のオートマチックセーフティの試みといったエピソードも大変興味深かったです。

 トランスファーバーを発明したアイバージョンソンについてはアイバージョンソンの「実銃について」で詳しく触れましたが、その開発のきっかけとなった事件については全く知りませんでした。

 ダブルアクションリボルバーはこのようにトリガーにダブルアクションシアが付属したものに始まり、当初は完全にそちらが主流でしたが、後にはハンマーにダブルアクションシアが付属したものが主流となり、現在では一部の安物以外に前者はほとんど見られなくなっています。次回はハンマーにダブルアクションシアが付属したダブルアクションリボルバーの発達史に話が移りますが、私は以前から何故後者が主流になったのか、前者に勝る後者のメリットは何なのか不思議に思っていました。こうした構成から当然筆者がこの問題に触れてくれると思っていたんですが、筆者は「このこと(後者が現在一部の安物にしか見られないこと)は、この発火機構が提供する構造のクオリティーあるいは可能性を物語るものではない」とし、要するに後者が劣っている事実はない、という考えのようで、ちょっと拍子抜けしました。本当なんでしょうか。かつて主流だったものが別の形式に完全に取って代わられ、ほとんど残らないまでになっているのに理由がないと言われても納得しにくいです。

 私なりに考えてみると、前者は「トリガー」、「ハンマー」、「ダブルアクションシア」、「シングルアクションシア」の基本4パーツを必要としますが、後者は「トリガー」、「ハンマー」、「ダブルアクションシア」の3パーツで済みます。また、シングルアクション時、後者はトリガーが直接シアの役割を果すのに対し、前者はトリガーがシアを介してハンマーをレットオフする形であるため、前者の方がキレがよくなる傾向にあるのではないかと思われます。それでは何故コストを下げたいはずの安物にパーツ数が増加する前者が残っているのかという疑問がさらに生じてしまいます。うまく説明できないものの、後者のシングルアクションにおけるトリガーとハンマーのやや特殊なかみ合い(ちなみに旧シリーズのワルサー製DAピストルも似た形です)は、通常のかみ合い(前者だけでなくシングルアクションリボルバーや大多数のオートも同様)より高いパーツの強度や精度を要求するためではあるまいかという気がします。常に強度や精度のない素材で製品を作っている経験上、通常のかみ合いは再現が簡単ですが、後者をガレージキットで再現しようとするとハンマーの起きる角度がばらばらになったり、パーツのゆがみやすりへりなどによって問題が出やすいことが容易に想像できます。

 最後に出てくるアメリカにおけるメタリックカートリッジへの移行の話はどうしてここに入るのか違和感がありますが、内容的には興味深いものでした。貫通シリンダーのアイデアを奢れるコルトが却下し、S&Wがパテントを手にしたため一時優位に立ったという話は有名ですが、この時点でヨーロッパでは数年来貫通シリンダーを持ったピンファイアリボルバーが知られていたという点は、アメリカの資料ではあまり触れられないですね。ちなみにM1877ライトニングの「実銃について」で触れましたが、サミュエル コルトは偉大な発明家ではあったものの、自分の発明に絶対の自信を持ち、ダブルアクションなど他社のシステムを取り入れることを頑なに嫌うという問題のある人物でもあったようです。貫通シリンダーの却下もおそらく彼の意向でしょう。最初のS&Wリボルバー用メタリックカートリッジの薬莢が銅製だったため、回転するフレーム前面が必要となったというのも面白いエピソードですね。



 





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